大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・301『むかし高校演劇というものがあった』

2015-04-13 13:48:23 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・301
『むかし高校演劇というものがあった』
 


 春はライオンのようにやってきて羊のように去っていく

 イギリスだったかに、そんな諺(ことわざ)があった。
 春は春一番のごとく嵐のように始まり、気づくと穏やかに汗じむような初夏になっている。
 例年は、そういうもんだが、今年は違う。入れ替わり立ち代わり高気圧低気圧が現れ、それが前線を作り、ちょっとした台風のように激しく吠え立てている。日本海側では満開の桜と時ならぬ吹雪が勝負をつけかねている。

 三十年前までは地球温暖化で、CO2が親の仇のように言われ、その排出権取引が利権化した。当時のバカな総理大臣が信じられないことを言った。
「日本は、この二十年で二酸化炭素の排出量を二十五%削減します!」
 お蔭で、日本は、アジア諸国から排出権を高額で買い、総額で年間の国家予算に匹敵するだけの金を失った。

 今、世界的に気候は寒冷化に向かって進み始めている。もうエルニーニョ現象などでは説明がつかない。バカな約束をした元総理は、十年前「それでも、地球は温暖化している」という遺言をのこして逝ってしまった。

「大爺ちゃん、もう帰ろうよ!」

 突風にスカートをあおられながら曾孫娘の由香里が叫んだ。
「直ぐに済む。辛抱しろ」
 石橋はほんの地声で喋っても声が大きい。昔取った杵柄だが、それさえ石橋は寂しかった。
「だって、こんな風だし、寒いんだもん!」
「大阪の人間なら、大阪弁で喋れ!」
「大阪なんてとっくの昔になくなったじゃん。今は関西州中央だよ」

 そう、大阪と言う地名も十年前になくなった。同時に信じられない速度で大阪弁が消えてしまった。
――地名には魂が宿っとる。それを安物のアイドルみたいに気楽に変えるから、この有様や。下手に大阪弁使うたら、それだけで原始人扱い。曾孫と喋るときは、大阪弁のアクセントで通しているが、他人とはツルツルと平板なだけの標準語を使こうてる。情けない時代になったもんや――

「大爺ちゃん、これ、誰のお墓?」

「昔、高校演劇いうのがあってな。大阪だけで多いときは百三十くらいの演劇部が加盟してる連合があった。そこのエライサンだ」
「議員とかしてたの?」
「そうじゃない。何の得にもならないのに手弁当で、最後まで高校演劇の隆盛を信じて、定年後、いくらもたたんうちに死んだお方達だ」
「え、じゃあ、年金とかもらわずじまいに?」
「ああ……」
「もったいない……」
「頑なな人達だった……でも、いい時に逝ったと思うよ」
「そんなに、高校演劇って盛んだったの?」
「いや、もう軽音やらダンス部に食われ始めてたけどな……最後まで、信じていった人達だ」
「ふうん、高校と演劇ってのは、言葉として馴染まないな。なんだかお香香(こうこ)臭い演劇」
「お香香とちゃう。漬物や」
「ほら、また大阪弁」
 由香里が口を尖らせる。
「昔はな、弁論部とか社会問題研究部なんてのもあったんだ」
「フーン、部活とかいったんだよね。今は学校独自のクラブって、少ないもんね」
「おまえらみたいな宇宙人が増えたからな」
「あ、それって宇宙人差別だよ。今や人類は宇宙的規模で友愛の規模を広げているんだよ」

 気づくと、霊園のかなたにどこやらの宇宙人が見えた。彼らは地球に来るときは大昔のコーヒーのCMのように、地球人のなりをしているが、なりふりで宇宙人と分かってしまう。

「おーい、そこの宇宙人、親しい人のものか知らんが、墓石を持って帰っちゃだめだよ!」
 白鳥座デネブの宇宙人がペコリと頭を下げた。
「大爺ちゃん、まだ居る? あたし三時からレッスンだから」

 由香里は、州立中央劇団のジュニアのリーダーだ。昔の言い方では高校演劇の生徒実行委員にあたる。由香里は返事もろくに聞かずに行ってしまった。

 ブリジストンこと石橋幸平は幼稚園の園庭ほどの一角を見渡した。そこは、かつての高校演劇の指導者たちが眠っている。

「南無阿弥陀仏……」

 片手拝みに念仏を唱えると、ブリジストンは左手が機能しなくなった旧式の装着式アシストスーツの音を軋ませながら、霊園を去って行った。


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