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ノラや (内田百閒著)

2017-01-12 20:51:31 | 雑感
 内田百閒著「ノラや」


   


 世の中は「猫ブーム」といわれている。いつだったか、BSだったと思うが、「ノラや」が放映された。その時は、あまり気に留めなかったのだが、本書を読んで内田が迷い込んだ猫に対する思い入れの変遷がひしひしと感じられる。
 
 何となくやってきた猫にご飯をやることが癖になり、「この野良猫を野良猫として飼つてやらう。」そして、「飼ふ以上名前があった方がいい。」ということでつけた名が「ノラ」、イプセンの「人形の家」の「ノラ」は女性だが、この猫「彼」は雄である。

 この本には、「阿房列車」に登場する面々も実名で登場している。例えば、「平山君」、「ヒマラヤ山系君」のことである。そして、当時の「法政大学総長大内さん」は経済学者の大内兵衛と思われる。

 ところがある日、「ノラ」が行方不明になってしまう。ノラ失踪後、ノラに関わる日記としての記載が続く。それからの内田の心理状態が文章ににじみ出ているし、本書の解説を担った「ヒマラヤ山系君」こと平山三郎氏は、その中で「ノラが居なくなった当座、先生の日常は全く支離滅裂だった。」と書いている。ポスターや新聞折り込み、あらゆる手段を使い、似た猫が居ると聞けばどこへでも向かい「ノラ」捜索を行うのだが、能わず。「寝る前になって、よさうと思つても制する能わず、風呂場に這入りノラのゐない座布団に顔をつけてノラやノラやと呼ぶ」、田山花袋の「蒲団」のごとくである。

 その後、「ノラ」に似た猫「クルツ」が迷い込んでくる。ただ、病気がちの「クル」、高齢であったこともあり、専門のお医者に来てもらい治療するも、薬石効なく病死。

 「ノラ、それからクル、その後に私のところでは猫は一切飼わない」、しかし、「そこえらに捨てられた子猫が、寒くて腹がへつて、ヒイヒイ泣いてゐるのであったら、どうしよう」と猫を飼うことに対する迷いも感じられる。


 小生も、一昨年、愛犬を亡くした。「一切飼わない」と思いつつも、ペットショップに足を向け、なにげに狭い空間に横たわる犬を眺めてしまう。内田と同じ症状なのだろうか。

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