千早 零式勧請戦闘姫 2040
04『レンチンが終わるまで・2・神産巣日神』
――か、神さま!?――
千早は声も出さずに驚いた。
神さまとは、祝詞や巫女舞で醸された空気の中に気配として感じるものであって、リアルに姿を現すものではない。目の前の特注の巫女のような姿が現われても千早の理解は追いつかない。
――言の葉を改める――
そう言うと、同じ装束でありながら、学校の先輩ほどの気安い雰囲気になった。
「ええとね、わたしは、この浦安八幡の祭神で神産巣日神(カミムスビノカミ)なんですよ」
「え、うちの御祭神は八幡様だけど……」
「ああ、八幡神というのはフランチャイズ……かな?」
「フランチャイズ!?」
「みたいなね(^_^;) 神産巣日神って、ぜんぜんメジャーじゃないでしょう?」
「ああ、ええと……」
よその子どもよりは神さまを知っている千早だが、なにせ、日本は八百万(やおよろず)の神々の国、知らない神さまはいっぱいある。
「いちおう、イザナギ、イザナミとかのうんと上なんだけどね……でも、ポピュラーじゃないからね、神産巣日神じゃ人が集まらないでしょ?」
「あ、ああ……」
たしかに、参拝客が多いのはナントカ八幡とかナンチャラ天神アレコレ稲荷。
「神主も巫女も霞食べて生きてるわけじゃないからね、ほどよくお賽銭がいただける神社じゃないと大変でしょ。コンビニ出すんだって、オーナーの名前じゃなくて系列元のローソンとかファミマとかフランチャイズしちゃうでしょ。それみたいなものよ」
「ああ、たしかに……」
応えながら千早は思い至った。子どもの頃に祖父の介麻呂から聞かされた神話にそれらしいのがあった……ような気がする。
「そうよ、この世に最初に現れたのがアメノミナカヌシノカミで、その次がタカムスビノカミとカミムスビノカミで、つまり、そのカミムスビというのがわたしなわけなのよ!」
「ああ、でも、出てくるだけですぐに消えちゃって、それっきりなんじゃ……」
貞治が言ってた聖書と同じだと思う千早だ。聖書においてもキリストに至るまでいっぱい人が出てきて「覚えきれねえ」と父親の跡を継がない言い訳にしている。
「わたしのこと、NPCだと思ってるでしょ」
「あ。いやそれは……」
「まあ、たしかに前座っぽいんだけどね、わたしには大変な役割があるのよ」
「大変な役割?」
「読んで字のごとく、神産巣日神というのは神を産む役目を負った神なのよ」
「神を産む!?」
「うん、原動力というかジェネレーターというか……あ、さっそく来た!」
ピシ!
一瞬でカミムスビは元の神の顔になると、手にした神楽鈴を千早に投げてよこした。
「ちょ、なにぃ!?」
「それを持って戦って、ザコだから今の千早でも勝てる!」
シャララ~~~ン
「え、ええ!」
鈴が鳴ると、巫女鈴は三つに分かれ、一つは両刃の剣となって腰に、一つは左手の盾、もう一つは勾玉の首飾りとなって胸に輝き、身には日本史で見た短甲という胴鎧をまとっている。
ズチャ
意識せずに抜剣した。
ええ?
体は空に浮き、眼下には神社、目の前には邪悪な黒い影が浮かんで、神社を取り囲むようにゆっくりと回っている。
黒い影は悪そのもの……倒さなければ……心の底でつぶやく者があって、千早は半ば無意識で影に切りかかっていった。
セイ!
ッ……ズボ!
振り下ろす前に一瞬のためらいが出て、影の腕と思しき所を切り落とすだけになった。
シュボ
二秒とかからぬうちに影の腕は再生し、半ば警戒、半ばバカにするように輪を縮めて千早に迫ってきた。
――核を切らなければだめ――
カミムスビの声がして、千早は剣を構え直した。
影の胸あたりに青く燃える核が見えた。
今度こそは!
口と気を一度に引き締めて再び影に立ち向かい、一閃で核をたたっ切ると、影は霧消していった。
次だ!
スパ! スパ! スパパパ!
最初の半分の手応えもなく影は核ごと切れて吹き飛んでしまった。
あ、ああ…………
直後、目の前が真っ白になって意識が飛んでしまう千早であった。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし) 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
来栖貞治(くるすじょーじ) 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄