RE・かの世界この世界
待てっ!!
タングリスがイグニッションを押そうとした時、凛として制止の声があがった。
え?
それがブリの声だと脳みそが理解するのに数秒を要した。いつもの気まぐれで小学生気分が抜けない中坊のようなブリではなかった。凛とした声に瞬時戸惑ったが、身を乗り出したブリの表情は幼いながらも天晴れヴァルキリアの姫騎士のそれであった( ゚Д゚)!
驚く間もなくブリは続ける。
「禍々しいものがやってくるぞ!」
そう続けてペリスコープに食らいつくブリ。
タングリスもキューポラの八つあるペリスコープを舐めるように確認した。
「「あれは……!?」」
発見の声は主従同時だ。
「おまえたちも見ろ」
促されて、わたしもケイトとペリスコープに食らいついた。
なんだ、あれは……(°д°)?
それは、数千個の泡が緩く集合してボンヤリと人型になったものだ。
蚊柱の一匹一匹が蚊ではなく泡粒なのだと言ったら分かるだろうか……それが身の丈五十メートルほどになってやってくるのだ。
「確認だ!」
ブリがキューポラから飛び出し、わたしたちも続いた。
「伏せろ!」
「イテ!」
ボンヤリ出てきたケイトがブリに押さえつけられる。
寝ていた時はケイトと似た者同士に見えたが、文字通り覚醒すると、その差は歴然だ。
「……シリンダーが融合しかかっているんだ」
数秒観察してブリが結論を出した。
泡粒に見えたのはシリンダーだった。
一つ一つのシリンダーは融合の中心から逃れようとしているのだが、引力が強すぎて逃れられないロケットのように放物線を描いて引き戻され、少し力の強い個体は人工衛星のように融合体の周囲を回っている。引力に逆らって逃げおおせている者は、ほんの僅かだ。
「結合体以上のものになりかかっている」
ムヘンの南半分、ブリと囚人地区を出ようとして散々悩まされたのがシリンダーの結合体だ。
数百のシリンダーが縦に結合して無数に繋がったダンゴのようになって、次々に襲い掛かって来た。
シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
ムヘンの流刑地ではブリの結界で身を隠し、タングリスとタングニョ-ストが操縦する超重戦車ラーテに助けられた。あの時の結合体の三乗倍も禍々しい。
「逃げます!」
タングリスが促した。
「いや、成敗する!」
ブリは、スックと砲塔の上に立ち上がり、拳を天に突き上げた!
「姫! ブリュンヒルデ姫!」
禁じられたはずの真名で制止するタングニョースト!
「完全に融合してしまっては手に負えなくなるぞ、今なら倒せる!」
ブリのツインテールが光を帯びて生き物のように融合体目がけて伸びていく!
ブリュンブリュン! ブリュンブリュン!
これまでの戦闘でツインテールの威力は知っているつもりだったが、いま目にしているものは次元が違った。
『中二病でも恋がしたい!』の凸守早苗を思い出したが、その勇姿と威力は遥かにその上をいく!
って……なんのことだ? いきなり別人格が湧き出たような気がしたが、直ぐに小早川照姫の意識に戻った。
荒々しくうねるツインテールは、もはや独立したモンスターだ!
ブリは、そのモンスターを操る荒ぶる神だ!
グギギギ…………ブリュン!!
ツインテールが撓ったかと思うと、パチンコのゴムのようになってブリを空中に打ち出した!
いや、ブリが突出してツインテールを従えているのだ!
シリシリ シリン!
融合体は、それに気づいて、体ごとこちらを志向し始めた。
「我々も続こう!」
「うん!」
「おお!」
わたしたち三人も続いてジャンプした!
☆ ステータス
- HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト
- 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル
- 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
- テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
- ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ
- ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
- グリ(タングリス) トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
―― この世界 ――
- 二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
- 中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
- 志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長