RE.乃木坂学院高校演劇部物語
自衛隊に似ている。
監督から声が掛かるまでは、キャストもスタッフもてんでバラバラな感じなんだけど、みんななにかしら打ち合わせや準備をしている。リラックスはしてるけど無駄話したり、ボーっとしてる者はいない。
機材の調整や確認をする照明や音響さん。キャストのメイク手直しするメイクさん。寒いわけでは無いんだけど、軽くジャンプしたり揺すったりしているキャスト。タブレット見ながらストップウォッチ見てるのはタイムキーパーかな。
「開始」
監督さんが一声発すると、それまでの各々の作業や準備を止めて、特にバミってあるわけでもないのに、それぞれのポジションにつく。変な力みも狎れた緩みも無い。
そういう自然体でキビキビしてるとこが、印象として自衛隊。
乃木坂の演劇部も似たような感じだったけど、ちょっと緊張が過剰だったような気がする。
マリ先生に率いられて、キビキビ動くことに変わりはないんだけど、一年生は無駄に緊張しているし、二三年生は微妙な陶酔感があったような気がする。
よその学校からは羨み畏れられて、そう言う目で見られることが、どこか心地よかった。
なんだか、ちょっと宗教的だったのかもしれない。
マリ先生がよく言ってた「台詞を歌っちゃダメ!」って。芝居の調子が良くなると、演じていることに陶酔してしまうことがある。気持ちいい(=⊙ꇴ⊙=)って瞬間。アクターズハイって言うのかなあ……。
そういうのが、目の前のロケ隊の人たちには無い。なんというか粛々とやってます的なね。
監督さんから、いろいろと指示が出されている。そして何度かのカメラテストとリハーサルに一時間ほどかけて本番。
女性はみんな女子高の制服。高橋さんは、いかにもありげな先生のかっこうで、自転車に乗って土手道をやってくる。
土手の下では、堀西真希さんと上野百合さんが三年生の設定で、ポテチをかじりながら、二年間の高校生活を嘆いている。
つまり設定は四月で、新学年の始まり。あちこちに造花のスミレやレンゲが何百本。美術さんが忙しそう。お気楽に見てるテレビだけど、頭が下がります。
そこに本を読みながら、はるかちゃんが土手道を歩いてくる。前から自転車でやってきた高橋さんの先生が避けそこなって、自転車ごと土手を転げ落ちてしまう(もちろん、落ちるのは人形の吹き替え)。
「大丈夫ですかぁ!?」
と、大阪弁で、はるかちゃんが駆け寄る。
「アイテテ……」
と、うなる先生。
「ごめんなさい、ついボンヤリしてしもて」
「きみは……転校生の春野……お?」
先生は、春野さんのバッグからはみ出しているポテチに気づく。同時に春野さんは、先生の自転車の前かごから飛び出したポテチに気づく。見交わす目と目、吹き出す二人。そして、その親密さに気づいて、草むらから立ち上がる堀西真希と上野百合。その二人の手にも同じポテチが……。
で、二回目のテストのとき、監督さんがわたしたちに目をつけた……。
わたしたちは同じ制服を着て、はるかちゃんの後ろを歩いてくる、文字通り通行人。で、先生が転げ落ちたあとは、土手から心配げに見ている背景の女学生。むろん顔なんかロングなんで分からないんだけど、思わぬテレビ初出演!
でも、病み上がりとはいえ、やっぱ、潤香先輩って映える。また、カメラ回っている間平然としている根性もやっぱ、潤香先輩ではありました。
☆ 主な登場人物
- 仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
- 坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
- 芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
- 芹沢 紀香 潤香の姉
- 貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
- 貴崎 サキ 貴崎マリの妹
- 大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
- 武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
- 峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
- 高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
- 柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
- 乃木坂さん 談話室の幽霊
- まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母