大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

タキさんの押しつけ映画評『今更踊る4/I am No.4』

2012-10-14 13:40:05 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『今更踊る4/I am No.4』


これは悪友の映画評論家、滝川浩一クンが個人的に流している映画評ですが、おもしろいので、本人の了解を得て転載したものです。


☆踊る大捜査線4
昨日、今更ながら見て来ました。本作を見て 「良かった」 「感動した」……当然いらっしゃるでしょう。全くOKです、理解できます…そういう方々、以下を読むと気分が悪くなります。ここで このメールを消去しちゃって下さい。

 さぁて、何なんやろねぇこんな映画を平気で公開出来る神経が解らん。CX系の仕事に触れる時、その昔「夢工場」ってぇイベントに行って感じた怒りがふつふつと蘇る…中途半端、ごまかし、騙し、引っ掛け……お台場のビル 爆破したろかい〓〓
 大体「踊る~シリーズ」は テレビ番組は まだ面白く見れたが劇場版はイマイチ(違う?) 3作目なんざ単なる同窓会だし、こんなもんテレビ特番で十分、それをCMで騙して強引に商売にしちまう根性が気に入らない〓
 今作も青島が倒れるシーンに銃声を重ねて予告を流した。ひでぇ騙しで 全く関係ない〓
 画面に本筋とは全く関係ない小ネタ、小芝居が入るのはいつもの事ながら、本作は過剰、しつこすぎてイラつく、早い話が邪魔。芝居だけならまだしも小道具にも仕込み多数…煩わしいにもほどがある。
 この流れの行き着く先がFinalと銘打ちながら 後1本位は作れる含みに成っている。 警察庁の長官・次官の首が飛んでシリーズの締めに成るのだが、この辺のテリングは弘兼健治の「課長 島耕作」のパクリじゃないか、脚本の君塚もCX御一統さん、さもありなん。警察庁No.1と2の首を飛ばすなら製作・亀山と監督・本広の首も飛ばせば良い…ちゅうかCXが飛べよ!
 最大譲歩して、亀山・本広は1年かそこら一切の仕事から手を引いて休めよ。脚本・君塚も含めて この三人にまともな作品は一つも無い、織田裕二はさっさとこのトリオから離れた方が良い、今後のキャリアを考えたら そうする事は絶対必要。CXも「騙してでも客を集めれば勝ち」ってぇ体質を改めなければ またいつぞやみたいに落ち込んでしまうぞ〓〓〓

☆I AM No.4
 wowowでやっていたので事はついでと見てしまった。
 善玉宇宙人が地球に居て、悪玉宇宙人に追い掛けられているという…まぁよう有りがちな話、例に拠ってアメリカの田舎町が舞台、なぁんも新しい仕込み無し、それでいてラストはシリーズ化したいスケベ心むきむき。まぁアメリカで大ズッコケしているし 日本でも殆ど無視されたので、よもや続編は無いとおもいますがね。プロデューサーは「トランス・フォーマー」のマイケル・ベイ、この人こんなんしかよう作らん。さすがに阿呆のガキヤンキーもそこまでは踊らんかったようでありますなぁ。ええとこテレフィーチャーならどないかなったかもしれんが、新人使ってこのストーリーでヒットさせようなんざ…なんぼ「トランス・フォーマー」を当てたからって 舐めすぎとりまんなぁ。
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高校ライトノベル・セレクト№23『はるかの総決算』

2012-10-14 08:29:56 | 小説
ライトノベル・セレクト№23
『はるかの総決算』
    



「え、ウソ……ウソでしょ……!?」
 わたしは、ケータイを握りしめたまま、絶句した。


 本選では出場校十三校の内、上位三校が近畿大会に出場できる。
 その確率四分の一の中から我が真田山学院は漏れた。

 タマちゃん先輩は、要領よく講評の中味をメールにまとめていてくれていた。
 落ちた理由は以下の二点である。
――作品に血が通っていない。
――行動原理、思考回路が高校生のそれではない。
 死亡診断書のように、簡潔で、意味不明である。

 明くる日のクラブ。
 葬儀の後かたづけのように道具を整理し、クラブの合評会になった。
 だれも、何も語らない。
「他に、なにをいわれたんですか!?」
 じれたわたしの声は、いささかトゲを含んでいた。栄恵ちゃんはビクっとした。
「……よかったら聞かせて下さい」
 柔らかく言い直した。
「上手くて、安心して聞いていられる……しかし世界が二人のためにしか存在しないような窮屈さ、どうしても血が通っていないように感じる。もしかしたら思考回路や行動原理が、高校生のそれではない……」
タロくん先輩が、電車事故のお詫びのような沈鬱さで、メモを読み上げた。
「どこをもって、血が通っていないと言われたんですか! 何をもって、行動原理や思考回路が高校生じゃないっていうんですか! 具体的な指摘はなかったんですか!?」
「それは……」
 先輩は黙り込んでしまった。
「タロくん責めても、しゃあないよ……」
 乙女先生がつぶやくようにたしなめた。
「で、何も言い返さないで帰ってきたんですか!?」
「審査の講評いうのはそういうもんやねん……」
 わたしの詰問口調に、珍しく、乙女先生は声を落とした。
「大橋先生は、知ってるんですか、このこと?」
「わたしが電話しといた」
「で、先生は?」
「はるかと同じようなこと言うてた。ただ、あんたらをミスリードしたらあかん言うて、今日は席外してはる」
 ドスン、ガタン……積み方の悪かった道具が準備室で転がり落ちる音がした。

 合評会が終わったあと、わたしはベンチに座りグー像を見つめていた。
 山中先輩が横に座ってこう言った。
「ジャンルはちがうけど、少林寺は誤審でも、クレームは言わへんもんやねん」
「演劇は違うと思います。審査基準からずれていたら、抗議……せめて質問ぐらいはしていいと思います」
「そやろね……ごめん。つい少林寺の感覚でダンマリになってしもた」
「そんな、先輩があやまるようなことじゃないですよ……」
 そこに、由香と吉川先輩から連名のメール。
「あの二人もなにか言ってきたの、このことについて?」
「いいえ、もっと厄介なことです」
「え?」


 というわけで、わたしはその日の夕方、地下鉄南森町の一番出口の前に佇んでいた。
 NOZOKMIプロの白羽さんが、イベントの準備のため大阪に来ているので、
「今日、お会いしなさい!」という、あのカップルからのメール。
 せめて、大人の人に立ち会ってもらいたかったので、自然なカタチがいいだろうと志忠屋と決まった。
 で、わたしが地下鉄の出口で、白羽さんをお迎え申し上げているわけ。
 分かりやすいように、例の紙ヒコ-キのシュシュでポニーテールにしてある。

「やあ、はるかさん」
 思いがけず、後ろから声をかけられた。

「いやあ、このあたりはわたしの青春の思い出の場所でもありましてね。ちょっと散歩してました」
 志忠屋の窓辺の席で、おしぼりで顔を拭きながら白羽さんが言った。
 大手プロダクションの、やり手プロディユーサーとは思えない気さくさだ。
「若いころ、修行のために大阪の支社にまわされましてね、初めて営業にまわされたのが天六の商店街のレコ-ド屋さん、五件でした。今はもう二件に減っていましたね……いやあ、つまらん思い出話をするところだった。はるかさんはそのシュシュとポニーテールですぐに分かりました。目印にしてくれたんですね」
「はい、こうでもしないとごく普通の高校生で見分けがつかないだろうと思いまして」
「いやあ、あなたのことはDVDで二度見せていただきました。ついこないだの本選の分も。いちだんと成長しましたね」
「いえ、とんでもない。ただ感じたまま演っただけです」
「それでいいんです『おわかれだけど、さよならじゃない』とか、飛行機に対する怯えが本物になっていましたよ。作品も好きですね。戦争や、生き甲斐、夢というものが生な押しつけじゃない。二人の少女の友情の発展の中で、自然にふれられているのが大変けっこうでした」
「わたしもそう思います。カオルとは五ヶ月のつき合いですけど、もうほとんどわたし自身の人生みたいになりました」
「はるかさん自身の、体験と重なってるんじゃないですか。新大阪の写真、そう感じました」
「え、ええ……まあ」指摘は、やっぱり鋭い。
「これは失礼、あまり個人的な事情に立ち入っちゃいけない。あ、オーダーがまだだ。マスター、グラスワイン白で、あと適当にみつくろってください。はるかさんもなにか」
「あ、すみません。じゃ、タキさんいつもの」
「はい、まいど」
「ほう、はるかさん常連なんだ」
 そこで、おすまししているのが母だとは言えなかった。

「なかなか味のある店ですね、壁のサインいいですね。仰々しく写真や色紙でないところがいい……ほう、うちの事務所のもありますなあ」
「白羽さんも、よかったらどないですか?」
「いいんですか」
「どうぞどうぞ」
 おかあさんが、油性ペンのセットを渡した。

「ハハ、やっぱり、壁というとこれになりますなあ」
 白羽さんのそれは、ヘノヘノモヘジ。その横に控えめなサインと日付。
「はるかさんのサインもいつか並ぶといいですね」
 さりげなく、そういう話題にもってきたか……。
「だって、これ、みんなプロのアーティストですよ。わたしなんか……」
「まだスペースは空いてる、書いてもかめへんで」
 油性ペンを渡された。
「うーん……卒業するときに書きにきます。今は、まだ夢も思い出も生で中途半端」
「はるか……」
 お母さんが、少し当惑したようにつぶやいた。
「ただの卒業記念だからね」
 油性ペンを返した。
「そのときには、進路も決まってるやろけどな」
「平凡な、女子大生か、OLさんかもよ」
「じゃ、わたしの横。空けといてもらえますか」
 白羽さんがニッコリ言った。
「はい、リザーブさせてもろときます」

「先に野暮用を……」
 白羽さんは、わたしの顔を正面から見て、にこやかにこう続けた。
「この職業の性だと、許してください。はるかさん、あなたを女優として育てたい」
 タキさんと、お母さんが一瞬フリ-ズした。

「わたし、高校演劇がやりたいんです」

 ストレートな答えになってしまった。失礼だったかなあ……。
「いや、それでいいんです」
 白羽さんは、ゆっくりとワインを口にした。
「すみません、生意気な物言いで」
「いや、わたしも気が短くて、いかん。はるかさんは、しっかり高校生をやってください。ただ、早く言っとかないと、よそに取られそうな気がしましてね。わたし久々にときめいております」
 そうして白羽さんは続けた。
「近頃の高校生は、マスコミで作られた高校生のイメージに自分をはめ込みすぎている。マスコミも、それを今の高校生と思いこんでいる。滑稽な話です。もっとオリジナルで、自由な高校生の姿があるはずです。はるかさんにはそれがありそうだ。たとえうちにきていただけなくとも、素敵な高校生活を送ってください」
 あとは、学校での他愛ない話をして、白羽さんはそれをニコニコ聞いて、ときどきメモをとって……それで、おしまい。
「また、会ってくださいね。ボクは諦めませんから。かまいませんか、お母さん?」
「え、あ、はい……!」
 お母さんは気を付けをした。
 白羽さんは、お見通しのようだった。


 明くる十二月の半ばに、コンクール本選の合評会がひらかれた。
 駅前の焼鳥屋さんのいい匂いを嗅ぎながら、会場のR高校についた。
 有数の私学だけあって、五階建ての立派な校舎がドデンとあった。
「昔は、蔦の絡まる、おもむきのある校舎やってんけどなあ」
 と、大橋先生は感慨深げ。

 会場は、これが視聴覚教室かと、ぶったまげるほど立派な劇場であった。
 さすがは演劇部が売りのR高校だ。

 合評会は、時間になっても、まだ到着しない学校があって少し遅れた。
 受付でもらったレジメを読んだ……頭に血がのぼった。
 審査員のコメントから、真田山を落としたポイントが完全に抜けていた。

 作品に血が通っていない。行動原理、思考回路が高校生ではない……どこを探してもない。

 それどころか、最後にはゴシック体で、こう書いてあった。
――審査の帰り道、電車の中でフト思った。真田山学院高校にもなんらかの賞をあげるべきだったかな……と。
 さらに冷静に読むと、学校によってコメントの長さに大きな開きがある。
 短い学校は五行ほど、長い学校は二ページ近くある。生徒のわたしが見ても「イチジルシク教育的配慮」に欠けていた。
 横に座っている先生の表情が硬い。コンニャクが石になったみたい。
 こんな、おっかない顔の先生は初めてだ。

 十五分遅れて合評会がはじまった。
 出場校の全員が舞台にあがって自己紹介。司会はイケメンの実行委員の男の子。
 二校目で「あれ?」と思った。
 批判が一つも出ない。
「おつかれさま、とてもよかったです。衣装がとてもきれいでしたけど、どうやって作ったんですか?」
 などと、芝居の中味に触れた質問や批判などが、まるで出ない。
 国会の与党の質問でも、もっと鋭い。チョウチン発言ばかり。
 質問が無いと、あらかじめ用意されていた(なんたって、カンペ見てたもん)賞賛の言葉が、質問という形式で発せられる。

 いよいよ真田山の番だ。わたしたちは舞台に上がった。
 二つほどチョウチン質問があったあと、ちょっと間があって、大橋先生が手を上げた。

「真田山学院に対する、審査員の方のコメントが、審査発表のときのそれと著しく異なります。曰く、作品に血が通っていない。曰く、行動原理や思考回路が高校生ではない。きれいに抜け落ちています。この方の評はネットに載っていましたので、トラックバックで質問したところばかりです」
 先生もやるう……。
 会場のみんながページをめくる音がした。わたしは、自分の顔が険しくなっていくのを隠しながら舞台を下りた。
「もう一点。この浪速高校演劇連盟のコンクールは百二校が参加し、そのうち既成作品は実質五校しかありません。著しく創作に偏っています。本選だけを例にとっても……」
 先生が、あとを続けようとすると……。
「ここは先生の演説の場とちがいます。他にも発言したい生徒がいます。もうやめてください」
 会場校の先生が言った。大橋先生は、一呼吸してこう言った。
「諸君、もっと本を読んでください。創作は否定はしない、しかし本を読んで勉強してからにしてほしい」
「大橋先生!」
 と、R高の先生。
「もう一点。審査基準を持ってください。以上……」
 会場が、静かにどよめいた。
「審査基準なかったんか」
 などと、ささやく声もした。
「えー、ほかに質問のある人はいませんか……いませんか……じゃ、そこの人。学校名とお名前言うてください。
 そこで初めて、自分が手をあげたことに気がついた。
「真田山学院高校の坂東はるかです(深呼吸をしたが、もう止まらない)さっき発言された先生が国語の先生でないと信じます。国語の先生なら合評会の意味をご存じないわけがないからです」
 R高の先生の刺すような視線を感じた。血が頭の中で沸騰した。
「合評会とは、たがいに批評しあう場と、広辞苑にも載っています。そして批評とは、物事の善し悪しを評価し論じ合うこととあります。さっき大橋先生が言われたことは、わたしも思っていたことです。だから答えてください。それから大橋先生はこうおっしゃいました。審査基準を持ってくださいって……審査基準、無いんですか、ほんとうに?」
「それは、君なあ……!」

 R高の先生が、わたしを指さした。
 売られたケンカなら買ってやる! わたしはR高の先生とにらみ合った。


「はるか、やめとけ!」


「すみませんでした……」
 R高の校門を出ると、雪がちらついていた。
「なにが、すまんねん」
「真田山の顔をつぶすとこでした……」
 わたしはヘコんでいた。
「あのなあ……」
 いつものコンニャク顔で、ため息のように先生。
 他のみんなは、少し先を歩いている。タロくん先輩が、今日来られなかった乙女先生にケータイで報告している。みんなにも迷惑をかけた……。

「R高のあの先生な、教科は国語や。ほんでから……R高の生徒には神さまやねんで」
「え……」
「はるからにとっての乙女先生……いや、それ以上やろなあ」
「それって……」
「分からんか……あの子らの前で、あの先生のことボコボコになんかでけへん」
「先生……でも、わたし、くやしい……」
「これが、今の高校演劇や。それでくやしいだけやったら、演劇部なんかやめときぃ」
「わたし、『すみれ』は、『すみれ』のカオルはわたし自身だったんです。東京から、この五月に越してきて、いろんなことがあって……そのエモーションみたいなものが、あのカオルの中には全部入っているんです」
「そやけど、観てる人には、数ある芝居の一つや。ほんで、本選のあの舞台観てくれた人には確実に伝わった。それで今度の審査をええとは言わん。予選の審査員の人らはリベラルやったけど、本選の審査員は傾向をもっとる。高校演劇は、そう言う点ではアナーキーになってしもてる。けど、これが現実や。これが……出発点やと思う。そう了見せえ」
「でも先生……」

 そのとき、チラホラだった雪が一瞬吹雪のようになった。

「真田山の『すみれ』とってもすてきでしたよ」

 セーラー服の女の子が、追い越し際にきれいな東京弁でそう言った。
 電柱一本分行ったところで、その子は振り返って手を振った。

――さようなら……と、言ったような気がした。

「マ、マサカドさん……待って、待って、マサカドさん……!」
 わたしは、雪の中追いかけた。

 雪は、もとのチラホラにもどった。

 あの笑顔が最後のメッセージのような気がした。

「はるかちゃん、どないしたん!?」
 タマちゃん先輩が先頭になって追いかけてきた。
「わたし、わたし……正式に演劇部員になる。ね、いいでしょ先生」

 先生は、懐から、わたしの入部届を出してみんなに示し、みんながうなづくのを待って
「よし」
 そう言って、再び懐にしまった。

 遠く、クリスマスソングが流れていく。
 すっかり早くなった夕暮れ。
 心の中に積もりそうな雪……音もなく、暮れなずんだはるかな空から降ってくる。

 わたしたち真田山演劇部の一団のところにだけ……。
 ポッとやわらかくライトが当たっているような気がした。


エピロ-グ

 あれから一年。
 お父さんと秀美さんに赤ちゃんが生まれた。わたしには妹になります。
 吉川先輩はボストンで、和食の店で働きながら、サックスの勉強をしている。
 この正月には、一時帰国する。
 で、由香はソワソワしている。

 今年のコンクール、本選まで行ったけどやっぱり落ちました。
 乙女先生は不機嫌。
 でも、お客さんには通じた。それで満足です。
 参加校は百校を切ちゃった。
 ようやく、何人かの先生たちが「なんとかせんと」と思い始めたようだ。
 お母さんと、タキさんはあいかわらず二足のわらじ。
 大橋先生は、あの冬でコーチを降りて、売れない本を書いています。
 マサカドさん……あれから、姿を現しません。

 わたしはどうなったかって……。
 それは、志忠屋の壁を見て確かめてください。

 わたしの半年にわたる物語は、総決算です。


『はるか 真田山学院高校演劇部物語』……完


☆……この物語に出てくる団体、登場人物はフィクションです。



【作者情報】《作者名》大橋むつお

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
発売予告!!
 

 10月25日に、青雲書房より発売。

お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天へお願いします。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。

青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp


 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       


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高校ライトノベル・セレクト№22『親の離婚から175日』

2012-10-14 07:51:54 | 小説
ライトノベル・セレクト№22
『親の離婚から175日』
    
 


 親の離婚から175日。もう数えるのはやめ。だって、今日はイナゴ(175)だ。
 いなごの佃煮をお母さんが買ってきた、離婚の一週間前。
 デパートの物産展で、珍しそうだったからって。
 そのイナゴの佃煮を前に、食卓は数秒、こじれた国際会議のような沈黙になった。
 で、数秒後、ヤバイと思って、わたし食べちゃった。

 ガリ、グチュ……あの食感は忘れられない。それから、家族みんなが少しずつ食べた。それを食べれば、とんでもないことを言わずに済むかというように。
 わたしは、もう一生、イナゴの佃煮は食べないだろう。
 だからイナゴの日をきっかけに数えることは止め。

『第六十一回浪速高等学校演劇研究大会』
 看板がまぶしかった。

 おとつい、リハに来たときは看板もなく、雑然とした中でマイクも使えなくて、スタッフの人や、実行委員の先生や生徒が右往左往。
 本選に出るんだという実感は、当日の今、看板を見てようやく湧いてきた。

 出番は、初日の昼一番。二つ驚いたことがあった。

 朝一番に道具の確認に一ホリの裏側にまわった(会場のLホールは、テレビの実況ができるように奥行きが二十五メートルもある。そこで真ん中のホリゾントを降ろして、後ろ半分を出場校の道具置き場にしている。ちょっとした体育館のフロアー並)
 わたしたちが、ささやかに畳一畳分に道具を収めたときは、まだ半分くらいの学校が搬入を終わっていなかったが、スペースはまだ三分の二くらい余裕で残っていた。
 さすがLホールと思ったのだが……。
 そのときは、溢れんばかりの道具で、担当のスタッフが苦労していた。
 R高校などは、四トントラック二杯分の道具を持ち込んでいた。
 お陰で、わたしたちの道具は奥の奥に追い込まれ、確認するのも一苦労。
 で……ウソ、衣装が無かった!?

「衣装はこっち!」
 道具の山のむこうにタロくん先輩の声。
 実行委員を兼ねている先輩はR高校の搬入を見て、「こら、あかんわ」と思った。
 それで、すぐに必要になる衣装と小道具は、駅前のコインロッカーに入れておいてくれたのだ。さすが大手私鉄合格の舞監である。

 もう一つの驚きは、パンフだった。
 予選からの出場校百二校のプロフィールが書いてある。
 三分の一ほど読んで、「?」と、思った。
 創作脚本ばかりなのである。
 数えてみた。
 なんと出場校百二校中、創作劇が八十七校。
 なんと八十五パーセントが創作劇。
 後日確認すると、卒業生やコーチの作品が十校あり、創作劇の率は九十五パーセント!
 この本選に出てきた学校で既成の脚本はわたしたちのY高校だけ。
 大橋先生は、コーチではあるがれっきとした劇作家である。『すみれ』は八年も前に書かれた本であり、上演実績は十ステージを超えていた。
 タマちゃん先輩が、予選の前に言っていた。
「浪高連のコンクールは、創作劇やないと通らへん」
 ジンクスなんだろうけど(わたしたち予選では一等賞だったもん)この数字は異常だ。

 本番の一時間前までは、他の芝居を観ていいということになった。
 出番は昼の一番なんで、午前中の芝居は全部観られる。

 わたしは、午前の三本とも観た。ナンダコリャだった。
 例のR高校、幕開き三十秒はすごかった。なんと言っても、四トントラック二杯分の大道具。ミテクレは、東京の大手劇団並み。
 しかし、役者がしゃべり始めると、アウト。台詞を歌っている(自分の演技に酔いしれている)ガナリ過ぎ。不必要に大きな動き。人の台詞を聞いていない。
 だいいち、本がドラマになっていない。ほとんど独白の繰り返しで劇的展開がない。
 わたしは、大阪に来て八十本ほど戯曲を読んだ。劇的な構造ぐらいは分かる。

 昼休みは、道具の立て込み(と言っても、平台二個だけ)をあっという間に終えて、お握り一個だけ食べて、静かにその時を待った。
 乙女先生は、台詞だけでも通そうと言った。
「静かに、役の中に入っていけ、鏡でも見てなあ」
 大橋先生の言葉でそうなった。
 わたしは、眉を少し描き足し、念入りにお下げにし、静かにカオルになっていった……。


 本ベルが鳴って、お決まりのアナウンス。
 客電がおちて、山中先輩のギターでうららかな春の空気が満ちてきた。
 そして、タロくん先輩のキューで幕が上がった……。
 肌で感じた。観客の人たちと呼吸がいっしょになり、劇場全体が『すみれ』の世界になっていく。
 スミレの宝塚風の歌は、いっそうの磨きがかかって、大拍手。進一に進路のことを言われたときは、本気でむくれているみたいだった。

 アラブの戦争が始まり、上空をアメリカ軍の飛行機が飛んでいく。
 ついこないだの、マサカドさんとの体験が蘇り、恐怖が湧いてくる。そして、カオルとしてしみじみと語る十七年間の人生、宝塚への夢。
 その夢を無惨に打ち砕かれた、あの夜の空襲……そして互いの生き方への理解と共感が自然にやってきた。
友情と共感の象徴として、でも、互いにそうとは気づかずに、無邪気に紙ヒコーキを折って、新川の土手に……。
「いくよ。いち、に、さん!」
 紙ヒコーキを飛ばす。
「すごい、あんなに遠くまで……!」
 荒川での視界没と重なる感動。そして透けていく身体……。

「おわかれだけど、さよならじゃない」
 新大阪の思い出が予選のときよりも強く蘇ってくる。
「わたし、川の中で消えていく……そうしたら海に流れて、いつか雨か風になってもどってこられるかもしれないから……」
「カオルちゃん……!」
 スミレの渾身の叫び……。
 そして、ここで初めて種明かし。
 消え去る直前に、カオルはゴ-ストジャンボ宝くじの一等賞に当選!
 賞品は、新たな人間としての生まれ変わり!
「これで、また、宝塚を受けることができるじゃない!」
 そして、もうひとつどんでん返しがあって。人間賛歌のフィナーレ!
 満場の手拍子、予選とちがって裏拍。予選以上に観客のみなさんが共感して、手拍子は満場の拍手にかわった!

 楽屋にもどって、びっくりした。
 たくさんの人たちが、楽屋、そしてその前の廊下に溢れていた。
 真由さんに、仲鉄工のおじさん。「Z情報」の伯父さん……そして、お父さんと秀美さん。タキさんにトコさん。竹内先生に亜美と綾まで……由香と吉川先輩は、ちゃっかりと、楽屋の奥でお弁当を広げていた。
 そうだ、わたしってば、メールを一斉送信にしたんだ!

 こうやって、午後の二本は見損ねてしまった。
 時間を決めて、その夜は有志の者が(けっきょくほとんど全員になっちゃったけど)志忠屋に集まって、気の早い祝賀会になった。
 わたしも、仲間も、これはいけると手応えを感じていた。栄恵ちゃんなど、
「近畿大会は、土曜にしてくださいね。わたし日曜は検定やから」
 で、これを皮切りに、お父さんとかまで、それぞれに都合を言い立てた。
 出演するのは、わたしたちなんだけどね……タマちゃん先輩と目配せをした。


 二日目の芝居は全部観た。
 正直、ドラマになっているものは一つもない。
 想像妊娠や、引きこもり、新型インフルエンザの流行の悲喜劇、親子の断絶。アイデアというかモチーフは様々だが、人物描写が類型的。
 ドラマとは、人の対立と葛藤があり、互いに関係しあって、最後には人間に変化があるもの。この五ヶ月で、わたしが学んだドラマの基本である。
 みんな、そこを踏み外している。ただ刹那的なギャグや、スラプスティック(ドタバタのギャグ)、劇的な台詞が、なにも絡むこともなく、散りばめられているだけ。

 最後の芝居の半ばごろ、頭が痛くなってきた。なんとか見終わって、ロビーに出た。
「はるか、大丈夫?」
 乙女先生が心配げに顔をのぞき込む。
「ちょっと芝居あたりしたみたいです。大丈夫、すぐによくなりますから」
 ロビーのソファーに座り込んだ。
 昨日、今日の二日間で観た芝居や、『すみれ』が、頭の中でグルグル回っている。
「はるか、芝居も終わったこっちゃし、いっしょに先帰ろか」
「講評とか聞きたいんです……」
「わたしが、代わりに聞いといたるから。な、そないし」
「さ、いくぞ」
 早手回しに、栄恵ちゃんが、わたしのバッグを持ってきた。
「大丈夫ですよ。いい結果、家で待っててください」
 その笑顔に押されるようにして、わたしは、大橋先生と家路についた……。
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高校ライトノベル・セレクト№21『親の離婚から168日』

2012-10-14 06:59:01 | 小説
ライトノベル・セレクト№21
『親の離婚から168日』
   


 親の離婚から、168日目。ゴロ合わせでイロハ。
 そのイロハの日に停学があけた。
 
 細川先生は、ちょっと不満げな顔をしていた。
 乙女先生は、大喜び。
「さあ、本番は明後日や、きばっていかなあかんで!」

 一回通しただけで勘がもどってきた。
「はるか。なんや、らしなってきたな。停学になって、よかったんちゃうか」
 と、大橋先生。みんなが笑った。
「アハハ」
 わたしも笑ったが、マサカドさんとやったとは言えない。
「しかし、コンクールはシビアや、腹くくっていきや」
 と、乙女先生はくぎを刺す。

 本番の一時間前には控え室で衣装に着替え、スタッフ(といっても、音響の栄恵ちゃんとギターの山中先輩。そして照明の乙女先生)との最終チェックを兼ねて、台詞だけで一本通した。
 大橋先生は、お気楽に観客席で、お母さんといっしょ(NHKの子ども番組みたい)に観劇しておられました。

 本ベルが鳴って、客電がおちる。
――ただ今より、Y高校演劇部によります、大橋むつお作『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』を上演いたします。なお、携帯電話など……と、場内アナウンス。
一呼吸おいて、山中先輩にピンがシュートされたんだろう、うららかなギターが、舞台袖まで聞こえてきた。
 そして十五秒、舞監のタロくん先輩のキューで、緞帳が十二秒きっちりかけて上がった。

 あとは夢の中だった。
 舞台に立っているうちは、演じている自分。それを冷静に見つめ、コントロールしている自分がいたはずなんだけど。
 あとで思い出すと、マサカドさんから受け止めたものがヒョイとカオルの気持ちとなって蘇ってきていた。
 わたしは、あの時間、カオルとして生きていた。
 新しく増えて六曲になった歌。自然な気持ちの昇華したエモーションとして唄うことができた。
『おわかれだけど、さよならじゃない』ここは、新大阪でのお父さんとの別れ。それが蘇り、辛いけど爽やかな心で唄えた。
 そして観客の人たちの拍手。
 全てが夢の中。

 そして、講評と審査結果の発表。

 個人演技賞が三つ。わたしは、それでもいいと思った。精いっぱいやったんだから。

 そして最優秀、つまり一等賞の発表。
 わたしは、上の空だった。由香との約束がある。これが終わったら、白羽さんに会わなきゃならない。
 正直、気が重い……たそがれがかっていた。

 と、そこにどよめきと拍手……。
 二拍ほど遅れて分かった。

 最優秀賞、Y高校『すみれの花さくころ』
 ……感動がサワサワとやってきた。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第21章』より
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