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月の女王-23

2014年09月09日 21時00分00秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
 その夜、香はまた夢を見た。

 誕生日の夜に見た夢と同じ。左の手の甲の中央から金色の光が出ている。
 両手を前に出してその様子を見ていたら、光っていないほうの右手を誰かに掴まれた。

「カオリちゃん」
 見下ろすと、小学校一年生の時のキョウコが立っている。
「キョウコちゃん・・・・・・」
 その後ろに、一昨日会った高校生のヒトミが立っていた。
「カオリちゃんと仲良くするとキョウコちゃんまで変になるよ」
 ヒトミがヒソヒソとキョウコに耳打ちをしている。
 キョウコが怯えたように香の手を離し、ヒトミに寄り添う。
「キョウコちゃん・・・・・・」
 息が苦しい。
「キョウコちゃん」
 離れていくキョウコとヒトミ。息が苦しい・・・。
「キョウコちゃん・・・・・・」

「大丈夫だよ」
 ふいに優しい声がした。
 クリスの声。体の中にすっと優しさが入り込んでくる。

「香ちゃん」
 きゅっと右手を握られた。夕子がにっこりと微笑んでいる。
「・・・夕子」
「私は香ちゃんの味方だからね」

 夕子の隣にはイズミが腕を組んで立っている。
「香が一番大切だ」
 迷いなく言い切るイズミ。

 後ろには穏やかな微笑みを浮かべた母。
「あなたは私の大切な大切な娘。おばあちゃまの大切な孫」

 そして、祖母の声。
「これから必ず、信頼できる人達に会える。だから大丈夫よ・・・」

 海辺に佇む人影。
「守るから・・・」
 こちらに向かって叫んでいる。
「オレが必ず守るから・・・」
 光を零している金色の髪。海よりも澄んだ青い瞳・・・。


「・・・・・・!!」
 香ははっと目を覚ました。外はまだ薄暗い。

「・・・・・・・・・」
 同じ部屋で寝ている母親、夕子、イズミを起さないよう静かに部屋を出る。

 海まで徒歩3分。朝の涼しい風を体に受けながらゆっくり歩いていく。

 人気のない朝の砂浜には・・・見覚えのある金色の髪。
「やっぱりいた・・・」
 香がぽつりとつぶやく。

「おわっ香っっ」
 香の姿を見つけて異常にビックリした様子のクリス。

「お前、一人でフラフラ歩いてたら危ないだろーー」
「そう?」
「危ないだろ! こんな薄暗い中・・・・・・」
「うん・・・・・・」

 サンダルに砂が入るのも構わず、香はザクザクと砂浜を歩いていく。

「なんか起きちゃったのよね・・・変な夢見て」
「変な夢?」
「うん・・・・・・でも夢だけじゃないの」
「え?」

 香はクリスの横に並ぶと、海に向かってすっと両腕を前に出した。

「左手、光ってるでしょ」
「!」

 クリスが目を見開く。

「お前、これ・・・・・・」
「封印が・・・・・・解ける、のかな」

 みるみるうちに、左手だけでなく、肩も胸も光に包まれていく。

「封印が・・・解ける」

「・・・・・・こわい」

 ポツリ、と香がつぶやく。
 
「こわいよ・・・・・・」
「香・・・・・・」

 ふわり、と背中が温かくなる。
 
「大丈夫だよ」

 ぎゅっと後ろから抱きしめられる。

「大丈夫。オレが必ず守るから」

 光は急速に増えていき、香を包んでいく。
 足も体も光っていく中、右腕は肘のあたりで光が止まる。
 右肘から下だけが黒く沈んでいる。
 香はその右手でそっとクリスの腕に触れた。

 クリスが香を後ろから抱きしめたまま、その右手を優しく包みこむ。優しく優しくその光のない右手に口づける。

「・・・・・・あ」

 すーっと右手も光りだした。金色のまぶしい光。
 全身が金のオーラに包まれる。あたたかい光。開放される心・・・。

(オレが必ず守るから・・・)

 背中からクリスの心が伝わってくる。

(ずっとずっと会いたかった。月の姫・・・・・・)

 優しい優しい気持ち。

(あなたのことはオレが必ず守るから・・・・・・)

(月の姫・・・・・・オレは一生あなたをあいし・・・・・・)


「!!!!」
「いってーーーー!!いきなり何すんだよお前!!」

 思いっきり突き飛ばされて、尻もちをつくクリス。
 口をパクパクさせて声にならない声を出そうとしている香。

「い、いま、あんた・・・・・・っ」
「なんだよ?」

 眉間にしわを寄せたまま香を見上げるクリスの表情は、いつもとまったく変わらない。

(・・・・・・心の声だ)

 はっと香は思う。

(心の声がまた聞こえるようになったんだ。ってことは? さっきの、一生あなたを・・・あい・・・・・・愛?)

「・・・・・・・・・・・・ないないないないないないないない!!!」
「だから何が!!」

 立ち上がり、こちらに手を伸ばそうとしたクリスに、

「こないで!!」

 バチバチバチっと金のオーラがさく裂する。再び尻もちをつくクリス。

「なんなんだよいったいーーー!」

「どさくさに紛れて抱きついたりするからだ」
 冷たい声と視線の先にはイズミが。
「イズミくん!!」

「まあ、結果的には封印を解くことができて良かったですけどね」
 冷静な分析をする白龍。

『役得だったねえ、クリス。でも深追いしちゃダメだよ。何しろ姫には「決められた男」がいるんだからね。「月の王子と交わる時に、新世界の扉が開く」ってね~』

 英語で歌うようにアーサーに言われ、クリスは『わかってるよ!!うるせーな!!』と英語で怒鳴り返す。


 近づいてくるイズミたちに、香は「ちょっと待って」と手で制する。

「私、今、自分で自分が制御できないの。近づかないでもらっていい?」
「わかりました」

 白龍が一定の距離を保った状態で、香に言う。

「オーラを自分の中に閉じ込めるイメージを持ってみてください」
「閉じ込める・・・・・・」

 輝きが少しずつ収まっていく。

「それから自分の周りにバリアーを張るイメージを持つといいと思います。そうすれば、人の心の声も聞こうと思わなければ聞こえないはずです」
「バリアーね・・・」

「え、お前もしかして・・・・・・」

 今度はクリスがアワアワと声にならない声を出そうとする。

「さっき、オレの心の声・・・・・・」
「聞いてない!聞いてない!!何も聞いてない!!!」

 速攻で香が否定する。でもその真っ赤な顔は明らかにセリフを裏切っている。

「クリス・・・何を考えてたんだ・・・?」
「まさか・・・・・・」
『何かいやらしいことかな♪』

『ちがーう!いやらしいことなんて考えてない!全然考えてない!!』

「あーもーまた一からやり直し!! あんた黙っててよ!」

 香に八つ当たり気味に言われ、口をつぐむクリス。

 砂浜に座り込み、香の集中した横顔を見上げる。
 思わずため息がでる。美しい金のオーラに包まれた姿はまさしく・・・・・・ 

(月の姫・・・・・・)

「だから黙ってて!!」
「何も言ってねーよっ」

 怒った香に言い返したクリスの首根っこを白龍がつまみあげる。

「クリス、もっと離れろ。君は気持ちが漏れ出すぎだ」
「う・・・・・・」

 そのままズルズルと引きずられていく。

 山側から太陽がのぼりはじめ、海面がキラキラと光りだす。
 予言の日は明日。最後の一日がはじまった。





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書きたかったシーン、その2!
クリスの後ろからギュ~~のシーンでした。
女子の憧れですよね~後ろからギュ~~♪

さて。次から第5章。
サクサク行きましょう。

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次回更新は12日金曜日夜9時です。
よろしくお願いいたします。

コメント
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