大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・264『嗚呼東鈴!』

2024-12-23 12:00:01 | 小説4
・264

『嗚呼東鈴!』 老婆婆小鈴 




 ウィーーーーーーン

 
 かそけき動作音をさせて筋斗雲が降りてくる。

 筋斗雲は小爺自慢のボートで、地球上のどこへでも一時間有れば飛んでっちまうという優れもの。
 しかし、動作音がまるっきりしないので、いつも驚かされていた。ウィーーーーーーンという音は「あまり無音だと老婆婆が腰を抜かすといけないから」と、小爺がわざわざ付けたギミック。音源は200年前のマブチモーターだというんだから恐れ入る。

 出かけてから、まだ一週間ほどなのに、筋斗雲のボディーはひどく汚れている。これ一つで火星航路の客船が一隻買えるというのに、小爺はほんとうに、ものを大事にしない。

「あら?」

 きれいに着地させた筋斗雲から出てきたのは東鈴一人だけだよ。

「小爺は?」

「カルチェタラン。モンゴルで飲み過ぎちゃったから、少し寝るって」

「おまえさんは?」

「うん、筋斗雲を工場に持っていくとこ、ちょっと荒っぽい乗り方したもんで」

「工場なら、ずっと北だろうに」

「なに言ってんの、老婆婆がしょんぼりしてるから、様子見に降りてきたんじゃないか」

「そうか……人に見られないように上がってきたのにねえ」

「なにがあったの? なんか、七日ぶりじゃなくて七年ぶりって感じだよ」

「嗚呼……」

「なによ、京劇の台詞みたいな溜息ねえ」

「実は……」

「ええ、鈴麗が!?」

「ああ、まったく運の無い子だよ……この年寄りの、人生最後の希望だったのにさあ……」

「そう、いい子だったけど、老婆婆、なんか適当に便利使いしてなかった?」

「そ、それは」

「うん?」

 東鈴の気安さに、全部話した。もう秘密にしても仕方がないしねえ。

「そうかぁ……老婆婆がぜんぜん義体化してなかったのは、そういう理由だったんだ……」

 東鈴は鈴麗のことよりも、この皺くちゃババアのことを気に掛けてくれている。

「そんなことないよ」

「ん?」

「あ、ごめん。心読んじゃった……でも、頭の半分じゃ鈴麗のことも考えてんだよ」

「ありがとうねえ……」

「大丈夫だよ、きっと……」

 わたしの肩にまわした東鈴の手が停まった。

「どうかしたのかい?」

「義体化しない体って、こんなにか細いもんなんだね……」

「ちょ、止しとくれよ、そういう同情は!」

「そうだ、PIしよう!」

「ピ、ピーアイ!?」

「そうだよ、ソウルさえ生きてたら鈴麗をあたしに移し替えられるよ!」

「PIなんて、めったに成功しないよ」

「大丈夫よ、東鈴は劉宏大統領や児玉元帥と同じJQシリーズ、きっとうまくいく!」

「ちょ、ちょっと東鈴!」

 東鈴は、屋上から飛び降りて、直接一階から地下の孫房に向かって行ってしまった!

 いくら、早く行ったって、あのセキュリティーは……と、思ったら、それも簡単に潜り抜けて、ラボを兼ねた診療室に入っていた。

「老婆婆、ダメだ。鈴麗の脳波完全に停まって、もう、ソウルが拾える状態じゃないよ」

「……いや、だから言ったろぅ」

「東鈴はJQシリーズの最新だから、少しの間だったら脳波の痕跡からでも拾えると思ったのに……」

「あ、ありがとうよ東鈴。でもね、たとえPIできてもダメなんだよ」

「え、どうして? PIできたら生き返るんだよ、体って義手とか義足とかと同じ道具なんだからさ」

「バカだねえ」

「な、なによ!?」

「義体やロボットじゃ子が産めないだろうが」

「あ……そうか……そうだった(O_O;) 」

 崩おれるようにしゃがみ込む東鈴、その頭を抱いてツールボックスに腰を下ろす。

 やっぱり東鈴、おまえはいい子だよ。情においては人もロボットも関係ないよ、生きるというのは、やっぱり心と心なんだねえ……。

 ブゥーーーーーーン

 これはギミックじゃない。ついさっき脳死したばかりの鈴麗の体に繋いだ生命維持装置の音だよ。昔みたいに、あちこちチューブや電極でつなぐことは無い。外からのパルス信号とエネルギーで一年は体を生かしておくことができる。これを切るのは、せめて小爺にやってもらおう。

 悟勇ちゃん、ごめんね、最後の最後で小鈴は失敗してしまったよ……。

「そうだ!」

 ゴツン

「ウ、急に頭を上げないでおくれ、顎に当っちまったじゃないかぁ……」

「老婆婆、鈴麗の体は、まだ生きてるんだよね?」

「え、ああ、それは……」

「だったらさ!」

「え?」

「耳貸して!」

「え……え……ええ(◎Д◎)!?」

 嗚呼東鈴!?

 とんでもないことを言い出したよ(''◇'')!

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

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