大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・まどか 乃木坂学院高校演劇部物語第二章全公開!

2013-11-28 07:25:12 | 小説
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語
第二章全公開!『第二章 アンダースタディー』
     
           

 この第二章は、部分公開でしたが、昨年アップロ-ドしてから、好評で、たくさんの方々にアクセスしていただきました。そこで、出版した第二章を全部公開いたしました。この二章には、この物語のエッセンスが詰まっています。もし、全編を読んでやろうという方がいらっしゃいましたら、お近くの書店でお取り寄せいただくか、AMAZONなどをご利用ください。または最後に示しました版元の青雲書房に直接お申し付けください。
 
  読者のみなさまへ    大橋むつお



その夜、わたしは寝床でスマホを手に悶々としていた。
悶々って「もだえ苦しむ」って意味だけど、もだえてはいなっかった。じっと仰向けになってスマホとにらめっこ。でも心はもだえていた……でもって、ラノベくらいしか読まないわたしのボキャブラリーでは、この表現が精一杯。


 なにを悶々としていたかというと、「観客動員」なのよね。
コンクールの観客って、手の空いた出場校や、出演者の友達、家族程度。まちがってもコンビニでチケ買ったり、ネットで予約してくるお客さんなんかいないのよね。
 だいたい、入場料そのものとらないんだもん。とったら、それこそ誰も来なくなる。甲子園の「高校野球大会」はアルプス自由席でも五百円の入場料をとっている。高校生のお芝居だって、三百円くらいはとってもいいんじゃないかと、乃木坂で演劇部やってると思うんだけど(それだけ、プライドと自信はあるのよね)
でも、他の学校は、どうかすると学芸会。とても、お金とって他人様にお見せできません。
 で、マリ先生のご命令で、一ヶ月も前から各自観客動員に力を入れている。
 わたしも主だった友達なんかにはメールを送りまくった。

 でも、リハの夜になってもメールを送りかねているヤツが一人……。

 わたしの元カレ、大久保忠友……。
 アイツとは、去年の秋、あらかわ遊園でデートして以来会っていない……。
受験をひかえた去年の秋、久々に「デートしようぜ」ってことになり、互いにガキンチョのころからお馴染みのあらかわ遊園。
 都電「荒川区役所前」から、九つ目があらかわ遊園前。お互い小学校の遠足で来て以来。ガキンチョに戻ったようにはしゃいでいた。都電の中でも、遊園地の中でも。
 互いに意識していたんだ、このデートが特別なものになる予感……それが嬉しくって、怖くって、はしゃいでいた。

 彼とは、中二のときに同じクラスになり、いっしょに学級委員をやったのが縁。二人ともお祭り騒ぎが大好き。で、クラスのイベントは二人で企画して意気投合。意識したのは、文化祭の取り組みで一等賞をとったとき。実行副委員長をやっていたはるかちゃんが表彰状を読み上げてくれた。実行委員長の先輩が、閉会式の直前に足をくじき、はるかちゃんが代読。
「……よって、これを表します。南千中学文化祭実行委員長 山本純一。代読五代はるか。おめでとう……」
 幼なじみの顔になって、はるかちゃんが表彰状を渡そうとしたとき、突然いたずらな風が吹いてきて、表彰状が朝礼台の前で舞い上がった。
「あ、ああ……」
 慌てた忠クンとわたしは、表彰状を追いかけてキャッチ……そして、お互いもキャッチ……つまりね偶然のハグ……ってか、モロ抱き合っちゃいました。それも、なんという運命のいたずら。互いのクチビルが重なってしまった!
 わたしにとって……多分アイツにとっても、ファーストキスは何百人という生徒と先生たちの公衆の面前で行われたのよね(アセアセ……)

 で、その時も、二人の顔は至近距離にありました。
 観覧車の、わたしたちのゴンドラがテッペンにきて、なんとなくスカイツリーの絶景に目が奪われた時だったのよね……。
「……オレ達、恋人にならないか!?」
「え……あ、あの……」
 この突然には予感があったんだけど、イザとなったら言葉が出ない。
「オレは青山の修学院、まどかは乃木坂だろ、別れ別れになっちまうしさ……」
「う、うん……」
「だから、この際はっきりと……」
 わたしは「恋人」という言葉で、文化祭のときの、あの感覚がクチビルに蘇ってきてとまどった。
 わたしは、せいぜい「卒業しても、いっしょにいよう。つき合っていこう」ぐらいの言葉しか予感していなかった。
 忠クンの告白は、スカイツリーの絶景と共に、わたしの心に突き刺さった。
うつむいて、言葉を探しているうちにゴンドラは地上に着いた。これが他の、もっと大きい大観覧車だったら、わたしも、それなりのリアクションできたんだけどね……。
 観覧車を降りると、なんだかみんなが二人のことを見ているような錯覚がした。順番待ちをしていたクソガキが「あ、アベック! アベック!」なんて言うもんだから、わたしは大急ぎで、気の利いたつもりで、こう言ってしまった。
「キミの名前と同じくらいでいようよ」
 彼は、わたしから「キミ」などという二人称で呼ばれたことないもんだから、コワバッて聞き返してきた。
「キ、キミの名前って……」
「自分の名前忘れたの?」
「え、ええ……?」
「大久保忠友クン」

 あらためて言っとくね、ヤツの名前は「大久保忠友」ここで、ピンときた人はかなりの歴史大好きさんです。
 そう、ヤツは大久保彦左衛門の子孫。彦左衛門の名前は正確には「忠教」で、代々の大久保家では、男の子の名前に「忠」の字がつく。そいでヤツは「忠友」ってわけ。
偉い人の子孫に織田信成ってフィギュアースケートの選手がいるのは知ってるわよね?
 彼はオチャメな人で、ご先祖の織田信長さんが「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」って言ったのをうけて、「鳴かぬなら、それでいいじゃんホトトギス」と言ったとか。ヤツには、そんなウィットがないもんだから「え、ええ……」になっちゃうわけよ。だから、わたしも言わずもがなの解説しちゃったわけ。
「大久保クンは忠友でしょ、タダトモ!」
 これ、なんか携帯のコマーシャルにあったなあと、そのとき頭に……ヤツの頭にも浮かんだみたい。
「ただの友達か、おれたちって……」
「……うん」
「そうか……」
 わたしたちは、意味もなく黙って園内を歩いた。
――そんなシビアな反応しないでよ。わたしはヤツの背中をにらんだ。

「あ、コスモス……」
 植え込みに、遅咲きのコスモスが一輪。わたしは機転を利かして、そのコスモスを手折った(われながら、ミヤビヤカだと思ったのよね)
「これ……」
「植え込みの花とっちゃダメだろ」
「いいじゃん、一つぐらい」
「で、なんだよ。この花?」
「コスモス。家帰って、ネットか辞書で調べなよ!」この唐変木!
 わたしは一輪のコスモスを不器用に持てあましているヤツを置いて、さっさとゲートをくぐり、一人で都電に乗って家に帰った
 コスモスの花言葉はね、「乙女の愛情」なんだぞ……。
 結局「日付、時間、芝居のタイトル、フェリペの場所」だけをメールで、ヤツに打った。


 ドーン! と、晴れ渡った秋空に花火は上がらなかったけど、城中地区の予選が始まった。全てが順調だった、その時までは……。
 私たちの乃木坂学院は、抽選で、出番は二日目の大ラスになっていた。部長の峯岸先輩だけは初日から全ての芝居を観ていた。峯岸先輩は三年がみんな引退した中ただ一人、現場に残ってくれた。特別推薦で進学が確定していたからでもあるけど、次期部長に決まっている舞台監督の山埼先輩に、部長としての有りようを示すため。
 初日の朝、わたし達は乃木坂の講堂で、最後のリハをやった。午後は実行委員の仕事として割り当てられていた舞台係と、受付をやった。潤香先輩は、カワユク受付……と、思いきや、がち袋を腰に、ペットボトルを太ももにガムテープで留め(バラシのときに出る釘や、木っ端なんか、要するに舞台上に残った危ない小物を拾うため)長い髪をヒッツメにして働いていた。バラシの最中、K高校のスタッフが声をかけないで、三六の平台を片づけようとして、二人で担架のように担いでいた。木っ端を拾っていた先輩がちょうど立ち上がり、その平台の横面に頭をしたたかに打ちつけた。
「アイテー! だめでしょ、もの動かす時は声かける!」
「すみません」
「でかいタンコブができちゃった……気をつけてよね!」
 他校の生徒でも、エラーには手厳しい。K高校のスタッフは、二人揃って頭を下げ、そのあと上目づかいにこう聞いた。
「すみません……あのう、乃木坂の芹沢……潤香さんですか?」
「え、ええ、そうだけど……」
「ウ、ウワアー! ホンモノだ!」ポニーテールが叫んだ。
「わたしたち、去年の『レジスト』観て、感動したんです!」カチューシャも叫んだ。
「あ、それは、ドモ……」潤香先輩は戸惑った。
 K高の二人のテンションは高く、ミニ握手会。で、写メを撮って、メアドの交換までやった……ところで、マリ先生の声が飛んできた。
「そこ、なに遊んでんの!?」


 二日目、昼一番の芝居が終わると、部員全員楽屋に招集された。予定より二時間も早い。
「先生、なにが……」
「全員が揃ってから……」
 山埼先輩がつぶやいた。

「潤香が倒れた」

 全員が揃うと、マリ先生は組んだ腕をほどきもせずに冷静に告げた。
「今朝、家を出ようと、玄関で靴を履こうとして……今は、意識不明で病院」
「え……」
 あとは声も出ない、遠く彼方を飛ぶ飛行機の無機質な音が耳についた。
「わたしは、これから病院にいく。で、本番のことなんだけど……」
 そうだ、三時間先には本番……でも、主役の潤香先輩がいなっくちゃ……。
「選択肢一、残念だけど今年は棄権する」
 そりゃそうでしょうね。みんなうつむいた……そして、先生の次の言葉に驚いた。
「選択肢二、誰かが潤香の代役をやる」
 みんなは息を呑んだ……わたしはカッと体が熱くなった。
「ハハ、無理よね。ごめん、変なこと言っちゃって。ヤマちゃん、地区代表の福井先生に棄権するって、言っといて。トラックは定刻に来るから、段取り通り。戻れたら戻ってくるけど、柚木先生、あとをお願いします」
「はい、分かりました」
 副顧問の柚木先生の言葉でスイッチが入ったように、山埼先輩とマリ先生が動き出し、ほかのみんなは肩を落とした……で。

「わたし、やります!」クチバシッテしまった……。

 みんながフリーズし、山埼先輩はつんのめり、マリ先生は怒ったような顔で振り返った。
「まどか、本気……?」
 柚木先生が、暴言を吐いた生徒をとがめるように言った。
「…………」
 マリ先生は地殻変動を観察する地質学者のように沈黙して、わたしの目を見つめている。
「わたし、潤香先輩に憧れて、演劇部に……いいえ、乃木坂に入ったんです。コロスだけど、稽古中はずっと潤香先輩の演技見てました。台詞だって覚えています。動きも、こっそりトレースしてました。潤香先輩のそっくりショーやったら優勝まちがいなしです!」一気にまくしたてた。
「上等じゃないのよさ……その目、入部したころの潤香そっくり。小生意気で、挑戦的で、向こう見ず。心の底じゃビビッテるんだけど、もう一人の自分が、その尻を叩いている……やってみなアンダースタディー(この意味はあとで言います)」
「ほんとですか!?」
「まどかは、潤香よりタッパで三センチ、バストは四センチ、ヒップは二センチちっこい。ウエストはまんまで衣装補正。本番までに一回、台詞だけでいいから通しておくこと!」
マリ先生は、わたしの肉体的コンプレックスを遠慮無く指摘。
「バーックション!」
 気合いを入れたときのクセというか、発作というか、トレードマークのクシャミ一つして、楽屋を去っていった。

 スカートの丈を少し補正しただけで、衣装の問題は解決……させた。
 衣装係の、今時めずらしいお下げの、かわゆげな一年のイトチャンは、こう言った。
「バストの補正って大変。なんだったら『寄せて上げるブラ』買ってこよっか?」
「これで問題なし!」
「だって……」
「先生の指摘は、目分量。そんなに違いはないのよサ!」
 と、胸と見栄を張って、おしまい。

――ただ今より、乃木坂学院高校演劇部による、作・貴崎マリ『イカス 嵐のかなたより』を上演いたします。ロビーにおいでのお客様はお席にお着きください。また、上演の妨げになりますので、携帯電話は、スイッチをお切り頂くようお願いいたします。なお上演中の撮影は上演校、および、あらかじめ届け出のあった方のみとさせていただきます。それでは……あ、神崎真由役は芹沢潤香さん急病のため、仲まどかさんに変更……。

 客席に静かなどよめきがおこった。張り切った見栄がしぼんでいく……。
 本ベルが鳴って、嵐の音フェードイン。緞帳が十二秒かけて上がっていく……。
 サスが当たって、わたしの神崎真由の登場。
「わたし、あなたのことなんか心配してないから」
 最初の台詞。自分でしゃべっている気がしなかった……潤香先輩が降りてきて、わたしの口を借りてしゃべっている。
 中盤まではよかった、そういう錯覚の中で芝居は順調に流れていった。
 でも、パソコンの文字入力をワンポイント間違えたように、微妙に芝居がずれてきた。
 勝呂先輩演ずる男の子を張り倒すシーンで、間尺とタイミングが合わなくなった。
 パシーン! という派手な音がして、勝呂先輩はバランスを崩し、倒れた。ゴロゴロ、ザーって感じでヌリカベの八百屋飾りの坂を舞台鼻まで転げ落ちた。
一瞬間が空いて、立ち上がった先輩の唇は切れて、血が滲んでいた。
あとは覚えていない。気がついたら、満場の拍手の中、幕が降りてきた。
 習慣でバラシにかかろうとすると、舞台監督の山埼先輩に肩を叩かれた。
「なにしてんだ、主役だぞ。勝呂といっしょに幕間交流!」

客電が点いた客席は、意外に狭く感じられた。みんなの観客動員の成果だろう、観客席は九分の入り(後で、マリ先生から七分の入りだと告げられた。そういう観察は鋭い。だれよ、スリーサイズの観察も正確だったって!?)
 観客の人たちは好意的だった。「代役なのにすごかった!」「やっぱ乃木坂、迫力ありました!」なんて上々の反応。中には専門的な用語を知ってる人もいて「正規のアンダースタディーとしていらっしゃったんですか?」てな質問も。わたしも一学期に演劇の基礎やら専門用語は教えてもらっていたので、意味は分かった。
 日本のお芝居ではほとんどいないけど、欧米の大きなお芝居のときは、あらかじめ主役級の役者に故障が出たとき、いつでも代役に立てる役者さんがいる。本番では別の端役をやっているか、楽屋やソデでひかえている。
「……いえ、わたし、潤香……芹沢先輩には憧れていたんで、稽古中ずっと芹沢先輩見ていて、そいで身の程知らずにも手を上げちゃって」
 そのとき、客席の後ろにいた人が拍手した……あ、あいつ……!?
そのあと、スタンディングオベーションになって、ヤツの姿はその陰に隠れた。その刹那、赤いジャケットを着たマリ先生が客席の入り口から入ってくるのが分かった。
 その姿は遠目にも思い詰めたようにこわばっているのが分かった。

 いったい何が起こったんだろう……。


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