馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
021:ヒュドラを討つ・6『ヒュドラ昇天』
「どうやら俺たちが待っていたのはお前たちだったのかもしれねえ」
意外なことを言う真ん中の首。
「待っていた? わたしたちをですか?」
「ああ、俺たちは『選ばれし勇者』を待って黄金のリンゴを渡すのが使命なんだ」
「「「…………」」」
にわかには信じがたい冒険者たちはすぐには返事をしない。
「聞いてんのかぁ、お前たちに……」
ドン
プルートが大剣を地面に突いた。
「負け惜しみかぁ?」
「「んだとぉ!?」」
「まあまあ」
二つの首が文句を言いかけるが、真ん中のが目で制して話を続ける。
「俺たちのケルベロス星座は、20世紀にヘラクレス座に取り込まれちまって、もう元気の出しようがねえんだ」
「あらぁ……」
「ケルベロス座なんて聞いたことも無いぞ」
「あああ……(=△=;)」
アルテミスの一言に再び深いため息をつくケルベロス。しかし、それとわかる溜息は真ん中だけで、両側の首は、もうため息をつく元気さえない。
「ヘラクレス座と白鳥座の間にあったんだ。いまはヘラクレスの中に取り込まれてる」
商店街のラーメン屋が一軒無くなったように言うプルート。
「まあ、そうだったんですか」
「ごめんな、簡単に言ってしまって」
「まあいい。まぁ、百聞は一見に如かずだ。これを見てくれ」
ケルベロスが半円を描くように尻尾を振ると数十本のリンゴの木が消えて巨大なインスタントラーメンみたいなのが現れた。
「なんですか、これは?」
「ヒュドラだ、冒険者たち」
「「ええ( ゚Д゚)?」」
「ヒュドラ? 袋から出したばかりのインスタントラーメンみたいだぞ」
「そこのメイジ」
「はい?」
「その杖で叩いてみてくれないか」
「え、ええ」
少しためらいのあるベロナだったが、蛇の首が見えるわけでもなく、ウロコさえないクネクネの塊は〇〇食品のロゴさえ入れればインスタントラーメンのディスプレイにしか見えず。小さく息を吸うと「エイ!」と掛け声をかけて杖を振るった。
バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ……
「オオ!」「うわ!」「キャ!」
崩れの中の方に、それとハッキリわかる蛇の首がゴロゴロと現れた。
「なるほど、首はぜんぶ中心に向かっていたんだな」
「たぶん……」
ケルベロスが前足で首たちを掻き出すと、真ん中から百個以上の黄金のリンゴが現れた。
「ヒュドラのやつ、最後までリンゴには手を付けなかったんだなぁ」
三つの首をうなだれさせるケルベロス。
「こいつらがリンゴの番人だったのは本当みたいだな」
「お祈りをさせてもらうわ」
そう言うと、ベロナは頭の高さほどに浮き上がりヒュドラの欠片の山をグルリと回りながらゆっくりと昇魂の詠唱歌を口ずさむ。
カケラたちはホロホロと儚く光り、空に昇っていった。
しばらく欠片たちの昇天を見送る三人。
最後の光が消えて地上に目を戻すと、ケルベロスの姿が消え、生まれて間もない子犬がスヤスヤと眠っていた。
三人は黄金のリンゴを回収し、ベロナが子犬を抱き上げると――仕方ないあなあ――儂はしらんぞ――まあまあ――と呟きながら街道に戻って行った。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- アルテミス アーチャー 月の女神(レベル10)
- ベロナ メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
- プルート ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
- カロン 野生児のような少女 冥王星の衛星
- 魔物たち スライム ヒュドラ ケルベロス
- カグヤ アルテミスの姉
- マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
- アマテラス 理事長
- 宮沢賢治 昴学院校長
- ジョバンニ 教頭