魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!
71『スパークと酔っ払い』
――人生のやり残しをやっつけるて、楽しいことばっかじゃねえんだぞ――
マユは、美優の体の中で呟いた……。
むろん、マユの呟きが美優に届くわけもねえ。マユの意識はほとんど美優に入れ替わっちまって、見ていることしかできなくなっちまうからな。
美優は、一つ手前の地下鉄の駅でタクシーを降りやがった。
急な思いつきだ。タクシーの窓から見える懐かしい街並み。その中にAKRの看板がチラホラ見えてきた。AKRはそのシアターまで、街の要所要所に看板やポスターを貼っていやがる。
その一枚は『最初の制服』という新曲のコスを着た選抜メンバーが、女子高の新入生みたいに写っていて。数年前の高校生のころの自分と重なった。いろんなことに憧れていたあのころの美優にな……。
――そうだ、高校生のときの気分で家に帰ろう――
そう思い立ってタクシーを止めた。
――そうだ、高校生のときの気分で家に帰ろう――
そう思い立ってタクシーを止めた。
そして、たった一駅だけど、高校生のころ通学に使っていた地下鉄に乗ることにしやがった。
美優は、その一駅の間に時間を巻き戻しやがる。
ほう、このあたりじゃセレブな乃木坂学院高校に通ってやがったんだ。ダンス部に所属して、コンクールの前は遅くまで練習……なかなかのやつだったんだな。
あのころは部員も10人そこそこで泣かず飛ばずだったけど、今じゃ文化部の花形だった演劇部を追い越し、都の大会でも三位につける好成績ぶりみてえだ。
あのころは学校自慢のリハーサル室なんか使えなくて、練習場所の確保に四苦八苦してやがった……でも、持ち前のマネジメント能力の高さで、美優は、いつも十分じゃねえけど、必要なだけの練習場所は確保してきやがった。
――充実してたなあ、あのころ――
――充実してたなあ、あのころ――
地下鉄の揺れが、懐かしく思い出を呼び覚ましてくれやがる。なんだか、マユまで時めいてきちまうぜ。
キシ キシキシ キシィ
カーブに差しかかると、独特の軋み音とともに、パンタグラフと架線がスパークして、瞬間ストロボみてえ。
カーブに差しかかると、独特の軋み音とともに、パンタグラフと架線がスパークして、瞬間ストロボみてえ。
美優は、そのストロボが好きで、このカーブに差しかかると、持っていた携帯や文庫から目を離し、窓の外のストロボに目をやったもんだ。
たまに、このストロボは、思わぬアイデアや思い出を閃かせてくれやがった。ダンスの振りが今ひとつ決まらないときも、このストロボでアイデアが浮かんだこともあったんだ。
キシ キシキシ キシィ
――そうだ、あの振り付けは、自分のアイデアじゃなかった……そのころ、近所のビルにHIKARIプロが引っ越してきた。引っ越し挨拶に、近所の店にシアターの招待券が配られたんだ――
――そうだ、あの振り付けは、自分のアイデアじゃなかった……そのころ、近所のビルにHIKARIプロが引っ越してきた。引っ越し挨拶に、近所の店にシアターの招待券が配られたんだ――
公開レッスンを見に行った。
春まゆみという振り付けの先生が厳しく教えていた。メンバーの一人が、なかなか振りを覚えられずに、袖に駆け込んで泣き出した。レッスンは、そんなことで中断されることもなく続けられたけど、わたしは泣き出した子に興味があった。こんな局面は、自分のクラブでもよくある。スタッフが、どう対応しているかが気になった。
ディレクターが相手をしていた。若いみたいだけど、どこかオジサン。
「さあ、ゆっくり深呼吸して……」
過呼吸になったその子を優しくハグし、クシャクシャになった髪を撫でながら、あまやかすでもなく、叱るでもなく、落ち着かせていた。
後で黒羽というディレクターだということが分かった。ローザンヌは、小売りだけではなく、プロダクションなどの卸の仲介もやっていて、そういう仕事で、ときどき黒羽が店に来ることもあったし、母のアシスタントで大量の見本を運ぶこともあって、黒羽とは、いつか挨拶するぐらいの仲にはなっていた。
――いい人だなあ――
――いい人だなあ――
その程度の気持ちは持っていたけど、淡い憧れ。ご近所の知り合いの域を超えるようなことはなかった。
HIKARIプロについては、そんな思い出だけだったんだけど、その時思いついた振りは、無意識に見ていた春まゆみの振り付けを真似していたことに気づいた。落ち込んだ後輩を慰めたり元気づけたりするときは黒羽さんの口調になっていた。
ストロボの余韻に浸っているうちに駅についてしまった。
わたしは、あのころのように軽々と階段を駆け上がって出口に出た。
ストロボの余韻に浸っているうちに駅についてしまった。
わたしは、あのころのように軽々と階段を駆け上がって出口に出た。
目の端に出口のところで座り込んでいる酔っぱらいが見えた。よく見かける光景なので、少し速足になってシカトする。
え、まさか!?
酔っぱらいは……たった今思い出していた黒羽ディレクターだった……。
酔っぱらいは……たった今思い出していた黒羽ディレクターだった……。
☆彡 主な登場人物
- マユ 人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
- 里依紗 マユの同級生
- 沙耶 マユの同級生
- 知井子 マユの同級生
- 指原 るり子 マユの同級生 意地悪なタカビー
- 雅部 利恵 落ちこぼれ天使
- デーモン マユの先生
- ルシファー 魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
- レミ エルフの王女
- ミファ レミの次の依頼人 他に、ジョルジュ(友だち) ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
- アニマ 異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
- 白雪姫
- 赤ずきん
- ドロシー
- 西の魔女 ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)
- その他のファンタジーキャラ 狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
- 黒羽 英二 HIKARIプロのプロデューサー
- 美優 ローザンヌの娘
- 光 ミツル ヒカリプロのフィクサー
- 浅野 拓美 オーディションの受験生
- 大石 クララ オーディションの受験生
- 服部 八重 オーディションの受験生
- 矢藤 絵萌 オーディションの受験生
- 上杉 オモクロのプロディューサー
- 片岡先生 マユたちの英語の先生