大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・104『感情の記憶』

2023-02-03 06:43:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

104『感情の記憶』 

 

 


 柚木先生が慌てて稽古場にやってきた。


「たいへんよ、ハルサイの公演が早くなっちゃった!」

「「「「えーー、どういうことですか( ゚Д゚)!?」」」」」

 四人は声をそろえて驚いた(むろん乃木坂さんの声は、柚木先生には聞こえない)

「会場のフェリペがね、設備の故障で五月には工事に入るんで一ヶ月前倒しだって!」

「ええ、そんなあ……」

「間に合うかなあ……?」

「……なんとかしょう!」

 乃木坂さんが言った。

「なんとかなる?」

「だれと、しゃべってんの?」

 うかつに乃木坂さんに返した言葉を先生に聞きとがめられた。

「あ、二人に言ったんです! 里沙と夏鈴に。で、間をとって二人の真ん中に……はい(^_^;)」


 その日から稽古は百二十パーセントの力が入って、乃木坂さんの演出にも熱がこもってきた。


「君たちの演技は形にはなっているけど、真情がない。地上げの仕事への熱意が偽物だ。都婆ちゃんの子ども三人は、狡猾だけど、そうなってしまった人生の背景が感じられない。悪役は、ただ凄めばいいというものじゃないんだ。それに都婆ちゃんの孤独感というのはそんなものじゃない。他に迎合せず、孤高のうちにも孤独を貫き通す覚悟、そして、その覚悟をも超えてやってくる真の孤独の淵の深さ、それが出なくっちゃ(;`O´)!」

 はい……(-_-;)

 乃木坂さんの指摘は的確だけどキビシイ。だてに何十年も幽霊やっていない。

「君達の人生は、まだ浅い。理解しろと言う方が無理なのかもしれないなあ」

「だって、無理だよ。分かんないものは、分かんないもの」

 夏鈴が正直に弱音を吐く。

「馬鹿、そんなことを言っていたら、殺される演技や殺す演技は誰も出来ないことになるじゃないか!」

「それは……そうなんだけどね」

「……ごめん、つい感情的になってしまった。もっと分かり易く言わなくっちゃね」

 それから乃木坂さんは根気強く、かみ砕いて教えてくれた。

 たとえば、寂しさというのは、目の下の上顎洞という骨の空間から、暖かい液体が口、喉、胸、腹、脚を伝って地面に吸い込まれるイメージを持つこと。老人の腰は曲がるんじゃなくて、落ちる(後ろに傾く)ものなんだということ。で、そのバランスをとるために上半身が前傾し、膝が曲がる。そして、そのいくつかは、はるかちゃんがビデオチャットで教えてくれたことと同じだった。

 分からないことがもどかしかった。孤独を淋しさと置き換えてみた。

 ひいじいちゃんとのお別れ。これはガキンチョ過ぎて、分からない。

 中学の卒業……卒業してからもたびたび行ってたので、このイメージも希薄。

 忠クンとの空白の一年。いつでも、その気になれば会えるという、開き直ったお気楽さがあった。

 はるかちゃんの突然の引っ越し……これは心の底に残っているけど、去年のクリスマスで、再会。この傷は、完全に治ってしまった。

 感情の記憶は、その時の物理的な記憶を残しておかないともたないらしい。何を見て何を触って、なにが聞こえたか、その他モロモロ。

 マリ先生が学校を辞めて、乃木坂の演劇部がつぶれたのは記憶に新しいけど、これは、演劇部再建のバネになってしまって、思い出すと活力さえ湧いてくる(`0´)。

 人間の感情って複雑だってことが分かる程度には成長しました……はい。

 潤香先輩……これも奇跡の復活で、痛みは遠くなってしまっているし……。

 われながら、痛いことはすぐに忘れるお気楽人間だ(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 銀河太平記・144『ニッパ... | トップ | 鳴かぬなら 信長転生記 1... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

青春高校」カテゴリの最新記事