鳴かぬなら 信長転生記
春物がショ-ウィンドウに並び始めたと思ったら、もう秋物のクリアランスセールだ。
こないだまで開けていたアーケードの天井もふたを閉め、お店によっては暖房を入れ始めた。
豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)は、この半年で豊盃の人気スポットになった。
パサージュ全体の売り上げは半年で八割増し。コウちゃん(孫策妃大橋)の『グランポット アンティケール』は筋向いの書店を吸収して倍の規模になった。
書店も善戦していたんだけど、パサージュの中央十字路(パサージュの一等地)の店舗としては見劣りがした。日に二回行われるイベントの時間には書店は空になった。喫茶店、飲茶、アンティケールの三店は、イベントの時間でも店内は一杯。書店の前は見物客で溢れるが、書店は空になることが多くなった。
「いえいえ、不足は無いんです。年寄夫婦の店としては十分商売になります。でも、ここの賑わいには他のお店が入った方が良いかと思います」
店主はパサージュが出来る前から豊盃楼の一階で書店をやっていて、もともと数年の内には店を畳むつもりでいた。
お客も半世紀前の創業のころからのお年寄が多く、パサージュの賑わいを面白がっているけど、ちょっと気圧される感じがして、イベントの時間を避けるようになってきたんだ。
コウちゃんは、この先輩書店とお客に敬意を払って、以前と同じ店賃で中央十字路に、いわば頼み込んで店を出してもらっていた。なんせ、コウちゃんは豊盃楼そのもののオーナーでもあるんだからね。
けっきょく、老夫婦の権利は残して姉さんが書店を借りる形で引き継いだ。
オーナーが店子に賃料を払うというおかしな関係だけど、関係者も、パサージュのお客さんたちも粋な計らいだと喜んでくれている。
書店跡のお店はアンティークというよりはファンシーショップ。
よそのファンシーショップと違うのは、本業のアンテークショップで人気の有った、もしくは人気の出て欲しい商品のミニチュアグッズ。
製造は、呉の王立美術学校の生徒にやってもらってる。生徒たちはいい勉強になるし、学費や小遣いの足しになって喜ばれている。例えば秦の時代の刀を模したペーパーナイフやかんざしを1/4にしたヘアピンにしたものなんかが良く売れた。
そして、この店の店番をしているのがリュドミラ。
最初は、古田織部、こっちでは越後屋を名乗ってる。そのガードとしてやってきて、ひょんなことで子どもの頃に憶えた胡旋舞をバザールで披露するハメになり、これが大評判になって、古田織部が茶姫とともに扶桑に戻ってからは、このパサージュのイベントで胡旋舞のダンサーとして活躍している。
「ねえ、胡旋舞と店番と、どっちがいい?」
お客の流れが途切れた時に聞いてみた。
「わたしは狙撃手だ」
「そんな物騒なこと言わないでさ」
「だって、転生前からの天職だ。ここへも、その腕を買われてガードとしてやってきた」
「ボクは、胡旋舞のダンサーが向いてると思うよ。踊ってるとき、リュドミラはとても生き生きしてるし」
「そうか?」
「そうだよ、店番してるときは、めちゃくちゃ仏頂面だし」
「これがデフォルトだ」
「アハハ……せめて、ジト目でお客を睨むのは止めた方がいいと思う」
「……生まれつきだ、なおらん」
「そんなことないよ、ほら、この写真なんか(カメラに保存してある写真を見せる)……ほら、ちゃんと微笑んでるし、ジト目じゃないし」
「しゃ、写真を修正するな(#'∀'#)」
「修正なんかしてないよ」
「うそ(#'・'#)」
「無修正だってば!」
「ちょっとぉ、こっちの店まで聞こえてる」
「あ、コウちゃん」
「写真見ながら無修正って叫ばないでよ、お客さんが誤解するから」
「「え?」」
女子高生のお客が真っ赤な顔して逃げるし、おっさんの客は変な期待で見てるし(^_^;)。
「週刊誌と新聞、納品きてるわよ、あ、いらっしゃいませ~(^▽^)」
無修正の注意をすると向かいの店に戻るコウちゃん。
店の前の納品を取りに行く。
ファンシーショップだけど、パサージュで新聞を売っている店は無いし、書店の頃からの付き合いもあるので売っている。
「よいしょっと」
「お……」
「読むんだったら運んでからにしてよ」
「あ、ごめん。三蔵法師、大活躍みたいだねえ」
新聞の一面には『三蔵法師一行大活躍!』の見出しが躍って、仏像に化けた妖怪をやっつけた一行の写真が載っていた。一昨日も牛魔王と羅刹女をやっつけた記事が出ていたし、その前は玉門関の活躍だった。
ちょっとブームになるかもしれないと思った。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主