林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

ピアニストのお父さん

2007-09-29 | 高麗便り

  「谷間の夜」P・クレー

 スーパーでオジサンに遇った。
小柄な身体にTシャツと半ズボン。自転車を押して来た。
どこかで見たか遇ったかしたことがある......、と考えてから思い出した。

あの盲目のピアニストのご父さんである。
このところずっと出ていないが、N響のビオラ奏者だった。

 

ピアニストは「ショパン国際コンクール」に出場。
課題曲は合格したが、初見の新曲の演奏では何箇所かを弾き間違い、落選。
しかし、指揮者はじめ聴衆に深い感動を与え、ワルシャワ市長特別賞を授与された。
目が見える人でも困難なことなのに、付き添いのお母さんの助けを借りて暗譜し、演奏に臨んだそうだ。

凱旋演奏会はN響とショパンの「ピアノ協奏曲第1番」だった。
シャルル・デュトワ氏に手を引かれて登場し、堂々の演奏をした。
森男にはその演奏技術を云々する能力は無いが、ショパンの美しい曲と相俟って感動的だった。

もちろん、ご父さんはN響の一員としてビオラで伴奏した。
始めての父子協演に、会場の全員が無言の声援を送っているようだ、と司会の檀ふみさんが言っていた。

ピアニストは、老後は自然の中で小鳥の囀りを聴きながら過ごしたい、と言っている。
近くの横手渓谷を流れる高麗川のほとりを、ご家族と寛ぐ姿を見たことがある。
いまウィーン在住だが、老後は高麗に帰ってくればいい。
それまで高麗の麗しい自然が残っていればいいが.......。

以前は、ご父さんがビオラケースを抱えて出勤する姿をよくお見受けした。
昼間、スーパーへお買物とは、N響を退団したのだろう。
いつかお二人の合奏を、町内で聴いてみたいものである。
同じ町の住人として、勝手にそう思っている。



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