ソウル中央地裁は4月21日、元慰安婦などが日本政府を相手にした損害賠償請求を却下した。その根拠は国家の主権免除である。この判断は1月の判決とは真逆であり、両国の国民にとってサプライズだった。
1月に原告勝訴の判決が出されたとき、新聞記者会見の席上で文氏は「困惑している」と本音をもらした。その背景には、バイデン大統領はオバマ政権の副大統領だったとき、水面下で慰安婦合意を押し進めた当人だったという事情がある。さらに、バイデン政権から日本との関係改善を求められている、ということもある。
では、なぜソウル地方裁の判断がわずか3カ月で真逆に変化したのか。
偶然にも文大統領の「困惑」発言から2週間ほど経過した2月初めに定期人事異動があり、慰安婦訴訟に原告の勝訴判決を下したソウル地裁の当該部門はメンバー全員が交代した。同じ裁判官が僅か2カ月で判断を変えることはないが、違う裁判官ならありうることである。
新任の裁判官が忖度したのか、または内々で文氏と話し合ったかはともかくとして、裁判官の交代は文氏にとって、ラッキーなことだった。2015年の慰安婦合意を蹴飛ばしたのは文氏であり、その結果自縄自縛となって動けなくなっていた文氏にとっては、「ヤレヤレこれで助かった」という気持ちだろう。自分の体面を汚すことなく、とりあえずは窮地を脱した。これまでと同様に「私は司法に従う」と言えばいい。
だが、慰安婦問題がこれで解決したのではない。原告の控訴もありえるし、国民感情がこれで収まるわけでもない。むしろ、鬱積した不満が一層強まる可能性がある。
とどのつまりは、うら若い女性が拉致されたとか、性奴隷にされたとかの嘘を正すことが必要である。今のところ、そうした抜本的解決を図ろうとする動きが日本にないのは残念である。