ネットが発展するにつれて、新聞の購読者数が減少傾向にある。それにつれて、「押し紙」すなわち“販売店に納入されるものの配達されず、廃棄される新聞”の存在が取り沙汰されるようになった。
「月刊Hanada」1月号に掲載されている上念司氏(経済評論家)の論文「拝啓、朝日新聞社様」が、この「押し紙」問題について言及しているので、それを参考にしつつ、頑固爺自身の見解を述べる。
購読者数が減少傾向になると、販売店は新聞社への注文部数を減らそうとする。しかし、新聞社としては販売部数の減少は売上減少になるだけでなく、広告スポンサーに対する説得力を弱めることになるので、販売店への納入部数は減らしたくない。そこで販売店に圧力をかけるから、「押し紙」が発生する。
新聞社は販売店が数量減少を望んでも、力関係で元のままの数量を納入し、その数量に対して請求する。だから、販売店は余った分を廃棄処分するしかないが、それでは経営が成り立たず、なんらかの対策を講じなくてはならない。
販売店の収入源として折り込みチラシがある。正しい配布数によって料金を請求する場合もあるが、「押し紙」による損失を少しでも取り戻したいので、新聞社から納入された数量でチラシ料金を請求することが慣習化している。
具体的な例で説明する。
販売店の顧客(購読者)が2000人として、月間購読料(朝刊のみ)を朝日新聞と同じ3,093円、仕入れ代金を6掛けの1,856円とする。
(1)「押し紙」(廃棄)がない場合
月間売上高 2,000×3,093=6,186,000円
月間仕入れ高 2,000×1,856=3,712,000円
粗利 2,474,000円 (粗利率 40%)
(2)購読者が3割減って1,400人になったにもかかわらず、新聞社の要請で、販売店が前と同じ部数を仕入れる場合
月間売上高 1,400 ×3,093 = 4,330,200円
月間仕入れ高 2,000 ×1,856= 3,712,000円
粗利 618,200 円 (粗利率 14%)
(3)チラシ配布で「押し紙」の損失を軽減する場合
購読者は1,400人だが、販売店は新聞社には2000部を発注し、一件3.5円のチラシを毎日5件折り込む場合(休刊日は無視する)を想定する。
(チラシ広告主には2000部配布すると伝えるが、実際に配布するのは1,400部)
月間売上高:新聞 (2)と同じ4,330,200円
チラシ 3.5×5×30×2000=1,050,000 円
合計 5,380,200円
仕入れ高:2,000×1,856=3,712,000円
粗利: 5,380,200-3,712,000= 1,668,200円 (粗利率31%)
新聞社の「押し紙」への対応策として、販売店はチラシの配布数を水増しして広告主に請求するのである。ただし、チラシ配布数を正直に(この場合なら1,400)請求する良心的な販売店もある。
なお、チラシ配布は新聞購読者数の減少傾向が始まる前から行われていたことであり、「押し紙」とは直接の関係はない。そして、チラシの水増し請求は「押し紙」が顕著になってから行われるようになったと思われる。
さて、新聞本体とチラシの廃棄は資源のムダだが、新聞販売店としては生存を図るためには、やむにやまれぬ苦肉の策なのである。新聞社もこうした動きがあることは承知しているものの、打つ手がないのが現状である。残念なことだが、この傾向は新聞購読者の減少傾向が続く限りは続くと思われる。
蛇足だが、アメリカでは折込み広告は存在せず、広告はすべて紙面に印刷される(だから新聞のページ数が多い)。地理的に広大なため、新聞を当日に配達できず、全国紙が発達しないのである(例外は USA Today)。
追記 上念氏の論文も具体例で説明しているが、その数字に納得いかない部分があり、私独自の数字モデルを組み立てた。