開放的なダイニングには
小さめの四角いテーブルが斜めに
たくさん配置されている。
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【↑こんなカンジでほとんどのテーブルがナフキン1つの席】
私だけでなく、多くの宿泊客が
同じように一人旅で訪れるホテルなのだと、
着席して初めて知った。
テーブルにはそれぞれ部屋番号(ルームナンバー)と
患者番号(ペーシェントナンバー)が
表記されたプレートがあり、
決まった席で食事をとることになっていて
海にむかって、まるで学校の給食のように
前に座る人の斜め位置の背中を見ながら
1日3回食べるのである。
タイミングが合わないと、
結局背中しか見なかった。
ともすると背中と顔が一致しないまま
旅を終えてしまう場合も多い。
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3日目のブレックファーストの時のこと。
右斜め前に座っていた金髪の女性のテーブルに
お花がたくさん生けられている花瓶があった。
そして、食べ終わったあたりにウェイターが
キャンドルに火を灯して、なにやら話しかけている。
なんだろう?と思い
キャンドルグラスに目を凝らすと、
「HAPPY BIRTHDAY!」とカラフルな手書きの文字で
ペイントしてあるのが見えた。
ウェイターさんがいなくなったあと、
ひとりで花やキャンドルをphoneで撮りながら
うつむきながらメールなのか、
ブログなのか、何かをチクチクと打ち込んでいた。
そうか、誕生日なんだ!
誕生日なのにひとりで過ごすの?
・・・淋しくないのかな?
まだ食事中だった私はそんなことを思っていた。
ひとこと「HAPPY BIRTHDAY!」って言おう。
そう思い、食事を終えて席を立ったとき
斜め前の座席に数歩移動し、短い言葉で伝えた。
顔を見たのはその時が初めて。
それまで背中しか見ていなかったからだ。
「Thank You!」と笑顔でいう彼女。
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その日は、いつものようにお昼まで
デイリースケジュールをこなし
ランチ後、送りに来てくれたうちの一人、
スプートニクの日本語学校の生徒さんが
世界遺産の「ゴール」に連れて行ってくれた。
ホテルのアクティビティツアーのメニューにも
あったのだが、プライベートでの散策。
実家が近いのだという。
お兄さんと一緒に迎えに来てくれた。
14世紀にアラビア人の商人によって
開かれた東方貿易地で、後にポルトガル人が
城塞を築き、オランダ人によって統治されたという
歴史をもつ「GALLE FORT(ゴールフォート)」。
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城塞内の街並みは、とても赴きがあり
かわいい色にペイントされた家々が
並んでいて、私は「わ~!超キュート~!」を連発した。
オランダ商人のコレクションを集めた
ミュージアムにいくと、
当時のコロニアルスタイルの中庭や調度品が展示され
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手で砥石を廻し、原石から宝石に磨いていく
昔ながらの手法のデモンストレーションや
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【右は大きなアメジストの原石】
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レースを編む実演の女性がいたり、
紅茶の葉を量っていたという
大きな天秤を見せてもらったり。
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色鮮やかな宝石とゴールド、シルバー。
アンティーク、新品のジュエリーがショーケースに
ところ狭しとディスプレイされている。
お手ごろなものから高価な品までが並んでいて
にわかに女ゴコロに火を灯す。
あれこれと眺めた結果、
自分の誕生石、アクアマリンの指輪に決めた。
値段交渉は、今回ゴールまで連れてきてくれて
兄弟で案内してくれて、
長時間、買い物に付き合ってくれた
「誇り」の名称を持つ息子と同年代のウィラジくん。
城塞都市の住民はイスラム教徒が多く、
対応してくれた方は、
頭に白いターバンを巻いて
まるでアラブの宝石商さながらのコスチュームに
身を包んだタミル民族。
タミル語で「幸運を♪」という言葉をいいながら
ラッピングした指輪をポトン、と
BOXの中に入れてくれたのが、
なぜだかとても嬉しくて。
1メートル先も見えない
激しいスコールと稲妻の中を
必死の思いでホテルに戻り、
明日は日本語のテストがあるから
またクルネーガラにこのままバスで戻るという
ウィラジくんとゴール方面へ戻るお兄さんに別れを告げて
いつもの夕食の時間に席についた。
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ふと、右斜め前方に視線を注ぐと、
朝と同じ花、同じキャンドルに火が灯り
今度はバースディケーキが運ばれてきたのだった。
そのままウェイターはわずかな会話を
交わしただけでいなくなり、
また彼女ひとりがテーブルに残された。
私はいてもたってもいられなくなり、
おもわず、一緒にケーキを食べよう!と
食事途中もおかまいなしに駆け寄った。
名前も知らない。
どこの国の人かも知らなかった。
どんな背景があって、どんな人間性かも関係がなかった。
何回目のバースディなのか知らないけれど、
誕生日の日に、
たった一人で「Happy Birthday to me.」で終えるのは
なんだか悲しくて淋しいから
瞬間的に駆け寄ったのだった。
そして、左の斜め後方にグループで座っていた
日本人のAさんにも声をかけ
一緒に「HAPPY BIRTHDAY!」を歌って~!とお願いをした。
いろんな国の人々が
彼女を取り囲み、手をたたき
HAPPY BIRTHDAYソングを歌ってくれた。
「もしよかったら私の席で
一緒にケーキ食べない?」と誘ってみたら
お皿を持って私の席に移動してきて、
チョコレートケーキに自らナイフをいれた。
一人じゃ食べきれないからみんなに分けるわ、といいながら
ケーキカットをして、小皿に切り分けては
周囲の人々に配っていた。
ほどなくして、ホテルの
ジュエリーショップの店員が
「ささやかですがプレゼントです。」とネックレスを持ってきた。
名前も知らないその彼女は、
ビビットな美しい色のドレスに
プレゼントのネックレスをかけると
とても良く似合っていたので
「すっごくいいね~!」と私は大絶賛をした。
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翌朝、ブレックファーストで
いつもの自分の席に向かうと
すでに昨日の彼女が私の席に座っていた。
「Good morning!」と笑顔で挨拶をされて
はた、と考えた。
もしかしてこれからずっと同じ席?
レストランは、一度席を移動すると
気を利かせて、次回からそのテーブルに
プレートが移動していて
自動的に彼女は私のテーブルに
座っている状況となるわけである。
私、英語でちゃんと会話できるのかな・・・。
毎度毎度だが、おんなじ不安が一瞬、頭によぎる。
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昨日は何してたの?
私はビーチで散歩してたわ。あなたは?
と聞かれたので、
ゴールに行ったのよ。
ね、ビーチの散歩って恐くない?
客引きの人がたくさんいるでしょ?と聞いたら
大丈夫よ、よかったら今日の午後一緒にお散歩する?
と聞かれたので、間髪いれずにYES!と答えた。
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初日以来、すっかりビーチから遠のいていたが
せっかくのオーシャンビューで目の前が海なんだし、
砂浜を歩いてみたい欲求にかられていた。
ちょっと臆病になっていたが
強そうな彼女となら心強いし、
きっと大丈夫!と思ったのだった。
私は
3時からのクッキングデモンストレーションに参加したいの。
と言うと、
じゃあ2時に出発しましょう!と約束をした。
水着を着てこわごわ後をつくようにして
そ~っとビーチに出ると、
拍子抜けするほど、なんてことなかった。
客引きの現地の人たちは
予想以上に話しかけてこない。
知らん振りしたり、No thank you!というだけで、
思った以上にあっさり諦めてくれる。
そんなに恐がる必要もないし、
億劫がる必要もないし、
そうか、仏教徒だからそんな悪いヒトもいなさそう。
急に緊張がほどけて、
体の力が抜けてきた。
そんなことよりも、
彼女の絶え間なくしゃべり続けるマシンガントークに
ちょっと面食らっていた。
だって、
何をしゃべっているのか
ほとんどわからない・・・。
ほぼ聞き取ることができなかった。
そうだった。
自分の英語レベルを考えずに
誕生日をひとりじゃ淋しいだろう、という思いだけで
話しかけただけだったもんな。
しかも、超シンプル英語で。
気持ちひとつだけだったから、私・・・。
ヤバイかも。お門違いかも。
聞き返すこともできずに
うなづく“フリ”をしていると
「understand?」と言われ
一瞬抜き打ちテストをされたようで
泣きたくなる。
こういう意味だったかな?とかなり初歩的な単語で
ドギマギしながら返答すると、
そうそう。と言われ一瞬ホッと胸をなでおろすと、
さらに英語トークが炸裂する。
ひたすらそんな会話が続き、
で?
何人だったっけ?
どこの国から来たの?
とようやく質問して
ベルギー人だと判明したのだった。
英語は「YOU」で済むから、名前を知らなくても
なんとかなるものである。
その後3時からの
クッキングデモンストレーションに
なんとか間に合い、
ようやく名前を聞き出し、
紙にスペルを書いてもらった。
そして忘れないうちに
聞いた音をカタカナでメモしておいた。
彼女の名前は「Katurien(カトリゥム)」
バツ2で、二人の息子。
ふたりとも成人していて下の息子は22才。
私と少し似た境遇。
今は一人でベルギーに暮らしていて
建築学を教えている、という。
クリスマスもこのまま
スリランカの北部に移動し
ひとりで過ごすのだと教えてくれた。
アーユルベーダは3回目。
暮らしは決して楽ではないけれど
なんとかセーブして年に一回、
長期で滞在するのが楽しみなの。
ここは初めてだけれど、他のところと比べて
今までで一番いいわ!と言っていた。
***************************
込み入った会話力に自信のない私は、
そんな時にはひたすら、質問側に回ることにしている。
ひとまず質問し、答えに対して
短いコメントを入れたり、相槌をうてば
それなりになんとかキャッチボールらしきものが
成立するからだ。
彼女とも、そんな作戦というか
パターンでいると、
とにかくしゃべるしゃべる、いつまでも・・・。
やっぱりリスニング力のなさにも
ちょっぴりメゲていた。
ベルギー人とは初めてしゃべったが
比較的クセのない英語で、聞き取りにくいわけではない。
単語が単純にわからない、という状態なのだった。
でもある時、
同じ一人旅日本人仲間のSちゃんが
「カトリゥムは、引き出しが多いよね!
色んなこと知っているのよね。
だから次から次へと色んな話題が出てくるの。」と
言っているのを聞いて、納得した。
そうなのだ。彼女はインテリなのだ。
言っている内容が歴史だったり、経済だったり
世界情勢だったり、心理学的なことだったり、
あるときは母として、女性として、
教師としての視点で話してみたり、
いろんな話が飛び出してくるので、
私のキャパシティーオーバーとなってしまうのだ。
そんな、半分ぐらいしか
理解できない会話のなかで、
聞き取れた内容にこんな話がある。
「ベルギーもね、私のおばあちゃんたちの世代は
自然や植物から作る薬やたくさんのいいものを
伝統的に受け継いでいたの。
でも私の母世代ぐらいから
西洋的なケミカルが発達して、
いい智恵をみんな忘れてしまったわ。
私たち世代は昔からの自然の方法や薬は
ぜんぜん知らないの。残念だわ。
スリランカは、
貧しい国だから西洋的な薬や医療が普及しきれなくて、
すばらしい文化がこうやって
残ることになったのね。
貧しいことが、結果的に
いい状況と環境を作りだしているのよね。」という。
「日本もおんなじよ!
おばあちゃん世代は薬がそんなになくて
いろんな薬草のことを知っていたけれど
母の世代から、西洋医療が発達して
私も興味はあるけれど、わからないの。」と答えた。
発展や発達は、時として
先人からの英知や智恵、知識を過去の遺物として
どこかの戸棚にしまいこみ、
真新しくて、未知なる世界を切り開いてくれそうな、
未来を予感する科学や化学を大歓迎する。
ココでうけるようなナチュラルな材料をベースとした
食生活やホリスティックな方法を用いて
体、メンタル、リラクゼーション、などを統合していくのは
昔、どの国もそれぞれに、
それぞれの地域に合った手法で存在したはずなのだ。
でも近代化の波がどこにも押し寄せ
結果的に画一化され、それが
良いこともあり恩恵もあるかわりに
大切なことを失ってしまっているような気がしてならないのは
私だけでなく、多くの人々が感じながらも
どうすることもできない状況になってしまっている。
地元の人からしてみたら
ホテルで外国客におこなうアーユルヴェーダが
商業ベースにのって本来のスタイルから多少離れていくことも
あるのかもしれないが、それでもやはり
こういったスピリットはぜひ長く残ってほしいと、
心から願う。
それに、貧しい国・・・といいつつも
ちゃんとみんなphoneでナビを使いこなし
車だって持っていて日本製。
phoneも車も持っていない私からしてみたら
文明の利器と、ナチュラルな生活がバランスよく
ミックスされていてうらやましい。
もちろん、スリランカには
西洋医学だってしっかりと根付いている。
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【Katurienと一緒に行った
熱帯建築家ジェフリー・バワの別荘Lunuganga(ルヌガンガ)】
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あるとき、またKaturienとビーチを散歩していた時のこと。
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ベルギーはフランネル(Flannel)で豊かに
なった国だと教えてくれた後に
「私ね、このビーチを歩いていると
ロシア人と間違われて
よくロシア語で話しかけられるの。
ロシアのオイルマネーで稼いだ
金持ちがたくさん来ているみたいね。
「NEWリッチ」の人たちよ。
時代は流れていくわね。」
そういわれてよく見ると、
あちらこちらにロシア語で書かれた
看板が多く存在している。
料理のメニューからマッサージの案内まで。
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【たぶん左側はロシア語?・・・】
帰りの空港には、若い中国人の
旅行者が軍団となってどこからかの
乗り継ぎで降りたらしく
一瞬にして免税店や紅茶店にあふれかえり
ものすごい勢いでドサドサと商品を
買い込んでいく姿を見た。
「Organic(オーガニック)って何?」
若い女性がカウンターに向かって聞いた。
店員があれこれ説明すると、
「もう少しゆっくり話して!」
再度、ゆっくり説明する店員。
農薬を使わず栽培して・・・というようなことを
伝えていたが、
それでも
「???・・・(意味がわからない)」という
表情で首をかしげ
肩をほんの少しすくめ、
そのままOrganic tea をもとの棚に戻して
行ってしまった。
まさに隣国の若き「NEWリッチ」たち。
豊かな日本・・・とは言われているけれど、
今の日本の状況では
たちうちできないほどのパワフルさ。
まるでかつてのバブル期の日本を彷彿させる。
誰もがその気配を感じているが、
私も、その勢いを改めて実感した。
流れゆく時のなかで、
何を感じ、何を大切にし、何を選んでいくのか。
変化に惑わされることなく、
翻弄されることなく、
自分を見失うことなく、
私は私を、しっかりと繋ぎとめ
今ここにいることをいつも確認し、
そして、
未来への礎(いしずえ)をしっかりと
築いていきたい。
それは、
旅でのほんの短い出会いの中からも、
間違いなく育まれていく。
私の血となり肉となり、
まぎれもなく魂の一部分をも形成してくれる。
***************************
もし、あの時、Katurienが誕生日でなければ
勇気をだして話しかけることなんてなかった。
たえず流れゆき移ろいゆく時のなかで、
スリランカという異国の地で
たくさんの時間を一緒に過ごすことができたのも
まるで魔法のように思えてくる。
知的でスマート、それでいてユーモアあふれる
彼女もまた私に
たくさんのことを気づかせてくれた
大切な大切なひとり。
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「光の中のスリランカ」は
次回が最終回となります♪