大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

あたしのあした10『一件落着』

2020-06-02 06:21:09 | ノベル2

10

『一件落着』         


 

 覗き魔事件があったにかかわらず、プールの補講は続けられた。

 むろん学校も無策ではない、更衣室の外で水野先生が竹刀を持って立っている。
 犯人が同じように現れたら、すぐさまシバキ倒されて警察に突きだされるだろう。

 もう一度犯行が行われるとは思われなかった。

 でも、犯人は、もう一度やってくるだろうと、あたしは踏んでいた。

 なぜかというと、犯人があげた動画のアクセスが多いからだ。
 ヤラセではない女子高生の生着替え。顔やNGの部分にはボカシが入っているけど、なんとも生々しい。
 こういうのは愉快犯だから、アクセスが多ければ必ずやると思ったのよ。

 ギャーーーーーー!!

 予測は当たった。
 なんと犯人は、補講が始まる何時間も前から更衣室の掃除用具ロッカーに身を潜めていた。
 そして、補講女子たちが水着に着替え終わったところで飛び出して、堂々と更衣室のドアから脱出。正門から悠然と出て、待たせていた軽自動車に乗って逃走してしまった。
 水野先生に説得されて、しぶしぶ参加していた補講女子たちは、リアルに怯えてしまって、次回以降の補講を拒否した。

「先生、犯人捕まえましょう!」

 あたしは水野先生に申し入れた。
「……田中ぁ?」
 先生は申し入れよりも、言ってきたあたしに驚いてしまった。
「おまえ、辞めたんじゃないのか?」
 正直むかついた。三か月以上も不登校やっていたので、水野先生は、とっくにあたしは退学したものだと思いこんでいたのだ!

 うちの学校は、教師の連携がまるでできていない。

 でも、とりあえずは覗き魔だ!

 横田智満子を凹ませたので、補講女子たちは、あたしの言うことにコクコクと頷いた。
 もっとも対策は万全だ。あらかじめ空き教室で水着に着替えて、その上で制服を着る。
 更衣室では上に着た制服を脱ぐだけだ。更衣室内を念入りに調べてから取り掛かった。

「けっきょく来なかったわね」

 無事に補講を終えて更衣室に戻りながら関根が言う。さすがにホッとしている。
 安心して肩から水着を外したところだった……。

 ガサガサ

 更衣室の屋根裏で音がしたかと思うと、学校出入りの清涼飲料業者のユニホームを着た男がクルリンパと下りてきた。

 ウギャーーーーーー!!

 補講女子たちが悲鳴を上げ、胸を押えながらしゃがみ込む。

「待てーーーーーーー!!」

 すかさず、あたしは男を追いかけた。
 男は業者のユニホームを脱ぎながら校舎の裏を縫うように逃げていく。
 変電室の裏に回ったところで、これは旧館の裏からゴミの集積場に行くんだろうとふんだ。
 集積場は、やっと人が通れるだけの校外へのゴミ出し口がある。きっとそこから脱出するつもりなんだ!
 集積場へは旧館の廊下を突っ切って出た方が早い。
 ドタドタドタドタ……!
 廊下を突っ切ってドアを開けると、ドンピシャで集積場! 予測通り男と鉢合わせした!

「オリャーーーーー!!」

 向かってくる男の足元で仰向けになると、右足を立てて巴投げにしてやった!
 男はあっさりとノビてしまい、駆けつけた水野先生たちにグルグル巻きにされた。
 
 一件落着。

 で、気が付いた。あたしってば水着の上半身を脱いだままだった。
 なんちゅうか……追いかけている間、あたしは女であるという意識が完全に無くなっていたのだ。
 
 


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