ライトノベルセレクト番外
『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』
次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。
そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。
それは、ニューヨークから送られてきた。その名も『トーノスデ』
ノートの表紙はキティーちゃんのパチもので、おそらく中国製だろうと思われた。中身はアメリカのどこにでもある、穴あきでミシン目の入ったものを、旧東ドイツのノートのリングで留めたというもので、まったく正体不明であった。おまけに書かれている文字はアラビア語で、使われているインクは、アイルランドを筆頭に、ロシアまで、100ヵ国のインクが使われており、『トーノスデ』から犯人にせまることは不可能だった。ちなみにノートのタイトルもアラビア語で、右から左に読む。
インサイダー取引で、大もうけして、上手く法の目をくぐり抜けたIT産業の寵児と言われたS氏は、株の動きをパソコンでみているうちに大笑いして死んだ。
C国との裏の繋がりからC国の傀儡と言われたO氏は、秘書3人からもらった手紙を読んだ直後「うん?」と一言もらしたあと、大爆笑して逝ってしまった。
いずれも、パソコンにも手紙にも証拠は残っていなかった。何故かというと、それをあとで見た誰も、死ぬどころか、クスリとも笑えなかったからである。
どうも、ターゲットが笑い死にしたあと、笑わせた中身そのものは消えてなくなるか、他の文字や図形に変わっているらしい。
次のターゲットは、M党の元総理大臣H氏であった。O氏と同じく秘書から手紙が届くようにしたが、これが効き目がなかった。
「なんだ、意味不明だね」
氏が、そう言って、手紙を置いたとたん、手紙は日本国憲法の前文に変わった。念のため警察に届けたが、警察でも、むろん分からなかった。
ただ、科捜研の石川奈々子だけが、あれ? と、思い、紙の分析を始めた。
「ビンゴ!」
奈々子は、思わず叫んだ。
「倉持さん、絞り込めた!」
「ほんとか!?」
倉持が喜んだほど、有力な資料ではなかったが、それでも絞り込みにはなった。
紙は再生紙が使われていて、その紙が特殊であった。原料の20%が破砕した紙幣が使われていて、その中に、ごくわずか2000円紙幣が混じっていた。2000円紙幣は流通量が少なく、当然回収され再生紙の原料にされたものも少なく、日銀の見学者に渡されたもの、古紙として業者に渡されたものをひっくるめて8万件。その再生紙を製造した会社は大小150社しかなく、紙質を調べれば、もっと絞り込めるはずだった。
女は気づいた。H氏に効き目が現れなかったことが。
「くそ、並の神経じゃない……」
H氏の、完全な記憶力は48時間である。ジグソーパズルのように欠けた言葉を探した。コンピューターで20時間ほど解析し、一つの言葉を探り当てた。時間は限られている。いつものように手の込んだことはできない。
そこで、簡易な変声機で、オバサン声にしただけで、H氏の事務所にS新聞を名乗って電話した。秘書はなんの疑いも持たずH氏に取り次いだ。
女は、ただ一言、こう言った。
「トラスト ミー」
H氏は、直ぐに手紙の内容と結びつき、30秒間大爆笑したあと、こときれた……。
『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』
次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。
そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。
それは、ニューヨークから送られてきた。その名も『トーノスデ』
ノートの表紙はキティーちゃんのパチもので、おそらく中国製だろうと思われた。中身はアメリカのどこにでもある、穴あきでミシン目の入ったものを、旧東ドイツのノートのリングで留めたというもので、まったく正体不明であった。おまけに書かれている文字はアラビア語で、使われているインクは、アイルランドを筆頭に、ロシアまで、100ヵ国のインクが使われており、『トーノスデ』から犯人にせまることは不可能だった。ちなみにノートのタイトルもアラビア語で、右から左に読む。
インサイダー取引で、大もうけして、上手く法の目をくぐり抜けたIT産業の寵児と言われたS氏は、株の動きをパソコンでみているうちに大笑いして死んだ。
C国との裏の繋がりからC国の傀儡と言われたO氏は、秘書3人からもらった手紙を読んだ直後「うん?」と一言もらしたあと、大爆笑して逝ってしまった。
いずれも、パソコンにも手紙にも証拠は残っていなかった。何故かというと、それをあとで見た誰も、死ぬどころか、クスリとも笑えなかったからである。
どうも、ターゲットが笑い死にしたあと、笑わせた中身そのものは消えてなくなるか、他の文字や図形に変わっているらしい。
次のターゲットは、M党の元総理大臣H氏であった。O氏と同じく秘書から手紙が届くようにしたが、これが効き目がなかった。
「なんだ、意味不明だね」
氏が、そう言って、手紙を置いたとたん、手紙は日本国憲法の前文に変わった。念のため警察に届けたが、警察でも、むろん分からなかった。
ただ、科捜研の石川奈々子だけが、あれ? と、思い、紙の分析を始めた。
「ビンゴ!」
奈々子は、思わず叫んだ。
「倉持さん、絞り込めた!」
「ほんとか!?」
倉持が喜んだほど、有力な資料ではなかったが、それでも絞り込みにはなった。
紙は再生紙が使われていて、その紙が特殊であった。原料の20%が破砕した紙幣が使われていて、その中に、ごくわずか2000円紙幣が混じっていた。2000円紙幣は流通量が少なく、当然回収され再生紙の原料にされたものも少なく、日銀の見学者に渡されたもの、古紙として業者に渡されたものをひっくるめて8万件。その再生紙を製造した会社は大小150社しかなく、紙質を調べれば、もっと絞り込めるはずだった。
女は気づいた。H氏に効き目が現れなかったことが。
「くそ、並の神経じゃない……」
H氏の、完全な記憶力は48時間である。ジグソーパズルのように欠けた言葉を探した。コンピューターで20時間ほど解析し、一つの言葉を探り当てた。時間は限られている。いつものように手の込んだことはできない。
そこで、簡易な変声機で、オバサン声にしただけで、H氏の事務所にS新聞を名乗って電話した。秘書はなんの疑いも持たずH氏に取り次いだ。
女は、ただ一言、こう言った。
「トラスト ミー」
H氏は、直ぐに手紙の内容と結びつき、30秒間大爆笑したあと、こときれた……。