大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・87『夏の始業式』

2020-11-07 05:59:11 | 小説6

・87
『夏の始業式』
        


 

 どうしてだろう、普通に制服着て家を出た。

 まだ二日だけど、SEN48のライブの仕込みに加わって着替えるということが身についてしまった。

 それまでの夏はほとんどパジャマと部屋着兼用のスウェットで過ごしていた。あらかわ遊園に行くときはデニムの上下、もう何か月も、その二着で過ごしてきた。
 ライブの仕込みと撤収で、Tシャツだけど日に三回は着替えた。ライブの間は緊張して意識しなかったが、夏は着替えるという当たり前の習慣を蘇らせていた。

 着替えると、その服にふさわしい場所に足が向く。

 向いた先は学校だ。

――何かあるかなあ……――
 さすがに教室に入る時は緊張したけど、みんな夏のことなどには関心がなく話しかける者もいなかった。
――……これをシカトだと思っていたんだなあ――
 他人事のように感じた。クラスのみんなは、それぞれの夏休みのあれこれに話しの花が咲いている。

「おい、T自動車のCM観たか?」
「あ、SENなんとかってユニットだろ、もう十日ほど前からやってる」
「ちがう、新バージョン」
「ああ、あたし知ってる! 新バージョン、メンバーの日常なんかが出てくるのよね」
「みんな、かわいくてカッコいいのな。おれ惚れちゃった」
「ハハ、中坊が高校生にか」
「いいものはいいんだ!」
「かわいく見えるように撮ってんのよ。あの子たち、まだアマチュアじゃんよ」
「なんだ、妬いてんのか」
「なによ!」

――ちがう、ほんとにかわいくてカッコいいんだ。そばにいるとよく分かる、裏から見てると、もっと分かる――

「夏の始業式は講堂でやっても暑い~!」
 そう愚痴ると奈菜はスカートをパカパカやった。
「階段降りながらやるんじゃないわよ、中が見えちゃうわよ」
「いいじゃん、みんな女なんだからさ」
「そう言う問題じゃないでしょ」
 講堂の階段を下りながらポナと奈菜が言いあっていると、由紀と安祐美が駆け上がってきた。
「M企画の田中さんから電話!」
「田中ディレクター?」
「うん、この時間帯携帯使えないから直接学校に、たった今」
「なにか緊急?」
「なんだかCMのことで記者会見やるんだって!」
「Tホテルに午後三時だって」
「新バージョンになにか問題でもあったのかな……」
「ううん、なんだかいいことみたい。田中さん、声が弾んでた!」
「弾んでた?」
「きっといいことなんだ!」
 奈菜が無邪気に喜んだ。

 夏休みは終わったけれど、ポナたちの夏は、まだまだ熱くなりそうだった。


☆ 主な登場人物

父      寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母      寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生


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