空には黄色がかった白い大きな球体。
「月・・・・・・?」
香は直感的にそう思ったが、よく見ると月よりも人工的な感じがしたため、「月じゃないか・・・」と一人ごちる。
「月じゃないの?」
隣から可愛らしい声がした。
見ると、きれいな顔立ちをした少年が小首をかしげてこちらをみている。
(・・・誰?)
初めて会うはずなのに、なぜか懐かしい・・・。
「・・・・・・・・・」
香はぼんやりと目を覚まし、つい最近もこんなことがあったな・・・と思った。
気を失って、目覚めたとき、のぞきこんできた青い瞳を見て、妙に安心したのを覚えている。
最近、気がつくといつも近くにある、澄んだ青い瞳・・・・・・。
「香ちゃん、気がついた?」
でも、今、あるのは、青ではなく黒の瞳。心配そうな光をたたえた、大きな黒い瞳。
「・・・・・・妙子さん」
「大丈夫?起きられる?お水飲む?」
妙子に支えられて体を起こし、差し出された水を飲んで、ようやく頭がはっきりした。
知らない部屋。豪華な造りの家具。腰かけたソファーも柔らかく高級感がある。
「・・・ここどこ?」
連れてこられた状況を思い出し、妙子を見上げる。
「妙子さんって・・・・・・敵なの?」
「うーん・・・話すと長くなるんだけど・・・」
香がまっすぐ見つめると、妙子はふいと目線を外し、香からコップを受け取った。
「香ちゃんの味方になりたいって思ってる」
「・・・どういうこと?」
疑問符いっぱいの香に背を向け窓辺に立つ妙子。
「予言のことは聞いてる?」
「予言って・・・・・・月の姫の?」
「そう・・・月の姫が新世界の扉が開く・・・・・・」
振り返った妙子の瞳には決意の色が浮かんでいた。
「そのために、月の姫は月の王子に会う必要があるってことは聞いた?」
「月の・・・王子?」
初めてきく名前に香が眉を寄せる。
「誰それ?」
「今から紹介するね。とても良い方よ」
「んーーーーと?その人に会わせるために、私を連れてきたの?」
「そうよ」
んん?と香が首をひねる。
「どうして?無理やり連れてこなくたって、妙子さんが言ってくれば普通に来たのに」
「それは月の戦士たちが許さないでしょ?」
「どうして?」
意味が分からない。
「私たちはデュール王家の末裔。月の戦士たちはテーミス王家の末裔。テーミス王家の奴等は香ちゃんを利用しようとしてるの。私たちは香ちゃんの味方よ。香ちゃんを必ず守るわ」
「・・・・・・・・・」
妙子の言葉に、ふっとクリスの言葉が頭をよぎる。
「オレが必ず守るから・・・」
きゅっと心臓のあたりが締め付けられる。抱きしめられた腕の温かさを思い出す。
今、クリス達はどうしているだろう。心配しているのではないだろうか・・・。
「なんだかよくわからないけど・・・とりあえず帰ってもいい? その月の王子とかいう人に会うのはまた今度で・・・」
「ダメよ。予言の日は明日だもの。時間がない」
妙子のセリフに重なってドアがノックされ、開いた。
「・・・・・・あ」
香が思わず身構える。そこに立っていたのは、リンクス=ホウジョウ。
そして・・・・・・
「目覚めたか、月の姫」
扉を押さえるリンクスの横から、長身の男がズカズカと入ってきた。
整った顔立ちをしているが、傲慢さ、猛々しさの印象の方が強く残る。
命令することに慣れた声。上に立つもののオーラがある。
「司様」
妙子が静かに頭を下げる。
司と呼ばれたその男は妙子には見向きもせず、香をじろじろと見ると、
「・・・・・・地味だな」
「は?」
一瞬何を言われたのか分からずぽかんとしたが、言葉が脳に到達してようやくカチンとくる。
(初対面の女の子に向かって、第一声が地味って・・・・・・)
なんなのこの人、と妙子を振り返ったが、妙子は頭を下げたままだ。
「でも、素材は悪くない。妙子、お前に任せる。磨いてやれ」
「はい・・・・・・」
意味がわからない。本当にわからない。
香は腹立ちも手伝って、司のことをにらみがちに見上げると、
「私、帰ります。失礼します・・・、あれ?」
司の横を通りぬけようとしたが、見えない壁に阻まれた。リンクスの仕業だ。
「・・・・・・。帰ります!」
カッと香の体から金のオーラが立ち上った。見えない壁を振り払う。
「失礼します」
そのまま司の横を通りぬけようとしたが、
「待て」
司の迫力のある声に思わず立ち止まる。
振り返る間もなく、いきなりお下げの片方を引っ張られ、引き寄せられた。たまらず香が悲鳴を上げる。
「痛・・・っ」
「司様っ」
オロオロと司に取りすがろうとした妙子の顎を、司が空いている方の手でグッと掴む。
「いいな?妙子。オレは生意気な女は嫌いだ。よく言い聞かせておけ」
「は・・・はい」
「月の姫」
お下げを引っ張り上げながら、司が高圧的に言う。
「逃げようなんて思うなよ?」
「・・・・・・」
突き飛ばされ、ソファーに身を投げ出される。
香が顔を上げたときには、司はリンクスを従えて出て行くところだった。
「香ちゃん、大丈夫?」
妙子の小さな心配そうな声が聞こえたが、何も答えられなかった。
自分に実際に起きていることなのに、現実味がない。
(あれは何のアニメだったかな・・・)
こんな緊迫した状況にありながら、香はそんなことを思った。
昔見たアニメ。
主人公の女の子がこうやって敵の男の人にお下げを引っ張られたシーンがあった。
あの話、確かあのあと、男の子が助けにきてくれるのだ。
男の子は、出会ったばかりにも関わらず、その女の子のことを命がけで助けてくれる。
(・・・・・・クリス)
名前が心に浮かぶ。
たぶんクリスも、あの男の子のように、助けにこようとしているに違いない。
---------------
あれ?なんででしょう?普通に書いてしまった・・・。
でも書きたかったシーン第3弾。
「司様にお下げをひっぱられる香」が書けて満足。
昔みたアニメ、とは、あれです。あれ。宮崎さんとこの・・・。
あの作品が一番大好きです。セリフも全部覚えてます。
出会ったばかりの二人が信じあっているところがいいのよね。
はあ・・・しかし。
いい加減、要約でいかないと、ホントに終わらない・・・。
次回は書きたかったシーン、第4弾!!
-----
今まで週2でしたがストックたまったので週3にします。
月水金でいきます。
ので、次回は17日水曜日夜9時です。
よろしくお願いいたします。
そういえば、本日9月15日はクリスの誕生日でした。
おめでとう。
「月・・・・・・?」
香は直感的にそう思ったが、よく見ると月よりも人工的な感じがしたため、「月じゃないか・・・」と一人ごちる。
「月じゃないの?」
隣から可愛らしい声がした。
見ると、きれいな顔立ちをした少年が小首をかしげてこちらをみている。
(・・・誰?)
初めて会うはずなのに、なぜか懐かしい・・・。
「・・・・・・・・・」
香はぼんやりと目を覚まし、つい最近もこんなことがあったな・・・と思った。
気を失って、目覚めたとき、のぞきこんできた青い瞳を見て、妙に安心したのを覚えている。
最近、気がつくといつも近くにある、澄んだ青い瞳・・・・・・。
「香ちゃん、気がついた?」
でも、今、あるのは、青ではなく黒の瞳。心配そうな光をたたえた、大きな黒い瞳。
「・・・・・・妙子さん」
「大丈夫?起きられる?お水飲む?」
妙子に支えられて体を起こし、差し出された水を飲んで、ようやく頭がはっきりした。
知らない部屋。豪華な造りの家具。腰かけたソファーも柔らかく高級感がある。
「・・・ここどこ?」
連れてこられた状況を思い出し、妙子を見上げる。
「妙子さんって・・・・・・敵なの?」
「うーん・・・話すと長くなるんだけど・・・」
香がまっすぐ見つめると、妙子はふいと目線を外し、香からコップを受け取った。
「香ちゃんの味方になりたいって思ってる」
「・・・どういうこと?」
疑問符いっぱいの香に背を向け窓辺に立つ妙子。
「予言のことは聞いてる?」
「予言って・・・・・・月の姫の?」
「そう・・・月の姫が新世界の扉が開く・・・・・・」
振り返った妙子の瞳には決意の色が浮かんでいた。
「そのために、月の姫は月の王子に会う必要があるってことは聞いた?」
「月の・・・王子?」
初めてきく名前に香が眉を寄せる。
「誰それ?」
「今から紹介するね。とても良い方よ」
「んーーーーと?その人に会わせるために、私を連れてきたの?」
「そうよ」
んん?と香が首をひねる。
「どうして?無理やり連れてこなくたって、妙子さんが言ってくれば普通に来たのに」
「それは月の戦士たちが許さないでしょ?」
「どうして?」
意味が分からない。
「私たちはデュール王家の末裔。月の戦士たちはテーミス王家の末裔。テーミス王家の奴等は香ちゃんを利用しようとしてるの。私たちは香ちゃんの味方よ。香ちゃんを必ず守るわ」
「・・・・・・・・・」
妙子の言葉に、ふっとクリスの言葉が頭をよぎる。
「オレが必ず守るから・・・」
きゅっと心臓のあたりが締め付けられる。抱きしめられた腕の温かさを思い出す。
今、クリス達はどうしているだろう。心配しているのではないだろうか・・・。
「なんだかよくわからないけど・・・とりあえず帰ってもいい? その月の王子とかいう人に会うのはまた今度で・・・」
「ダメよ。予言の日は明日だもの。時間がない」
妙子のセリフに重なってドアがノックされ、開いた。
「・・・・・・あ」
香が思わず身構える。そこに立っていたのは、リンクス=ホウジョウ。
そして・・・・・・
「目覚めたか、月の姫」
扉を押さえるリンクスの横から、長身の男がズカズカと入ってきた。
整った顔立ちをしているが、傲慢さ、猛々しさの印象の方が強く残る。
命令することに慣れた声。上に立つもののオーラがある。
「司様」
妙子が静かに頭を下げる。
司と呼ばれたその男は妙子には見向きもせず、香をじろじろと見ると、
「・・・・・・地味だな」
「は?」
一瞬何を言われたのか分からずぽかんとしたが、言葉が脳に到達してようやくカチンとくる。
(初対面の女の子に向かって、第一声が地味って・・・・・・)
なんなのこの人、と妙子を振り返ったが、妙子は頭を下げたままだ。
「でも、素材は悪くない。妙子、お前に任せる。磨いてやれ」
「はい・・・・・・」
意味がわからない。本当にわからない。
香は腹立ちも手伝って、司のことをにらみがちに見上げると、
「私、帰ります。失礼します・・・、あれ?」
司の横を通りぬけようとしたが、見えない壁に阻まれた。リンクスの仕業だ。
「・・・・・・。帰ります!」
カッと香の体から金のオーラが立ち上った。見えない壁を振り払う。
「失礼します」
そのまま司の横を通りぬけようとしたが、
「待て」
司の迫力のある声に思わず立ち止まる。
振り返る間もなく、いきなりお下げの片方を引っ張られ、引き寄せられた。たまらず香が悲鳴を上げる。
「痛・・・っ」
「司様っ」
オロオロと司に取りすがろうとした妙子の顎を、司が空いている方の手でグッと掴む。
「いいな?妙子。オレは生意気な女は嫌いだ。よく言い聞かせておけ」
「は・・・はい」
「月の姫」
お下げを引っ張り上げながら、司が高圧的に言う。
「逃げようなんて思うなよ?」
「・・・・・・」
突き飛ばされ、ソファーに身を投げ出される。
香が顔を上げたときには、司はリンクスを従えて出て行くところだった。
「香ちゃん、大丈夫?」
妙子の小さな心配そうな声が聞こえたが、何も答えられなかった。
自分に実際に起きていることなのに、現実味がない。
(あれは何のアニメだったかな・・・)
こんな緊迫した状況にありながら、香はそんなことを思った。
昔見たアニメ。
主人公の女の子がこうやって敵の男の人にお下げを引っ張られたシーンがあった。
あの話、確かあのあと、男の子が助けにきてくれるのだ。
男の子は、出会ったばかりにも関わらず、その女の子のことを命がけで助けてくれる。
(・・・・・・クリス)
名前が心に浮かぶ。
たぶんクリスも、あの男の子のように、助けにこようとしているに違いない。
---------------
あれ?なんででしょう?普通に書いてしまった・・・。
でも書きたかったシーン第3弾。
「司様にお下げをひっぱられる香」が書けて満足。
昔みたアニメ、とは、あれです。あれ。宮崎さんとこの・・・。
あの作品が一番大好きです。セリフも全部覚えてます。
出会ったばかりの二人が信じあっているところがいいのよね。
はあ・・・しかし。
いい加減、要約でいかないと、ホントに終わらない・・・。
次回は書きたかったシーン、第4弾!!
-----
今まで週2でしたがストックたまったので週3にします。
月水金でいきます。
ので、次回は17日水曜日夜9時です。
よろしくお願いいたします。
そういえば、本日9月15日はクリスの誕生日でした。
おめでとう。