大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・159『伊勢半配送センターでバイト』

2024-12-15 15:04:49 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
159『伊勢半配送センターでバイト』   




 というわけで、大浜線谷口(やとぐち)駅で降りて、伊勢半デパート配送センターを目指して歩いている。


 というわけと言うのは、おとついの帰りのホームで十円男と出くわしてバイトの助っ人を頼まれたから。

 谷口は大浜市に三つある駅の一つで大浜高校に通う生徒の半分はここで乗り降りするらしい。配送センターは大浜市の東の外れ、令和の谷口に足を踏み込んだことのないわたしは「ああ、大浜市の田舎なんだ」という感想。

 大浜市は近在では大きな街だけど、東京や横浜とは比べようもない地方都市。だいいち大浜に伊勢半デパートは無い。地価の高い京浜地方を外して物流センターを持ってきたというのが正直なところなんだろうね。

 でも、名にし負う天下の伊勢半、五階建てのビルの上には営業店と同じ『伊勢半』のロゴマークが掲げられ、マークの下の『配送センター』の文字に気づかなければ買い物客が入って来そう。

「ああ、それは無いなあ」

 昨日事務所に連れて行ってくれた10円男はあっさり言う。

「デパートというのは、都心とか繁華街にあるだろ。ここは、そうじゃないから、看板に気づいても――ちょっと違う――と思う。建物も色気が無いから、すぐに営業店じゃないことに気づく」
 
 色気が無いというところで、わたしの顔を見たけど、それには触れないでおいてやる。

 ブロロ ブロロ ゴゴ ゴゴゴゴ ブィーン ブブブ 

 角を曲がって建物の搬送口が見えてくると、出撃前の軍事基地かと思うような騒音と車の臭い。

「ガソリン臭~い」と言ったら「トラックはディーゼルだからガソリンじゃない」と奴は訂正する。女子にはどっちもいっしょ、ただただやかましくて臭い。

 ガッチャン

 タイムレコーダーがカードに刻印する時の音と手ごたえは面白い「おう、たしかに確認したぞ」ってベテラン守衛さんが言ってる感じがする。

 ブワアアアアアアアー

 車の音が中にまでぇ……と思ったら、ごっつい空調の音。それに、機械や油の臭い、紙や梱包材の臭いが混ざって、いかにも昭和の職場って感じ。

 青春の全てをここに掛けろと言われたらごめん被るけど、一週間限定のバイトだと思えば面白い。

 パンパン! パンパン!

「さあ、始業時間やでえ、みんな、チャッチャと持ち場に付けよー!」

 元気よく手を叩きながら関西弁のオッサンの声が響く。

 いちおう会社のロゴの入った作業着は着てるけど、頭にねじり鉢巻き、耳にボールペン、手には指先ちょん切った軍手、腰に手拭いぶら下げた姿は伊勢半のイメージからは程遠い。

「おう、メグリィ、仕事は覚えたかあ!?」

「はい、ボチボチ!」

「さよか、はよ慣れて小包の方に来いよお~」

「はい、そのうちに~!」

 適当に返事しておく。

 大阪弁のオッサンは、正規の職員じゃないけど、郵便小包のセクションを任されていて、事実上、二階の発送場のボス。さっきの号令でも分かる通り、フロアの仕事の差配をやっている。本物の課長は別に正規の社員のおじさんがいるんだけど、このおじさんは事務所の方に居るらしくて、現場にはあまり顔を出さないんだとか。

 わたしの持ち場は、貨物と呼ばれていて、大型の商品や梱包や取り扱いにコツがいる酒類なんかを扱っていて、わたしは、そこでひたすら伝票を書く仕事。

 伝票を手書きなんて、令和じゃ考えられないんだけど、ここで扱う商品のほとんどは手書き。それで、一般的に男よりは字の綺麗な女子があてがわれる。

「三枚の複写だから、強いめに書いてね」

 日ごろは三人で伝票書きをやっているおばさんが最初に注意してくれる。

 なるほど、四枚つづりの伝票の三枚は裏にカーボンインクが付いている。

 建物の上の階はよく分からないんだけど、納品された商品を包装してコンベアでうちの二階に下ろしてくる。近隣の湘南や京浜地方はそのまま一階に送られて、それぞれの営業所に送られる。それ以外の地方便をうちで引き受けて、郵便や小包に仕立てて、二階の発着場から地方に送り出すという仕組みになっている。

『アホンダラ! どこに目ぇ付けとんねん、そんなとこ置いたらけ躓くやろが!』

 また関西弁が怒鳴ってる。

 実は、この関西弁の当たりがきつくて、伝票係りの女子がみんな辞めてしまって困っていたらしい。

 高校生らしい男の子がビビっちゃってるけど、それをオッサン込みでなだめに行ってるのは、なんと、あの10円男だった。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・158『え、そうだったんだ!』

2024-12-12 14:33:53 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
158『え、そうだったんだ!』   




 さすがに試験中は朝礼をやらない。


 金原さん佐伯さんと半年で二人、自ら命を絶つ生徒が出た。

 学校の前に新聞社の車が並び、教育委員会からも調査が入る次第になって、学校は試験的に朝礼を実施するようになった。
 実施と言っても『管理職からのお願い』という形なので実施しているクラスは半分ほどしかない。

 試験中だってやればいいんだけど、元来が強制的な職務命令とかでやっているわけじゃないから、校長も教頭も、いわんや生徒から強いことは言えない。           
 佐伯さんは一命をとりとめた。そのことも先生たちの気持ちをルーズにしているのかもしれない。

 だから、この三日、我が担任の花園先生には会っていない。

 パタパタパタパタパタパタ

 あと五分で一時間目の化学のテストが始まろうという時に、軽やかに廊下を走るサンダルの音……花園先生だ!

 いっしゅんドアの窓に見えた姿は、子どもっぽくテストの袋を胸に抱え、チラリと教室を覗いた顔はヘタレ八の字で屈託の気配は無い。


 そうか、あのお守り無事に届いたんだなぁと思う。学業お守りが良縁成就に変わって、ちょっとビックリかもしれないけど、うん、あの足音と眉毛なら大丈夫だろう……と思う。

 ガラガラ

 一時間目の監督の先生が入って来る。

 顔を上げると……杉野……先生だ。

 そう言えば、直前に花園先生よりも大きく、でももっと軽いサンダルの音がしていたっけ。

 みんなは普通そうにしてるけど、どこか空気が緩い。

「はい、あと一分でテスト配りま~す(^▭^)」

 ああ、本人も緩い。

 考査中は授業も無いし、始業時間も遅いし……この人、ほんとに仕事嫌いなんだなあと思う。


 二時間目の保険のテストも終わって中庭に。


 いの~ち掛けてと~ 誓った日から~ すてきな思い出~♪

 真知子のギターで『あの素晴らしい愛をもう一度』から始まって『若者たち』『戦争を知らない子供たち』『今日の日はさようなら』『翼をください』と続けてぶちかます。

『今日の日はさようなら』『翼をください』が続くとエヴァンゲリオンの雰囲気で『天使のテーゼ』を歌いたくなる(^_^;)。

「今年もクリスマスイヴの集いやりますんで~、よかったら集まって下さ~い」

 真知子が唄うようにオーディエンスに告げて、今日の日はさようなら。

 半分ほどが一年生っぽいんで、ちょっと期待。

 こういう時に、力みかえることも無くお誘いできる真知子はエライと思う。

「さあってと……っ!」

「え、たみ子のカバン重そうじゃない」

「ああ、中身二人分」

「ごめん、ギターあずけたら持つから」

「うん、しばらくここに居るから」

「じゃ、あたし先に行ってる」

 真知子はギターを預けに、佳奈子が昇降口に駆けて行って、このあとおたふくでお昼と思っていた私とロコは、ちょっと置いてけぼり。

「ああ、今日からでしたっけ……」

 おいおい、ロコもなにか思い当たって、知らぬはメグリひとりだけかぁ?

「今日から予備校なのよ」

「進路のポスターにあったS学院ですね」

「うん、べつに相談し合ってじゃないんだけど、進路の部屋でいっしょになって。申し込んだのは別々なんだけどね」

「ああ、なるほどぉ」

「三人とも二期校ねらいですからね」

「え、そうだったんだ!」

 二期校ぐらいは知っている、この時代は共通一次試験もセンター試験も無いんだ。二期校って言えば国公立だよ! 準進学校の宮之森では、ちょっと高嶺の花。けっこうな努力をしないと合格はキビシイ。

「あ、うん、秘密にしてたわけじゃないんだけどね。真知子も佳奈子も家でせっつかれてて、まあ、タイミングがいっしょになったわけ」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

 オーーイ

 ギターを置いてきた真知子が通路の方で手を振って、たみ子が「じゃあね(^▽^)/」と去って行って、あっけなく二人きり。

「さ、帰りますか。明日もテストですし」

「あ、そうだね」

 二人でおたふくに行ってももう一つ。時刻は十一時を少し回ったところ。

 大人しく商店街を抜けて家に帰ったよ。

 で、駅のホームに立ったところで、ちょっと番狂わせの展開があるんだけど、それは、また次にね。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
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  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・157『こっそりお守りを置いて……』

2024-12-08 16:09:53 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
157『こっそりお守りを置いて……』   




「ちょっと、テスト期間中に悪いんだけど」

 監督の先生が出ていくと同時に10円男に声をかける。ちょっとでも間を置くと、こいつはスグに居なくなる。

「ええぇ、バイトなんだけど」

「時間は取らせないから、去年もやった『クリスマスの集い』なんだけど、今年もやろうかって、ちょっと話」

「ああ、いいんじゃない。俺はバイトで参加できないけど」

「ええ、なによ、それぇ」

「ごめん、年末はいろいろあって。じゃぁ」

 後姿で手を振ってサッサと帰っちまいやがる。

「去年はケンカまでして手伝ってくれましたのにねぇ(070『いよいよクリスマスイブの集い』)」

「まあ、いいじゃない。集まってから言うつもりだったけど、ノリでやっていこうと思ってたし」

 真知子が慰めてくれて気持ちを切り替えて職員室に向かう。



「失礼しまーす、2年3組の時任でーす。花園先生いらっしゃいますかぁ」

 ドアを20センチほど開けて、誰に言うともなくエクスキューズしておく。

 試験中なんで、生徒の出入りは禁止なので、いちおうの断りを入れる。教頭先生がチラリと見てくれて、これで入室許可をとったことになる。二年の師走ともなると、たいていのことは阿吽の呼吸。

 我が担任は、向こうの共用テーブルで監督していたクラスの答案を確認している。

 一枚一枚名前と番号を確認して、確認し終えたら、でっかいホッチキスで右上を留めて袋に戻して監督者欄にサイン。そして、テーブルの周囲で待機してる教科の先生に渡して任務終了。

 答案をなくしたり間違ったりしないための重要な儀式。この間は生徒ごときが声をかけても相手にはされない。校長が声をかけても「後にしてください」というくらいのものなんだ。

 実は、これを承知で職員室に来ている。

 試験期間中なので、職員室に長居することもできない。

 それで、勝手知ったる花園先生のデスクに、例のお守りをそっと置いておく。

 教頭先生は書類仕事やってるし、答案受け渡し以外の先生はほとんどいないし、先生のデスクに0.5秒でお守り置くところを目撃した者は居ない。

 静かに頭だけ下げて職員室を出ていく。

 誰も気づいてはいない。

 これで先生は――いったい誰が!?――と驚きながらも詮索することは無い。

 ものが無くなっているのなら大騒ぎだろうけど、落したお守り、それも本来買うはずだった『良縁成就』のお守りなら、少々気味悪くても、ひょっとしたら、神さまのアフターサービス? それとも親切な妖精さん? とか……信じなくても、詮索とかはしないだろう。


 一件落着して中庭へ。


 作法室前のベンチにお仲間たちが先着している。

「あ、新曲の練習するんですよおー(⌒∇⌒)」

 ロコが嬉しそうに手を振って、ヒョコヒョコとベンチの端っこに座る。

「ここで、二三十分歌ってたら、去年を知ってる二三年生なら気づくでしょ」

「一年生は……ほら、もう何人かこっち見てるし」

 真知子とたみ子の仕込も余裕の感じ。


 いの~ち掛けてと~ 誓った日から~ すてきな思い出~♪


 あ、お祖母ちゃんのオハコ!

 時どき『あの、すばらしい愛をもう一度ぉ~』のところを何度もリフレイン、というか、ほとんどここしか口ずさまないから、通しては知らない。

 子どものころから聞いてるから、わたしにとっても懐メロなんだ。

「アハハ、この春に出た新曲だから、まだ憶えてないんですけどねえ」

 ロコが、この一言を言ってくれなかったら「ああ、懐かしいぃ……」と不用意に呟いたかもしれない。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』

2024-12-05 13:38:15 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』   




 修学旅行明け、最初のアルバイト。


 写真館に出勤するとお土産の八つ橋を「マスターとコミコミなんですけど(^_^;)」とお愛想笑顔で渡し、公民館に着いてから残りのひとつを式場の采女さんに渡しに行く。

 控室をノックしようとしたら話し声。

『それで、わざわざ……』

『うん、ちょっと特別でね……じつは……』

『……え……え……え、そうなの!?』

『うん……あ、外に人が』

 しまった(;'∀')。

『あ、ちょうどいい。入って来てグッチ!』

 見破られてるしぃ。

「失礼しまーす」


 入ってびっくり。

 采女さんは、いつものように巫女服でお茶を飲んでるんだけど、部屋には采女さんひとりだけ。で、テーブルの上には見かけない櫛が載っている。

「紹介するわ、この式場で写真屋さんのアルバイトしてる時司巡さん、慣れたらグッチって呼んであげて」

 なんと、テーブルの上の櫛にわたしを紹介する。

 すると、横になっていた櫛がカタリと直立すると、お辞儀をして口をきいた。

『先日はお参りにきてくださってありがとうございました、時司さん』

「え、はあ……」

「彼女、八坂神社の御祭神のクシナダヒメさん」

『きちんと書くと櫛稲田です』

「クシイナダ?」

『まあ、どっちでもいいんですけどね』

「じつはね…………ヒソヒソヒソ」

「ええ、そうだったんですか!?」

 産寧坂で時間を取ったこともあって八坂神社では、お参りしただけで時間切れ、慌ただしくお守りを買ったら集合時間れになってしまった。

『……ということで。どうかしら、お願いできるかしら?』

 櫛に頼まれては頭を下げるしかない。

「わかりました、なんとかいたします」

『そう! うれしいわ、恩にきます!』

 そう言うと、櫛はペコリと45度のお辞儀をしたかと思うと、ドロンと姿を消した。

「先月は前の月が神無月だったでしょ。神無月は日本中の神さまが出雲に集まって好き勝手に言うわけでしょ。亭主の須佐之男命は武神で偉そうにしてるだけしか能がなくって、実務はみんな女房の彼女が取り仕切って、もう師走だって言うのに手が抜けない様子でねぇ、ここへも櫛の姿でしか来れなかったのよ」

「あ、でも、綺麗でかわいい櫛でしたよ」

「そりゃあ、ヤマタノオロチやっつける時に須佐之男の髪に隠すために変換したアバターだからね。アイコンみたいなもので、同時に何十体もコピーして、あちこちで仕事をしたりお使いに行ったり」

「あ、そうなんだ」

「日中国交回復とかしちゃったでしょ。人の往来はともかく、神さまとかはビザもパスポートも要らないから、どんどん入って来ちゃう。向こうも多神教で神さまも妖も多いからねえ」

「アハハ、妖怪太陽光パネルとか……」

「え?」

「あ、なんでも」

 頼まれた用件は、こうなんだ。

 八坂神社で、我が担任のハナちゃんこと花園先生は縁結びのお守りを買おうとしたら、わたしたちが賑やかにやってきてトチ狂ちゃって、縁結びの横の学業お守りを指さして「これください(;'∀')」と言って言い直しも出来なかったわけなんだ。

 神さまは、そんなこともお見通しなわけで、あらためて、花園先生に授けたいんだけども、本業が忙しいので代わりに渡してくれないだろうかと采女さん(スセリヒメ)に頼みに来たわけ。

「あ、それから」

「なんですか?」

「あなたたちが拾ったのが、ハナちゃん先生のお守りだから」

「え?」

「校内放送は聞こえてないみたいよ」

「あ、ああ……」

 そう言えば、あの後、若杉先生が校内放送でゴニョゴニョ言ってた、あれがそうだったんだ。昼休みの放送って、たいてい聞いてないもんね。

「さあ、次のお式、そろそろだわよ!」

「あ、いっけない!」

 慌てて、それぞれの持ち場に飛んで行ったよ。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・155『夢に現れた魔法少女』

2024-12-02 11:35:27 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
155『夢に現れた魔法少女』   




「ああ、ダイエーホークス……」

 新聞に目を落したまま気のない返事のお祖母ちゃん。

「……え、なにそれ?」

 いっしょにコタツに入ってるんで、気のない返事にもリアクションしておく。

「南海ホークス……昔は、そう言ったんだけどね」

「野球チームのホークスだったら、ソフトバンクホークスだよ」

「え、ああ……21世紀になってから野球って観ないからねえ……」

 そう言いながらコタツの上で手をさまよわせているんで蜜柑を載せてやる。

「あ、ありがと……」

「だから、そのダイエーじゃなくて映画の大映」

「ああ、そうか、メグリが通ってるのは昭和の宮之森だったんだ」

「そうよ、昭和46年」

「1971年、ニクソンショックの年だったねぇ……」

「にくそん?」

「うん、アメリカのニクソン大統領がいきなり北京に飛んで国交を結んじまって、それまで中国を敵認定してた世界中がひっくり返った事件。いきなりすぎたから、魔法少女も混乱してねぇ……危うく台湾の魔法少女と衝突するところだった……懐かしいねえ、霖敬麗って魔法少女と一世一代の大勝負になるとこだったぁ」

 なんか話が横道(^_^;)。

「あ、じゃなくて、大映って映画会社が潰れたみたいなんだけどね」

 昨日、八坂神社のお守りを拾って生指に届けに行ったらテレビがニュース流してて、ロコが『大映解散』のニュースにビックリして、令和女子のわたしは付いていけなかったんだ。修学旅行じゃ、いろいろ喜んだり面白がったりできたんで、ちょっとギャップを感じてお祖母ちゃんに振ってみたわけ。

「大映ってのは、東映・日活と並ぶ映画会社でね……勝新太郎の『座頭市』とか『ガメラ』とか『眠狂四郎』とか『大魔神』とか、けっこうがんばってたんだけどねぇ……」

「ああ、ネムリキョウシロウ以外は知ってるかも」

「眠狂四郎知らないのぉ?」

「あ、うん」

「円月殺法って技でね敵をやっつけて『お前はもう眠ってる』って決め台詞言うと、敵が、そのままグーグー寝ちゃうんだ」

「プ( ´艸`)、それ、北斗の拳」

 アハハハハ( *^▢^*)(´∀`*)

 
 その夜、夢を見た。


『時司応(ときつかさこたえ)そこをどいてもらおうか』

 切れ長の目のまつ毛を浜風に戦がせて霖敬麗が声を震わせる。わたしは、お祖母ちゃんの時司応になっている。

『待って、林さん、話せばわかるわ』

『もう話などしている時ではない、それに、わたしはもう林敬子ではない。中華民国魔法少女の霖敬麗だ!』

 そう言い放つと、彼女の頭の上に『林敬麗』の三文字が中華街の電飾を凌ぐ明るさで明滅する。

『ク……あなたのリンは林では無くて雨冠の霖なのね』

『そうよ、日本の裏切りに遭って、雨のように涙が停まらないのよ』

『そんな、帝国魔法大学でいっしょに机を並べた仲じゃないの!』

『その林敬子は死んだ、いま、ここに立っているのは護国の鬼少女、林敬麗。そこをどいて、このまま東京に駆けこんで、佐藤栄作の首をとるんだから』

『待って、まだ佐藤首相は……』

『何を言う、ニクソンショックに「あまりに突然のことで」と狼狽える総理のどこに理がある! 盟友ならば「なにがあろうとも中華民国を支持する!」と宣言するのがあたりまえだろうが!』

『だって!』

『もう、話など無用だ……通さぬとあれば……』

 ム……円月殺法無刀の構え!

 敬麗の両手が大きく弧を描く、あの両手が頭上で交差すると円月殺法が完成してしまう。

 仕方がない、あれに対抗するのに手加減はできない!

『魔法少女時司応、参る! 時司流奥義、転(まろばし)!』

 言い切ると同時に重心をずらして踏み込む!

 え?

 手応えはあったけど、同時に目の前が暗くなる。

『おまえは、もう眠っている』

 敬麗の後姿が斜めになったかと思うと、そのまま朝まで寝てしまった。

 
 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・154『お守りの落とし物と大映解散』

2024-11-29 11:29:39 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
154『お守りの落とし物と大映解散』   




 おや?


 学食目指して校舎を出ると、学食横の総合掲示板に新聞部の壁新聞。模造紙三枚のトップの見出しは『実り豊かな修学旅行!』。

 あんまりあか抜けないタイトルで、もう一週間たってしまっては微妙に周回遅れ。でも、新聞部の壁新聞なんて始めて見るし、修学旅行の記事だし、写真とかもけっこう使ってるし『食べたら、もう一度見ましょう!』というロコの意見で、とりあえずは学食。

 ほんの数秒掲示板で立ち止まったために、Aランチが品切れで玉子ドンブリ、ロコはお握りと天ぷらうどん。

 たみ子と真知子は代議会に出るために、今日はお弁当。どうやら、例のタイムカプセルのことを正式に提案するらしい。佳奈子もお弁当持って部室、後輩たちと来年の女バレの話をするらしい。

 MITAKAレギュラーの我々は仲がいいけど、いつでも一緒というわけじゃない。学校のスローガンを踏襲してるわけじゃないけど、自主自立なんだよ。

 あれ?

 食後、掲示板に戻ると、足もとに真新しいお守りが落ちている。まだ授与袋に入ったままで、1/3ほどが袋から出ている。

「八坂神社のだねえ……」「合格祈願ですねえ……」

 瞬間でストーリーが出来あがる。このお守りが、ここに落ちているかのストーリー。

「八坂神社とあるから、修学旅行で買ったものですねえ」

「買った本人が落としたか……」

「誰かにあげて、もらった本人が落っことしたか……」

 合格祈願だ、二年生の女子が三年生の男子に……お守りをあげるような仲だから……ちょっと羨ましい関係に違いない(#*´▢`*#)!

「ちょ、どこいくの!?」

 お守りを手に学食に戻ろうとするロコを呼び止める。

「落とし主は学食に居ます! 呼んで、返してあげなきゃです!」

「ダメよ!」

 ピークの学食で「お守り落した人いませんかあ!」「八坂神社の合格祈願のお守りい!」なんて叫ばれたらぜったい恥ずかしい。わたしらが一瞬で思いついた想像ぐらいは、みんなも思いつく!

「しかたない、生活指導に持って行こう」

 本館一階の生活指導室に向かう。

 生活指導室は無人のことが多い。

 生活指導というのは英語では表現できないらしいけど、意訳すればスクールポリス。学校のもめ事や厄介ごとが持ち込まれる。令和の高校だと、たいてい当番や常駐の先生が居て無人になることはめったにないんだけど、昭和の高校は、そういう面倒なところに先生たちは行きたがらない。

 でもね、二年の二学期ともなると知ってるんだよ。

 若杉先生とかは、お昼ご飯を生活指導の部屋で食べている。生指の部屋は本館の端っこで学食が近い。まあ、二分も有れば、トレーに載せて持って来れるからね。この時間ならきっといる。

「「失礼しまーす」」

「おお」

 予想通り、若杉先生の返事がして、中に入ると若杉先生と現国の杉野がAランチを食っていらっしゃる。わたしたちが食べ損ねたAランチ。

「二年三組の時司です」「同じく宮田です」

「「…………」」

 二人とも、テレビに気を取られて返事もしない。

「あの、学食横の総合掲示板のとこでお守りを拾ったんです」

「新品の八坂神社のです」

「え、ああ、そこに置いとけ……」

 こっちを見もしないで、お箸でテーブルを指す若杉先生。杉野はテレビの画面観てカンムシだし。

「よろしくお願いしまーす」「八坂神社のお守りですからあ」

 いちおう、ささやかに念を押してドアを閉める。

「なんか失礼しちゃうね」

「アハハ……でも、テレビのニュースも、ちょっとビックリでした」

「え?」

 わたしはワイドショー的なのをやってたことしか記憶にない。

「え、なにかやってた?」

「はい、大映が解散したってニュースです」

「え、ダイエー?」

 ダイエーと言われて頭に浮かんだのは、スーパーダイエーのことだった。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・153『魔法少女のわがままランチ』

2024-11-27 08:39:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
153『魔法少女のわがままランチ』   





 平日の昼間から志忠屋に来ている、今日は修学旅行の回復休日だ。


 志忠屋は令和の宮之森にあるんだけど、妖や魔法使いたちのお店。

 パスタとシチューのお店で、注文すればたいていのものは作って出してくれる。


「はい、魔法少女のわがままランチ」


 ペコさんが、特製ランチのプレートを置いてくれる。

 ランチは、その昔、お祖母ちゃんの無茶な注文を受けて発案した特製ランチ。

 今まで、何度かオーダーしたんだけど「あれは、やめとき」とか「大人になってからにせい」とかもったいを付けて出してくれなかったメニュー。

 トンカツにイモサラダ、キャベツの千切りの横にはパスタのナポリタンとレモンが添えてあって、お椀のお味噌汁。トンカツのサイズが違うけど、学食のA定食と変わりがない。

 カウンターのソースをかけて、お箸でトンカツの一切れを口に運ぶ。

「うう~ん、肉厚で美味しいトンカツだ!」

「そうかぁ、ほんなら、最後までそう思て食え」

 タキさんが憎たらしいことを言う。

 まあ、この愛想の無さも志忠屋の値打ちで、それをペコさんが、こんな(^○^;)顔してフォローしてくれるのも、この店の味わいなんだ。
 ペコさんは、こないだ来た時よりもスレンダーで、いっそう可愛く美しくなっている。この不愛想で口ぎたないタキさんと働いていて美貌に磨きをかけているのは大したもんだ! とにかくトンカツが美味しい!

「ううん、やっぱりトンカツは脂身が入ってないと美味しくないですねえ」

 正直に誉め言葉が出る。

「その脂身はな、ペコがダイエットして減らしよった肉や」

「え、嘘ですよ(>_<。) 」

 一番テーブルにランチを届けてるペコさんが顔を赤くして否定する。

「それは、マスターの腹の肉だわよ」

 ランチを受け取ったつくも屋のマイさんが、混ぜっ返してMS銀行のアイさん、寿書房のミーさんが耳をヒクヒクさせる。

 三人のランチはエビフライ定食だ。マイさんがフォークを入れると、香ばしい海老とタルタルソースの匂いがする。

「ハ~ム……!?」

 二切れ目のトンカツを口に運ぶとエビフライになっている。

 あれ、ミックスフライ定食だったっけ?

 そう思って三口目に箸を付けるとアイさんのカキフライ定食が目に入って、三口目のそれはプリプリのカキフライになっている。

 ええ!?

 次にお味噌汁をすすると、ビーフシチュウ( ゚Д゚)。アイさんはビーフシチュウだったし!

 その後も、他のお客さんの料理が運ばれたり、その料理から、他のメニューを連想すると、自分のプレートの料理がコロコロと変わっていく!

「あ、面白くてお得感がハンパないです!」

 喜んで箸をつけるたびにコロコロ変わるランチを楽しむ。

「え、う、フググ!」

 ついに、口の中でメニューが入れ替わるようになってビックリ( ゚Д゚)。

 フライを食べたつもりがサビ抜きの中トロに変わり、もう一度咀嚼するとカラシを思い切り効かせたオデンになって、お水をすすると強炭酸のコーラ!

 ウ! 

 堪えたら、思い切り鼻からコーラが噴き出て死ぬような目に遭った。

「なあ、せやから言うたやろがぁ(๑ ิټ ิ) 」

「い、いや、コーラじゃ不覚をとったけど、分かってたし。な、なかなかなメニューだと思うしぃ(''◇'')」

「意地張ってんと、これにしとき」

 魔法少女のわがままランチが、いつものパスタセット大盛りに変わった。

「まあ、慣れたら、最初の直感で安定して変わらなくなるからね(^_^;)」

 暖かい笑顔を向けると、別の『魔法少女のわがままランチ』を岡持ち(出前箱)に入れるペコさん。

「じゃ、出前行ってきます」

 カランコロンとドアベルを響かせて出前に行った。

「出前始めたんですか?」

「ああ、年に何回かだけやけどな。それよりも、メグリ、修学旅行に行ってきたんやてなあ」

「あ、うん。いろいろ面白かった!」

「万博のタイムカプセル見に行ったんやろ?」

「うん、地上に出てるモニュメントだけだけどね」

「2000年に一個掘り出して、点検したんやてなあ」

「うん、5000年も待てないからね。あ、その時、赤松の種を植えて、ちゃんと芽を出すか実験したらしいです」

「ああ、これやなあ」

 タキさんが菜箸を振ると、カウンターの上に3D映像が映った。

 天守閣を背景に、半分だけ見えてるモニュメントの横に、わたしの背丈よりも大きく、でも、まだ幼木の雰囲気のアカマツがスックと立っていた。


 家に帰って調べると、例のアカマツは万博記念公園のほか三か所に植えられて、大阪城には無かった。根付かなかったのか、最初から植えられていないのか。

 調べてみようと思ったけど、歴史には微妙な分岐がある。

 未熟な能力で調べると、今日の『魔法少女のわがままランチ』みたいなことになる。

 そっ閉じにして、学校でやってみるタイムカプセルのことを考えてるうちに寝てしまった(^_^;)。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』

2024-11-23 17:37:16 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』   




 お城と言えば地元の宮之森城しか知らないわたしらに大阪城は巨大に映る。

 
「すごい堀ですねえ……」

 大手門から入る時にロコが呟く。

 確かに、渡っている外堀はグランドキャニオンかっちゅうくらいに深くて幅が広い。

「信長も、ここを攻めるのは苦労したみたいです。ほら、大手門の脇にあるのが千貫櫓なんですけどね、攻めあぐねた信長は『あれを落した奴には千貫文の銭をやるぞ!』ってはっぱをかけたって言います」

「え、信長が大阪城攻めたの?」

 小学6年で歴史知識の停まったわたしが質問。

「元々は、石山本願寺ってお城みたいなお寺があって、信長に楯突いてたんです。そのころからの櫓なんです。けっきょくは交渉で立ちのかせるんですけど、本能寺の変になって。その後秀吉が大坂城を作って、江戸幕府に受け継がれるんですけど、有名な櫓だったんで、同じ場所に建てた櫓には同じ『千貫櫓』と名付けたんです」

 最終日に来て、ロコの頭はますます冴えてきてるようだ。

 蛸石とか振袖石とかの巨石に目を丸くして大手門を潜ると「バレーコートが四面はとれる!」と佳奈子が驚くぐらいに石垣やら多門櫓とかで囲まれた空間。

「この空間を枡形って言うんですけど、日本一なんですよ」

 ほうほう……多門櫓門を潜ると、うちの高校を敷地ぐるみ入れてもお釣りが出そうな、もうここだけで十分お城ができそうなくらいのところに出る。

「秀吉の頃は……と言っても秀吉の死後なんですけど、五大老の一人だった家康は、この西の丸に天守閣を築いたんです」

「ええ、一つの城に二つの天守閣? ちょっと反則っぽい」

「佳奈ちゃんの言う通りです。諸大名たちは、本丸の秀頼に挨拶する前に、こっちに足が向いてしまうんですよね」

「なるほどぉ、それで、ちょっとずつ『儂こそが天下人』って印象付けていくのねえ」

「さすが家康」

 感心する真知子とたみ子。

 しかし、これだけの情報を持ってるロコは、えらい奴だ!

 西の丸を横目に進むと、またもグランドキャニオンかっちゅうくらいの内堀が見えて、桜門を潜って、いよいよ本丸。

 ここでも、桜門を潜るや否やロコのバスガイドさん顔負けの解説。

 ロコには悪いんだけど、我々は本丸広場の真ん中に向かった。

「ああ、これこれ、次に案内しようと思っていたタイムカプセルですよ!」

 ああ、予定に入っていたんだ(^_^;)

 まだ設置されたばかりのタイムカプセル……と言っても、実物は地中深くに埋められて、地上に出てるのはステンレス製の丸ボタンというか、大きな中華ねべをひっくり返して底が見えてるって感じのモニュメント。

「5000年後に開けるんだねぇ」

 たみ子が跪いて、スリスリ撫でる。わたしたちも倣って、スリスリペチャペチャ。

「懐かしいですね、去年の万博」

「そうねぇ、万博そのものも面白かったけど、船場の古いお店で泊めてもらったこととか」

「みんなで炊事したり」

「銭湯にも行ったよね」

「なんか、シンミリしちゃうねえ」

「あ、知ってます? カプセルは二個あって、一個は2000年に開封して点検するんですよ!」

「2000年かぁ……」

「あと、29年かあ……」

 たみ子が呟いて、みんな遠い目になる。

「46歳になってるんですねえ……」

「立派なオバハンだねえ……」

 2000年かぁ……わたしが生まれるのは、さらにその7年後なんだけどね(^_^;)。

「中にアカマツの種が入れられてましてね、2000年にはその種を、この横に植えて発芽するかどうか実験するんだそうですよ」

「ああ、それ、楽しみだなあ!」

「ねえ、あたしたちも卒業の時にタイムカプセル作って埋めてみない!?」

 え?

 佳奈子の突然の提案、数秒遅れて、みんなの心に灯が点いた!

「やっぱり、開封は5000年後ですかねえ(^_^;)」

 ロコのツッコミに、みんな大笑いして、学校に帰ったらMITAKAや生徒会で相談してみようということになった。


 その後、天守閣の前でクラス写真。そして直美さんの提案で学年全部の自由な集合写真。

「さすがに収まらないなあ(^_^;)」

 そう言うと、直美さんは天守台の階段っを上って、石垣の上からカメラを構えた。

「手伝いましょうかぁ!?」

 手をメガホンにして聞いて見たら「今日はバイトじゃないでしょ!」と返事、みんなにも笑われる。

 天守台は校舎の四階ぐらいの高さがあって、余裕で全員が収まったみたい。

 ハイ、チーズ!!

 カシャ!



 わたしたちの修学旅行はめでたくお開きになった。



 こぼれ話を一つ



 集合写真のあと、午前の宝塚と同様に各自で自由行動にした。

 わたしは天守閣に上って、最上階の展望階に行ってみた。

 ロコの姿も見えたので声をかけようかと思ったら、外回廊の手すりに腕を置いて景色を見ている牧内さんが目に留まった。

「なんか、シミジミしてるね」

「ああ、グッチ」

 時司ではなくてグッチと呼んでくれるのが嬉しい。

「あそこ、なんだか分かる?」

「ええとぉ……」

 六階建てのビルで、屋上に塔があって、いくつもアンテナが立っている。

 ちょっと佇まいが警視庁に似ている。

「あ、大阪府警!?」

「ううん、NHK」

「あ、ああ」

「コールサインはJOBK。なんでか分かる?」

「ええと……」

「ジャパン、オオサカ、バンバチョウ、の、カド」

「え、ああ……」

「いやだ、冗談よ(^_^;)、NHKはJOで始まって設立の順番にABCなの。東京はJOAK」

「ああ、そうなんだ!」

「来年ね、あそこの放送劇団受けようかと思ってるの」

「え、そうなの!?」

「地理的には東京の方が近いんだけど、大阪に親類がいるし……」

「え、そうだったんだ」

「東京は劇団も多いし、放送劇団も規模が大きいんだけどね」

「あ、うん、そうでしょうねえ……」

「東京じゃ埋もれてしまう……というか、自信がね……なんか、ちょっと弱気かなあ」

「え、あ……どうだろ」

 牧内さんは同い年とは思えないくらいしっかりしている。去年からフォークの集いやら文化祭やらで世話になってるし、学校とも交渉して、シブチンの学校から階段下とは言え、部室も作らせたし。

「県の演劇研究会もね、なんとか連盟にできそうだし……」

 そうだ、この人は、演劇部の組織を教師中心の高校演劇連盟にするのにも尽力してたんだ。

「…………………」

 決めたように言ってるけど、やっぱり悩んでいるんだ。

 たった一回の青春だもんね。

「演劇のことはよく分からないけど、牧内さんは……突破力のある人だと思う」

「うん……そうだよね、うん、ありがとう、やっぱり受けてみる!」

 明るく笑ってリュックから取り出して見せてくれた。

 放送劇団研究生募集要項

「え、いつの間に?」

「自由時間にね、ちょっとひとっ走り(^_^;)」

「ひとっ走り」

「そう、ひとっ走り」

 そう言うと、牧内さんは何かにアッパーカットを食らわせるように握りこぶしを突き出した。

 天守の屋根に停まっていたハトたちがビックリして飛んで行った。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・151『修学旅行・四日目・2(宝塚ファミリーランド)』

2024-11-22 13:32:33 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
151『修学旅行・四日目・2(宝塚ファミリーランド)』   





「宝塚歌劇団の公演が観られたらよかったんですけどねえ……」

 ゲートを入って間もなく大劇場の屋根を見つけたロコが不満を言う。

 天下に名の轟いた宝塚歌劇団は遊園地に入らないとたどり着けない構造になっている。令和の時代は、遊園地が廃業になっていて遊園地があったことすら忘れられているんだけどね。

 歌劇団も遊園地も阪急電鉄を作った小林一三さんが、宝塚温泉のお客さんを増やそうと総合開発したもの。それも本業の阪急電車のためで、沿線の総合開発コミコミで事業を立ち上げるという先見の明。

 そう思うと意義深いんだけど、大阪のテーマパークはUSJとインプットされてる二十一世紀少女には、ちょっとショボい。

「まあ、童心に帰って遊ぶとするかぁ」

 佳奈子がバスの中でもらったチケットをヒラヒラさせる。

 このチケットでジェットコースターをはじめ五個のアトラクションに乗れる。

「ジェットコースターと観覧車は外せないねえ」

 女バレで元気の余っている佳奈子はアグレッシブだ。

「じゃあ、スカイウェイってのに乗って全体を見るところからにしようか」

 たみ子の意見で遊園地を斜めに通ってるロープウエーに乗る。

「ああ、どれもちょっと楽しむにはいいスケールですねえ」

「個人的には、ほら、あっちのヘルスセンターとか展望台で、ボーっとしていたいわねえ」

「ちょっと、なんか食べたいかなあ」

 修学旅行も最終日、いつも一緒の五人も、微妙に意見が合わなくなる。

「じゃあ、時間決めて、観覧車の前で待ち合せない?」

 わたしが提案して、みんなで眼下のアトラクションを見定める。

 遊園地の真ん中を本物の阪急電車が走って、その横を遊園地を周回する豆電車。対比が面白い。

 敷地はディズニーリゾートには及ばないけど、大正時代に作られて今に至っている思うとなかなかのもんだ。料金も普通に入って800円だとか、普通に一万円を超えようかという令和のディズニーを思うと、これでいいんだとも思ってしまう。

「ジェットコースターは……」

「あ、あそこだ」

「観覧車は……」

「え、あれ!?」

「ええ、変わってる!」

「二重反転観覧車ですよ!」

「スカイワープっていうらしい!」

 観覧車と言えば自転車の車輪みたいなのを思っていたんだけど、ここのは、十字のアーム、十字の先には八つのゴンドラリングについていて、それもグルグル回って、本体の十字もグルグル回ってる。それほど大きなものじゃないけど、動きが面白い。いやいや、昭和の遊園地も侮りがたし!

「あ、国産初の旅客機、YS11が保存されてますぅ!」

「ロコはオタクだなあ」

「え?」

「あ、マ、マニア!」

 ヤバイ、この時代にオタクは通じない(^_^;)。

「ね、あそこ歩いてるのタカラジェンヌじゃない!?」

 たみ子が嬉々として指さした先には、グレーの制服制帽の、正しく言えば宝塚音楽学校の生徒さんたちが歩いている。

「姿勢いいわねえ!」

 なんだか、背中に定規でも入ってるんじゃないかと思うくらいにシャキッとしてキビキビしてる。

「宝塚は別名宝塚士官学校っていうくらい、厳しいんですよ。学年の初めには自衛隊から教官が来て、行進の練習とかやるらしいですよ!」

「うう、憧れるわねえ(^▽^)」

 たみ子は意外にヅカファンなんだ。

 タカラジェンヌに見惚れてるうちに、ロープウェーはあっという間に終点。

 
 たみ子は「せめて外観を!」と⇒大劇場、真知子は⇒人形館、ロコは⇒YS11、佳奈子は⇒冒険パノラマレールウェイ。と、バラバラに散っていった。

 
 わたしは、昆虫館の横で変な虫みたくジッとしているあいつを見つけてオチョクリに行く。


「ねえ、なにタソガレてんのよ」

「え、あ、メグリか」

「あ、分かった。バスガイドさんも言ってたけど、万博観れなく残念なんでしょ。留年さえしてなかったらって」

 ちょっとえぐるような言い方になったのは、修学旅行の持ってる異次元性なのかもしれない。でも、まあ、こいつは将来は徒(いたる)大叔母のダンナになってもらわなくちゃならないからね。

「あんなものに興味はない。ハンパクには行ったしな」

「ハンパク?」

「反戦のための万国博。万博と同じ時期に大阪城公園でやったんだ」

「あ、ああ……」

 そう言えば、去年万博を見に行った時に、そんな話題が出たっけ。

「それより……」

「なに?」

「……なんでもない」

「そ……じゃ、わたしから聞いていい?」

「ああ、いいぞ」

「前から聞こうと思ってたんだけどぉ……」

「ん?」

「去年のぉ、合格者説明会の前後、よく宮之森の駅でいっしょになったじゃない」

「そ、そうか、よく覚えてねえけど」

「あの時、毎回改札の駅員に呼び止められて10円払ってたけど」

 こいつには10円男という二つ名を進呈してる。付けた本人が言うのもなんだけど、その理由を聞いたことがない。

「ああ、あれはな……笑うなよ」

「あ、うん」

「夢にローザ・ルクセンブルグが現われてな『初志貫徹しなさい!』って言ったんだ」

「ロ、ローザ・ルクセンブルグがぁ?」

 言いながらローザ・ルクセンブルグ分かってない。

「運賃値上げには反対だったからな」

「それで?」

「ああ、ローザは、銃のケツで殴り殺され川に放り込まれて半年も放置された、革命の殉教者なんだ」

「そ、そうなんだ」

「つまらん話だろ」

「ハハ、ちょっとむつかしいかなぁ。あ、でも、ありがとう、入学以来の謎が解けたよ」

「そ、そうか」

「…………」

「あ、さっきの『タソガレてる』は、いい表現だと思うぞ、言い得て妙だと思った!」

 なんだか、思いきるようにして立ち上がる。

「あ、なんか乗りに行くの?」

「ああ、ジェットコースターでも……いっしょに行くか?」

「え、ああ……あとで真知子たちと乗る約束してるから」

「そ、そうか、じゃあな」

「う、うん、またね」

 ……メリーゴーランドぐらいなら付き合ったんだけどね。


 それから、約束通りお仲間とジェットコースターと独特の観覧車に乗った。


 それから、園内のヘルスセンターで8クラスそろって昼食をとって、修学旅行最後の目的地、大阪城に向かった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・150『修学旅行・四日目・1(万博跡地を横に見て)』

2024-11-21 17:22:58 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
150『修学旅行・四日目・1(万博跡地を横に見て)』   




 四日目の最終日は大阪だ。


 基本的に去年といっしょらしいんだけど、去年は大阪を二日目に持ってきていた。

 理由は簡単、大阪万博があったから。

 つまり、三年生は修学旅行に万博を組み込んでいた。

 万博も終わったんだから、大阪でもないと思うんだけど、すぐに代案も浮かばないので、最終日に持ってきた以外はそのまんま。学校というのは、なかなか慣習というか前例というものは変えられないんだね。

 奈良を出発して程なく生駒山を超える。

 おおぉ……!

 意外に歓声が起こる。

 目の前に大阪平野が広がり、手の届きそうなところに大阪湾。その向こうに淡路島、その右手には青々と六甲山脈と神戸の街も霞んで見えて、けっこう雄大な景色だ。

 湘南の海も雄大で好きだけど、言ってみりゃ見渡す限り太平洋で水平線が見えるばかり。それが、この景色は日本地図でお馴染みの近畿地方の中心部が全部見えている。

「こんなに澄み渡って一望に見えるのはとても珍しいですねえ、きっとみなさんの普段の行動がいいからでしょう(^▽^)。左手に小さな森のように見えておりますのが仁徳天皇陵で、正面に見えております緑が大阪城で……」

 バスガイドさんも職業意識に目覚めて、数分で、このパノラマのおおよそをガイドしてくれる。

「……大阪の端から端まで見えてるんだねえ」

「大阪は、日本一狭い自治体ですからねぇ」

 真知子が呟いてロコが補足する。

 日本は狭い国だけど、山越えの峠道程度のところから全景が見える都府県は、そんなには無い。こっそりスマホで検索すると、二十何年かすると関空が出来て、日本一は香川県に譲るみたい。

 たまたまなのか、気をきかせたのか、バスは万博会場のど真ん中、万博会場とエキスポランドの間を通る。

「惜しかったですねぇ、去年でしたら本番に間に合いました。万博会場はほとんどのパビリオンが取り壊され、現在は、万博記念公園に生まれ変わるために工事中でございます。また、左側も一部設備をリニューアルして来年には新エキスポランドとして営業再開となっております。チラリと見えておりますのが五つのコースを持ち、その総延長は2340メートルと世界最長を誇りますジェットコースター、ダイダラザウルスでございます」

 オオ…………!

「その向こうは観覧車ワンダーホイール、高さは40メートルですが、この北摂の地では一番の高さを誇ります。また、右手に見えますのが太陽の塔、大屋根は撤去されますが、岡本太郎の作になりますこの塔は永久保存が決まっております」

 オオ…………!

「歓声は二種類ですねえ」

 ロコが声を潜める。

「二種類?」

「はい、じっさいに行って懐かしんでいるのと、行けなくて残念がってるのとです」

「あぁ、そうだねぇ……」

 行けなかった子には申し訳ないので、小さな声で賛意を表しておく。

 10円男が小学生みたいに腰を浮かせてガイドさんの言う通り、ロコが指摘した通りの表情で見ているのが可笑しかった。

 バスは、その10円男の残念を癒すように、宝塚ファミリーランドを目指すのだった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・149『修学旅行・三日目・4(志賀直哉旧居と新薬師寺)』

2024-11-20 15:46:59 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
149『修学旅行・三日目・4(志賀直哉旧居と新薬師寺)』   




 あたりは百坪を超えるお屋敷が並んでいて、その割には道幅が狭い。

 志賀直哉旧居は、そういうお屋敷の一つで、幼稚園ぐらいなら余裕で開けそうなくらいに広い。

「あ、今は大学の持ち物なんだね」

 看板の横に〇〇大学のセミナーハウスと書いてある。

「学校の施設だと税金とか安くなりますからねえ」

「なるほどぉ」

 
 順路は二階からで、二階には書斎と客室がある。


「ここで、かの文豪は『暗夜行路』を書いたんだねえ」

 机を撫でながら真知子が感心する。

「真知子、詳しいんだね!」

 佳奈子が感心すると「いやいや、当てずっぽう。志賀直哉って『暗夜行路』と『小僧の神さま』しか知らないしぃ(^_^;)」

「『小僧の神さま』は小学校で習ったよね、中身忘れたけど……ああ、春日大社の森とか若草山とか、よく見えるんだあ」

 たみ子は窓からの景色に感動。

「こんなとこなら、勉強はかどるんでしょうねえ」

「あはは、あたしは五分で寝ちゃうねえ」

「あ、それもいいですねえ、リフレッシュして部活に打ち込めそうです」

「人間、やっぱり環境ですよね……」

「そうだねえ……」

 ロコと佳奈子はタイプが違うけど、しみじみリラックスするポイントは同じみたい。あ、かくいうわたしも……というか、五人とも同じ。一年で同じクラスになったことが始まりなんだけど、いい仲間だよ。

 一階に下りると、志賀直哉の自室、奥さんの部屋。子ども部屋は、なんと床がコルク張り!

「すごい、ここなら回転レシーブの練習でもできそう!」

「志賀直哉の子どもに生まれたかったです!」

「そうね、子供部屋の隣は志賀直哉の寝室だし、よくできたお父さんだったんだねえ」

「ねえ、台所すごいよ!」

「声、大きいよ!」

 台所に感動したらたみ子に怒られる。

「ちゃんとガスだし」

「え、元々?」

「元々ですよ!」

「うちにガスが来たの幼稚園のころだよ」

「ああ、うちも」

「NHKで『水道完備ガス見込み』ってやってたじゃない。あれ見て、わが横田家のことだと思ったもん」

「うんうん、『バス通り裏』とかも親近感だった」

 アハハハハ((´∀`*))

 付き合いで笑っておくけど、そのドラマは知らないよぉ(^_^;)。

「あ、これ冷蔵庫ですよ!」

「あ、備え付けなんだ!」

 壁に木製のハッチが付いていて、正直わたしは分からないんだけど、お仲間四人はソッコーで気が付いている。

「お祖母ちゃんちにあったけど、もっと小さい木の箱だった」

「一番上に氷を入れるんだよね」

「そうそう、氷屋さんが配達に来るんだ」

「大きなのこぎりでザクザク切ってくれるんだよね」

 氷の配達……? ウウ、令和少女のわたしには想像つかない(^_^;)。

「ねえ、食堂もすごいですよぉ」

 隣りは教室の2/3くらいの広さに、9人掛けのテーブルが据えてあって、壁沿いにも長椅子やら小テーブルやら。ちょっと模様替えをしたらキッチンと合わせてけっこうなレストランや喫茶店が開けそう。

「パフレットにも書いてあったけど、志賀直哉って人は人を集めて賑やかにやるのが好きだったのね」

「うん、いい意味でサロンだったんだね……こんなところでMITAKAやれたらいいわよねえ……」

 パンフ見ながらため息つくMITAKAの創始者は、雰囲気的にはサロンのマダムの雰囲気。

「あっち、サンルームじゃない?」

「あ、ほんとだ」

 佳奈子につられて移動すると、てっきりベランダかと思ったところは、大小の丸テーブルが置かれたサンルーム。

 天井に大きな天窓、庭に面してはガラス張りの大窓なんで、ダイニングの方から見ると、ベランダに見える。広さはダイニングと合わせると教室の倍近いかもしれない。

「窓の外は芝生の庭ですよぉ」

「おお、余裕でバレーコートがとれる!」

「ね、あっちにはプールとかもあるみたい」

「「「「ほおおおおおお」」」」

 間抜けな歓声をあげると、後ろで人の気配……というか、クスクス笑われてるし。

 振り返ると、草色のカーディガンがよく似合うロン毛の美人さんが壁際のテーブルに着いていらっしゃる。

「あ、すみません、自分たちだけかと騒いでしまって」

 真知子が代表して頭を下げると、美人さんはワイパーみたいに手をハタハタさせる。

「こちらこそ、不躾に笑ってしまって。あなたたち、修学旅行?」

「はい、湘南の方の、宮之森高校っていいます」

「そう、ゆかし気な名前ね。志賀直哉は好きなの?」

「「「「あ……」」」」

「学校で『小僧の神様』を習って『暗夜行路』はタイトルを知ってる程度ですぅ」

 言い淀んでいると、ロコが正直、かつ簡潔に我々のレベルをばらしてしまう。

「そうよね、戦前の作家だし、それだけ知ってるだけで優秀よ」

「どーも……」

「あ、でも、この家は、みんな感心しました」

「品があって、そんなに奢った風もなくって」

「人を迎えて、人生を豊かに楽しもうって感じがとてもいいです」

「あてられちゃダメよ」

「え、そうなんですか?」

「戦争に負けた時、志賀直哉は『あんな戦争を始めたのは漢字や日本語を使ったせいだ』って言ったのよ」

 え?

「不完全で不便で、そのために文化の進展が阻害されて、あんな戦争をやってしまった。これからはフランス語を公用語にすべきだって」

 ええ!?

「太宰治とかは畏れ入ってたけど、そういう危ういオッチョコチョイな人」

 アハハハ(^_^;)

「あら、つい余計なこと言っちゃったわね。まあ、ここの雰囲気が気に入ってくれたのなら嬉しいわ。この先、東の方に行くと新薬師寺とか柳生街道とか、よかったら……あら、こんな時間。じゃ、わたしはお先に」

 心憎いほどの笑顔を残して草色カーディガンは行ってしまった。

 さて、も少し時間があるから、美人さんの言っていた新薬師寺の方に足を延ばそうと外に出る。

 歩いていると、ふと横っちょの家が気になって目を向ける。

 え?

 屋根の上にさっきの美人さん! 

 つるりと手で顔を撫でると安倍晴天……またやられた(-_-;)。


 新薬師寺は、薬師寺のイメージが頭にあったんで、拍子抜けがするくらい小さなお寺。

「ウウ、志賀直哉の家より狭いかも」

 さっきは歓声あげた佳奈子も、ちょっと萎れている。

 建物もお寺というよりは、天平時代の倉庫というような感じ。石の壇の上に体育館のステージにソックリおさまってしまいそうな小さい本堂。
 
 お寺の本堂にはたいていある縁側が無いし、観音開きの扉が三つあるんだけど窓が一つも無くて、まるで倉庫。

 せっかくなので中に入ると、大仏をそのまま縮小したようなご本尊の周囲を十二体の十二神将という、ちょっとおっかないナンチャラ大将という像が取り巻いている。

「あ、思い出しました」

 ロコが閃いた。

「お寺の寺っというのは、元々は『役所の建物』っていう意味なんですよ」

「建物?」

「はい、中国に仏教が伝わったころ、いきなりは立派なものを建ててもらえなくて、古い役所の建物を流用したんですよ。それで、いつの間にか『寺』っていうのが、いわゆるお寺になったんです! だから、唐招提寺とかは、その役所の建物だった名残りが残ってるっていいます」

「あ、なるほどぉ、じゃあここも?」

 あらためてパンフを読むと、元は400メートル四方もあるような立派なお寺で、ちゃんとした金堂とかがあったらしいけども、戦乱とかで焼けたり縮小したりで今の大きさ。金堂も焼け残った建物らしくて、ザックリ言うとロコの説明通り。

 金堂を出たところの茶店でお抹茶をいただいて、三日目の締めにした。

 
 その夜、夢に十二神将の宮毘羅(くびら)大将が出てきた。

 新薬師寺は草色カーディガン(おそらく安倍晴天)に勧められて 見に行って、疲れていたこともあってよく覚えてないんだけどもね。やっぱ晴天のオッサンにおちょくられているのかもしれない。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・148『修学旅行・三日目・3』

2024-11-19 17:24:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
148『修学旅行・三日目・3(ささやきの小道)』   




 安倍晴天かと思ったオニイサンは一瞬しゃがんだかと思うと、それっきりになり、鹿の集団も磁石を遠ざけたパチンコ玉みたく結合が緩くなって、飛火野のあちこちに散っていった。不思議と、こっち側にやって来る鹿は居なかった。

 まあ、昨日からずっと鹿なんで、ちょっと飽きてもきてる。興福寺でいっぱい鹿煎餅やったしね。


「さあ、午後の部いこうか!」


 こちらも真知子の声でお昼を終えて出発する。

「あ、ささやきの小道ですぅ!」

 ロコが参道脇の道しるべを指さす。

「京都の哲学の小道と並んで、有名な散歩道なんですよ、ここを抜ければ志賀直哉旧居にも近いです!」

「ああ、そうね。哲学の小道には行けなかったし」

 たみ子の一言が続いて、道を南にとる。

 道幅はほんの二三メートル。それで両側は一メートルちょっとの土手になってて飛火野からは地続きなんだけど、丈の低い木がいい感じの密度で茂っている。ボンヤリ歩いてると、ただの林の中の道なんだろうけど、これは違う。

 林の中は草とか蔦はほとんどなくて、その気になれば林の中だって歩ける。以前、富士の樹海の動画を観たけど、木々は乱雑に生えているし、草も蔦もボウボウ。踏み込むとしたら、ちゃんと足もとを固め、鉈とか装備を整えなければ入れるもんじゃない。だから、人生をお仕舞にする目的で踏み入った人たちは道路からそんなに離れていないところで亡くなっている。

 でも、ここは意識して見れば分かるほどに整っている。

「真ん中に小川が流れてたら、南禅寺の……ほら、水路閣の奥のやつに似てるね」

 表現は違うけど、佳奈子が同じ意味のことを言う。みんな「ああ……」と半分景色に見惚れながら返事をする。

「盆景って知ってる?」

 たみ子がむつかしいことを言う。

「ボンケイ?」

 馬鹿なわたしは、クリラクガンの時みたいに聞いてしまう。

「知ってます! 本物の木や苔やらを使って、お盆や鉢植えの中に景色を作るやつですよね?」

「うん、お祖父ちゃんがやってたんだけどね……プ、ププ(〃艸〃)」

「え、なによ」

「盆景って、焼き物の人形とかを置いたりするんだけどね」

「ああ、その盆景の人形みたいなのね、わたしたち」

「なんだか、侘び寂びの世界ですねえ(^▽^)」

「でも、なんで噴き出すの?」

 すぐ後ろで笑われたせいか、少し不機嫌そうに佳奈子が振り返る。

「お祖父ちゃん、人形は信楽焼で揃えてたの」

「信楽焼がおかしいの?」

「あ、それってタヌキでしょ!?」

 三軒隣りの玄関わきに置いてあるのを思い出した。信楽焼と言えばタヌキだ!

「ええ、あたしタヌキなのお!?」

「ううん、ちょうどタヌキが五匹並んでるの思い出したから」

「そうか、全員ならいいか」

「そうだ……」

 リュックから文庫を取り出すロコ、どうやら、これがネタ本みたい。チラリと見えた拍子は岩波文庫! わたしは『ガガガ』とか『電撃』とかがヘッドにくるのしか読んだことない。

「ここいらの木は、みんなアセビですよ」

 アセビ?

 あんまり馴染みのない植物だ。

「冬から春にかけて、白い花を付けるんだそうです」

「ああ、それは見事かも」

「……あ、分かりました! アセビの実は鹿には毒なんで、鹿は寄り付かないんだそうですよ!」

「「「「ああ」」」」

 納得した、それで、ここいらには鹿が居ないんだ。

「でも、なんで、こんな林の中に鹿よけ?」

「この先の高畑ってところに、春日大社の祢宜たちが住んでたんですけどね」

「ネギ?」

「ああ、神社に仕える男の人で神主のいっこ下の役職」

 稚児舞をやっただけあって、たみ子はよく知ってるようだ。

「フフ、神のお使いでも、しょっちゅう付きまとわれたらかなわんということですねえ」

「うん、鮮やかな紅葉もいいけど、こういう地味な草木もいいもんね」

「ちなみに、アセビは馬酔木とも書いて、馬も苦手みたいです」

「え、馬と鹿が……」

「あ、馬鹿除けになるのかも!」

 プ( ´艸`)

「いま、特定の人物が浮かんだ人は反省しましょう!」

 
 馬鹿なお喋りをしているうちに、アセビの林もぬけて、文豪の旧居が見えて来た。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・147『修学旅行・三日目・2(蘭陵王)』

2024-11-18 21:01:54 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
147『修学旅行・三日目・2(蘭陵王)』   




「運がいいです(^▽^)!」

 遅れて駆けこんだ学食で諦めていたAランチがまだ残っていたみたいに歓声を上げ、石段を駆け下りるロコ。

 つられてみんなも駆け下りて、先着の観光客の人たちが振り向く。

 あ、すみません!

 声にこそ出さないけど、体中で『すみませんオーラ』が出てるんだろう、修学旅行生だと見抜かれて微笑みと共に鑑賞の輪の中に入れてもらう。

「あ……蘭陵王だ(‘‘艸‘‘)」

 たみ子も口を押えて感激。

 ランリョウオウ?

 たみ子以外は「え?」なんだけど、さすがに声は出さない。

 階段の下はテニスコートほどの白砂の庭で、五月人形的なのが怖い面を付け、バチというか指揮棒みたいなので空を指している。すぐに、舞楽の調子が変わって、クル、クルっとアクセントを付けて半回転し、その都度、地面を踏み固めるような仕草、飛び降りるような仕草、片足をトンと前に出すと床を真横に拭うような所作、力士の土俵入りみたいな所作。その度に下あごがブラブラして、少しコミカル。

 舞楽っていうんだろうけど、神社の巫女舞さえまともに見たことないんだけど、不思議に辛気くさいという感じはしない。

 衣装は朱色や金色、お面はサル? と思ったら耳の横に扇子みたいなエラとかが見えて、どうやら竜のお面みたい。

 四股を踏むような仕草があって、両手を腰骨のとこらへんに収めてシズシズと帰って行き、観客の人たちからめでたい拍手が沸き起こった。

 パチパチパチパチパチパチ

「いやあ、春日大社の舞楽って、決まった日にしかやってないですから、ほんとうに運がよかったです(^▽^)/」

「あれ、ランリョウオウって言うのねぇ」

「たみ子さんは、知ってたみたいですねえ」

「あ、うん、うちの田舎の神社でもやってるの。わたしも稚児舞で出たことあるんだよ」

「え、そうなの!?」

「あ、いま、電信柱みたいなノッポの子が稚児舞やってるの想像したでしょ!」

「あ、いやそれはぁ(;'∀')」

「わたし、子どもの頃は小っちゃい方だったんだからね」

「ああ、きっと可愛いお稚児さんだったんでしょうねえ」

「そりゃ~もう!」

「あ、わたしだって、小さいころにベールガールやって評判だったんだから」

「ベールガールって?」

 常識のないわたしは素直に質問してしまう。

「え、結婚式場でバイトしてて知らないんですかぁ?」

「あ、写真撮ってるだけだから(^_^;)」

「花嫁のベールの端っこ持って後ろからついていくやつよ」

「あ、ああ」

 数は少ないけどキリスト教式のやつで見たことがある。

「あ、それでランリョウオウって?」

「ああ、むかし、中国の斉って国があってね。そこの王子さまがあまりに男前で、素顔で戦いに出たら敵味方共にその二枚目ぶりに戦うことを忘れてしまうんで、その王子さまは醜い竜のお面を付けて戦ったって伝説」

「へえ、そんなのあるの!?」

「二枚目すぎて戦いにならないって、なんだかマンガみたいね」

「あ、佳奈子も知ってるよ!」

「え、バレーボールでですか?」

「うん、先輩から聞いたんだけど、大浜高校の男子バレーでね、女の子みたいに可愛いセッターが居てね、その子がトスあげると敵は見とれて、必ず負けちゃったって!」

「ええ、ほんと?」

「フフ、それって敵の方にホモもっけがあったとかぁ(* ´艸`)」

「え、敵って、うちの男バレ……プ(〃艸〃)」

「「「「アハハハハハハハ(>∀<)( ^o^) (˃᷄ꇴ˂᷅ )  (ᵔᗜᵔ* ) 」」」」

 みんなで、うちの男子バレーを思い浮かべて笑いながら参道を戻って行った。

 笑い出したら止まらなくって、すれ違う観光客の人たちもビックリしたり笑ったり、飛火野まで戻ってお弁当にした。

 プォ~~~~ン

 なんだか金管楽器の音がしたかと思うと、鹿たちがいっせいに歩いたり駆けたりして一カ所の集まり出した!

 見ると、青い半纏を着た男の人がホルンを吹いて鹿を集めている。

「あ、鹿寄せですねえ」

「ああ、なんか奈良の風物って感じねエ」

 みんなで、鹿寄せに見惚れていると、ホルンを吹いているオニイサンが、一瞬こっちに向いた。


 え、安倍晴天?



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・146『修学旅行・三日目・1』

2024-11-17 15:35:24 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
146『修学旅行・三日目・1』   




 興福寺は八角形の南円堂に「お伽話に出てきそうなフォルムねえ」とおもしろがり。五重塔を仰ぎ見て「よくぞお風呂屋さんの焚きつけにならなかったねえ」と運の強さを喜んであげる。

 あれからMJスマホで調べたら五重塔は国宝だし、興福寺そのものが1998年に世界文化遺産になってるよ(^_^;)。

 あ、MJスマホって魔法少女スマホで、昭和に来てても使えるんだ。

 
 ここで時間を食っては予定をこなせないんで、鹿せんべい買って、鹿との約束を果たしただけで東大寺へ。

 
「……やっぱり大きいねえ( ゚Д゚)」

「三回目ですよぉ(^_^;)」

 佳奈子が感嘆してロコが付け加える。

 仁王門の仁王、仁王門潜って大仏殿、そして中に入って大仏様を拝んで三回目の感嘆。ほかの四人も「へえ」とか「ほお」とか声を上げてるんだけどね。

「でも、この大仏って三代目なんだよね」

「はい、初代のは平重衡が、二代目は戦国時代に松永久秀が焼いてしまって、今のは江戸時代に作られた三代目です」

「じゃあ、鎌倉の大仏の方が年季が入ってるんだ」

 湘南地方の我々としては地元に近い鎌倉の大仏を贔屓にしたくなる。

「でもでも、足の一部とか蓮の葉のところは初代のままなんですよ」

 ロコが公正に指摘する。

「あ、柱の穴潜りだ!」

 佳奈子が声を上げて、大仏様の右ひざ方向に走る。

「子どもの頃に読んだ『弥次喜多道中』の書いてあったんだけど、ほんとにあるんだ!」

「ああ、弥二さんが引っかかって抜けなくなるってやつ!」

 面白そうなので、スカートの真知子以外の四人でやってみる。

 案内を読んでみると、鬼門封じのためとか厄除けのためとか説明があったけど、高校生はおもしろればOKなんだ(^▽^)/

 あらためて大仏様に手を合わせ、大仏殿を出てからロコがこっそり注釈。

「あのう、弥次喜多が潜ったのは京都の大仏なんですよね(^_^;)」

「「「「え?」」」」

「あ、まあ、おもしろかったし、いいんですけどね」

「京都に大仏あったの?」

「あ、落雷で焼けたみたいです。木造だったみたいです」

 道理で、年配の参拝客の人たちが笑っていたけど、考え過ぎなのかもしれない。


 来た道を少し戻って春日大社を目指す。

 
 少し登りの参道を人の流れにのって進む。参道脇には千年以上の歴史の中で献納された石灯籠がいっぱい並んでいて、その背後には今を盛りの紅葉が栄えてとっても雰囲気。学校のある宮之森の町自体が、奥宮と呼ばれる神社と宮之森城址があって紅葉が素晴らしいんだけど、やっぱり千年の都のはすごいよ。木々の背の高さが違うし、奥行きも深いしね。
 
 ちなみに、奈良の鹿は、この春日大社の神さまのお使いだということで大事にされているらしい。

 社殿は、どこか八坂神社に似ていて朱塗りの柱が女性的。

「すごいぃ」「雰囲気ぃ」「ほう……」「おお……」「いいねえ……」

 高校生らしく五文字にもならない感嘆の声をあげながらお参りを済ませて、石段を下りると雅な雅楽の音が聞こえて来た。

 

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・145『修学旅行・二日目の残り』

2024-11-16 14:49:00 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
145『修学旅行・二日目の残り』   




 奈良は壮大な田舎だ。

 四方を山に囲まれてるんだけど、ついさっきまで居た京都よりも広い。

 でもね、京都はお寺や神社だけでなく、ビルもけっこうあった。五階建てぐらいのね。駅前ビルやらデパートやら大学やらホテルやら、少しは会社とかも。そういうものの間にはビッシリと平屋や二階建ての瓦屋根が、それこそ甍の波で、その点ではけっこうな大都会。

 だけど、奈良は一面の田んぼや畑やら。そういう田畑の中にお寺の大屋根がや塔が覗いている。奈良の主役は田んぼと畑。宮之森や大浜くらいの家並も見えて、ガイドさんの説明だと奈良市の中心らしい。
 うちの街をそれほどの田舎とは思わないけど、奈良を田舎と感じてしまうのは、元々は平城京という日本の都だったという知識があるからなのかもしれない。

 いや、高校生の気まぐれな印象です。気に障ったらごめんなさい(^_^;)。

「でもさぁ、京都ほど人が多くないのは嬉しいかな」

 東大寺近くの駐車場にバスが停まって呟いたら、みんな「うんうん」と頷いた。

 その京都でも、令和の半分ほどの混雑でしかないんだけど、それでも京都はくたびれた。令和のインバウンド爆発の京都に行ったら死んじゃうね。

「うわあ、鹿ですよ、鹿の団体ですよ!」

 駐車場を出ると、もう鹿が列をなして歩いていて、感動!

「鹿と遊ぶのは明日、今日はこのまま宿舎だからね!」

 花園先生に叱られて、そのまま興福寺近くのホテル。


「おお、奈良盆地が一望できるよぉ!」


 真知子が声を上げ、みんなで窓辺に寄ってみた。

「ああ、ほんの三階なのにねえ」

「でも、宮之森も三階の教室から街の向こうまで見えますよぉ」

「そうだけど、なんだか落ち着くわねえ……」

「あ、佳奈子、なに食べてんのぉ!?」

「あ、お茶うけ置いてあるよ」

「あ、お茶淹れます!」

 京都のホテルにお茶うけは無かった。ここもホテル形式だけど旅館の雰囲気がある。

「落雁だねぇ」

 ラクガン? 

 イミフだけど、下手に聞いたら昭和人間でないことを疑われるような気がして止しておく。

 ラクガンをポリっとかじる、口の中に栗の味わいと控えめな甘さが広がって、ほうじ茶によく合う。

「ねえ、五重塔も雰囲気だけど、興福寺って全体としては取り留めないねえ」

「うん、京都のお寺って塀で囲まれててまとまりがあったのにね。興福寺は町との境目が分かりにくいねえ」

 真知子とたみ子は高尚だ。

「それはですね、廃仏毀釈の影響ですよ」

「え」「ああ」

 ロコが入るとさらに高尚になる。

「明治の初めに神仏分離令が出て、お寺や仏像がずいぶん壊されたんです。京都はそれほどじゃなかったみたいですけど、奈良は、けっこうやっちゃったみたいで、興福寺はあれこればら売りされましてね。あの五重塔も町の風呂屋さんが焚きつけ用に買ったんですけど、大きすぎて壊せないんで、しばらく放っておいたら神仏分離令が撤回されて、ああやって無事に立ってるんですよ」

「「「「ほお」」」」」

 ロコの取材能力はますます冴えてきてる。

「あ、なんか香ばしい……」

 たみ子がほうじ茶のことを言ったのかと思ったら、わら焼きの匂いがほのかにしてくる。

「なんだかうっすらと霞が漂って来ましたよぉ」

 若草山や、その向こうの山々がシルエットになって、興福寺の伽藍もこころなし霞んできたような気がする。

 どこかで、稲刈りの後の藁を焼いてるんだ。

「なんだか万葉の昔から漂ってきたみたいねぇ」

「雰囲気ですねえ」

 ラクガンとほうじ茶にわら焼きが加わって、五人揃って時空を超えそうと思ったら、館内放送。

『ええ、夕食の準備が整いましたので、宮之森高校の生徒さんは一階の大宴会場までお集まりください』

 万葉の昔から引き戻されて、なんだかおかしくなってクスクス笑いながら、みんなで大宴会場に向かった。


 その夜は、布団を☆形に並べ、いろいろ来し方行く末について話したんだけど、長くなるから、またいずれ。


 明くる三日目は、地図とスタンプカードをもらってグループ単位で周る。それぞれのポイントには先生が立っていて、スタンプを押してくれる。

 移動手段は歩くかバスかタクシー、場所によっては電車という手もある。

 うちのグループは話題になった興福寺から始めて、東大寺、春日大社、志賀直哉旧居とかを周る。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
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  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
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