大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・151『西之島への迎え』

2023-03-17 12:45:22 | 小説4

・151

『西之島への迎え』越萌マイ 

 

 

 貴様が来てくれたのか!?

 

 無人のはずのオートパルス車のドアが開いたことにも驚いたが、そこから出てきたドライバーに驚いた。

「元帥閣下の一大事、駆けつけるのは自分の職分であります」

 さすがに軍人丸出しの敬礼は控えて、それでも国防軍礼式通りの気を付けで応えてくれる。

「貴様の事だ、抜かりは無いだろうが、仔細は車の中にしよう」

 脊髄反射で、こちらも越萌マリの口調が陸軍元帥に戻ってしまう。

「はい、ではご乗車ください」

「うむ」

 

 パルス車は、他の観光用や個人のパルス車、それに伝統的なヨットたちが出入りするのに紛れて江ノ島ヨットハーバーを出発した。

 

「まだ現役なのか?」

「心意気です」

 車に乗ってハンベをオンにすると、表示された運転手のIDは現役の陸軍准尉になっていた。

「政府の西之島への対応に抗議して、予備役が現役宣言をするのが流行っています。記念館の管理人としては自然なことです」

「そうか……」

 わたしが越萌マイとして動くときに元帥としての児玉隆三は死んだことにしてある。

 元々、満州戦争でのPI(パーフェクトインストール)自体が無謀なことでJQに移植されたソウルは長持ちしないだろうと言われていた。死亡を装うのには都合が良かった。

 俺が棲んでいた朝霞駐屯地の宿舎は児玉記念館に改修され、運転席でハンドルを握っているヨイチが管理人を務めている。

「懐かしいです、興隆鎮から部隊ぐるみ出撃して決戦場に向かった時のことを思い出します」

「そうだな、敵の旅団長は当時少将の劉宏だった。奴の指揮も見事、辛うじて勝てたが部隊は壊滅、俺も戦死してしまった」

「しかし、捨て身のPIが成功しました。最後の勝負は閣下の勝ちであります」

「今回、劉宏は大統領の立場だ、軽々とは動けない」

 ピコピコ ピコピコ

 車の搭載ハンベが緊急ニュースを流し始めた。

『漢明国政府の緊急発表です。劉宏大統領は議会において、西之島に出撃している漢明軍部隊の全てを反乱軍であると宣言し、議会も賛成多数で大統領宣言を承認しました、反乱軍が所属している地方政府は反発し漢明国からの独立も辞さない構えで……』

「どういうことでしょう?」

「続きがあるようだ……」

『なお、西之島の氷室睦仁氏から発せられた綸旨と称する救援要請に呼応して、西之島にはボランティアの人たちが西之島に向かっております。政府は凶器準備集合罪にあたる可能性もあると自粛を呼びかけておりますが、海外から、これに応える人たちも多く、政府は苦慮している模様であります……』

「俺も、その一人だがな」

「劉宏大統領はどうするつもりなんでしょう、このままでは島の漢明軍はジリ貧になります。反乱軍認定されては補給が停まり、増援も途絶えてしまうでしょう。なにより、急速に士気が低下して、総崩れになる可能性が高くなります」

「そうだな、そして、世界は自軍を反乱軍扱いしてでも平和を目指そうとする劉宏大統領を賞賛するだろう」

『これを受けて、岩田総理は各方面との協議を密にして対応を探っていると言われ……』

「この期に及んで……」

 さすがに、後の言葉は呑み込んだ。

 さて、西之島に着いたらどう動くか……劉宏大統領の決定には、まだまだ裏があるはずだ……

 そろそろ江ノ島のクルージングコースから離れる……思った瞬間、パルス車は前を進むクルーズ船のウェーキ(航跡の波)に紛れて潜航した。

 二十余年の歳月を経ても、ヨイチとは阿吽の呼吸だ。

 ガチャリ

 一応、両手両足に仕込んだ各種ウェポンの点検をしておく。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 


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