はるか 真田山学院高校演劇部物語を書き終えて
大橋むつお
☆事の成り行き
モンド社の關さんから、マネージメントを含めた高校演劇の入門書を書いてみないか。と、持ち込まれたのが、もう一作年前である。
この手の「入門書」は、わたしが高校生であった半世紀前から、いろいろあった。しかし、そのことごとくが、テキスト形式の、いわば教科書であり、正直読んで、為にもならないし、楽しくもなかった。
『高校演劇入門』第一章、学校教育における高校演劇の意味。第一節、高校演劇部の経営の、過去と現状。 こんなもの、誰も読みはしない。私自身、この手の本を何冊も読んで、投げ出したことが何度もある。
そう、本の大事なところは「読んで楽しいことである」 故井上ひさしさんが、事あるごとに言っていた。
「むつかしいことは、面白く。面白いことは、より深く」
で、おもしろい入門書を書いてみようと思った 。
☆おもしろい入門書
人間が読んで、おもしろいものは人間のことである。いわば世間話。
なんとかさんが、彼氏ができた。ふられちゃった。あの先生嫌いだ。駅前においしいタコ焼きやができた。今度どこそこのクラブに入った一年の女子が可愛い。今年の顧問なんかやだ。クラブもしたいけど、バイトもしたい。ええ、あんたとこ時給800円もあるの! こんど成績下がったら、クラブ辞めろって言われた。あの子とは、いっしょにクラブしたくない。
などなど、高校生活の日常は、ささいなことの積み重なりである。
この、ささいなことを積み重ねて、たいそうおもしろいものに書き上げたのが小説。それも近頃は「ライトノベル」である。
「ラノベ」の定義はむつかしいが、大昔の言い方では「ジュニア小説」ということになる。
古くは、二葉亭四迷……ここまで古いと、わけが分からない。筒井康隆の「時をかける少女」 小松左京の「日本沈没」 氷室冴子の「なんとすてきにジャパネスク」 赤川次郎の「三毛猫ホームズシリーズ」などなど。授業中読んでは、先生から注意され。先生になってからは、授業中に隠れて読んでいるのを没収したりした。
で、いっそう、その小説。ラノベの様式で書いてみようと思った。
☆部活とは人間ドラマ
不安と期待で、高校に入学。、ちょっとした出来心、あるいは、入学時の硬い決心でクラブに入る。そして三年間、クラブをやりとげるもの。途中で脱落するもの。様々である。
特に演劇部はマイナーなクラブで、近年入部者が減り、中には、クラブそのものが無くなってしまったところもある。
で、そこに到までには、これまた、様々な人間ドラマがある。
わたしは、55歳で教師を辞めてから、それまでの演劇部指導をもとに、真田山学院高校という架空の公立高校の、あまりパッとしない演劇部を設定した。
そこに、坂東はるかという東京からの転校生を入れてみるところから話しを始めた。
演劇の中心になるのは、やる側としては、戯曲と役者である。これが、おもしろいか、上手くいくかでクラブが決まる。で、その評価は、コンクールで決まる。
東京と大阪の文化というか、風俗の違いから、高校生が持っている、進路やバイト、カレやカノジョの問題なども折り込みながら、話しを進めた。
役者が伸びるのには、役者個人の人間的成長抜きでは語れない。坂東はるかという転校生は、親の離婚がもとで、意に反して大阪にやってきた。大人びたふりをして親の離婚を受け入れ、自分なりに新しい環境に馴染もうと努力する。
表面的には、成り行きで入った演劇部。自分が変わった象徴としてのゲンチャリでのツーリング。しかし、ある日、ハサミでちょん切られたように無くなった家族、東京での生活などは、簡単な思い切りで切り替えられるようなものではない。
半年にわたる、はるかの転校生活を通して、コンクールという演劇部の目標に向かって変わっていく、集団としての演劇部。その中で、泣き笑いしながら、自分の有りように気づく主人公はるかののドラマ。
単に、女子高生のドタバタ青春小説と読んでもらってもいいし、読者が演劇部であれば、クラブの基礎練習から、日常のマネジメントまで分かるようにかきあげた。
出版社の都合で、本になるのは遅れているが、その2年間のうちに、かなりの改稿ができた。
最初は「ホンワカ女子高生HBが本格的に演劇部にとりくむまで」という長ったらしい名前であったが「女子高生HB」に、そして「イニシエーション」そして今回「はるか 真田山学院高校演劇部物語」と改題した。最初のはナガッタラシク、「もしドラ」のモジリともうけとめかねられない。二番目のタイトルは、検索すると、ちょっと恥ずかしくなるようなものが、いっしょに出てくる。実際このタイトルで検索した高校生が「おまえ、なんちゅうサイト観てんねん!」と誤解されたこともある。
で、「イニシエーション」と改題した。「イニシエーション」の意味は、読んでいただければ分かる。
今回、姉妹作である『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の出版にあたり、タイトル変更一部改稿した。決定稿のつもりでいるが、どうなることだろう。
ひょっとしたら、もう一化けするかもしれない。
☆この作品の姉妹版
作中にも出てくるが、はるかは東京の高校を中退して、大阪のY高校にやってきた。東京には三軒隣りに「まどか」という、一つ年下の幼なじみがいる。はるかに憧れて、はるかと同じ「乃木坂学院高校」に入学、ここは都内でも有数な名門演劇部がある。「真田山学院高校演劇部物語」とは真逆な名門演劇部が壊滅し、一から立て直す物語である。この二作で、演劇部のありようが分かる。そして、なにより、揺らめきながらも、完全燃焼に向かって、こけつまろびつする青春が描かれている。両方合わせてお読みいただければ幸いである。
大橋むつお
☆事の成り行き
モンド社の關さんから、マネージメントを含めた高校演劇の入門書を書いてみないか。と、持ち込まれたのが、もう一作年前である。
この手の「入門書」は、わたしが高校生であった半世紀前から、いろいろあった。しかし、そのことごとくが、テキスト形式の、いわば教科書であり、正直読んで、為にもならないし、楽しくもなかった。
『高校演劇入門』第一章、学校教育における高校演劇の意味。第一節、高校演劇部の経営の、過去と現状。 こんなもの、誰も読みはしない。私自身、この手の本を何冊も読んで、投げ出したことが何度もある。
そう、本の大事なところは「読んで楽しいことである」 故井上ひさしさんが、事あるごとに言っていた。
「むつかしいことは、面白く。面白いことは、より深く」
で、おもしろい入門書を書いてみようと思った 。
☆おもしろい入門書
人間が読んで、おもしろいものは人間のことである。いわば世間話。
なんとかさんが、彼氏ができた。ふられちゃった。あの先生嫌いだ。駅前においしいタコ焼きやができた。今度どこそこのクラブに入った一年の女子が可愛い。今年の顧問なんかやだ。クラブもしたいけど、バイトもしたい。ええ、あんたとこ時給800円もあるの! こんど成績下がったら、クラブ辞めろって言われた。あの子とは、いっしょにクラブしたくない。
などなど、高校生活の日常は、ささいなことの積み重なりである。
この、ささいなことを積み重ねて、たいそうおもしろいものに書き上げたのが小説。それも近頃は「ライトノベル」である。
「ラノベ」の定義はむつかしいが、大昔の言い方では「ジュニア小説」ということになる。
古くは、二葉亭四迷……ここまで古いと、わけが分からない。筒井康隆の「時をかける少女」 小松左京の「日本沈没」 氷室冴子の「なんとすてきにジャパネスク」 赤川次郎の「三毛猫ホームズシリーズ」などなど。授業中読んでは、先生から注意され。先生になってからは、授業中に隠れて読んでいるのを没収したりした。
で、いっそう、その小説。ラノベの様式で書いてみようと思った。
☆部活とは人間ドラマ
不安と期待で、高校に入学。、ちょっとした出来心、あるいは、入学時の硬い決心でクラブに入る。そして三年間、クラブをやりとげるもの。途中で脱落するもの。様々である。
特に演劇部はマイナーなクラブで、近年入部者が減り、中には、クラブそのものが無くなってしまったところもある。
で、そこに到までには、これまた、様々な人間ドラマがある。
わたしは、55歳で教師を辞めてから、それまでの演劇部指導をもとに、真田山学院高校という架空の公立高校の、あまりパッとしない演劇部を設定した。
そこに、坂東はるかという東京からの転校生を入れてみるところから話しを始めた。
演劇の中心になるのは、やる側としては、戯曲と役者である。これが、おもしろいか、上手くいくかでクラブが決まる。で、その評価は、コンクールで決まる。
東京と大阪の文化というか、風俗の違いから、高校生が持っている、進路やバイト、カレやカノジョの問題なども折り込みながら、話しを進めた。
役者が伸びるのには、役者個人の人間的成長抜きでは語れない。坂東はるかという転校生は、親の離婚がもとで、意に反して大阪にやってきた。大人びたふりをして親の離婚を受け入れ、自分なりに新しい環境に馴染もうと努力する。
表面的には、成り行きで入った演劇部。自分が変わった象徴としてのゲンチャリでのツーリング。しかし、ある日、ハサミでちょん切られたように無くなった家族、東京での生活などは、簡単な思い切りで切り替えられるようなものではない。
半年にわたる、はるかの転校生活を通して、コンクールという演劇部の目標に向かって変わっていく、集団としての演劇部。その中で、泣き笑いしながら、自分の有りように気づく主人公はるかののドラマ。
単に、女子高生のドタバタ青春小説と読んでもらってもいいし、読者が演劇部であれば、クラブの基礎練習から、日常のマネジメントまで分かるようにかきあげた。
出版社の都合で、本になるのは遅れているが、その2年間のうちに、かなりの改稿ができた。
最初は「ホンワカ女子高生HBが本格的に演劇部にとりくむまで」という長ったらしい名前であったが「女子高生HB」に、そして「イニシエーション」そして今回「はるか 真田山学院高校演劇部物語」と改題した。最初のはナガッタラシク、「もしドラ」のモジリともうけとめかねられない。二番目のタイトルは、検索すると、ちょっと恥ずかしくなるようなものが、いっしょに出てくる。実際このタイトルで検索した高校生が「おまえ、なんちゅうサイト観てんねん!」と誤解されたこともある。
で、「イニシエーション」と改題した。「イニシエーション」の意味は、読んでいただければ分かる。
今回、姉妹作である『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の出版にあたり、タイトル変更一部改稿した。決定稿のつもりでいるが、どうなることだろう。
ひょっとしたら、もう一化けするかもしれない。
☆この作品の姉妹版
作中にも出てくるが、はるかは東京の高校を中退して、大阪のY高校にやってきた。東京には三軒隣りに「まどか」という、一つ年下の幼なじみがいる。はるかに憧れて、はるかと同じ「乃木坂学院高校」に入学、ここは都内でも有数な名門演劇部がある。「真田山学院高校演劇部物語」とは真逆な名門演劇部が壊滅し、一から立て直す物語である。この二作で、演劇部のありようが分かる。そして、なにより、揺らめきながらも、完全燃焼に向かって、こけつまろびつする青春が描かれている。両方合わせてお読みいただければ幸いである。