大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『白洲正子「かくれ里」』

2013-06-28 16:53:49 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『白洲正子「かくれ里」』
       

 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです


  正子さんシリーズ、とりあえず最終回です。本書も芸術新潮に2年に渡って連載された随筆です。
「かくれ里」とは、字面通り「世を避けて隠れ忍ぶ村里」の事、民族学的には「祭りに現れた神人が 祭りが終わり、いずこともなく去って行く山間の僻地」の事であるとされる。
 歴史上の人物が一身上の理由から隠れ住んだ場所が、民族学的「かくれ里」と共通する場合が多く、ここから伝承・伝説が生まれ、神話に成っていく可能性が数多く語られる……歴史伝奇の元ネタが明かされているようにも読めて、なかなかスリリングな読書体験でした。

 本書内に書かれている「かくれ里」は、ほぼ全て近畿周辺、現実 近畿に住む私にとっては馴染みの地名が次々現れる。 あるいは昔、町内の運動会(町内会で弁当を持ってあちこち行くのを「運動会」と言った)で訪れた寺、登山やキャンプでテントを張った山中。あるいは、サラリーマン時代 営業に回っていた会社のすぐそば……油日や吉野、京田辺など帰り道にぶらっとお参りした場所もある。
 文中にある写真に見覚えがあったりしたら大感動。それなりに当時 感じる物はあったものの、こんなに深い歴史があったとは……殊に近畿在住者には是非とも手にしていただきたい一冊です。
 タウンマップ片手に出かける奈良・京都の町から ほんの少し外れてみると、まさに神話に繋がる場所がある。そういう体験は「歴史を生きて感じる」事に繋がって行くと思います。文中、様々な人物の名前が出てきます。あまり覚えがない名前もあるでしょうが、小学校~高校の間に必ず何度か聞いた名前です。ちょっと調べれば「ふ~ん」くらいには思い出しますから……調べる気になったら、その人物に関わる前後にも目を向けて下さい。必ず一人か一つ、知っている事柄に出くわします。
 普段、なにげに見上げる山や ドライブしている道筋に思わぬ歴史が埋もれているかもしれませんぞ。

 明日は「真夏の方程式」に行ってきます。混雑が予想されるので今日チケットゲットしておきまた。  本は筒井巨匠の「聖痕」 なにやら巨匠は実験作だとおっしゃっています。どんなゲヘヘな話なのか、もしくはイッヒッヒなストーリーなのか……今から震えておりまする。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『白洲正子「西行」』

2013-06-18 17:07:37 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『白洲正子「西行」』
       

これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載しました。


ねがはくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ

 まだ暫く正子ちゃん(白州正子)が続きそうです。正子ちゃんにしてみれば軽い読み物のおつもりでございましょうが、こちらにしてみれば毎回 我が古典教養の無さかげんを思い知らされるばかりです。

 よく大学の学部を「文学部」かと聞かれるのですが、「経営学部」です!

 何でかっちゅうと、当時は この古典ってのが限りなく「うっとおしかった」からです。バチ当たりでございました。ゴメンナサイ。
 さて、「西行」って人は数多くの伝説に包まれた謎の人であります。それだけに断片的にはその業績(?)を知ってはいても西行本人の人生は知られていないんだと思います。

 源平盛衰の時期の生き証人でもあり、後半生 旅の中にあった人ですから伝奇ミステリー作家にしてみれば格好の登場人物です。
「孔雀王伝奇」では、高野山修行中に死体をつなぎ合わせて反魂法を使って子供を作り、その子供が鬼のように育ち 義経と出会って弁慶に成る……なんてな扱い。雨月物語(だったよな)で崇徳院の大怨霊(日本一の大怨霊)と会ったりしていますから“反魂法”なんかお手のもの?
 数多の歌が残っており、中には作法無視して吐き出したようなものが有るため 西行研究者の間でも解釈が分かれる歌が有ります。この激動の時代、旅に明け暮れた人ですから、その行動に政治的意図を読み取ろうとする研究者もいらっしゃいます。確かに坊主というのは、ある種身分が保証されるため行動の自由が担保され、古今 縦横家として生きたり、間者的役割をはたした人が大勢います。
 しかし、西行に関して こういう見方は間違っていると正子さんはおっしゃっています。彼女は西行の足跡を時代を追って自ら歩き、彼の歌を 詠まれたその場所で味わってみる事を通して西行の人生に迫っていく。
 元北面の武士が出家したわけですが、一途な修行者ではなく“数奇”の心を生涯無くす事は無かった。  待賢門院(たいけんもんいん)への恋情、崇徳院への憐情、桜へのこだわり、すべて個人的な“あはれ”“いとをし”の情に突き動かされての旅であった事が その歌を通して明らかにされて行く。
 事あるごとに「仏門帰依」を勧めてはいますが仏教にとらわれるのではなく、その精神は自由です。

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 何事の おはしますをば しらねども かたじけなさの 涙こぼるる

 伊勢で詠まれたと伝わっているが、実は西行作かどうか疑わしい。いかにも西行らしい素直さが現れているからだろうと正子ちゃんは言っている。
 確かに、生涯の中に足跡不明な時期もあるが、大部分の旅は個人的な内情に突き動かされての旅(芭蕉が憧れたのも この心情) この視点からみると、西行のどの歌の意味も明らかである。私も西行について断片的には知っていても、その人生を貫いて見た事は無かった。今、初めて西行を血肉をもった存在として意識しています。
 最初、歌や詞書の部分の読み下しに苦労しましたが 読み進むに従って早く読めるようになりました。そうなると不思議なもので、正子さんの手引きに助けられながらではありますが、歌を味わう事も出来るようになってきます。 たまには四苦八苦しながら古典に触れるのも楽しいものだと思いました。

 心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮
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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『おかしなジパング図版帖』

2013-06-07 13:17:15 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『おかしなジパング図版帖』


 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです


 好きなんですよねぇ……この類の本。

 本書は1669年、オランダ人モンタヌスが著した『日本誌』の挿し絵を中心に『ファンタジー アイランド ジパング』がどう描かれたのか……というビジュアル本です。
 とはいえ、モンタヌス自身は訪日した事が無く、フリシウスの『江戸参府日記』を基に、当時ヨーロッパで流行していた未知の地への旅行記を出版した。
 ヨーロッパ人の日本発見が1500年台 フロイスの『日本史』やリンスホーテン、カロンなど先行する出版は割と多いが モンタヌスの画期的な点は90以上の新しい挿し絵で紹介した事にある。
 ただ、前述のように彼自身は来日経験無し、報告書からの書き起こしで 文章そのものにも勘違い、誤り、中には「妄想」もある。 挿し絵職人はそれの又聞きで描く訳だから……こりゃあ一体どこの国? いや、そもそも地球上のどこかかい? ってな挿し絵のオンパレード。
 それでも、当時の知りうる限りの情報・資料を基に、最もリアルな日本を描こうとしたのであって まさに海の彼方にワンダーランド・ニッポンがあったのである。

 今の私たちからすれば極めてユーモラスな図版の連続、当時の日本人が目にしてもぶっ飛んだであろう事は間違いない。
 どのような絵なのか、とても口では説明出来ない。今なら平積みしている本屋もあるので立ち見をオススメいたします。
 マルコポーロ以来、東方に黄金の国・ジパングが有ると考えられたが、17世紀当時 ニッポンとジパングは分けて考えられたらしい。日本はすでに金輸出国では無くなっていて、ジパングを信じる人々は さらに東方に存在すると考えられたらしい。
 マルコポーロの『黄金の国・ジパング』は中国人からの聞き取りで、例えば奥州藤原と宋との貿易話が伝わったとも考えられる。中尊寺・金色堂やまだあたらしい金銅仏を見れば いかにも黄金の国に違いない。これが伝言ゲームに乗っかって、最後にマルコポーロが聞いたなら、さてもいかなる話になっていたやら……タイムマシンができたなら、是非とも一緒に聞いてみたい会話の一つです。
 時代はモンタヌスから200年以上、外国人には門戸を閉じたため、図版に現れる日本はシーボルトまで封印される。シーボルトの図版はリアルではあるが どこか陰鬱であり、ここに『幻のワンダーランド・ニッポン』は姿を消す。
 著者はこれを指して「日本は二度発見された」と書いています。これは政治、軍事、文化等 対ヨーロッパの歴史の中で必ず言われる表現で、何を取っても日本はワンダーランドだったのでしょうね。  まぁ、未だに理解されない部分もありますから… さて、次はどこを発見してくれるんでしょうね。

 明日は、アクション映画二本、押し付けます。お楽しみに〓


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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝五』

2013-06-05 07:51:34 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『岳飛伝五』


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載しました。



さても ご婦人方には またしばしご辛抱の程を、 北方謙三「水滸伝シリーズ、第三部、岳飛伝 第五巻」です。
 
 例によってストーリーは遅々として進まんのですが、大展開としては南宋対金の戦闘が終了。最後まで男の在り方をかけて闘った岳飛とウジュも痛み分け。
 秦檜は岳飛を南宋軍の中に組み込もうと画策するが 岳飛は軍閥の立場を維持する構え、梁山泊では呉用が死に際に「岳飛を救え」と言い残す。一体 呉用は何を見据えていたのか。
 張朔は平泉で秀衡から思いがけず「船の購入」を持ちかけられる。
 韓成は西遼に足場を築き、それは交易に止まらず、モンゴルの一部部族の信頼を得るに至る。 安南(現ベトナム)に赴いた秦容の事業も軌道に乗りそう。

 さぁて、物語世界は非常にきな臭い展開を前に着々と準備を整えているように思えます。  元々、山東に起こった「宋江の反乱」が膨らみに膨らんだのが「水滸伝世界」、たまたま現シリーズが史実に近い展開になっているだけで、本来は荒唐無稽な小説……岳飛が暗殺されずに梁山泊の首領になろうが、源義経が大陸に渡ろうがかまわない。
 さて、北方謙三さん! どこまで書くつもりなんでしょうねぇ。本来の水滸に集った百八人の英雄達も、残る所 後九人。それぞれに後継者がいるとはいえ、ここで岳飛の参入やら、義経の参加があるなら、それはもはや「水滸伝」じゃ無くなるのでは…いや!梁山泊が存在して、そこに替天行道の精神がある限り 水滸伝世界は続いて行くのか。 呉用は、死に際して「替天行道の旗」と共に葬れと遺言した…今後、これが象徴的な意味を持つのかもしれない。さて、次巻の進行やいかに……?


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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『探偵はひとりぼっち』

2013-05-23 19:48:09 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『探偵はひとりぼっち』


 この読書感想は、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流しているモノですが、もったいないので転載したものです


 迷ってましたけど、結局読んじゃいました。
「探偵はBARにいる 2」の原作。 作者:東直己は1956年生まれ、北大文科中退後、ススキノでその日暮らし……結構アナーキーな生活を経て92年「探偵はBARにいる」でデビュー。ススキノ探偵“俺”は作者の生き様を反映して映画よりアナーキーな存在……映画は「原作物」と言うより古沢良太がインスパイアされて脚本化、大泉/松田が自分達のニュアンスで命を吹き込んだと言えそうです。

 原作中の“俺”と映画の大泉では背負っているものが違います。いずれの“俺”もニヒルな自分を演出しようとしながらそうは成りきれない。どちらも内に熱い塊を持っているのだけれど、その背に見えるペーソスが違っている。
 事実上、原作は今から20年前の作品、作中年数は出てこないが80年代らしき書き込みがある。  映画は現代の話になっているからニュアンスの違いは致し方ないが、それだけでは捉えきれない変更がある……だから、原作ファンは全く別物と思って見た方がいいと思います。

 さて、小説です。いわゆる探偵物カテゴリーよりも、ミッキー・スピレーン的ハードボイルドに分類した方がピッタリきます。
 船戸与一のような汗臭さはなく、探査手法は行き当たりばったりだが 結構スタイリッシュである。荒事の腕前は、トーシロー2人相手が限界、そっち方向は映画と同じく 高田にお任せ。
 今作では高田が早々と骨折でリタイア、なんの展望も無いままにそこら中で跳ね返ったため、複数正体不明のグループから付け狙われる……あらあら、これじゃ命がいくらあってもたまったもんじゃない。そこんところをなんとか切り抜けて行く訳ですが、それなりに納得いくストーリーになっていて、ラストの謎解きで全部“落ち”がつくかたちになっている。
 ススキノの裏も表も、それなりに見て来た作者ならではのリアリズムと言える。 映画と小説が補完しあっていると言うのではないので、どちらかのファンという形になる。
 私としては、映画/小説どちらとも言えず、ちょうど真ん中にいる感じ。今すぐ全シリーズ購入一気読み……までの“ノリ”は有馬線なぁ。
 映画を見ていて あんまり思わなかったのですが、“社会党国会議員の橡脇”という重要キャラが登場します、読んでいて「これって露骨に道知事から国政に出たY路じゃないの?」と思っていたら……解説の所に「道民なら一目瞭然のモデルがいる」と書いてある。もとより虚実ない交ぜと断ってあるのですがぁ~。  これって“実はホモ”ってのは虚? “身を守るに手段を選ばず”が実?
 最近あんまり名前が出ませんが……さて、どうなんでしょうねぇ。北海道の政治ってのは 中川一郎にせよ、鈴木のおっちゃんにせよ ミステリアスですからねぇ。ひょっとしたら各作中にそんなネタが転がっているんでしょうか? ちょっと興味ありますなぁ。
 こういうジャンルは読者にこだわりがあるので 特にオススメはいたしませんが、作者の腕前は確かです、この点は保証します。


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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『キャパの十字架/天の血脈』

2013-05-14 12:16:40 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『キャパの十字架/天の血脈』


これは悪友の映画評論家・滝川浩一が、個人的に身内に回しているものですが、もったいないので転載しました

☆キャパの十字架
 キャパはスペイン戦争で“くずれおちる兵士”という おそらく世界一有名な写真を撮ったカメラマンとして知られる人です。

 しかし、随分前から この写真は本当に銃弾に倒れた兵士を撮った物ではない、当初言われていた兵士の名前も場所も間違っている、それどころか これはキャパの撮影ではないと訴える人びとがいた。
 ただ、これまでは状況証拠ばかりで確定にはいたらなかった。 本書は、撮影の日時と場所をほぼつきとめ、撮影の状況の推理も展開している。キャパはこの当時“ライカ”と“ローライフレックス(カメラを腰だめに構えて上から覗くようにして撮影するカメラ)”の2機のカメラを持っていて、キャパがライカを 同行していた恋人がローライフレックスを持っていた。
 ライカで撮影された写真は“くずれおちる兵士”と前後すると思われるシーンが残っており、それが有力な証拠となる。この経緯と結論は最高の推理小説が裸足で逃げ出す程の面白さ、敢えてここでは触れないでおく。カメラマン沢木ならではの探索と推理は唸るばかりではある。
 ただ、本書を読んでも納得いかない所が二点。
(1)丘を駆け降りる兵士が銃撃されたとして、写真のようにのけぞる事はあり得ない、運動の法則からして前のめりになるんじゃないのか…としている点、確かに首から下の着弾ならそうかもしれないが、唯一 頭部に正面から着弾したとすれば状況は全く変わる。当時の銃器/銃弾の性能及び想定される狙撃者との距離から沢木の推理は妥当と言えるが……。
(2)写真がライカではなくローライフレックスで撮られたのは ほぼ間違いないとしても、カメラマンがキャパであった可能性は無いに等しい可能性ながら 残されるのではないかと思える点(書いていて“無理臭い”と我ながら思うが) いずれに判断するのも本書を手にした人次第ではあるが……書いてしまえば(本書の評判を知っている方には周知ではあるが)沢木はこの写真がキャパの撮影ではないと結論している。
 ただ、沢木は“真実を暴き出す”姿勢で調査執筆したのではなく、同じ戦場カメラマンとして この世界一有名な写真に迫ろうとしている。時には沢木のペン先に彼の涙さえ感じる。
 毎度 半端な書評ではあるが、興味の有る方はどうか本書を手にしていただきたい。単に写真の事ばかりではなくキャパの内実にも迫った名著だとおもいます。


☆天の血脈
「天の血脈」は安彦良和の「ナムジ」「神武」に続く古代史漫画の最新刊です。かねてから予告されていたように“神功皇后”について語られるようですが、まだ二冊目、しかも日露戦争前夜の満州近代史と絡まり、内田良平やら、まだ馬賊のターランパだった張作霖や 好太王碑文調査隊なんかが出てきて、これらがどう絡んでいくのか不明、詳しくは3巻4巻を見てからにします…てえ事は数年後です。先行する「ナムジ」「神武」は山本常治の「日本古代史」(学会からは相手にされていないが、日本中の神社古伝を調査した労書)を底本に安彦の独自視点を加えた伝奇ロマンで 読み応え有ります。


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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書評『愛と憎しみの豚』

2013-04-19 17:30:46 | 読書感想
タキさんの押しつけ映画評
『愛と憎しみの豚』


 これは悪友の映画評論家・滝川浩一の個人的読書感想ですが、もったいないので転載しました。

         

 長らく ユダヤ、イスラムの人々が何故「豚肉」を食べないのかについて興味があった。
 勿論、それが宗教的忌避である事は知っている。旧約聖書には ハッキリ「豚は食べるな」と記されており、ユダヤ教から別れたイスラムが豚肉を忌避するのも解る。なら、同じくユダヤ教から出たキリスト教が 取り立てて豚肉を嫌わないのは何故なのか、新約聖書にも豚を忌避するごとくの表記がある。旧約聖書程 明確には表現されてはいないが 感覚的にあまり好ましくなさげな書き方がされている。この点に関しては「内閣法制局憲法解釈的」な弁明しか聞いた事がない。 人間だって 究極の飢餓状況下では共食いする、それに比べれば たとえ宗教的禁忌であろうとも豚を食べる事などなんでもない。
 イスラエルにロシア/ソ連邦から難民が大量流入した時(大きく二回ある)、 豚の飼育が始まった記録が有り(流入してきたのはユダヤを名乗る人々であるにも関わらす) それは現在においても「キブツ」やキリスト教徒の居住区に受け継がれている。要するに、時の政治的要請やら社会状況に応じて食物禁忌はいとも簡単に変化するのであって、狂的なまでの宗教指導のもとにない限り 平和で食物が充分に有る状態においてのみ守られる掟なのだといえる。
 ならばこそ、未だに強固な宗教的禁忌たりうるのか…う~ん、面白い。さっぱり解らない。

 前置きが長くなりました。以上のような興味で“それらしき”本を見つけると読んでみるのですが、未だかつて答えてくれる本に出会った事はありません。この本は 何かの雑誌に書評が載っていて、その書評からすると私の疑問に答えてくれそうな気がした。 わざわざ取り寄せて購入したのだが……結果、止めときゃよかった。まるっきり期待外れ。まぁ、女性一人旅の徒然の記としては 楽しめる読者もおられるでしょうが……早い話が こんなもん、旅行記ブログを本にしただけです。一応 漠とした“豚”というテーマはある物の何を追いかけたいのやら不明。こんなので 北アフリカからイスラエル、東欧諸国から果てはシベリアまで出かけて行くのだから……いやはや大した度胸と行動力ではあるが、あまりにも準備不足、無謀の極み……シベリアに着いた所では 旅程の終わりが近づいているにも関わらず「まだ一頭も豚を見ていない」と嘆いている。極寒のシベリアにおいて、彼女の旅は破綻する。
 自己の問題提起が曖昧だから事前に何を調べるべきかも判然としなかったのだろう。旅行ライターでもあるようなので ある種の海外事情には通じているようだが 途中で信じがたい無知を露呈している。
 出先での偶然の出逢いに期待するか インターネット情報によるかの旅行で、おおよそ“ルポ”をおっての旅ではない。序章を読んだ段階でこんな事は全部判ったが、取り寄せた手前「いらん!」 とも言えず 購読した次第。全くの金と時間の無駄でした。

 誰が書いたんやあの書評!


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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シニアライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝-4-』

2013-03-08 19:48:39 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『岳飛伝-4-』



これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想で、北方謙三などの水滸伝などに興味のない方にはチンプンカンプンですが、マニアの方には、面白い書評だと思いますので転載いたしました



 北方謙三 水滸伝サガ 第三部 岳飛伝の第四巻であります。
 さぞかし女性各位におかれては 何の興味もわかないかもしれませんが、そこはご勘弁。
 さて、シリーズは殆ど時間の経過もなく、金国のウジュと、立場上南宋軍を預かった形になってしまった岳飛の会戦が本格化します。岳飛は金に占領されている淮河(黄河と長江の間)以北を奪回することが大義となっており、この思いは南宋の政治とは関わりが無い、元々 軍閥としてはじめた戦いだという思いが強い。
 しかし、南宋軍を押し付けられた段階で、いつか政治的に中止の指図が来るかもしれないくらいには感じている。榛檜は榛檜で そろそろ岳飛が邪魔(金との停戦交渉するにあたって)になるだろうと思い始めている。
 ここで、今回から官僚の許礼がいきなりクローズアップになってくる。なんでか解らんが この許礼がやたらと戦の情勢や岳飛の心中について核心を突いている。軍事担当で 短期間の間に南宋軍がまがりながらも使える軍勢になったについては許礼の功績なのだが、何かいきなり洞察力が120%ア~ップしとります。

 史実として岳飛は榛檜に毒殺されるのですが、まさか榛檜が直接手を下した訳ではないだろうから この許礼がやっぱり実在の人物で主犯って事なんですかねぇ。この辺りの史実は何を読みゃあええんですかねぇ、まだそこまでは追っかけていません。
 岳飛と梁山泊の間に、本人達の自覚の有る無しない交ぜにして紐帯が深まりつつあります、物語として今後そこまで突っ込んで行くのか否か、興味を引いていきそうであります。  
梁山泊メンバーの考え方にも変化が現れ、己のレーゾンデートルを語るのに“夢”という言葉が使われ始めている。思えば楊令も心中を語るに「追えぬもの梁山泊の将来に見ているのかもしれない」なんぞと言うとりましたなぁ……これって「夢を見ている」と同義語ですよね、楊令の死後 漸く彼と同じ視線を持つ者が現れ出したという事です。 また 誰かサンに笑われそうですが、どこを読んでも涙腺にジンワリ来ます。
 後数年で総てがモンゴルに蹂躙されて跡形も無くなる。しかし、人々は今日一日を必死に生きている。物語を鳥瞰している者の傲慢な思いであるとは自覚しているが…一人一人が愛おしくって仕方がない。 う~~ん、やめられまへんなぁ〓


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『64 ロクヨン』

2013-02-20 07:50:47 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『64 ロクヨン』文藝春秋・横山秀夫
    


 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している読書感想ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。



 長い事かかったなぁ~ 別に何冊も同時読みしていた訳でもなく…まぁ、時間があんまり無かったんですが……要するに、初めあんまり乗って来なかったんですわ。
 この作家、結構ベストセラー作家だし、「このミス大賞」だし、「極めつけ警察小説」とかコピーが付いているので まぁ 二日も有りゃあ読んでしまうだろうと読み出すと……なんとまぁ、まるで退屈な私小説なんだよなぁ。それでも どこかで大ドンデン返しが有るんだろうと思いきや……ツータラツータラ 日常が続いて行く。 元刑事が なんの因果か警務部広報に回される、刑事と警務の中が悪いのは 警察小説ではお約束、本店・支店(キャリア対ノンキャリア)がいがみ合うのと同じ……。
 主人公は、着いた以上は広報官を務めるつもりながら、心の底には“刑事魂”が燃えている。何か有ったらケツまくるつもりが実はそうはいかない事情がある。 彼自身は鬼瓦のごとき面構えで カミサンは美人、娘がいるが なんの因果かオヤジに似た。彼女はそれが嫌で……まぁそれが元で家出して帰って来ない。そこは察官、伏せた形ではあるが日本全国に捜索の網が広がっている。ところがこれが一向に見つからない、だから手配はずっと継続されているので この恩義から金縛りになっている。
 時効寸前の誘拐殺人絡みでややこしい下仕込みを命じられ、折から事件の被害者の実名を公開するしないなんてな事で記者クラブと揉めている。上司は阿呆のくせに肝心の情報を明かさない、上司の腰巾着は何やら蠢いている。刑事は端から敵対視して何も言わない。
 なんて事ぁない、言うなれば中間管理職の悲哀じゃないかい。てな話がちんたら延々と続く。
 いかに進まんと言えど、ページ数は消化され、とうとう残り30頁余り、はぁ~このまま終わるんかい。  と、諦め気分で読んでいると……新たな誘拐事件発生! アホな……そんなご都合展開が有るかいな……ところがギッチョン! ここから一気に急展開! 何もかもがビタッと嵌って立派に警察ミステリーに成っちまうからアッチョンブリケ!
いやあ、やられた!メッチャ面白い、この落ちは“極大射程”のラストのカタルシスに繋がる!なぁるほどねぇ。一読オススメ!!
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『ライアンの代価』

2013-01-18 11:11:14 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『ライアンの代価』
    

 これは、悪友の映画評論家、滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです。


 年末から読み出して、漸く文庫四冊読了、本を読む時間が殆どなかったので、えらく時間を食っちまいました。
 
 トム・クランシー(マーク・グリーニー共著)の“ジャック・ライアン 新シリーズ 第二弾”…ハリソン・フォードの「パトリオットゲーム」「今、そこにある危機」の原作シリーズです。
 原作は映画(「レッド・オクトーバーを追え」 アレックス・ボールドウィン主演 も含む)三本の後も続いており、「今、そこにある危機」でCIA副長官になったジャックは大統領にまで上り詰める。新シリーズ 一作目「デッド オア アライブ」では、引退して回顧録の執筆を始めているが、自分の後の現大統領・キールティ(おそらく民主党、白人だがオバマを思わせる)の政策が全く気にくわない…で、とうとう再選に打って出る。その間、クラーク、ディンゴ、ジャックjr達 ザ・キャンパスはテロリスト(ヴィン・ラディンを思わせる)を追う。

 前作では、少々 もたついた雰囲気があったが(キャラクターがそれぞれ歳を食い、その分jrが成長しているので、どうしても説明調子になる) それも払拭されて、クランシー本来の語り口調が戻った。
 大統領選もたけなわ、ジャック優勢で推移しているが、キールティのパトロンである富豪が、ジャックとクラークの過去のいきさつに気づき、クラークを陥れて それにジャックを絡めて追い落とそうと画策する。クラークは絶体絶命の窮地に……同時進行でクーデターを目論むパキスタンの将軍とタジキスタンの原理主義者がとんでもないテロを画策、クラークのいないザ・キャンパスはこの陰謀を食い止める事ができるのか……と言うお話。
 正直 ラストにとんでもない御都合主義が飛び出すが、往年のストーリーテリングと構成の巧みさでグイグイ引っ張って行く。本作の続編、アメリカでは昨年末既に発売されており“THREAT VECTOR”直訳したら「脅迫のベクトル」とでもなるんですかね。今度の相手は中国! いや、人事(ひとごと)ではありませぬゾ!御同輩。
 しかし、日本語タイトルの陳腐はどないかならんのかい! 本作の原題は“LOCKED ON”……こっちの方がよっぽど内容にマッチしている。いやはや、映画の宣伝部といい、出版社の企画室といい、何でこんなにセンスが無いんでしょうね~。次回作のタイトル…何とつけるやら、想像するに「ライアンのウンタラ」になるんですかねぇ、やめてほしいなぁ。
 クランシーは執筆にあたり、まず現世界情勢のデータを並べ(殆どは新聞、雑誌から得られるデータだが、彼の元には情報機関からの生データも集まると言われる) それらが有機的に繋がった時に執筆を始める。「今、そこにある~」の時、意図的にCIAが情報を提示したが、見事にその裏を読み解かれたという事もあった。この当時の政権が民主党(カーターだったと思う)だったってのが笑わせる。 日本人はケネディの幻に騙されている人が多いので、民主党=リベラル=正義なんぞと素朴に信じている阿呆が大半なのだが……そういう人はアメリカ史を読み返してみると良い。アメリカが戦争を始める時の政権は殆どが民主党であり、共和党はその尻拭いをさせられている図式がクッキリ浮かぶはずだ。アメリカン・リベラルの主張は絶対鵜呑みにしては成らない。
 
 日本人の大多数が未だに信じている「地球温暖化」の大嘘も 元をたどればゴアが「不都合な真実」なんてな本とフィルムで作り上げた大嘘なんだって事、今や常識でっせ! いつまでも寝とったらアカンよ~!!  何も「クランシー絶対」「クランシーは神の視線だぁ」なんぞと言うつもりはないし、民主党より共和党の方が正しいと言う気も無い。(日本人にとっては共和党政権の方がやりやすいのは確かだけどネ) ただ、民主党の一部には「お前、コンミイか?」ってな奴らが多いのも確か……日本のアメリカ占領時代をみても、GHQの中でも「民政局」なんてなアメリカ本国にいられなくなった左翼のたまり場だったのは今や自明、そいつらが日本で何をしたか……まぁ 色々な本を読んで下さい。
 国際政治の現場は国益がぶつかり合う所、何が正しいのか一概には断定出来ない。立場が異なる人々の思惑の絡まりが読み解ければ理解はできる。クランシーの小説は“国際政治の読み解きツール”として使える。この点に関して、あまりアメリカの価値観に偏った見方をしていると警戒する必要は無い。勿論、読み方にもよるが、まぁ そこは常識ってやつです。
 本作で言えば、パキスタンと言う国が「テロ支援国家」呼ばわりされながらも、片足は西側民主主義に置いていて、日本の新聞だけから情報を取っていると訳が解らなくなるのだが、その辺りの事情が良く解る。 とことんアメリカ大嫌いな向きには「何 言ってやがる」ってなもんでしょうが、そういう偏見の無い人には池上彰張りに分かりやすく、しかも最高のエンタメ作品です。一読オススメ〓


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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『カジュアルベイカンシー』

2012-12-21 12:00:19 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『ハリーポッター』の作者が書いた『カジュアルベイカンシー』



 JKローリング(ハリー・ポッター・シリーズ作者)の初の大人に向けての作品。

 題名の意味は「偶然できた空席」……イギリス とある田舎町 その町の評議員の一人が心臓発作で亡くなる。
 物語は、この死んだバリーの議席を巡るスッタモンダを中心に、このド田舎町の名士達(?)の内情をえぐって行く。最後は、ある悲劇を通しての大団円(????)になるのだが………
 一読、これはローリングの怨念の小説だと感じた。
 気取って「ルサンチマン」などとは書かない、まさに、“ハリー・ポッター”が成功する以前の彼女の人生に対する、イギリス社会に対する『怨念』の書だと感じた。
 彼女の自伝は読んでいないが、シングルマザーであり、子育てのかたわら カフェの一隅で“ハリー”を執筆していたとは読んでいる。本作は、その当時のローリングの生活に裏打ちされている(確信する)。
 日本人気質が「島国根性」(最近あまり言わない?死語?)と言われるように、イギリス人には、未だに残る身分制度に端を発する人間感があり、これがある種の尊大なイギリス人気質の基になっている。
 これは、裏を返すとイギリス国内での“持たざる”人々の恨みともセットであり、どうやらロンドンなんてな大都会よりも田舎町に顕著に見られるようだ……なんぞと見てきたように書いているが、イギリスはもとよりヨーロッパのどこにも行った事はない。
 ただ、イギリス人の書いた本を読むと、まるで判で押したように同じ光景に出会う。こういうのを読むたびに「イギリス人とは付き合えね~」と思ってしまう。それほど、本作の登場人物達は「嫌な奴」だらけです。人間の内面を覗いてみれば、大なり小なり本書に書かれているような物なんだと思いますが、ようまあ ここまでネチネチ書けるもんだと感心します。
 本屋で手に取って見て下さい。帯に絶賛の辞が多数載っています。否定はしません、そうも読めるでしょう……私ゃひねくれ者ですから「怨念」を軸に全部ひっくり返した評価になってしまいます。“ハリー・ポッター”のような物語を構築するエネルギーはどこから湧いてでるのか……答を見た気がします。
 ハリーの中にある ある種の「反キリスト」 ハグリットあるいはハーマイオニーに向けられる蔑視は、イギリスのどこにでも有る風景であり、ローリングはまさにこの中にいる。ローリングの怨念はヴォルデモートとその一党、魔法議会の支配層に向けられ、自ら求めた救済をハリー、校長以下学校の教師達に託したのである。
 作家と言う人々は、一度は自身の怨念をはっきり形にしたいと思うものらしい。その意味で、本作にはローリングというストーリーテラーの怨念で満ちている。“ハリー”の中に、ベルトを解くと噛みついてくる教科書が出てくるが、本書はまさにあれです。
 これを読もうとされる方にアドバイス…登場人物の一覧表が挟まっています。これに各人物のデータをメモしながら読むとわかりやすいですよ。なんせ一気に全員次々に登場しては交代して行きます。アタシャどうも最近 記憶力に難が出とりまして(誰が昔からやねん!!)、 最初 誰が誰やらサッパリワカメで 読んでは戻りの繰り返しでした。 ローリングが自身を仮託している登場人物を特定しにくいのですが、重要キャラとして登場する5人のハイティーンに少しずつ入っているんじゃないかと思います。
 ラストに向かって、キャラクター達が交錯し、そして終幕になだれ込んで行く。まるで映画を見ているようなビジュアルが浮かんで来るのはさすがですが……このラストにある種の救い(カタルシス)を読み取れるか否かで 本書に対する評価は別れます。

 私は「結局 嘘で固めるんだ」と思いました。でも、それが「社会智」ってか「人間知」ってもんです(「痴」「稚」と変えるのはあまりにもシニカル?)
「うぜぇ~」と思いつつも結局 結末が気になって最後まで読まされました。やっぱり力のある作家なのだとの評価に揺るぎはありません。


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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『横道世之介』

2012-12-13 07:59:38 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『横道世之介』


 『横道世之介』(よこみち よのすけ)は、吉田修一による小説で、これを原作とした映画が2013年2月23日に全国公開予定です。悪友の滝川浩一君が、個人的に仲間内に流してくれた読書感想を、本人の了解のもとに転載したものです。



 吉田修一って人は、「悪人」といい、本作といい、読んだ後 妙な気分を引っ張らせる作品をかきますねぇ。 
「悪人」では、誰が一番悪人なんだと考えさせられた。常識上は直接の殺人者がトップに来る訳ですが……ちょっと待て 本当にそうなのかいって作りでした。日常に隠れている悪意だとか、生活上のちょっとした判断が自分や他人に影響していく……そんな事が多層に重なった所で事件が起こる、そこからの判断で、いくらでも転落して行くんだ……。
 と翻って本作、これと言って なぁ~~んも事件なんぞ起こらない。
 田舎から 東京の大学に出てきた18歳の横道世之介(本名)の1年間の生活を語って行く。大学での出会い、ちょっと大人の恋、プチ暴走ってか…冒険にもならないが、本人にしてみればちょっとショックな出来事やら。別に大学に行かずとも18~9に有りがちな、アラカタは経験不足と優柔不断による事件(???)の数々。
「世之介」だから、勝手に色っぽい話かな? 位の感覚で読み出したんですが…考えてみりゃ吉田修一がそんなもん書く訳ゃぁ無い。
人格ってやつは 当然生まれながらに持ってるもんじゃなく、色々経験するうちに形成されるもんですよね。誰しも 後から考えてみると、自分の生涯に決定的な影響を与える一瞬てか、1日 あるいは一年ってのがあるんだと思います。
 本作主人公「世之介」にとっては大学一年生の一年間がその時期だったようです。世之介のその後の人生は全く語られず、どんな死に方をしたかが書かれているだけです。しかし、世之介が命終えるまで、どのような人間であったかはちゃんと解るんです。それは、読者が10万人いれば10万通りの人生なのです。
 つまり、読者が世之介と考え方を共有するのではなく、殆ど「郷愁」としか呼びようのない感覚に包まれるからで……ただし、これは青春を過ぎて、暫くしている年代でなければ解らない感覚だとは思いますね。  この人の書く物語は、単に「郷愁を覚える」だけにとどまらず、読者の人生がどこかに投影されて、それが引っかかりとなり、考えさせられたり、人によっては苛つかせたり、泣く人もいるんでしょうねぇ。 もし、自分の死ぬ日が解るなら その時もう一度読んでみたい…そんな気にさせる一冊でした。



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タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝・3』読了

2012-12-07 08:24:27 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『岳飛伝・3』読了


これは悪友の映画評論家・滝川浩一クンが個人的に流している読書感想ですが、面白いので、本人の了解を得て転載したものです。

  いやいや、年末近い本屋ってのは罠だらけの森みたいなもんで、入ったが最後、何冊も抱えてしまいます。
「岳飛伝」…大橋っさん以外には説明がいりますかねぇ。こいつは北方謙三の水滸伝(19巻)シリーズで、水滸伝が直訳本の半分位の所で宋江(梁山泊頭領)が死んでしまい、その後を頭目の一人、青面獣楊志の養子(洒落ではない)である楊令(楊令伝15巻)が継いで、現在 楊令の死後の話になっています。
 
 岳飛は南宋の軍閥で実在した将軍です。物語では宋の童貫(この人も実在)に鍛えられた武人で、楊令と戦ううちに男同志の絆を深めるという設定になっている。さて、梁山泊に集った108人の好漢達も粗方は亡くなり、もはや10名程が残るのみ、永く梁山泊の頭脳であった智多星呉用も死の床にあり、史進・李俊・燕青らはいるものの、第二世代の時代になっている。双鞭呼延灼の息子 呼延凌が軍総帥、宣賛の子 宣凱が呉用の後を継いでいく。元は宋の王室を私する官僚に反旗を翻すべく集まった梁山泊も、宋滅亡と共に その存在形態を変化させ、今や軍を持つ先進経済地域となっている。

 そんな中にあって、この変化を楊令の抱いた夢と信じて邁進する者、もはや楊令を知らずに育った世代、変化に馴染めず老いを感じ孤独の中に生きる者……と人間模様も多岐に入り組んだ世界になっている。
 そもそも「水滸伝」を知らない向きにはチンプンカンプンですかねぇ。もう少々お付き合い……元の明末~元初に出来た演義(講談本/小説)は宋代に現実に有った反乱を元ネタにしています。梁山泊頭領の宋江なんてな人も実在したそうです。その実話に数々の英雄(関羽の末裔で大刀関勝とか)を加えて壮大なお話にしてあるのです。
 さて、第三シリーズの主人公はかっての敵将・岳飛。この人が実在だとは先述しましたが、実史では北方の金に敗れ、揚子江の南に南宋が建つのですが、南宋丞相榛會は金との講和を目指し、岳飛はあくまで主戦派。南宋成立2~3年で岳飛は榛會に毒殺されるのですが、どうやらこの2年余りで12~3巻にはする
つもりみたいですねぇ。この後は ご存知の通り、モンゴルの侵攻で金も南宋も無くなっちまう訳ですが、それでも梁山泊は生き残るのか?まぁ、このペースだと どえらい先の話になりますが………。


 いやはや、なんとも尊敬されたものです。わたし(大橋むつお)は水滸伝(19巻)楊令伝の7巻までは読んでいますが、ざっと読んだだけ。本というのは、好きならば、10回、20回と読むモノです。滝川のオッサンは、そういう読み方をしております。わたしは、もう自分の部屋に本が入りきらないので、図書館で間に合わせておりますが、「罠だらけの森」というのは確かにその通りで、赤川次郎から、瀬戸内寂聴まで、ここで見つけました。わたしは乱読で、読んだ尻から忘れていきます。しかし記憶の引き出しには残っているようで、ときどき、自分で本を書いている時に浮かんできます。
 先日から、新連載小説『真夏ダイアリー』を始めました。ごく最初の部分しかプロットを考えていません。引き出しから、自然に飛び出してくるのを待って書き続けていくつもりです。主人公は「冬野真夏」 そう、名前から、この小説は始まっています。苗字と名前がガチンコしています。そこに青春の矛盾と、「真夏」という名前に、熱い青春を象徴させています。
 マッタリした友だちに「春夏秋冬省吾」というのがいます。苗字読めますか? 「春夏秋冬」で「ひととせ」と読みます。他に「中村玉男」という、どこかで聞いたことがあるような、ちょっとオネエな感じの男の子も出てきます。等身大の高校生(高校演劇で、好んで使われる)を書こうなどとは、思っていません。こんな女子高生、こんな友人関係、こんな青春があったら面白いだろうなあ。そんな思いで書き始めました。
 同じようなモチーフで、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』があり、これは出版されました。書店に出た部数が少なく、今はネット販売で、僅かに出ています。希少本という事らしく。新古品のものなど5万円を超える法外な値段が付いていますが、青雲書房に、直接注文いただければ、定価の1260円でお求めになれます。
 なんだか宣伝になってしまいました。今は小野寺史宣さんの『みつばの郵便屋さん』ポプラ社を読んでいます。メグ・キャボットの『プリンセスダイアリー』なんかもお勧めです。



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 この物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎練習など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のない方でもおもしろく読めるようになっています。
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小悪魔タキさんの押しつけ読書感想『アルゴ』読了

2012-11-20 07:30:45 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『アルゴ』読了


これは、我が悪友の映画評論家滝川浩一が、身内に流している読書感想なのですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです。



 典型的な直訳悪文でんなぁ。読むのに時間が掛かってしゃあない。
 話は、1979年に起こった テヘランのアメリカ大使館占拠事件で、当時 運良く脱出してカナダ大使公邸に匿われていた6人を 架空のSF映画をでっち上げ、脱出させるってぇお話し。CIAの公式作戦だったが、1986年まで機密とされ、その後も 各方面への影響に鑑み、当事者の著述は無かったようだ。

 映画台本はインタビューをもとに起こされたようで、本作は映画公開に合わせて書かれたようです。だから、この本が原作って訳じゃない。映画と本作を単純比較すると、脚本のほうが断然面白い。ただ、その筋(ってどの筋?)に聞いた所によると、この本に書かれてはいないが、映画の中のエピソードにはホントに有った出来事が描かれているとか……それがどれなのかまでは解らんのですが……まぁ、実際に有った情報戦だけに どこまで行っても「これが真実だ」ってのは解らんのでしょうねぇ。
 私の聞いている話では、みんなが空港に向かっているその最中に カーター大統領が諫言されて作戦中止となり、あわやの所でチケットがキャンセルされそうに成ったのがそれだってんですが、ちょっと確認のしようがないので“?”であります。「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(アフガンゲリラに武器を供給するように働いた上院議員の話)なんかと同じ混乱があります。「チャーリー~」の訳文はもっと酷かったなぁ。
 いずれも映画公開に間に合わせる為、大特急で翻訳したかららしいのですが、「てにをは」の間違いなんてな可愛いもんで、内容に齟齬があって、有り得ない展開に成ってたりしとりました。本作にはそこまでのミスは無いようですが「てにをは」の混乱はそこら中に散見できます。だから 意味が逆転していたりして、途中何度となく読み返しましたわい。これが原文のミスなのか翻訳のミスなのかは判断しかねますが、本作は少なくともプロの物書きが共同執筆者として名を連ねていますから、やっぱり翻訳ミスなんでしょうねぇ。

 昔のミステリー翻訳には専門用語が解らず、ムチャクチャええかげんな訳文が有ったもんですが、さすがに最近ではさほど酷い作品は有りません。突き詰めれば、出版社が間に合わせる事だけを考えた結果って事に成るんでしょう。お粗末。


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 この物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のない方でもおもしろく読めるようになっています。
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タキさんの押しつけ読書感想『ツナグ』

2012-11-14 20:09:15 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『ツナグ』


 これは、悪友の映画評論家、滝川浩一が個人的に、仲間内に流している読書感想ですが、おもしろく、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。



 映画もやってて、予告編を見ていて「泣かせの映画」だと一人決めしてました。 だからライターの仕事も他の人に頼んで、小説もほったらかしてました。

昨日まで、水の専門書を読んでたんですが、それも終わって……さて、今日から何を読みますかいねと持った文庫が二冊。「ARGO」と、コレだったんですが、なんで「ツナグ」を選んだのか解らないんですが……
 一読、「泣かせ」の対局に有りました。俄然、映画に興味がわいたのですが、これは後の祭り。月末の連休にまだやってたら見に行ってきます。
 さて、ご存知かもしれませんが、「ツナグ」とは、一生に一人だけ、死者との再会をさせてくれる「使者」の事です。
 これは死んだ人にも同条件で、死者も一回一人きりしか会えない。 使者は意外に若い(後に高校生と知れる…この謎は少しずつ解けていく)物語における一人目の依頼者は、突然死したアイドル(飯島姉御を思わせる)に会いたいという、彼女が死んで直ぐではなく、すでに数ヶ月が過ぎている。アイドルなんてな人種がそれまでに誰かと会っていないてな事があるのか、ましてやアイドルにとってもたった一回のチャンス。それを単なる一ファンのために使ってくれるのか。
 他には、母に会いたい息子、親友を無くした女子高生、恋人が失踪したサラリーマン…彼に至っては恋人の生死すら解らない。生者・死者共に心に秘めた想いがあり、また自覚していなかった秘密もある。一つ一つのエピソードには二重三重の展開があり、一夜の邂逅の後に去来する想いも様々である。 そして「使者」たる若者にも重い過去が有った。
「死」を描くのはとても難しい、ことに現在の日本のように確たる宗教観の無い国では 人の死生観もバラバラである。だから、物語の中で年若い「使者」は苦悶する。「死者に会いたいとねがうのは生者の傲慢ではないのか」 読み進む内に解ってくるのは、本作は単に生者と死者が会う話ではなく、互いに等しい存在としての命の物語だという事です。今、自分に問うています、もし自分なら……自分が死んでいたなら……チャンスは一回だけ。
 あまり、語らない方が良さそうです。静かに心に染み込んでくるような本でした。泣かせてやろうなんぞという企みは全くありません。逆に泣かさないで読み通してもらうには どう描くべきか、よく考えられた作品だと思います。さて、映画はどこまで原作に迫ってるんでしょうねぇ。
コメント
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