本当は一刻も早くテレビを見たくて
気もそぞろだったけれど、
チェックインするなり別室に通され、
いろんな質問が矢継ぎ早に飛んできた。
日本語で書いたたくさんのメニューを見せながら
流暢で、淡々とした日本語を浴びせかける。
「ハイ、それでは朝食のメニューから
お選びクダサイ。
和食、アメリカンブレックファースト、インドネシアンスタイル。
ハイ!どちらにしますか?」
「あ・・・。えっと・・・。
じゃあ、あの、和食で・・・。」
「ハイ!では、ごはん、おじや、おかゆ、どれにしますか?」
「デハ、次。
昼食は?夜は?あさっての朝は?
何時カラニシマスカ?」
すべてのメニューをついたばかりのボーっとした
気分のなか、圧倒されるようなペースで
手際よく答えさせられる。
そして、次に
エステメニューを選ぶ。
たくさんのガラスの小瓶にはいったアロマオイルのビンが
並んでいて、香りをかぎながら効能を説明してくれて
好みのオイルをチョイスする。
“エステティック ヴィラ”の名前通り
幾通りもの豊富なコースから1泊につき3種類を選ぶことができる。
この際だから、ぜんぶ丸ごと!
ボディーも、フェイスもヘッドも♪やった!
あれこれずっと迷いたい気持ちもあったけど、
サッカーも進行中だし、
こういうことは、パッと決めちゃおう。
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翌朝は、朝食後に
プールサイドでのんびりしたり
ヴィラの前の池を眺めながら本を読んだりしながら
11時からエステが始まった。
ヴィラの奥にある専用のエステルームで
ぜいたくな気分。
そして、ヴィラのコテージで食べる
バリの野菜を使ったベジタリアンランチ。
エスニックな味でたっぷりヘルシー。
午後からは、表で
風に吹かれて小鳥のさえずりや、池を流れる
水の音を聞きながらヘッドスパ。
日ごろの喧騒や、疲れをほどく
極上の時間。
毎日を疾走しているからこそ
こんな、ゆるりとしたひとときが心に沁みわたる。
ごほうびの時間は、自分自身で作り出し
計画して、実行する。
誰かからもらおうと思ってしまう
他人に振り回されるタイプ。
いつも向上しないとダメなのではないかという
観念にとらわれて自分にやたら厳しく、
“ごほうび”という存在じたいを考えつかないタイプ。
そのどちらでもなく、
ほどよく働き、ほどよく遊ぶ。
そんなスタンスが、やっぱり自然体で
自分らしさをキープできるコツ、なんだと思う。
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そんな、大切なコトがわかっているのに
自由を、ぜいたくな時を、至福のときを
たっぷり満喫しているはずなのに、
併設しているホテルに泊まっている
カップルや女性友だちたちのグループの
楽しそうなおしゃべりを聞くと、
急に淋しくなる。
あれ?なんで私、ひとりなんだろう?
一瞬の間、ホームシックのような気分になる。
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人間って、ホントに果てしなく
ないものねだりだ。
ずっと一緒だと、うっとうしくなってくる。
でも、しばらく離れていると恋しくなってくる。
わずらわしくなると、一人っきりになりたくなってくる。
なのに、ほっておかれるとむしょうに気になり始めてくる。
どっちにしても、満足できない。
そして、
今ここにある大事なものより、
手に入っている大切なことより、
去っていってしまったものを嘆き、悲しむ。
現状が恵まれていると、わかっているし
感謝しているけど、
手放してしまったことや、
もう二度と元に戻らないであろうことを
まったく別ものと考えてしまって、
いつまでも想いが残って先に進めなくなる。
今の幸せな環境は、それはそれ。
それはいいけど、
辛くて悲しい過去を消し去れないの・・・。
時に人は、
そんな風な迷路に迷い込み、出口を見失い
いつまでも同じ道を行ったりきたりして
途方にくれる。
出口を見つけるのに、ぜったい的な方法も
特効薬もないし、焦ることはないけれど
もし、通り抜けることのできる考え方の
ヒントがあるとするならば、
ぜんぶをトータルして、ひっくるめて考えることだ。
ひとつだけをクローズアップすると
虫めがねみたいに、やたら大きく見えてしまう。
拡大鏡はよく見えるけれど
細部まで見えすぎてそれがすべての世界だと
錯覚を起こすようになる。
なにかのタイミングで、そのめがねをはずした時、
あれれ?そんな大変なコトでもなかったのかな?と
思えるようになったり、
意外とぜんぜん大丈夫だったんじゃない。などと
思っていたより、なんてコトなかったりすることも多いもの。
つまり、常に全体像を見渡す客観的な視点と、
感情に流されず、
うねりに飲み込まれない自分自身を産み出して、
両方の視点からバランスを見ていくこと、
なのかもしれない。
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私は、一人が大好き!という
孤独を愛するタイプでもないし、
みんなといないとダメ!という
淋しがりやでもないし、
家族もいるし、
友だちもたくさんだし、
応援してくれる人もいっぱいだし、
たくさんの出会いがあるし。
それなのに、
もっと!って何を望むんだろう?
なのに、
今一人ぼっちって、何を悲しんでいるんだろう?
いくらなんでも、ぜいたくすぎる。
そう思った瞬間、
なんだか、クスっておかしくなってしまった。
自分自身の意外な一面を知ったからである。
ふだん、まったくそんな気持ちにならないのは
本当に満たされる環境に身を置いているからなのだ。
それを感謝しているつもりでも、
そんな“つもり”だけだったんだ。
いつの間にか空気のようにあたりまえになっていて、
本気で有り難いことなのだということすら、
無意識の奥へと潜りこんでしまっていたのだと思う。
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みんながいてくれること。
それは、本当に幸せなこと。
いつも一緒にいる人も、
時々しか会えない人も。
そして、年賀状だけのやりとりだけになってしまった人も。
メールだけの関係になっている人も。
もう、今では会えなくなってしまった人も。
たくさんのみなさま、距離や時間に関係なく
私とお話してくれてありがとう♪
だから、孤独なんかじゃないんだ。
どんな時だって、どこかで、
いろんなカタチでつながっているから。
心で、ハートで、魂で。
だから、淋しくないんだ。
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全身ヨーグルトパックでしっとりしたあと、
赤い花びらでハートマークと「B A L I」と描かれた
ぜいたくなフラワーバスにとっぷりつかって
ツルツル、ピカピカな「清水薫」に仕上がった。
2日間の、
豊かで上質なデトックスタイムを終えて
すっかりと脱力した私は、
MORIMO一家が待つ
Legian(レギャン)へと向かった。
久々に会う、懐かしいいつもの顔。
早く、会いたい!
静かすぎてちょっぴり一瞬、
淋しくなっちゃった気分を振りほどくように、
今度は、にぎやかな場所へと飛び込んでいく。
一人の静寂な時間を過ごしたあとだからこそ、
みんなと過ごす時間が特別なことに思えるのだと思う。
早く、早く!
早く着かないかな。
スーツケースと一緒に、
あの諦めかけた、おまけで予約できた
Melasty Hotelへ。
はやる気持ちを抑えるように
まばゆい太陽の下を、車はマイペースに
のんびりと走っていく。