大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・266『孫鎮の空を飛ぶ』

2025-01-07 14:50:32 | 小説4
・266

『孫鎮の空を飛ぶ』 東鈴 




 鈴麗のお骨をお墓に収めて、悟兵とあたしを乗せた筋斗雲は孫鎮の空を旋回している。

「このくらいの集落が悟兵には合っているのかもねぇ……」

 百個余りの戸数は、愛着さえ持っていれば村全員の顔と名前が覚えられそう、そういう規模が悟兵には合っている。正直な感想だし、珍しくシンミリしている悟兵に掛ける言葉として適当だと思った。

「この孫鎮でも手に余る気がするアルよ」

「あら、弱気ねえ」

「鈴麗とは二言三言しか話したことないアル」

「仕方ないでしょ、モンゴルであんなドンパチが始まっちゃうんだもん」

「そうアルけどな……」

「何事も自分の目で見て、自分でやれることは自分でやっておこうという姿勢は悪くないと思うわよ」

「そうアルなあ……」

「そうよ、モンゴルへの足場も補強できたし、劉宏大統領との絆も確かめられたし、なにも間違っていないわよ」

「しかしなあ……連れて行ってやってたら、凛麗はあんな目には遭わせなかったアル」

「鈴麗は可哀そうだけど、まだ小間使い同然の鈴麗を連れていくのは無理だったでしょ。悟兵もそう思ったんじゃない」

「そうアルなあ……」

「それにさぁ、そういう言い方されると、わたしが付いて行ったのがひどく間違いだったように聞こえるんですけど」

「そうアルなあ……」

「もう、 数を言えるようになったばかりの子どもみたいに『そうアル』ばっかし。 いいかげんにしないと『そうアル・三・四大魔王』って呼ぶぞ。あたしだって、悟兵の秘書、相棒なんだからね」

「鈴麗を連れて行かなかったのは、老婆婆が強く勧めたせいもあるかもアル」

「ん、なにそれ?」

「老婆婆に言われると、取りあえず『否』の字が頭に浮かぶアル」

「老婆婆コンプレックス? ちょっとキショク悪いんですけど」

「よし、もう一度墓の上を飛んで北京に向かうぞ!」

「そうよ、劉宏大統領にも呼び出されてるんだから……って、ちょっと小回りし過ぎじゃない? 目が回りそうなんですけどぉ……ウプ(>・<)」

「え、こういう時って口を押えるアルないか?」

 え、思わずお腹を押さえていた。

 鈴麗が頬を染めてクスっと笑ったような気がした。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!109『さまよえる潤と拓美のレクチャー』

2025-01-07 08:25:17 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
109『さまよえる潤と拓美のレクチャー』 





 潤が、困ったような、すがりつくような目を向けてきやがる……拓美は、一呼吸すると決心して語り始めやがったぞ。

「わたし……マユじゃないの」

「え……?」

「だから……」
 
 あとの言葉が続かねえ。

 これを言ったら拓美は、もうマユのアバターの中には居られないような気がしてんだ。

 通風口のスリットを通して、病院の微かな日常音が聞こえてきやがる。患者や病院関係者の足音、密やかな話し声、ストレッチャーや車椅子の音、それは現実の時間が確実に流れていることを拓美につきつけてきやがる。

「わたしは浅野拓美っていうの、幽霊よ……」

「え……?」

「わたし、AKRの最終オーディションの前に交通事故で死んだの。でも、死んだことに気づかなくて、最終選考のオーディションまで来てしまって……そこで、マユに見破られてしまって、やっと自分が死んでいることに気づいたの……まだ、驚かないでね、話は、まだまだ半分なんだから」

 どう受け止めていいか分からずに、潤は動揺した目で、拓美を見てやがる。

「マユって子は……特殊な能力があって、それに気づいて見破ったの。で……一度は諦めたんだけど……諦めるって、あの世に逝くってことだけどね。わたし、どうしてもアイドルになりたかった。自分の力と運を試したかった。そうしたらマユは、自分の……この体を貸してくれたの」

「し、信じられません。マユさんは、クララさんなんかと同じ一期生で、わたしたちの憧れでした。急に別人だなんて……」

「わたしの本当の姿を見せてあげる」

 拓美が、部屋の姿見を指差した……そこには、マユのアバターではなく、拓美本来の姿が映っていた。

「こ、これが拓美さん……」

「そう、AKRは、本当は48人。わたしに関する記憶は、マユが全て消し去って、わたしに、この体を貸してくれた。だからAKRは47なのよ」

 潤は姿見の拓美本来の姿と、マユのアバターに入った拓美の姿を見比べやがった。

「拓美さん、本来の姿の方が可愛い……」

 ヘクチ(><)

 遠く離れた神楽坂のスタジオで、仁科香奈のマユはクシャミをしちまった。

「アハハハ(^_^;)」

「……でも、マユ……拓美さん、どうして、こんな話してくれたんですか?」

「なにか刺激的な話をして引き留めておかないと、潤は、向こうへ逝ってしまいそうだから」
 
 潤は初めて気がつきやがった。

 自分の頭の上に、かすかな光の渦が来ていて、そこに引き込まれつつあることによ……放っておけば光を慕って屋上に出て、その渦の中にまきこまれちまったであろうことをな。

「わたし、死ぬところだったんですね(;'∀')」

「そう……あの光の渦に飲み込まれてね。そうじゃなきゃ、わたしみたいに、死んだことも自覚しないで、この世をさまよっていたわ」

「あ、ありがとうございます(-_-;)」

「いいのいいの(^_^;)、これで潤は死なずにすむ。念のため、このアバターの力を少し分けてあげるわね……」
 
 拓美は、自分の胸に手をやると、ピンポン玉ほどの光の玉を潤の胸に押し当てやがる。潤はホワっと体が温まるのを感じたぞ。

 頭の上の光の渦は、小さく遠くなっていってしまったぞ。

「もうこれで潤は生き返る。さあ、自分の体に戻りなさい」

「はい」

「それと……わたしが拓美だってことは、しばらく黙っていてね。人に知られてしまったら、わたし、もう、このアバターに憑いていることができなくなるから」

「絶対言いません! だって、拓美さんが、命がけで助けてくれたんですから(><)!」

「ほらほら、わたしは拓美じゃなくてマユよ。AKR創立以来の選抜メンバー出昼マユなのよ」

「は、はい!」

 ピューーン

 元気よく返事をすると、潤はゴムひもで引っ張られたみてえに、自分の体に戻っていきやがった。

――人に話してしまった。もう、このマユのアバターにも長くは居られないだろうね――

 拓美は思ったが、「これでいいんだ」と言う自分が芽生え始めていることに、初めて気づきやがった……。



☆彡 主な登場人物

マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院 オモクロでは仁科香奈
里依紗      マユの同級生
沙耶       マユの同級生
知井子      マユの同級生
指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
デーモン     マユの先生
ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ       エルフの王女
ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
由美子      英二の妹
真田       由美子の元カレ
美優       ローザンヌの娘 英二の妻
光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美    オーディションの受験生
大石 クララ   オーディションの受験生
服部 八重    オーディションの受験生
矢藤 絵萌    オーディションの受験生
上杉       オモクロのプロディューサー
桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする