消費税が10%に上ったが、今後の高齢者人口の一層の増加を考えると、早かれ遅かれ更なる増税が必要である。一方、人口減少に歯止めがかからず、労働人口は減るばかり。誰が見ても、日本経済には抜本的対策が必要である。この窮状に焦点を当て、日本の長期的グランドデザインを提案しているのが、近刊の「国運の分岐点」(David Atkinson著 講談社+α新書)である。同書の主張をまとめると、以下(青字)のようになる。
【日本経済の地盤沈下】
●一人当たりGDP(単位US$)
米国 62,606、 台湾 53,023、豪州 52,373、ドイツ 52,359、イギリス 45,705、日本 44,227,韓国 41,351、スペイン 40,139
日本は韓国にも抜かれそうな形勢である。
●時間当たり最低賃金(単位USドル)
ドイツ 11.07、イギリス 10.25、台湾 10.09、米国 9.33、韓国 8.32、スペイン 8.19、日本 7.10、ギリシャ 6.42
日本の最低賃金はスペインやギリシャよりは多いが、韓国より少ないのには泣けてくる。
●経済成長率 世界平均 2.74%
米国 2.38%, EU全体 1.64%、イギリス 2.01%、フランス 1.48%、日本 0.88%、イタリア 0.64
要するに、日本はいつのまにか経済では二流国になった。その原因は、日本には経営効率が悪い中小企業が多すぎるからである。
【中小企業優遇策】
1964年に日本政府は法人税軽減などの中小企業優遇策を講じた。その結果、中小企業(従業員数、製造業 300人以下、卸売業 100以下、小売業 50人以下)が急増した。中小企業の経営者は、会社を大きくしない方がいいという考えになったのである。
それでも、人口が増えている間は一人当たりの賃金(すなわち生産性)は上昇したが、人口が減少し始めると賃金は上昇どころか、低下傾向になった。
消費者(顧客)が減っても売り上げが減らないようにするためには、値下げが必要だった。それが賃金の低下をもたらした。
【中小企業統合の必要性】
中小企業数社が統合した場合、経理・総務などの管理部門に携わる人員を減らせる。支店が多い業種なら、支店を減らせるから家賃総額が減る(銀行は中小企業ではないが、一時20行以上あった都市銀行が今では5行になった)。宣伝も一括して実施できるから、効率がよくなる。会社が大きい程一人当たりの給料が高いのは、世界共通の鉄則で、企業規模が大きくなれば、生産性が上がり賃金を上げられるのである。
会社を統合すると余剰人員が発生するデメリットがあるが、今後さらに悪化すると思われる人手不足は会社統合に適した状況である。
【いかに会社統合を進展させるか】
これまで日本では、「中小企業は日本の宝」という「中小企業神話」が存在した(例 TVドラマの「下町ロケット」)。これからは、発想を百八十度転換して、「中小企業=悪」という認識に変えることが必要。それには中小企業が自発的に統合を進める施策を講ずべきである。
【頑固爺所感】
“賃金を上げるには中小企業の統合が必要” という理屈は理解できる。しかし、政府が統合の旗を振っても(税制改革など)、中小企業が簡単に方向転換するだろうか。
まず、問題は社長である。2社を統合したら、社長が一人失業する。その処遇をどうするか。一人は会長にまつりあげることで名目上は解決できるが、経営方針で衝突したらどうなるか。また、統合で弾き出される従業員の処遇も考慮しなくてはならない。
すなわち、Atkinson説には各企業とも、総論賛成、各論不賛成になるだろう。さらに、競争している企業同士が簡単に統合に踏み切れるかという問題もあるし、未知の企業同士ならば統合のきっかけがないという問題もある。
そこで必要になるのは行司役ないしはフィクサー役である。その役割をこなせるのは取引銀行だと思う。
こうした実務論になると、頑固爺がいくら考えても、“ごまめの歯ぎしり”のようなものだから、このへんでやめておく。ともあれ、日本経済の苦境打開には、Atkinson説は是非とも実行すべきと考える。