かの世界この世界:194
なんともだらしない桃太郎だ。
鎧は脱いでしまって籠手と脛当(すねあて)だけの小具足姿。
直垂(ひたたれ)の前ははだけてしまって、汗みずくのTシャツが覗いている。
Tシャツにはプリントされた文字の一部が覗いている。
文字は……たぶん『働いたら負け』だ。
この文字は二行に跨っているせいか、それぞれ右半分左半分しか見えなくても意味が分かる。
アイマスの幼女キャラが、このTシャツを着ていたので憶えているわたしは……ちょっとオタク?
「関りにならない方がいいようだね……」
イザナギさんが、ソロリ、わき道に入って行こうとして、わたしたちも無言でそれに倣う。
「おい、そこのテメーら! 無視すんじゃねーよ!」
声だけなら、それでも無視するんだけど、桃太郎はドタドタと駆け寄ってきて、ケイトのシャツの裾を掴んでしまった。
「おまえたち、オレのお供決定な!」
「なに?」「なんだ!?」「いやだ!」「断る!」「なんで?」「カサコソ!」
五人五様プラス背嚢のタングリスが応えるが、桃太郎はかまっちゃいない。
「わき道には、センサーがしかけてあってよ。踏んだら『承諾』のサインが点くようになってんだよ!」
足元を見ると『承諾』と書いてある。
「桃太郎くん、これじゃ、なんの承諾か分からないと思うんだが(^_^;)」
イザナギさんが穏やかにたしなめる。
「よっく、見てみろよ」
「「「「ん?」」」」
四人で見下ろすと『承諾』の文字はゆっくり流れてリピートしている。
……とみなす……ここを踏んだら 桃太郎のお供になることを承諾したものとみなす……ここを……
「さ、詐欺だ!」
ケイトが唇を震わせながら抗議する。
「ふ、震えんじゃじゃ、ね、ねーよよよ……」
ケイトの震えが伝染した震え声で桃太郎。
「仕方がない、とりあえず、話だけでも聞いてやりますか」
イザナギさんが触れると震えは停まって、桃太郎が居た木陰まで行って話を聞くことにする。
「手短にな、わたしたちにも使命があるのでな」
ヒルデが『使命』と言ったのでイザナギさんは、ちょと感動の様子。
「お、おう(-_-;)……えと……」
ぞんざいに見えるが、話を手短にまとめようと焦っている。
「オレはな、桃太郎二号なんだ」
「「「「二号?」」」」
「一号はお婆さんに拾われて無事に桃太郎になった。よくできた奴なんで、爺さん婆さんが『蝶よ花よ(^▽^)/』て大事にしてな、鬼退治なんかには行かせねえ」
「おまえが二号っていうのは?」
「一号のあとに、もう一個桃が流れてきたと思え」
「あ、それが、おまえなのか?」
「婆さんは、二つも桃はいらねえ。無視しやがった」
プ
「笑うな!」
「すまん、続けろ」
「それで、もっと川下の方に流されて、桃は腐りかけてきた。それを見て気の毒に思った別の婆さんが拾って、家に持って帰って、爺さんといっしょに桃を割って、出てきた瀕死の桃太郎がな……おれさま……ってわけよ」
「それでクサってたわけか……」
プププ(* ´艸`)!!
ケイトに悪気はないんだけど、二号桃太郎の本質を突いてるので、またも笑ってしまう。
今度は、抗議する元気もなさそうだ。
「そのお前が、なんで鬼退治?」
「うちのジジババは真面目なんだ……真面目だから、腐りかけた桃も拾ってくれたし、この歳までニートしてんのも文句言わなかったし……世の中が桃太郎を望んでるのを無視することもできねえしな」
「それで……」
「でも、ずっとニートやってたし、二号だし……なかなか、お供のなり手がなくってよ……」
そうか……
「よし、お供になってやろう!」
「姫!?」「ヒルデ殿!?」「ええ!?」「ヒルデ!?」「カサコソ!?」
みんな驚いた。
「ただし、着いていくのは、わたしとテルの二人だ」
「え?」
「あのセンサーを踏み込んでいたのは、わたしとテルの二人。他の三人はわき道に踏み込んでさえいなかった。だから、わたしとテルの二人がついて行ってやる。文句はないだろ」
「姫!」
「タングニョースト、イザナギさんと先に進んでくれ。なあに、さっさと鬼退治を済ませて合流するさ」
「それじゃ、わたしたちも」
「だめだよ、イザナギさん。あなたの使命も重要だ。必ず、黄泉比良坂に着くまでには間に合わせる」
「ヒルデさん……」
我々は、しばらく別行動をとることになった……。
☆ 主な登場人物
―― この世界 ――
- 寺井光子 二年生 この長い物語の主人公
- 二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
- 中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
- 志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
―― かの世界 ――
- テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
- ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
- ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
- タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
- タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
- ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
- ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
- ペギー 荒れ地の万屋
- イザナギ 始まりの男神
- イザナミ 始まりの女神