ボンヤリと中庭に出て所在なくベンチに腰掛けた……目の前にグー像があることに気づいて、山中先輩が視野に入った。
山中先輩が横に座ってこう言った。
「ジャンルはちがうけど、少林寺は誤審でも、クレームは言わへんもんやねん」
「演劇は違うと思います。審査基準からずれていたら、抗議……せめて質問ぐらいはしていいと思います」
「そやろね……ごめん。つい少林寺の感覚でダンマリになってしもた」
「そんな、先輩があやまるようなことじゃないですよ……」
そこに、由香と吉川先輩から連名のメール。
「あの二人もなにか言ってきたの、このことについて?」
「いいえ、もっと厄介なことです」
「え?」
山中先輩が横に座ってこう言った。
「ジャンルはちがうけど、少林寺は誤審でも、クレームは言わへんもんやねん」
「演劇は違うと思います。審査基準からずれていたら、抗議……せめて質問ぐらいはしていいと思います」
「そやろね……ごめん。つい少林寺の感覚でダンマリになってしもた」
「そんな、先輩があやまるようなことじゃないですよ……」
そこに、由香と吉川先輩から連名のメール。
「あの二人もなにか言ってきたの、このことについて?」
「いいえ、もっと厄介なことです」
「え?」
というわけで、わたしはその日の夕方、地下鉄南森町の一番出口の前に佇んでいる。
NOZOMIプロの白羽さんが、イベントの準備のため大阪に来ているので、
「今日、お会いしなさい!」という、あのカップルからのメール。
せめて、大人の人に立ち会ってもらいたかったので、自然なカタチがいいだろうと志忠屋と決まった。
で、わたしが地下鉄の出口で白羽さんをお迎え申し上げているわけ。
分かりやすいように、例の紙ヒコ-キのシュシュでポニーテールにしてある。
「やあ、はるかさん」
「今日、お会いしなさい!」という、あのカップルからのメール。
せめて、大人の人に立ち会ってもらいたかったので、自然なカタチがいいだろうと志忠屋と決まった。
で、わたしが地下鉄の出口で白羽さんをお迎え申し上げているわけ。
分かりやすいように、例の紙ヒコ-キのシュシュでポニーテールにしてある。
「やあ、はるかさん」
「わ」
思いがけず、後ろから声をかけられた。
「あ、おどかしちゃったかな」
「あ、おどかしちゃったかな」
「いえ、ボーっとしてて、すみません」
「いやあ、このあたりはわたしの青春の思い出の場所でもありましてね。ちょっと散歩してました」
志忠屋の窓辺の席で、おしぼりで顔を拭きながら白羽さん。
大手プロダクションの、やり手プロディユーサーとは思えない気さくさだ。
「若いころ、修行のために大阪の支社にまわされましてね、初めて営業にまわされたのが天六の商店街のレコ-ド屋さん五軒でした。今はもう二軒に減っていましたね……いやあ、つまらん思い出話をするところだった。はるかさんはそのシュシュとポニーテールですぐに分かりました。目印にしてくれたんですね」
「はい、こうでもしないとごく普通の高校生で見分けがつかないだろうと思いまして」
「あなたのことはDVDで何度も見せていただきました。ついこないだの本選の分もね。いちだんと成長しましたね」
「いえ、とんでもない。ただ感じたまま演っただけです」
「それでいいんです『おわかれだけど、さよならじゃない』とか、飛行機に対する怯えが本物になっていましたよ。作品も好きですね。戦争や、生き甲斐、夢というものが生な押しつけじゃなく、二人の少女の友情の発展の中で、自然にふれられているのが大変けっこうでした」
「わたしもそう思います。カオルとは五ヶ月のつき合いですけど、もうほとんどわたし自身の人生みたいになりました」
「はるかさん自身の体験と重なってるんじゃないですか。新大阪の写真、そう感じました」
「え、ええ……まあ」指摘は、やっぱり鋭い。
「これは失礼、あまり個人的な事情に立ち入っちゃいけない。あ、オーダーがまだだ。マスター、グラスワイン白で、あと適当にみつくろってください。はるかさんもなにか」
「あ、すみません。じゃ、タキさんいつもの」
「はい、まいど」
「ほう、はるかさん常連なんだ」
志忠屋の窓辺の席で、おしぼりで顔を拭きながら白羽さん。
大手プロダクションの、やり手プロディユーサーとは思えない気さくさだ。
「若いころ、修行のために大阪の支社にまわされましてね、初めて営業にまわされたのが天六の商店街のレコ-ド屋さん五軒でした。今はもう二軒に減っていましたね……いやあ、つまらん思い出話をするところだった。はるかさんはそのシュシュとポニーテールですぐに分かりました。目印にしてくれたんですね」
「はい、こうでもしないとごく普通の高校生で見分けがつかないだろうと思いまして」
「あなたのことはDVDで何度も見せていただきました。ついこないだの本選の分もね。いちだんと成長しましたね」
「いえ、とんでもない。ただ感じたまま演っただけです」
「それでいいんです『おわかれだけど、さよならじゃない』とか、飛行機に対する怯えが本物になっていましたよ。作品も好きですね。戦争や、生き甲斐、夢というものが生な押しつけじゃなく、二人の少女の友情の発展の中で、自然にふれられているのが大変けっこうでした」
「わたしもそう思います。カオルとは五ヶ月のつき合いですけど、もうほとんどわたし自身の人生みたいになりました」
「はるかさん自身の体験と重なってるんじゃないですか。新大阪の写真、そう感じました」
「え、ええ……まあ」指摘は、やっぱり鋭い。
「これは失礼、あまり個人的な事情に立ち入っちゃいけない。あ、オーダーがまだだ。マスター、グラスワイン白で、あと適当にみつくろってください。はるかさんもなにか」
「あ、すみません。じゃ、タキさんいつもの」
「はい、まいど」
「ほう、はるかさん常連なんだ」
カウンターの端で、おすまししているのが母だとは言えなかった。