バイデン政権が発足してから、もうじき2ヶ月になろうとしている。敗けたトランプ氏も最近は、民主党が不正行為をしたという訴えをしなくなったから、もうその件は諦めたのだろう。
しかし、日本の保守派識者は未だに不正行為があったと主張している。例えば、WILL4月号に掲載されている「トランプが暴いた『ディープステート(影の政府)』の存在」という高山正之(ジャーナリスト)と馬渕睦夫(元外交官)両氏の対談記事である。この対談に次のような記述がある(赤字)。
高山:「・・・結局、バイデンは八千万票も獲得することになった。どう考えてもおかしな結果だけど、誰もそのことについて言及しない」
馬渕:「八千万票も獲得するほど、バイデン人気が高まっていたのか。そういう素朴な疑問に誰も答えようとしていません。それに、一億六千万人が投票したことになりますが、投票率は80%にもなります。これはあり得ません。例年の60%台だとすれば、バイデンの得票は5千万票を下回る。これが現実に近いのではありませんか」
両氏が述べていることを、数字で確認してみたいと考え、バイデンとトランプの得票数をネットで調べると、いろいろな数字がでてきた。どの数字も勝敗の決着がついた後のものだが、もっとも得票数が多いのがWikipediaであり、これが最終結果であると判断した。そして、Wikipediaの過去4回の選挙の結果をまとめたのが下の表である。

(注)2016年は共和党(トランプ)の得票数は民主党より少なかったが、獲得選挙人では民主党を上回った。また、“その他” とは、大部分が泡沫候補の得票の合計である。
この表の2020年の得票数を見てまず気づくことは、勝ったバイデンはもとより、負けたトランプさえも過去の選挙のどの候補者よりも得票数が格段に多かったことである。両氏が疑いの眼を向けるのはもっともである。
また、2020年の総投票数1億5千838万人は、2016年の1億3千712万人よりも21,258千人多く、この増加分は2016年の総投票数 137,125千人に対して15.5%である。つまり、2020年は前回より投票数が15.5%増えたことになるが、これは異常である。
では、投票率はどうだったのか。米国には戸籍制度がないため、有権者数はおろか人口さえも5年毎の国勢調査に頼るしかない。直近の国勢調査は2020年に行われ、現在まだ集計中であるため、2020年の大統領選挙の有権者数は未詳であり、したがって投票率も未定である。
前回の国勢調査は2015年に実施され、2016年における有権者数は1億5,760万人と発表されたから、2016年の投票率は(137,125÷157,600=) 87%だったことになる。
ここで話を両氏の対談に戻す。対談に「投票率は80%になる」とあるが、有権者数が未定なので、「投票率が80%」である根拠はないことになる。また。「例年の60%台に比べて多すぎる」とあるが、2016年は87%*だったので、この認識は間違いということになる。
(注)この87%も不自然だが、その理由は、公式発表の有権者数は国内居住者のみであり、Wikipediaの得票数は海外居住者(軍人含む)をカウントしていることだと推測する。
両氏の発言はともかくとして、2020年における総投票数が前回よりも15.5%も高いことについて考えてみる。
2012年は2008年よりも総投票数が減少しているので、2016年と2008年を比較してみると、2016年の137,125千人は2008年の131,313千人よりも4.4%の増加である。つまり、8年間に4.4%しか増加していない。これと較べれば、2020年の2016年対比での、4年間での15.5%増はあり得ないような数字である。
さて、2020年の選挙運動において、共和党の集会はコロナ禍があっても多くの参加者を集め熱気に溢れていたが、民主党の集会は参加者が少なく、ひっそりしていたという記事を読んだ記憶がある。それでもマスコミは“互角の形勢”と報じていたが、日本の保守派論者は“トランプの大勝” と予想していた。
民主党は郵便による投票をしっかり集めたということがあったにせよ、バイデンの8千万を超える得票は、日本の保守派識者でなくても、信じ難い結果である。
不正行為はあったが、トランプがマスコミを敵対視したために不正行為を報道しなかったとか、裁判所が不正行為の確たる証拠を見つけられなかった、と考えればツジツマがあう。しかし、いくらなんでも民主主義の根幹にかかわる行為をするはずがないし、技術的にも千万票単位の操作は難しいのではなかろうか。
この2020年の大統領選挙の謎は、永久に解けることはないだろう。