ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》さくら
「……戸籍謄本を見てしまったの」
数分の沈黙のあと、米井さんが口にしたのは理解不能な一言だった。
そして、そのあとまた沈黙になってしまったので訳が分からない。
「じゃ、先生が話すけど、いい?」
米井さんは黙って頷いた。口を開いたら自分が爆発してしまいそうで、何かを必死で堪えているのがわかる。
「去年、乃木坂の文化祭に行って、米井さんは佐伯君と付き合うようになったの。それで、付き合いは順調に進んで、二人は、とてもいい友達になった……とても大事なね」
ここまでは当たり前に理解できた。
Tデパートで見かけた二人は、そのとても大事を通り越して、身内のようにお気楽な状態で、そういう関係に夢を重ねてしまうあたしたちには、つまらないものだった。
「念のため、この話は人には内緒だからね」
「「「「はい……」」」」
先生の念押しに、わたしたちは静かに頷く。感情を表に出したら、米井さん崩れてしまいそうだった。
「ところが、この春に佐伯君は健康診断にひっかかり、精密検査で病気だってことが分かったの……命にかかわるような。そして、6月頃からは、ずっと入院生活。米井さんは毎日お見舞いにいった。お互いに友達以上の気持ちに……なっていった」
「先生、もう大丈夫です。あとは自分で言います」
米井さんは、涙をこらえながら、でもしっかりあたしたちの方を向いて言った。
「去年、うちのお祖父ちゃんがが亡くなったんで、遺産相続のために、お父さん戸籍謄本を取り寄せてたの。それを、たまたまあたしが見つけてしまって、そして分かったの。わたしは、ずっと弟と二人兄弟かと思っていた……わたしには、双子の兄がいた……そして、いろいろ調べているうちに分かったの……佐伯君は、その双子の兄だった」
表面張力一杯の心から、涙が一筋流れていった。
「わたしは……彼も、兄妹の関係に戻そうとした。あの日は、兄妹の気持ちでTデパートに行ったの。そこを佐倉さんに見つかったってわけ。で、例のチェ-ンメール。もう、頭ぐちゃぐちゃ」
「そう……そうだったの」
そう返すが精一杯だった。
「でも、訳わかんないけど、あなたたちじゃないことはよく分かった。先生の話でも半信半疑だったけど、今のあなたたちの顔を見ていたら分かった。わたし気が楽になった。今まで一人で胸にしまい込んで……でも、ここまで分かってくれる友達が五人もできた。ありがとう!」
あとは、六人で泣きの涙だった。先生はあたしたちを六人だけにしてくれ、次の授業は進路指導のための公欠あつかいにしてくれた。
「念のため、この話は人には内緒だからね」
「「「「はい……」」」」
先生の念押しに、わたしたちは静かに頷く。感情を表に出したら、米井さん崩れてしまいそうだった。
「ところが、この春に佐伯君は健康診断にひっかかり、精密検査で病気だってことが分かったの……命にかかわるような。そして、6月頃からは、ずっと入院生活。米井さんは毎日お見舞いにいった。お互いに友達以上の気持ちに……なっていった」
「先生、もう大丈夫です。あとは自分で言います」
米井さんは、涙をこらえながら、でもしっかりあたしたちの方を向いて言った。
「去年、うちのお祖父ちゃんがが亡くなったんで、遺産相続のために、お父さん戸籍謄本を取り寄せてたの。それを、たまたまあたしが見つけてしまって、そして分かったの。わたしは、ずっと弟と二人兄弟かと思っていた……わたしには、双子の兄がいた……そして、いろいろ調べているうちに分かったの……佐伯君は、その双子の兄だった」
表面張力一杯の心から、涙が一筋流れていった。
「わたしは……彼も、兄妹の関係に戻そうとした。あの日は、兄妹の気持ちでTデパートに行ったの。そこを佐倉さんに見つかったってわけ。で、例のチェ-ンメール。もう、頭ぐちゃぐちゃ」
「そう……そうだったの」
そう返すが精一杯だった。
「でも、訳わかんないけど、あなたたちじゃないことはよく分かった。先生の話でも半信半疑だったけど、今のあなたたちの顔を見ていたら分かった。わたし気が楽になった。今まで一人で胸にしまい込んで……でも、ここまで分かってくれる友達が五人もできた。ありがとう!」
あとは、六人で泣きの涙だった。先生はあたしたちを六人だけにしてくれ、次の授業は進路指導のための公欠あつかいにしてくれた。
バン! バシュバシュ バシュバシュ……
帰りの電車、対向電車とすれ違う時にビックリしてしまう。
新幹線がすれ違うほどじゃない、いつも乗ってる小田急だしね。でも、ボンヤリしてて不意打ちだったのでビックリしたんだ。
すれ違ってる何秒間、対向車の陰になって窓ガラスが鏡のようになって自分の顔が映る。
ああ、ひどい顔……
米井さんは自分を押えて、これでお仕舞にしてくれた。チェーンメールのことも『不思議な事件』と胸に収めてくれた。やっぱり、委員長をやるだけあって人格者だ。
むろん、わたしにも身に覚えのないことで、なにも呵責に思うことはないんだけど。米井さんが率先して事態を収拾した。もし逆の立場だったら、あんな笑顔で「ありがとう!」とは言えなかっただろう。
そういう、米井さんの偉さにあてられて……佐倉さくらは凹んでる。
そうだ、験直しに豪徳寺に行こう。
改札を出ると、いやでも見えるまねき猫が目に入ると、そう決心した。
モスラ~ヤ モスラ~……
いつの間にかモスラが頭の中で聞こえ出して、そのリズムに乗って商店街を抜け、数カ月ぶりに豪徳寺を目指す。
モスラでよかった。これがちょっと前のダスゲマイネだったら、まっすぐ家に帰って布団被って寝てる。
あれ?
ここを曲がったら豪徳寺の山門……と思ったら、世田谷熊野明神。
前は、豪徳寺の帰りに世田谷熊野明神が現れた。
思った、ここをパスしたら豪徳寺どころか、自分の家にも戻れない。
だから、最初から目的地だったように、一礼して鳥居を潜る。
以前と同じ巫女さんが箒を動かしながら笑顔で挨拶してくれる。
二礼二拍手したところで――人魚の肉はどうするぅ?――と頭の中で声がする。
――ありがとうございます。でも、今日はけっこうです――
ガチャガチャ
今どき珍しい籤の筒を振って……え、百一番?
お御籤に三桁の番号ってあったっけ?
窓口で「えと、百一番なんですけど……」と巫女さんに告げる。
「それはそれは……百年に一度しか出ない籤ですよぉ」
え、なんかオチョクラレてる?
いっしゅん思ったけど、曖昧に笑って籤を受け取る。
超吉
え、ちょーきち?
「お御籤に超吉ってあるんですか?」
思わず巫女さんに聞く?
「はい、百年に一回(^▽^)」
「ありがとうございます」
鳥居に戻りながら続きを読むと『この後、豪徳寺に参るべし』と一行だけ。
その後、予定どおり豪徳寺に寄って、一番小さなまねき猫を買って帰る。
来た道をそのまま戻ったんだけど、思った通り熊野明神を見かけることは無かった。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
- 周恩華 謎の留学生