話は香が連れ去られたころに遡る。
香とイズミとマンション前で別れ、クリスと白龍も自分たちのマンションに戻り、荷物を置いたところだった。
白龍が真っ先に異変に気がつく。イズミの気が一瞬上がり、すぐ消えたのだ。
「クリス!様子がおかしい!」
二人はベランダから飛び降り、香のマンションに向かおうとする。
二人の視界に急発進した黒いワゴン車がうつる。香の気配が遠のいていく・・・・・・。
クリスはすぐに駐車場に引き返した。高村がまだ駐車場にいるはずだった。
「高村!車を・・・・・・」
「あ、きたきたー」
茶髪の少年がボンネットに腰掛けている。
高村は気を失っているのかぐったりと壁に寄り掛かっている。
「貴様・・・高村に何をした!?」
「大丈夫。気絶してもらっただけだよ。それよりさーあんたのうちの車ってどれ?わかんないからとりあえずここにある車全部パンクさせちゃったんだけど、まずかったかなー?」
茶髪の少年、スタン=ウェーバーがのほほんと言う。
「うちのはこれとそこの2台だけだ!ってそんなことはどうでもいい!!」
どうもスタンと話していると調子が狂う。
「香をどこに連れて行った!」
「だから司のところだよー」
「本宅ですか?目黒の?」
白龍の冷静な問いに、スタンは、んーーーと首をかしげ、
「オレ司んち目黒のしか知らない」
「じゃ、目黒だな?」
ふつふつとクリスのオーラが高まっていく。
「今すぐ助けに行く」
「待て、クリス」
「待てないっ」
走り出そうとするクリスの腕を白龍が力いっぱい引っ張る。
「冷静になれ。やみくもに突っ込んでも・・・」
「冷静になんかなれない!今すぐ菅原司をぶっ殺す!」
「こわー」
足をぶらぶらさせながら呑気に言うスタンに、クリスは空いている方の手で思いっきりオーラを投げつけた。
「うわわわわっ」
あわてて避けるスタン。
「なんだよー。そんなムキになんなくても・・・取って食うわけでもあるまいし」
「取って食われるんだよ!!」
クリスのオーラで地面がビリビリと振動する。
「え?どういうこと?」
きょとん、と聞き返したスタンに、白龍が冷たい目を向ける。
「君は予言の内容を知らないんですか?」
「予言って、月の姫を手に入れた男が・・・・・・なんだっけ?」
「その先です。『月の姫と月の王子が交わった時に、新世界の扉が開く』」
「交わった時・・・・・・って?」
クリスのオーラがしゅんっとしぼむ。白龍がようやく手を離す。
「え・・・・・・そういうこと?」
「真相は分かりませんが、そういう意味だと解釈されることが多い」
「え・・・・・・」
スタンは頭に手を置き、「え、え、え・・・」とブツブツいったかと思ったら、
「あーーーーー!!!」
突然叫んだ。さすがの白龍もビックリして後ろずさる。
「そういえば言ってた!司が、月の姫は自分の妻になるとかなんとか・・・・・・」
「・・・・・・何が妻だ」
クリスが吐き捨てるように言う。
「え、それってそういう意味だったの? え、それ、まずくない? 無理やり連れて行って、無理やりしちゃうってこと? それって犯罪じゃない?」
「犯罪だよ!!」
クリスがスタンに近寄り、胸ぐらを掴みあげた。
「まずいって思うなら今すぐやめさせろ!」
「やめさせろって言われても無理だよー」
降参のポーズのスタン。
「オレ、何にもできないもん。今日もここであんたんちの車パンクさせろって言われただけで、このあとどうするかなんて知らないもん」
「クソ使えねえ奴だな!!」
「・・・・・・・・・クリス」
白龍がふと語調をあらためた。
「少し時間をくれないか?ちょっと試したいことがある」
「でも・・・・・・」
「姫は今日の夜までは無事のはずだ。今のうちに高村さんの手当てとイズミさんの様子を・・・」
「・・・・・・・・・」
ギリッと歯ぎしりをしてスタンから手を離す。
「お前、そこで待ってろ! 高村が気がついたら、一緒に他のパンクさせた車のうち全部に謝りにいけ!」
「えーーーー」
「えーじゃない! 一般市民巻き込むな! 警察に突き出さないだけ有難いと思え!」
怒鳴り散らしているクリスを置いて、白龍は急いでマンションに戻る。
うまくいくかどうかは分からないが、やってみる価値はある。
菅原司の弟、風間忍を味方につけるのだ。
***
白龍は、唯一分かる連絡先、忍が社長をしている輸入会社に電話をして、一か八か社長に取り次ぎを願ってみた。するとあっさりと繋がった。部下の桔梗に、である。
桔梗は、もし白龍から連絡があった場合は必ず自分に取り次ぐよう手配していたそうだ。
事情を話したところ、会って話したいと言われ、それから1時間後、桔梗がやってきた。
しばらく桔梗と二人で話したのち、他の3人と引き合わせ、伝える。
忍は香救出に協力すると言っている、と・・・・・・。
クリスとイズミは、胡散臭い、罠ではないか、と懐疑的であったが、白龍から、司と忍の確執は有名、絶対に悪いようにはならない、と説得され、作戦に乗ることにする。アーサーはあいかわらず、決まったことに従う、というスタンスらしい。
桔梗が手配したデリバリーのトラックに隠れ、忍邸に入るクリス・白龍・アーサー・イズミの4人。
用意されていた黒ずくめの洋服に着替える。何もかもがお膳立てされていて気持ちが悪いが、とりあえず香を司から引き離すためなら背に腹は代えられない。
クリスと白龍が救出部隊。アーサーとイズミが陽動部隊。夜9時に桔梗が司邸の電源を落とすのを合図に行動開始。
作戦は見事成功し、香を無事救出できたわけだが・・・・・・
クリスは何だかモヤモヤしていた。
何もかもがうまくいきすぎている。手の上で転がされているような・・・・・・
その気持ちは、風間忍に出会って確信に変わっていく。
全部この人の脚本通りだったんだな、と・・・・・・。
***
桔梗に連れられ、香、クリス、白龍、アーサー、イズミ、の5人は、風間忍邸の書斎に通された。
そこに佇んでいたのは、美しい、という形容詞がよく似合う青年だった。
何もかも見透かしているような瞳。落ち着いた声。見る者をハッとさせる美貌。
司とは違うタイプの、上に立つものの資質を備えている。
優しい笑みを浮かべながら一人一人に丁寧に挨拶をする忍の様子に、香もほや~~としてしまっていたが、あわただしく入ってきたメガネの男性の言葉に血の気が引く。
「司様が、もうじきこちらに」
香は反射的にクリスのことを振り仰いだ。クリスが安心させるように香の肩を抱く。
「真田、皆様を月光の間に」
忍の言葉に、メガネの男性が従順に頭を下げ、書斎の一つの本棚をスライドさせた。そこに小さなドアが現れる。隠し扉だ。
「皆様、こちらに。お早く」
真田の後について進む5人。しばらく人一人通れる程度の広さの通路を進み、またドアに辿りついた。
ドアから出てみると、そこは小さな部屋になっていた。
ドーム型の天井は全面ガラス張りになっていて、ちょうど月が見えている。木の作りの温かい印象の部屋。壁沿いに木の長椅子が部屋を囲むように設置されている。
部屋の中央には子供用のベッドがポツンとおいてあり、その横に一人掛けの椅子が一つあるだけで他には何もない。
「忍兄さま・・・・・・?」
ベッドの中がモゾモゾと動き・・・・・・顔を出したのは、小さな少年。
「あれ・・・・・・?」
「あ・・・・・・・・・」
少年が香を見て、香が少年を見て、お互い指をさす。
「夢に出てきたお姉さん?」
「夢に出てきた男の子!」
ついに・・・予言通り・・・・・・月の姫と月の王子が出会ったのであった。
-----------------
ようやく会えた~~!!!
はあ・・・長かったような短かったような・・・。
いや、20年以上かかってるんだから長かったのか^^;
うーん今回要約しまくったので淡々としてますね。
今だったら、白龍と桔梗、サッとアドレス交換したんだろうな。
昔って不便だけどそれが普通だったんだよなー。
あーそろそろ終わっちゃうな。さみしいな・・・・・・。
終わりといわず、ズルズル書いちゃおうかな・・・・・・。
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次回は9月24日水曜日夜9時に更新いたします。
よろしくお願いいたします。
香とイズミとマンション前で別れ、クリスと白龍も自分たちのマンションに戻り、荷物を置いたところだった。
白龍が真っ先に異変に気がつく。イズミの気が一瞬上がり、すぐ消えたのだ。
「クリス!様子がおかしい!」
二人はベランダから飛び降り、香のマンションに向かおうとする。
二人の視界に急発進した黒いワゴン車がうつる。香の気配が遠のいていく・・・・・・。
クリスはすぐに駐車場に引き返した。高村がまだ駐車場にいるはずだった。
「高村!車を・・・・・・」
「あ、きたきたー」
茶髪の少年がボンネットに腰掛けている。
高村は気を失っているのかぐったりと壁に寄り掛かっている。
「貴様・・・高村に何をした!?」
「大丈夫。気絶してもらっただけだよ。それよりさーあんたのうちの車ってどれ?わかんないからとりあえずここにある車全部パンクさせちゃったんだけど、まずかったかなー?」
茶髪の少年、スタン=ウェーバーがのほほんと言う。
「うちのはこれとそこの2台だけだ!ってそんなことはどうでもいい!!」
どうもスタンと話していると調子が狂う。
「香をどこに連れて行った!」
「だから司のところだよー」
「本宅ですか?目黒の?」
白龍の冷静な問いに、スタンは、んーーーと首をかしげ、
「オレ司んち目黒のしか知らない」
「じゃ、目黒だな?」
ふつふつとクリスのオーラが高まっていく。
「今すぐ助けに行く」
「待て、クリス」
「待てないっ」
走り出そうとするクリスの腕を白龍が力いっぱい引っ張る。
「冷静になれ。やみくもに突っ込んでも・・・」
「冷静になんかなれない!今すぐ菅原司をぶっ殺す!」
「こわー」
足をぶらぶらさせながら呑気に言うスタンに、クリスは空いている方の手で思いっきりオーラを投げつけた。
「うわわわわっ」
あわてて避けるスタン。
「なんだよー。そんなムキになんなくても・・・取って食うわけでもあるまいし」
「取って食われるんだよ!!」
クリスのオーラで地面がビリビリと振動する。
「え?どういうこと?」
きょとん、と聞き返したスタンに、白龍が冷たい目を向ける。
「君は予言の内容を知らないんですか?」
「予言って、月の姫を手に入れた男が・・・・・・なんだっけ?」
「その先です。『月の姫と月の王子が交わった時に、新世界の扉が開く』」
「交わった時・・・・・・って?」
クリスのオーラがしゅんっとしぼむ。白龍がようやく手を離す。
「え・・・・・・そういうこと?」
「真相は分かりませんが、そういう意味だと解釈されることが多い」
「え・・・・・・」
スタンは頭に手を置き、「え、え、え・・・」とブツブツいったかと思ったら、
「あーーーーー!!!」
突然叫んだ。さすがの白龍もビックリして後ろずさる。
「そういえば言ってた!司が、月の姫は自分の妻になるとかなんとか・・・・・・」
「・・・・・・何が妻だ」
クリスが吐き捨てるように言う。
「え、それってそういう意味だったの? え、それ、まずくない? 無理やり連れて行って、無理やりしちゃうってこと? それって犯罪じゃない?」
「犯罪だよ!!」
クリスがスタンに近寄り、胸ぐらを掴みあげた。
「まずいって思うなら今すぐやめさせろ!」
「やめさせろって言われても無理だよー」
降参のポーズのスタン。
「オレ、何にもできないもん。今日もここであんたんちの車パンクさせろって言われただけで、このあとどうするかなんて知らないもん」
「クソ使えねえ奴だな!!」
「・・・・・・・・・クリス」
白龍がふと語調をあらためた。
「少し時間をくれないか?ちょっと試したいことがある」
「でも・・・・・・」
「姫は今日の夜までは無事のはずだ。今のうちに高村さんの手当てとイズミさんの様子を・・・」
「・・・・・・・・・」
ギリッと歯ぎしりをしてスタンから手を離す。
「お前、そこで待ってろ! 高村が気がついたら、一緒に他のパンクさせた車のうち全部に謝りにいけ!」
「えーーーー」
「えーじゃない! 一般市民巻き込むな! 警察に突き出さないだけ有難いと思え!」
怒鳴り散らしているクリスを置いて、白龍は急いでマンションに戻る。
うまくいくかどうかは分からないが、やってみる価値はある。
菅原司の弟、風間忍を味方につけるのだ。
***
白龍は、唯一分かる連絡先、忍が社長をしている輸入会社に電話をして、一か八か社長に取り次ぎを願ってみた。するとあっさりと繋がった。部下の桔梗に、である。
桔梗は、もし白龍から連絡があった場合は必ず自分に取り次ぐよう手配していたそうだ。
事情を話したところ、会って話したいと言われ、それから1時間後、桔梗がやってきた。
しばらく桔梗と二人で話したのち、他の3人と引き合わせ、伝える。
忍は香救出に協力すると言っている、と・・・・・・。
クリスとイズミは、胡散臭い、罠ではないか、と懐疑的であったが、白龍から、司と忍の確執は有名、絶対に悪いようにはならない、と説得され、作戦に乗ることにする。アーサーはあいかわらず、決まったことに従う、というスタンスらしい。
桔梗が手配したデリバリーのトラックに隠れ、忍邸に入るクリス・白龍・アーサー・イズミの4人。
用意されていた黒ずくめの洋服に着替える。何もかもがお膳立てされていて気持ちが悪いが、とりあえず香を司から引き離すためなら背に腹は代えられない。
クリスと白龍が救出部隊。アーサーとイズミが陽動部隊。夜9時に桔梗が司邸の電源を落とすのを合図に行動開始。
作戦は見事成功し、香を無事救出できたわけだが・・・・・・
クリスは何だかモヤモヤしていた。
何もかもがうまくいきすぎている。手の上で転がされているような・・・・・・
その気持ちは、風間忍に出会って確信に変わっていく。
全部この人の脚本通りだったんだな、と・・・・・・。
***
桔梗に連れられ、香、クリス、白龍、アーサー、イズミ、の5人は、風間忍邸の書斎に通された。
そこに佇んでいたのは、美しい、という形容詞がよく似合う青年だった。
何もかも見透かしているような瞳。落ち着いた声。見る者をハッとさせる美貌。
司とは違うタイプの、上に立つものの資質を備えている。
優しい笑みを浮かべながら一人一人に丁寧に挨拶をする忍の様子に、香もほや~~としてしまっていたが、あわただしく入ってきたメガネの男性の言葉に血の気が引く。
「司様が、もうじきこちらに」
香は反射的にクリスのことを振り仰いだ。クリスが安心させるように香の肩を抱く。
「真田、皆様を月光の間に」
忍の言葉に、メガネの男性が従順に頭を下げ、書斎の一つの本棚をスライドさせた。そこに小さなドアが現れる。隠し扉だ。
「皆様、こちらに。お早く」
真田の後について進む5人。しばらく人一人通れる程度の広さの通路を進み、またドアに辿りついた。
ドアから出てみると、そこは小さな部屋になっていた。
ドーム型の天井は全面ガラス張りになっていて、ちょうど月が見えている。木の作りの温かい印象の部屋。壁沿いに木の長椅子が部屋を囲むように設置されている。
部屋の中央には子供用のベッドがポツンとおいてあり、その横に一人掛けの椅子が一つあるだけで他には何もない。
「忍兄さま・・・・・・?」
ベッドの中がモゾモゾと動き・・・・・・顔を出したのは、小さな少年。
「あれ・・・・・・?」
「あ・・・・・・・・・」
少年が香を見て、香が少年を見て、お互い指をさす。
「夢に出てきたお姉さん?」
「夢に出てきた男の子!」
ついに・・・予言通り・・・・・・月の姫と月の王子が出会ったのであった。
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ようやく会えた~~!!!
はあ・・・長かったような短かったような・・・。
いや、20年以上かかってるんだから長かったのか^^;
うーん今回要約しまくったので淡々としてますね。
今だったら、白龍と桔梗、サッとアドレス交換したんだろうな。
昔って不便だけどそれが普通だったんだよなー。
あーそろそろ終わっちゃうな。さみしいな・・・・・・。
終わりといわず、ズルズル書いちゃおうかな・・・・・・。
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次回は9月24日水曜日夜9時に更新いたします。
よろしくお願いいたします。