かの世界この世界:122
四号が空を飛んだ!
「何かににつかまって振り落とされないようにしろ!」
タングリスが叫んだ。
砲手席には手すりが無いので、砲尾の薬莢バスケットの枠を右手で、左手でハッチのハンドルを掴んで耐えた。他の乗員も、それぞれ手近の突起物やレバーに掴まっている。
ブリュンヒルデ一人がコマンダーシートに立ったままで、上半身をキューポラの外に晒している。
その姿で察した。
四号を飛ばしているのはブリュンヒルデだ。
「姫の中で何かが覚醒した! しかし不安定だ、どうなるか分からん! しっかり掴まっていろ!」
「「「「ウワーーーーー!!」」」」
急に降下して一瞬無重力状態になり、すぐに、降下した分を取り返すように急上昇。みんなあちこちぶつけたようで悲鳴が上がる。
「ポチ、外に出て様子を見ろ、ふつうに飛べるのは、お前ひとりだ」
「わ、わかった!」
無線機の上の定位置から、器用に体をくねらせてコマンダーハッチから外へ飛び出していく。
「完全にいっちゃってるよブリュンヒルデ! 目が座ってトランス状態だよ!」
砲手席からはコマンダーシートに立ち上がった脚しか見えないが、その力の入りようからも異常なのが分かる。
普通、ハッチから上半身を晒していても、腰はハッチの縁に預けてリラックスしている。
いまのブリュンヒルデはシートに接着された等身大のフィギュアのようだ。仁王立ちの姿勢のまま固着している。
よく見ると、シートとブーツの底の間に微弱な火花が散っている。ブリュンヒルデの体からエネルギーが発せられて四号の車体を牽引しているのだと推察される。
「みんな無事か?」
タングリスが、やっと落ち着いた声で聞く。アアとかハイとかの返事が返って来るが、オッサン一人分が足りない。
「ヤコブがいない」
ヤコブはフェンダーの上に居たはずだから、四号が飛び上がった拍子に墜ちてしまったんだろう。
「ポチ、姫の具合はどうだ?」
「こわいよお、目が白目だけになって、髪の毛が逆立ってるよお!」
「姫! 殿下! 聞こえますか!?」
応えは無い、皆の視線がブリュンヒルデに集まる。
――気を付けろ、クリーチャーの群れが現れるぞ――
ブリュンヒルデの声が直接頭の中に響いた。
ペリスコープで外を確認する。
前方数百メートルの空間に滲みが現れ、みるみるシミのように大きくなっていく。ハングライダーのユーリアが通るところだけ漂白剤を落としたように開けているのだ。
――シリンダーの群れだ、みな外に出て戦え!――
簡単に言うな、ここは足場一つないヘルムの空の上なんだぞ。
☆ ステータス
HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長