泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
起き抜けに点けたテレビに、いきなり妹のドアップが写って驚かない兄はいないだろう。
ゲホッ! ゲホ! ゲホ! ゲホ! ゲホ!
お茶が横っちょに入ってしまって、死ぬほどむせかえってしまった。
「あらあら、朝から不調ね」
松ネエが背中をさすってくれる。松ネエもやっと落ち着いて、昨日からは屋内に限って普通に過ごしている。
しかし、やっと回復期の松ネエに労わられるというのも申し訳なく、自分で水を飲んで喉の混乱を収める。
「やっと発表になったのね」
小菊のドアップを見ても動じることのない松ネエは、小菊の姿に目を細めている。
「これって、いったいなんなんだ?」
ストロボ焚かれまくりの中で、ニコニコとトロフィーを抱いている小菊は、ひどく現実離れしている。
瞬間アップになったトロフィーには、こんな言葉が刻まれているのだ。
☆・第十七回突破文庫新人賞・☆
時空が歪んで、パラレルワールドの、それも、とってもでんぐり返った異世界の出来事だと思った。
「家では、あんまり騒がないでって言われてたけど、受賞発表されたら、もう解禁ね!」
「おお、いよいよだったんだな!」
「付き添って行けばよかった!」
「今夜はお祝いだな!」
アハハハハハハ( ´艸`)(^0^)(^Д^)(≧▽≦)
いつの間にかリビングに収まった小菊の両親と祖父が盛り上がっている。
両親と祖父ってのは、俺にとっても親父とお袋と祖父ちゃんになるんだけど、あまりのショックで違和感の有りまくりなんだ。
小菊に文才が有るとは知らなかった、てか、小菊は作文も苦手なはずだ。
それがラノベの登竜門として超有名な『突破文庫新人賞』を受賞、いや、応募したこと自体信じられない。
――わたしって、本当は臆病で自信のない子なんです。でも、突撃のスタッフさんたちが、ここ一番という時にきちっと応援してくださるので、なんとか受賞させていただいたんだと、とっても感謝してます――
――いや、女鹿さんに、いや小菊さんに、それだけの力があるからですよ。最終選考に残った時、初めて経歴を見ましたが、15歳の女子高校生なのにはビックリしました――
――あの時ポテチいっぱい下さったじゃないですか『とりあえずおめでとう賞』ってことで。スタッフさんたち凄いと思いました。春にはポテチ用のジャガイモが品薄になって、ポテチがすっごく喜ばれるって読んでたんですもんね、わたし、ポテチだけでもよかった! そう思ってましたもの(^▽^)――
ましたもの……なんちゅう猫っかぶり! それに一人称も「わたし」になってやがるし!
俺は、このあとの展開に、ひどく良くないものを予感していた。
で、その予感を超えて、受賞発表は場外ホームランになってしまうのだ!
――小菊さんの凄いところは、ラノベに新しいステージを提示したことですよね――
――提示だなんて、わたしは、ただ届く範囲の想像力で書かせてもらっただけです――
――タイトルは『くたばれ腐れ童貞!』。凄いです、久々に突破力満点の作品が出てきたと括目してますよ!――
そう、小菊のラノベネタは、こともあろうに、この俺だったのだ!
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
- 百地美子 (シグマ) 高校二年
- 妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
- 妻鹿幸一 祖父
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
- 風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
- ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
- 木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
- 増田汐(しほ) 小菊のクラスメート