大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・序章』

2012-10-26 20:38:57 | 小説
まどか 
乃木坂学院高校演劇部物語
    

主人公まどかの冒険とともに演劇の基礎と、マネージメントが分かるノベライズドテキスト(『はるか 真田山学院高校演劇部物語』姉妹版)

大橋むつお

この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。

『序章 事故』
 ドンガラガッシャン、ガッシャーン……!!

 タソガレ色の枯れ葉を盛大に巻き上げ大道具は転げ落ちた。一瞬みんながフリ-ズした。
「あっ!」
 講堂「乃木坂ホール」の外。中庭側十三段の外階段を転げ落ちた大道具の下から、三色のミサンガを付けた形のいい手がはみ出ていた。
「潤香先輩!」
 わたしは思わず駆け寄って、大道具を持ち上げようとした。頑丈に作った大道具はビクともしない。
「何やってんの、みんな手伝って!」
 フリ-ズの解けたみんなが寄って、大道具をどけはじめた。
「潤香!」
「潤香先輩!」
 皆が呼びかけているうちに、事態に気づいたマリ先生が、階段を飛び降りてきた。
「潤香……だめ、息をしていない!」
 マリ先生は、素早く潤香先輩の気道を確保すると人工呼吸を始めた。
「救急車呼びましょうか!」
「早く」
 マリ先生は冷静に応え、弾かれたように、わたしは中庭の隅に行きスマホをとりだした。
 一瞬、階段の上で、ただ一人フリ-ズが解けずに震えている道具係りの夏鈴の姿が見えた……乃木坂の夕陽が、これから起こる半年に渡るドラマを暗示するかのように、この「事件」を照らし出していた。


 ロビーの時計が八時を指した。わたしの他には、道具係の夏鈴と、舞監助手の里沙しか残っていなかった。あまり大勢の部員がロビーにわだかまっていては、病院の迷惑になると、あとから駆けつけた教頭先生に諭されて、しぶしぶ病院の外に出た。まだ何人かは病院の玄関のアプローチのあたりにいる。わたしと里沙はソファーに腰掛けていたけど、夏鈴は古い自販機横の腰掛けに小さくなっていた……いっしょに道具を運んでいたので責任を感じているのだ。
 時計が八時を指して間もなく、廊下の向こうから、三人分の足音がした。
「なんだ、まだいたのか」
 バーコードの教頭先生の言葉は、ほとんどシカトした。
「潤香先輩、どうなんですか?」
 マリ先生は、許可を得るように教頭先生と、お母さんに目配せをして答えてくれた。
「大丈夫、意識も戻ったし、MRIで検査しても異常なしよ」
「ありがとう、潤香は、父親に似て石頭だから。それに貴崎先生の処置も良かったって、ここの先生も。あの子ったら、意識が戻ったら……ね、先生」
 ハンカチで涙を拭うお母さん。
「なにか言ったんですか、先輩?」
「わたしが、慌てて階段踏み外したんです。夏鈴ちゃんのせいじゃありません……て」
「ホホ、それでね……ああ、思い出してもおかしくって!」
「え……なにがおかしいんですか?」
「あの子ったら、お医者さまの胸ぐらつかんで、『コンクールには出られるんでしょうね!?』って。これも父親譲り。今、うちの主人に電話したら大笑いしてたわよ」
「ま、今夜と明日いっぱいは様子を見るために入院だけどね」
「よ、よかった……」
 里沙がつぶやいた。
「大丈夫よ、怪我には慣れっこの子だから」
 お母さんは、里沙に声をかけた。
「ですね、今年の春だって、自分で怪我をねじ伏せた感じ。あ、今度は夏鈴のミサンガのお陰だって」
 マリ先生は、ちぎれかけたミサンガを見せてくれた。
「……ウワーン!」
 夏鈴が爆発した。夏鈴の爆泣に驚いたように、自販機がブルンと身震いし、いかれかけたコップレッサーを動かしはじめ、すぐに、自販機とのデュオになった、


 一段落ついたので、状況を説明しとくわね。
 わたし、仲まどか。荒川区の南千住にある鉄工所の娘です。
 中三の時に……って、去年のことだけど、近所のはるかちゃん。はるかちゃんは一歳年上なんだけど、幼なじみなんで「はるかちゃん」そのはるかちゃんが入ったのが乃木坂学院高校。去年、その学園祭によばれて演劇部のお芝居を観てマックス大感激! 
「わたしも、この学校に来よう!」と、半分思ったわけ。半分てのは、下町の町工場の娘としてはちょっと敷居が高い……経済的にもブランド的にもね。

 演劇部は、とにかくステキ!
 ドッカーンと、ロックがかかったかと思うと、舞台だけじゃなくて、観客席からも役者が湧いてきた! 中には、観客席の上からロープで降りてくる役者もいて、「怖え~!」と思ったけど、思う間もあらばこそ。集団で、なんか叫びながらキラビヤカナ照明に照らし出され、お台場か横アリのコンサートみたい。ゴ-ジャスな道具に囲まれた舞台で舞い踊り、そこからは夢の中……お芝居は、なんか「レジスト!」って言葉が散りばめられていて、なんともカッコヨク「胸張ってます!」って感じですばらしかった。「レジスト」って言葉には、コンビニのレジしか連想できなかったけど、あとで兄貴に聞いたら「抵抗」って意味だって分かった。
 この時主役を張っていたのが潤香先輩。もう、そのときから「オネーサマ」って感じ。
 で、この時、はるかちゃんは三角巾にエプロン姿で人形焼きを、かいがいしく売っていた。
 演劇部のお芝居のコーフンのまんま、ピロティーに行って、はるかちゃんから売れ残りの人形焼きをもらい、はるかちゃんのご両親といっしょに写メの撮りっこ。
 今思えば、はるかちゃんちの平和は、この頃が最後。今思えば……て、同じ言葉を重ねるのは、わたしに文才がないから……と、わたしの落胆ぶりを現しております。
「明るさは、滅びのシルシであろうか……」
 中三のわたしには分からない言葉を呟きながら、はるかちゃんは三角巾を外した……。
 と、その時!
――ただ今より、乃木祭お開きのメインイベント。ミス乃木坂の発表を行います。ご来場の皆様はピロティーに……と、校内放送。
 三位くらいからの発表かと思ったら、いきなりの一位の発表。その一位がなんと……。
――ジャジャジャーン(ドラム)一年A組、芹沢潤香さん! 
 そう、さっき見たばっかしの潤香先輩!
 ピロティー中から「ウォー!」とどよめき。潤香先輩はいつの間にか、かつて在りし頃の『東京女子校制服図鑑』のベストテン常連の清楚な制服に着替えて、野外ステージに登りつつあった。
 そして、タマゲタのは……。
――準ミス乃木坂は(ドラム)……一年B組の五代はるかさん!
 一瞬ピロティーが静まった……。
「え……」
 本人が一番分かっていなかった。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 

 2012年10月25日に、青雲書房より発売。全21章ですが序章のみ立ち読み公開。
 
お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天へお願いします。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。

青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp  ℡:03-6677-4351


 
 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       
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高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・3『志忠屋亭主驚く!』

2012-10-26 15:04:25 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・3
     『志忠屋亭主驚く!』




「え、うそ……!?」

 そう言ったなり、志忠屋亭主・滝川浩一は沈黙してしまった。

「マスター、鍋ふいてまっせ」
 Kチーフの声で、やっとタキさんは正気にもどった。
 午後三時、志忠屋のアイドルタイム(休憩と、ディナーの準備の時間)で、まかないの正体不明のパスタを食べたあと、タキさんは、FM放送から流れてくるお気に入りの曲とデュオしながらソースを煮込んでいた。
 そこで、バイトのSちゃんが、油断しきった背中に切り込んできたのである。
 と言って、Sちゃんが厨房の包丁を振りかざし、タキさんに斬りつけたわけではない。

 しかし、タキさんにしてみれば、まさに背中を切られたようなショックであった。
 Kチーフは、何事にも動じない、料理人であるが、タキさんは違う。
 喜怒哀楽が、人の十倍ぐらい早く、ハッキリとでてしまう。特に驚いた時は、赤ん坊のように、行動や思考が停止してしまう。
 心理学用語ではゲシュタルト崩壊という。最前線にいる兵士が、水平線の彼方から無数の敵艦隊が現れて呆然とするようなものである。
 映画評論家でもあるタキさんの頭には『THE LONGESTDAY』の映画でノルマンディー要塞を護っていたドイツ軍兵士が、同じような状況で、連合軍の艦隊を発見したシーンが、浮かびっぱなしになった。

「……で、いつから辞めるんのん?」
 やっとタキさんが言葉を発したときには、吹きこぼれていたソースはKチーフの手によって弱火にされ、危うくおシャカになることをまぬがれた。
「……今月いっぱいで」
 Sちゃんの言葉に、タキさんは少し安心した。今月いっぱいなら、まだSちゃんを説得し翻意させることが、できるかもしれない。タキさんはマッチョなわりには口が立つ。若い頃から、高校生集会や、所属していた演劇部の関係で、大阪の高校演劇連盟のコンクールなどで、言葉巧みに論じて、ある年など、審査員に審査のやり直しをさせたぐらいのオトコである。
「あの、マスター……今月いっぱいいうことは、今日でおしまいいうことでっせ」
 ソースの鍋をかき混ぜながら、Kシェフが呟いた。
「え……?」
「そやかて、今日は十一月の二十六日。で、金曜日。Sちゃんのシフトは木金土。明日の土曜は電気工事で臨時休業……」
「……そ、そんな、ま、Sチャン座って、話しよ」
 タキさんは、厨房からカウンターに回り、Sちゃんと並んで座った。

 志忠屋のメニューは旨いものばかりである。値段も、この南森町界隈ではお値頃である。
 しかし、客というのは、必ずしも、美味さ値段だけで来るものではない。バイトのSちゃんMちゃんの魅力でもっている部分がかなりある。だから昼のランチタイムこそ、店の前に十人ぐらいの列が出来ることがあるが、ディナータイムは今イチである。あきらかにSちゃん、Mちゃんの力は大きい。
 静かでおっとりしたSちゃんは、男性女性の両方から人気があった。彼女がオーダーを取って、厨房に声をかけるときに、半身に体をひねったときに、エモ言えぬ可憐さがあった。また、彼女の「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」は、語尾をのばしたところに長閑さがあり。この声だけで癒されるという客がいるほどであった。花に例えれば、コスモスの花束のような子であった。
 Mちゃんは、逆に向日葵のように明るく、その明るさも店の規模に合ったもので、例えれば、ちょうど程よい花瓶に、小ぶりの向日葵が生けてあるようであった。花あってこその花瓶。SちゃんMちゃんのいない志忠屋は、いわば、花が生けられていない花瓶のようなものである。
 それにタキさんは、Sちゃんに初恋の女性の面影を重ねている。それはKシェフでさえ気づかないことであるが、四十年近い付き合いのわたしにはよく分かった。
 初めてSちゃんを店で見かけたとき、「あ、X子によく似てる」と、わたしは思った。その気配を敏感に感じたタキさんは――黙っていーっ!――という顔をした。

「サオリさんが、いい先生を紹介してくださったんです……」
「ほんなら、フランス行くんか……」
 タキさんは、絶望の声を絞り出した。
 サオリさんとは、本名サオリ・ミナミ。けして南沙織のデングリガエシではない。
 日系フランス人と結婚したキャリアのオネーサンで、夫の任地が長らく日本の神戸であったこともあり、この店の古くからの常連であった。外向的で好奇心の強いサオリさんは、国籍を問わず友人知人が多い。
 そのため、東日本大震災のとき関西に避難してきた関東の友人の面倒をよくみて、震災直後は、店がフランス人を中心とした外国人の情報センターのようになった。
 その中に、たまたま絵の先生がいた。
「え、フランスで絵の勉強ができるんですか!?」
 Sちゃんは、そのフランス人の絵の先生の言葉で、飛躍してしまった。

 Sちゃんは、画家志望で、夜は絵の個人レッスンを受けている。そのためアルバイトを水木金に集中させ、他の日は、イラストの仕事のかたわら、自分の作品制作に当てている。
 以前から、絵の先生から、「フランスで勉強できたらね」と、半分夢のように言われていた。自分でも夢だと思っていた。ところが、そのフランス人の絵の先生の話で俄然現実味をおびてきた。

 問題は、フランスでの身元引受人であった。それが今回、解決したのである。
 サオリさんの夫が本国勤務になり、フランスに戻ったので、サオリさんが身元引受人になってくれることになったのである。
「そやかて、Sちゃん、フランスで暮らすいうたら大変やで、だいいち言葉が……」
 無駄とは思ったが、タキさんは、最後の引き留めをした。
「あ、それなら、去年からやってますから、日常会話的には問題なしです」
 これで、たきさんは、白旗を揚げた、そして白壁を示した。
「え……ここに描いていいんですか!?」

 志忠屋の壁は名物であった。
 
 もともと駐車場スペースに作った店舗なので、壁は、ただのブロック壁である。外側は丹念に塗装されていてブロックには見えないが、内側はブロックの壁そのままに、白い塗料を塗っただけで、ブロックの境目がよく分かり、近くのラジオ局のゲストたちなどがやってきては、ブロックごとにサインやメッセージを残していく。いつの間にか大阪の通の人間の評判になり、テレビの取材を受けたり、雑誌に取り上げられたりして、中には、この壁の写メを撮ることを目的にやってくる客がいるくらいである。
 つまり、この壁に描けるのは有名な人間だけで、一番新しいのはNOZOMIプロのチーフプロディユーサーの白羽であった。

 Sちゃんは、その白羽の横ワンブロック置いた壁面に、コスモスの花束の絵と、自分のサイン、日付を書いた。
「……お世話になりましたー」
 長閑に伸ばした語尾と、たたんだエプロンを置いてSちゃんは、店をあとにした。
「若いて、ええのう……」
 見送りがてらに店の前に出てきたたきさんは、Kチーフの肩を叩いて、ため息をついた。
 Sちゃんは、交番の角を曲がるとき、一度振り返り、ペコンとお辞儀をした。交番の角は、すぐそこなで、Sちゃんの表情が良く分かった。その目は、希望と一抹の寂しさが入り交じって潤んでいた。

「次の、アルバイト探さならあきませんなあ……」
 店に戻りながら、Kチーフが力無く言った。
「急場に間に合う言うたら、あいつしかおらへんやろ……」

 タキさんは、白羽とSちゃんの間に挟まれた空白をアゴでしゃくった。

「え……まさか、あの子が!?」
「ちゃう、あの子のオカンや」
「あ、ああ……」
 
 Kチーフは複雑な笑顔になった……。


まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 

 2012年10月25日に、青雲書房より発売。全21章ですが序章のみ立ち読み公開。


お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天へお願いします。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。

青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp  ℡:03-6677-4351


 
 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       

 
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