北朝鮮による拉致被害者・田口八重子さんの兄で被害者家族会代表の飯塚繁雄さんが、つい最近83歳で逝去した。横田めぐみさんの父・滋さんも昨年、87歳で亡くなった。まさに、時間との勝負である。
拉致事件が起きたのは1970年代。肉親の方々は、40余年の間、片時も心が休まることがないだろう。お察しする。
さて、この拉致事件の解決に長年に亘り、ボランティアでありながら、リーダー的存在として尽力してきた西岡力氏の著書「わが体験的コリア論」(令和3年11月刊)から、拉致事件に関する記述のキモの部分をかいつまんで引用する。(青字)
金正恩政権は六重苦により崩壊の危機を迎えている。
- 経済制裁による外貨の枯渇
- コロナの蔓延
- 大雨と台風による大水害
- 幹部と人民の不満の高まりと活発化する反体制派の活動
- 金正恩の健康不安
- 中朝関係悪化
▼(!)(2)(3)については、2020年10月10日の深夜に行われた閲兵式の際における涙ながらの演説において、金正恩が言及したことであり、世界中が実状を知っている。だが、日本政府が朝鮮総連からの送金を止めたことが大きな影響していることは、マスコミに報道されていない。
▼(4)について補足する。
金正恩は軍と治安関係、および平壌市民だけには優先的に食料などの生活必需物資が行き渡るように指導してきたが、今やこれらの人々から不満が噴出している。
§ 人民軍は有事に備えて、食料を始めとする生活必需品を備蓄しているはずだったが、金正恩がその備蓄物資を市民に放出するよう命じたところ、あるはずの物資がなかった。兵士たちが栄養失調になり、見かねた幹部が兵士たちに放出するよう命じていたのである。メンツが潰れた金正恩は軍の幹部を処罰した。
§ 北朝鮮の体制のシンボルのような金日成綜合大学に「金正恩打倒」「青年に未来がない」と書かれた壁新聞が貼られた。
§ 上述の10月10日の演説では“自分は人民の窮状がよくわかっており、申し訳なく思っているがが、人民は苦しい中でも自分を支持してくれて感謝する”という趣旨の、異例のへりくだりを見せた。これは人民に不満が鬱積していることを物語る。
§ 軍や住民の不満が高まり、金正恩暗殺未遂事件が頻発している。
§ 首都平壌で反体制ビラが撒かれた。ビラは紙質から判断して、国内で作成されたと思われる。
▼(5)の金正恩の健康不安について
彼はひどい糖尿病で血糖値が400を超えており、インスリンが効かなくなって、特別な手術を受けた、という情報もある。確たる状況は不明だが、健康体でないことは確かである。
▼(6)の中国との関係
親中派の張成沢を金正恩が処刑して以来、中國との関係は悪化したままである。中國・丹東から北朝鮮に入るトラックの数は、コロナ以前は一日200~300台だったが、コロナ以降は一日30~40台に激減した。
この六重苦からの脱出口は、米国・日本・韓国に接近して制裁を解除させ、大規模な経済支援を得ることしかない。
日本のマスコミ報道を見ていると、拉致問題は八方塞がりで解決の糸口さえないように見える。だから、岸田首相が“私が解決します”と息巻いても、ただの強がりとしか感じられない。なにしろ、小泉純一郎首相(当時)の時に5人返されて以来(2002年)、もう約20年経過しているのだから。
だが、本書を読むと、西岡氏や政府関係者は北朝鮮が極度に疲弊していることから、拉致問題の解決は近いと判断しているようだ。トランプ大統領(当時)が米国と北との交渉に、核廃棄だけでなく、拉致問題もセットにしたことも日本に有利に影響しているという。
一日も早くこの問題が解決するよう願うのみである。