巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
170『年度末と防寒対策』
170『年度末と防寒対策』
三学期が始まって三日目の朝、いつものようにロコと駅を出たところでいっしょになって学校を目指す。
ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ
交番の前を通って商店街に入ったところで、盛大に道路工事をやっている。
さすがに塞がっているのは道幅の半分なんだけど、通勤通学の邪魔。
「迂回しますか」
二年の三学期ともなると近隣の地理に明るくなって、相談しなくてもう回路に足が向く。
「年度末が近いから、駆け込み工事が増えるんですよね」
「駆け込み?」
「市とか県の予算ですよ。使い切らないと来年度の予算減らされますからね」
「そうなん……ウワ!」
ちょっとした舗装の段差に引っかかって、ロコが咄嗟に手を引いてくれて助かる。
「あ、ありがとう(;'∀')」
「ここはクリスマス前に工事したとこですねえ、舗装工事は向こうと合わせて来年度予算といったところですね」
「アハハハ……来年度予算ねぇ(^_^;)」
これだけの工事なのにガードマンも付いていないし、案内板すらない。
だいたい通学時間帯の通学路の道路工事なんて反則だと思う。まあ、片側封鎖だし、昭和的ファジーさと嘆きの虫を押し殺して学校へ急ぐ。
ロコはいつも通りにカバン一つ。わたしはカバンを右手に、左手で紙袋を抱えている。この紙袋で足元が視界不良になってるんだ。
「ああ、窓際になったんですねぇ……」
ロコも思い当たって、今さらながら同情してくれる。
実は、昨日の席替えで入学以来初めて窓際になったんだ。
宮之森はいちおう鉄筋校舎だけど、中身はポンコツ。
教室のドアは鍵も掛からない木製で、教室は年に二回は油びきが必要な板張り。
むろんエアコンなんてあるはずもなく、冬の暖房は教壇横のガスストーブで間に合わせている。
間に合わせているというのは、他にも改善しなきゃならないところがあるからなのよ。
それが、南側の窓。
窓枠は、さすがに木製じゃないけど、令和じゃ常識のアルミサッシでもない。
なんと鉄製!
それも左右に開く引き違い式じゃなくて、まるで車のハッチバック!
下の方に真鍮のクランクというか掛け金があって、それを横にクイっと倒して外側に押す!
すると窓は0度~45度くらいに傾斜して、傾斜した窓の上と下から空気が出入りするというシロモノ。
密かにググると『横滑り窓』というらしい。気密性が高いのが売りらしいけど、ゴムとかシリコンとかのパッキングが無いものだから隙間風がハンパない。
横滑り窓の上にはスライド式の窓もあるんだけど、こいつも隙間風を遮断するようにはできていない。
この隙間風と、一重の窓から容赦なく忍び寄る寒気防止のための防寒具が必要なわけ。
毛糸のひざ掛けと座布団。
「もうちょっと魔法が使えたら、妖気の膜を張って寒さなんて一発で克服できんのにね」
お祖母ちゃんは、わたしを本物の魔法少女にしたくて余計なことを言うけど、その手にはのらない。
それに、ストーブなんだけど。暖気は全部教室の上1/3ぐらいのところに溜まって降りてこない。
埼玉の茶畑にあった防霜扇を付けて欲しいと思った。
一時間目が終わって、わたしの後ろになった加奈子が質問してきた。
「ねえ、ずっと指を回してたけど、なんなのあれ?」
「え、ああ……寒さで指が凍えそうで……アハハハ(^_^;)」
「え、ああ、そうなんだ……」
不得要領な顔の加奈子。
実は、魔法で教室の空気を循環させようと無駄な努力をしていた。
壁の向こうの覗き見魔法しか使えないわたしには無理な魔法なんだけどね、溺れる者は~的な悪あがき。
まあ、手首だけは、ちょっとだけ暖かくなったかも。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長 伯父:武藤頼政
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 長瀬(保健部長) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん 伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人
ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ
交番の前を通って商店街に入ったところで、盛大に道路工事をやっている。
さすがに塞がっているのは道幅の半分なんだけど、通勤通学の邪魔。
「迂回しますか」
二年の三学期ともなると近隣の地理に明るくなって、相談しなくてもう回路に足が向く。
「年度末が近いから、駆け込み工事が増えるんですよね」
「駆け込み?」
「市とか県の予算ですよ。使い切らないと来年度の予算減らされますからね」
「そうなん……ウワ!」
ちょっとした舗装の段差に引っかかって、ロコが咄嗟に手を引いてくれて助かる。
「あ、ありがとう(;'∀')」
「ここはクリスマス前に工事したとこですねえ、舗装工事は向こうと合わせて来年度予算といったところですね」
「アハハハ……来年度予算ねぇ(^_^;)」
これだけの工事なのにガードマンも付いていないし、案内板すらない。
だいたい通学時間帯の通学路の道路工事なんて反則だと思う。まあ、片側封鎖だし、昭和的ファジーさと嘆きの虫を押し殺して学校へ急ぐ。
ロコはいつも通りにカバン一つ。わたしはカバンを右手に、左手で紙袋を抱えている。この紙袋で足元が視界不良になってるんだ。
「ああ、窓際になったんですねぇ……」
ロコも思い当たって、今さらながら同情してくれる。
実は、昨日の席替えで入学以来初めて窓際になったんだ。
宮之森はいちおう鉄筋校舎だけど、中身はポンコツ。
教室のドアは鍵も掛からない木製で、教室は年に二回は油びきが必要な板張り。
むろんエアコンなんてあるはずもなく、冬の暖房は教壇横のガスストーブで間に合わせている。
間に合わせているというのは、他にも改善しなきゃならないところがあるからなのよ。
それが、南側の窓。
窓枠は、さすがに木製じゃないけど、令和じゃ常識のアルミサッシでもない。
なんと鉄製!
それも左右に開く引き違い式じゃなくて、まるで車のハッチバック!
下の方に真鍮のクランクというか掛け金があって、それを横にクイっと倒して外側に押す!
すると窓は0度~45度くらいに傾斜して、傾斜した窓の上と下から空気が出入りするというシロモノ。
密かにググると『横滑り窓』というらしい。気密性が高いのが売りらしいけど、ゴムとかシリコンとかのパッキングが無いものだから隙間風がハンパない。
横滑り窓の上にはスライド式の窓もあるんだけど、こいつも隙間風を遮断するようにはできていない。
この隙間風と、一重の窓から容赦なく忍び寄る寒気防止のための防寒具が必要なわけ。
毛糸のひざ掛けと座布団。
「もうちょっと魔法が使えたら、妖気の膜を張って寒さなんて一発で克服できんのにね」
お祖母ちゃんは、わたしを本物の魔法少女にしたくて余計なことを言うけど、その手にはのらない。
それに、ストーブなんだけど。暖気は全部教室の上1/3ぐらいのところに溜まって降りてこない。
埼玉の茶畑にあった防霜扇を付けて欲しいと思った。
一時間目が終わって、わたしの後ろになった加奈子が質問してきた。
「ねえ、ずっと指を回してたけど、なんなのあれ?」
「え、ああ……寒さで指が凍えそうで……アハハハ(^_^;)」
「え、ああ、そうなんだ……」
不得要領な顔の加奈子。
実は、魔法で教室の空気を循環させようと無駄な努力をしていた。
壁の向こうの覗き見魔法しか使えないわたしには無理な魔法なんだけどね、溺れる者は~的な悪あがき。
まあ、手首だけは、ちょっとだけ暖かくなったかも。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長 伯父:武藤頼政
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 長瀬(保健部長) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん 伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人