【アロマオイルのビン】
赤道近くのバリ島のほうがずっと涼しかった。
照りつける太陽はジリジリと
差し込んでくるけれど
どこに太陽があるのかはっきりと
確認することができた。
それに比べて
今年の日本の夏は湿気にくるまれて
太陽がまるで全方向からせまりくる感じで
逃げ場を失っているような状態が続いている。
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でも、
猛威を振るう夏の暑さと引き換えに
周囲から声をかけられる。
「ねぇ、化粧法変えたの?
なんか引き締まったかんじ。」
「あれ?ずいぶんすっきりした顔しているね!」
何度となく、同じような内容なのである。
自分でも一瞬、過去を振り返る。
新しい化粧品って買ったっけ?
なんかあったっけ?
思い当たるのは、バリ島旅行。
「忙しいスケジュールみたいだけど大丈夫?」
「よくあれこれ相変わらずこなしているよね!」
帰国後直後からあちこちフルに行動していたら
驚きの声がかかる。
たぶん、リフレッシュして
パワー充電してきたから大丈夫。
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いつもと違った非日常を過ごすことは
私にとって特別な時間。
初めて見る風景が、
初めて触れる風が、
初めて出会う人々が、
初めて味わう味が、
初めて聞く音色が、
五感を刺激し、
眠っていたなにかを呼び覚まし、
繰り返す日常に油を注ぐ。
そして、もはや
いらなくなったものを手放す勇気をくれる。
海外旅行にでかけるたびに
私は体の中に知らず知らずのうちに
蓄積させてきてしまった
老廃物のような、沈殿物のような
すっかり正体不明になってしまった何かを
エイヤ!っと捨ててきているようなのである。
そして、モーターを交換してくるのか
新しいオイルを注入してくるのか
部品を一部チェンジしてくるのかわからないけれど
確実に変化が訪れるような気がしている。
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今回の旅のきっかけは
オーストラリアに住むMORIMOから
春ごろメールで、
どう?KOARUちゃんも行かない?と
誘われたのが始まり。
いつも3人で一緒に遊んでいる仲良し仲間の
MARIちゃんに声かけたら
アメリカ旅行の予定が入っているから
行けないわ~という。
TATSUROも行かない!って言うし、
しばらくの間、あれこれと迷いながら
保留にしたまま返事をせずにいた。
スリランカだって行きたいしな。
両方はムリかな?
シンガポール経由なんだから、
ちょっと滞在するプランはどうだろう?
ツアーで行くのがいいのかな?
個人で別々に手配する?
日程はどうしよう?
ネットを検索してみたり、
旅行会社に問い合わせてみたり、
いろいろ探しているうちに訳がわからなくなって
しばらくほおりだしてみたり・・・。
気がついたら
すでに2ヶ月近くの時間が経っていた。
ゴールデンウィーク近くになり
ようやく本腰を入れて考え始めたけれど
それでも、珍しくまだ迷っていた。
でも、日程が迫るにつれて仕事の
スケジュールが埋まってくると
どうやら行っても大丈夫な気配が漂ってきたのだ。
そして、いよいよホテルのサイトを眺めてみると、
なんともうすでにどこもいっぱいなのである。
うゎ!どうしよう!
どこも泊まれる場所がない!
モタモタしているうちに、
すっかり出遅れちゃったじゃない!!!
もう、なにやってんの、ワタシ!!!
急にエンジンがかかる。
ない、と思うとにわかに焦り
突如としてなんとしてでも見つけ出したくなる。
あるいはどうしても手に入れたくなる。
いつもそこにあるって思うと
何とも思わないクセに
なくなると急に惜しくなる、そんな習性をもっているのが
たぶん人間ってヤツなんだと思う。
今まで、ノラリクラリとしていたのに
それからというもの夜な夜な
さまざまなホテル予約サイトを
ネットサーフィンすることになった。
お目当てのホテルは
MORIMO一家がすでに予約をしたという
「Melasty HOTEL(メラスティ ホテル)」
あちこちチェックしてもすでにぜんぶ予約でいっぱい。
だんだんと泣きたくなってくる。
どうしてもっと早くに行こうって
決めなかったんだろう。
にわかに優柔不断な自分が悔やまれる。
直接バリのホテルまで電話してみたりした。
日程を言うと、そっけなく
「Full!(いっぱい!)」と短い言葉で断られてしまった。
ひとまず近くのホテルを探そうと
気持ちを切り替えたが、これまた
なかなか決められない。
まず、手ごろな値段でキレイそうな雰囲気は
ことごとく満室なのである。
どうやらオーストラリアは
バケーションシーズンなのだろうか。
本当に本気であきらめかけた頃、
ネットで見つけた九州のホテルサイト。
最初から欲を出さず
「Melasty HOTELの近くの
ホテルを探しています。」と
メールで問い合わせたら
すぐに携帯に電話がかかってきた。
「あの~・・・、ですね。
お問い合わせいただきました件、
Melasty HOTELなら空いているのですが、
近くのホテルをお探しなんですよね?」
お花のレッスンに向かうゴールデンウィーク明け。
表参道の交差点をちょうど歩いている時だった。
「わ~!ホントですか???
私、本当はMelasty HOTELを探してたんです~!」
思わず、交差点の上で叫んだ。
「すぐに押さえてください!
すぐです!すぐです!すぐ決めます!」
とにかく“すぐ!”を連発したのだった。
異様なテンションに戸惑ったらしく
電話の向こうで
「大丈夫です、大丈夫です。
そんなに焦らなくても。
まずは、ちゃんと見積もりを
お知らせいたしますから。
それから決めてください。
しばらくお待ち下さいね!」と、
焦りまくる私とは対照的に
とても感じのよい、ゆったりとした応対。
「ハイ!ハイ!わかりました!
すぐに連絡下さい!待ってます!」
たぶん、かなり前のめりで
早口でしゃべりまくっていたと思う。
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電話を切って、しばらく歩きながら考えた。
あれだけどうしても!って探していたのに。
どうしても見つからなかったのに。
現地のバリの旅行会社でさえ、
押さえられなかったのに。
本当にもういいや、って思ったとたん
思いもかけないところから
ポロっと舞い込んでくるって、こういうことなんだ。
人生のカラクリというか、
不思議な法則というか、
そんな方程式がホロっと解けた瞬間だった。
最初はぜんぜんその気がなかったのに、
だんだん本気になってきて、
そのうちに、ヤバイと気がつき
押して押して、押しまくって
あきらめて
引いた瞬間、手に入る。
これってどこかで聞いたことのある
恋愛のテクニックにも似ている。
でも、「押して押しまくって」をしたからこそ
その「引き」の強さに
パワーが宿るのではないだろうか。
それも、計算づくで「引く」ような
駆け引きでは、あんまり効果がない。
本気で押して、本気で引く。
惜しみなく押して、潔く引く。
それがコツなのだと思う。
引いたら手に入るかな?の様子見では
結局、中途半端で何も動かない。
生きていくと常に迷い続けるコトだらけだけど、
それでも、一旦走り出したら
今度は迷わず突き進んでみる。
そのあとに行き詰ったり、分岐点に立った段階で
またハタと立ち止まり次の策を練る。
そんな毎日の連続の中で
全力を傾けてこそ、
次のしかるべき段階に移行するのが
どうやら、原則のようである。
それが手に入るか入らないか、
それは「しかるべき段階」であって
あとは天に結果をお任せするしかないけれど、
その時に考えうる手を尽くすことはできる。
「考えうる手」は別に完璧でなくてもいい。
「思いついた方法」をすべてやってみる、だけで。
その時にベスト、と思われるやりかたで
動くことができたら、
たとえ、後から振り返ってみると、
ぜんぜん幼稚で浅はかで未熟だったと
後悔しちゃうようなやり方だったとしても
そう思えた時点でもうすでに一歩前に進めている証拠。
結果はおまけのようなものだと心から思えたら
もっと、日々に集中できるのだと思う。
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そして、おまけで手に入れた希望通りのホテルを
予約したあと、
前半は今回もまた気ままな一人旅を楽しもう♪と
今度はすんなりと、素直に決めることができた。
ガイドブックをパラパラとめくり
「スパ&エステ」の小さな写真と
数行の説明文を見ただけでピン!と来た
滞在型エステティックヴィラ。
食事もおいしくて好きなエステメニューを
選べる女性専用のホテル。
空港から無料送迎。
そんなキャッチフレーズからすぐにまたバリに直接電話したら
流暢な日本語で「ハイ、ダイジョブデス。
ゴヨヤク ウケタマワリマス。」
とこちらは拍子抜けするほど
あっさりと予約が取れたのだった。
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すべての準備が整い、
バリを夢みる時間が始まった。
どんなことしよう♪
エステをいっぱい受けて、デトックスしてこよう♪
バリ料理ってどんな味かな?
お買い物、たくさんしたいな♪
非日常で過ごすための夢はできるだけ多い方がいい。
そんな、特別な時間の夢を見ることができたら
現実世界の日常に戻ったとしても
ぜったいに夢を描くことができるようになっている。
夢は大きいほうがいい、というけれど
大きさやスケールにこだわる前に
だんだん大人になって
現実を知り、自分の実力を知るうちに
すでにほんのささやかな夢さえ見ることを
忘れてしまう。
小さいことができたら大きいことも可能だ。
大きいことが可能なら、
小さいこともまた同じように可能なのだ。
どちらか片方をこなしているうちに
やがて気が付いたら両方ともがこなせるようになっている
ことってたくさんあると思う。
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紆余曲折、右往左往しながら
旅はまた、スタートラインに立った。
ぜんぶを組み立てる個人旅行は
以前に比べて、ずっと簡単で手軽になった。
一言も会話することなくネットを介して成立し
しかも、送られてきたメールの
添付ファイルを開いて
たった一枚のペラっとした紙切れを
プリントアウトするとそれは、れっきとした
航空券に変身を遂げる。
そんな、イージーでお手軽で
変化し続ける時代になっても
変わらないのは、旅先での思い出。
自分で作り上げるプランの醍醐味は
なんといっても先行き不透明感と達成感。
集合時間にそこにいれば
あちこち連れて行ってもらえる
パッケージプランにはない、ドキドキが
いっそうココロを躍らせる。
観光地とはいえ、
けっして油断ならないバリ島。
「“前半”一人旅」のために、
梅雨空の成田から、飛び立つ日はやってきた。