大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『100年たったら喋れなくなるかも』

2016-06-21 11:22:27 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト317
『100年たったら喋れなくなるかも』



 日本人は、100年たったら喋れなくなるかも……。

 と思うくらい電車の中はスマホや携帯だらけ。
 ま、8割がやってるね。中にはモバゲーとかもあるんだろうけど、画面見ながら無言であることはいっしょ。

 あたしは思う。日本人の声を出す時間は20世紀の半分くらいじゃないだろうか。
 あたしはスマホ持ってるけど、緊急必要なときしか返事しないことを、家族にも友だちにも言っている。で、実践してるもんだから、人の半分もメールが来ない。で、栞ってやつは、そういうやつなんだと思ってくれているから気が楽だ。

 あたしが突っ立ってる前の座席にも男子高校生が座って、チマチマとスマホをいじっている。

 自分で言うのもなんだけど、あたしは平均以上にはイケてると思う。街を歩いていて視線を感じることも時々ある。でも、この男子高校生は三日間(偶然なんだろうけど)いっしょになっている。並の神経してたら一瞥ぐらいはくれると思う。
――こいつはゲイか?――
 S駅で隣が空いたんで座ってみた。そいつのスマホが丸見え。どうやらラインをやってるらしい。チラ見すると相手は女の子らしい。T駅につくころ写メが送られてきた。ケバくはないけどパープリンな女子が写っていた。やつは微かにニヤケた。ゲイというわけではなさそうだ。
 U駅で、そいつは降りた。降りながらもスマホからは目を離さない。当然車内の何人かとはぶつかるってか、こすれ合いながら降りて行った。あたしならムカつくが、こすれ合った人たちもスマホをいじっているので知らん顔。杖ついたお爺さんが一人ムッとした顔をしていた。

 あたしは、想像力が豊か……とは言いにくいけど、妄想力は人一倍だと思う。

 あいあつの替りに座ったオネエサンは、友だちが昨日食べたスィーツを見比べて感心している。当然あたしを含め車内のことには無関心。
 で、あたしは思った。あのスィーツ、食べる前の姿ではなく、リアルタイムで変化したのが出てきて、ついでに臭いまでついていたら面白いだろうなと思う。
 そう思うと、自然に笑いがこみあげて吹いてしまった。女の勘だろうか、オネーサンは、あたしの妄想が分かったような顔で、一瞬あたしを睨んだ。今日初めて見た人間的な反応。なんだかホッとした。

 あたしがガキンチョのころAKBの『スカートひらり』が流行った。

 偶然の悪戯で、あなたとすれ違った。心臓止まりかけて、わざと無視したふり。なんてバカなわたしなの、自己嫌悪に陥る🎶
 
 この歌はスマホがあっては成立しない。ながらスマホでは、すれ違った相手が誰なのか分からないもんね。

 あたしの人生、まだ17年だけど、世の中変わったと実感。

 その日家に帰ると、お祖父ちゃんがきていた。隣の区から来ているから電車を使っている。で、聞いてみた。
「ね、お祖父ちゃん。スマホどう思う?」
「須磨帆……源氏の何帖だったかな?」
「朧月夜との仲が発覚したあとだよ」

 どーよ、あたしの機転の効き方と教養の高さ!

              東京都立希望ヶ丘青春高校  小山内 栞 
コメント
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