大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・邪気眼少女イスカの失踪③『もう一人のイスカ・1』

2016-06-24 10:55:52 | 小説
邪気眼少女イスカの失踪③   
『もう一人のイスカ・1』


 ……てっきり断るのかと思った。 四階への階段を上がりながらサリナが呟く。

 教室に向かう前に、三階の社会科準備室に寄ったところ。
 先月から高島先生に迫られていた郷土史研究部への入部をOKしてきたのだ。
「あたしが断ったら、サリナだけが無理くりに入らされてたでしょ」
「でも、巻きこんじゃったよ」
「いいって、いいって」
「でも、急にどうして?」
「んーーーーーー内なる衝動?」
「衝動で入っていい部活じゃないわよ」
「へへ、自分でも説明つかないんだ……ま、次だよ次」
「でも……」
「気にしない、気にしない」
「うん……でも、なんで右手ニギニギしてんの?」
「え……あ、ほんとだ」
「社会科準備室出てからずっとだよ」
「どしてだろ?」
 そう言いながらもニギニギをやめられないあたし。

 ウォット!!!

 自然に体が旋回して、旋回したあたしを掠るようにして男子がタタラを踏んだ。
「西峰くん、いつものセクハラしようとしたでしょ」
「してねーよ!」
「したよ。ほら、その指」
 西峰真之介の右手の指がやらしそーに蠢いている。
「これは、打った拍子に痙攣してんだ。ケ!」
 そう言って背中を向けた西峰。あたしの中で小さな爆発が起こった。

「死ね!」

 爆発が収まると、西峰が再びひっくり返っていた。で、あたしは、なぜか西峰のズボンを持っている。
「え、ええ! なんだよ! なんだよ、これは!?」
「あんたのズボンが勝手に飛び込んできた」
 そう言いながら、あたしは西峰のみっともない姿をスマホで撮っている。
「と、撮るな!」
「もう撮っちゃった」
「くそ、消せえ!!」
「うん、そのうち」
「雲母坂(きららざか)ああああああああああ!」
 跳びかかってきた西峰を反射神経で避けてしまう。もし衝動に従っていれば、あたしの拳をモロに受けて西峰は絶命している。
「お、おまえ、ほんとうに雲母坂か? 弱虫の雲母坂イスカなのか?」
「んーーーーー多分」
 自分でも驚いているんだから多分としか答えられない。
「あのさ、もう人に乱暴すんの止しなさいよね。女の子にぶつかって泣かせるなんてサイテーだからね。わぁった?」
「お、おお」
「ぶつかるだけじゃなくて、スカートまくったりブラのホック外したり。西峰流忍法の汚れだよ」
「お……お、おお」
「じゃ、今日から掃除もサボらないでね。サボったら、今度はズボンじゃすまないから。ほら、さっさと穿いて。朝礼始まっちゃうから」
 西峰はズボンを持って男子トイレに駆け込んだ。西峰にもハズイという気持ちがあるようだ。
「すごいよイスカ! 郷土史研だけじゃなくて、西峰も決着つけちゃうんだ!」
「あ、これはたまたま。もう一個が本命だわさ」
「あ……それって……?」
「そう、イスカを探さなきゃ。親友のイスカをさ」

 あたしは、先月から行方不明になっているもう一人のイスカを思い浮かべた。

 我が友、邪気眼電波女イスカ……を。 
 


 ※ 登場人物

 雲母坂イスカ       戦国時代の美濃の女忍者 今は高校一年生

 田中沙利菜愛利江留    イスカの親友 普段は略称のサリナで通っている

 西峰真之介        西峰流忍法宗家の息子


 
コメント
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