大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

坂の上のアリスー34ー『カンテービョー?』

2020-03-29 06:22:59 | 不思議の国のアリス

坂の上のー34ー
『カンテービョー?』   



 

 三日目の今日は朝から神戸だ。

 夕べ、ガイドの放出(はなてん)さんが「神戸とか兵庫県を舞台にしたドラマをご存じですか?」と聞いてきたのがキッカケだ。

 今から思うと、うまい提案の仕方だった。

 神戸に行ってみませんか?――では俺たちは乗ってこなかっただろう。
 若干世間の高校生からズレたところがある俺たちだが、物事に関する関心は人並みだ。この暑い盛りに「あ、そう言えば、そういう街あったよな」という程度にしか神戸には関心がない。
 だから――神戸を舞台にした――と聞かれてもとっさには出てこない。
 二三分して「えと……『火垂るの墓』とか『少年H』とかでしょうか?」と、一子が答えた。
「そうですね」そう言っただけで放出さんはニコニコしている。
「あ……でも、それって夏休みの読書感想の課題図書みたいですね」
 そう、あまり心の琴線に触れるようなものではない。
「けっこう有るわよ」スマホを弄っていたすぴかが呟く。

 すぴかが示した画面には、神戸や、その周辺を舞台にしたドラマや映画や小説の一覧が出ていた。

 が……。

 心当たりがあるのは……『火垂るの墓』とか『少年H』ぐらいしかない。
「歌謡曲とかJポップとかでもジンクスがありましてね、神戸を舞台にした歌はヒットしないんですよ」
「え、そうなんですか?」Jポップには一家言ある綾香が検索し出した。
「ほんとにねーなあ……」真治も検索し出した。

 松任谷由実: タワーサイドメモリー もんた&ブラザーズ: KOBE 内山田洋とクールファイブ: そして神戸 なんかが出てきたが、俺たちが知っている曲は一つも無かった。

 そんなにつまらないところなのか……俺たちはマイナスの関心を持った。

 で、そんなにつまらないところなら一度見ておこう!
 なんとも神戸の人たちには申し訳ない動機で、俺たちは神戸に向かうことになったわけだ。

「まずは、ここから見て行きましょう」

 冷房の効いたボックスカーを出ると清々しいほどの暑さだ。
「中華料理のレストラン?」すぴかがボケたことを言うが、ボケとは言い切れない雰囲気があった。
 いかにも中国というような塀をめぐらせた門は、この中が立派な中華レストランであるような佇まいだ。
「本場の中華丼が食いたいなあ」
 真治が正直な反応をする。
「ここは関帝廟です」
 車を運ちゃんに任せてきた放出さんが正解を言う。だが、俺たちは初めて聞く名称だった。

「「「「「カンテービョー?」」」」」

 俺たちの不思議時計が動き始めた。


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 


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