「ミロク様」
真田がそっとベッドの横に行き、かしずいた。
「こちらの方々は・・・・・・」
「ねえ、真田! 僕、前に言ったでしょう? 最近毎日夢に出てくる女の人がいるって。ビックリした。本当にいたんだね。もしかして探して連れてきてくれたの?」
少年は興奮気味に言うと、元気よくベッドから飛び降り、香たちの元に走り寄った。
色白の綺麗な顔立ちの少年。忍に少し似ている。
「皆さん、こんばんは!」
「こ・・・こんばんは」
それぞれが微妙に返事をする。ミロクはニコニコと香を見上げると、
「僕、織田ミロクっていいます。お姉さんは?」
「あ・・・・・・斉藤、香、です」
「香さん、香さんね! 香さんも僕の夢みたの?」
「う、うん・・・・・・。今日の昼間に・・・」
「お昼寝してたの? そっかそっかー。ねえ、ちょっと来て!」
とまどう香にはおかまいなしに、ミロクは香の手を引っ張るとベッドまで連れて行き、
「ここ座って! ここからが一番よく月が見えるんだよ!」
「・・・・・・・・・」
香が困ったようにクリスを見ると、クリスもクリスで眉を寄せている。同じように眉を寄せて香はミロクの横に腰を下ろした。
「月・・・・・・」
「夢の中とまったく同じ!わあ嬉しいなあ。本当になった!」
うふふ、とミロクが笑う。香は、ん?と首をかしげ、
「まったく同じ? 私はちょっと違ったよ? 私が見たのは月じゃなかった」
「え、そうなの?」
「んー、でも君とこうして並ぶ感じは同じかな・・・・・・」
二人並んで座っていると姉弟のようだ。
「お前・・・・・・もしかして知ってたのか?」
クリスはつと白龍の横に移動して、こっそりと言う。白龍が妙に落ち着いているのが気になったのだ。イズミも心配そうに香を見ながら白龍のそばにきた。アーサーは壁沿いの椅子に腰かけて香とミロクの様子を興味深そうに眺めている。
白龍は軽く肯くと、
「桔梗さんから聞いたときは半信半疑だったんだが・・・・・・本当だったんだな」
「聞いたって・・・いつ?」
「今日、桔梗さんに会ってすぐ」
「はーーーなるほど」
ようやく合点がいった。妙に迷いがなかった白龍。その迷いのなさは、織田ミロクの存在だったのだ。
「教えてくれればよかったのに・・・・・・」
「すまない。確証が得られるまでは話せなかった。でももうこれは決定だな」
「あのガキが・・・・・・」
「月の王子」
4人4様の視線の先では、香とミロクがすっかり打ち解けて話しこんでいる。
「え、明日、誕生日なの?」
「そうなんだ~だから今日は特別12時過ぎまで起きてていいって、忍兄さまが」
足をプラプラさせながら嬉しそうにミロクが言う。
「いくつになるの?」
「10歳。僕ね、12時過ぎてすぐ生まれたんだって。だからホントのホントに、明日になったらすぐに10歳!」
10歳にしては幼いな、と内心では思いつつ、香はニッコリと言う。
「おめでとう」
「ありがと~。香さんはいくつ?」
「この前18歳になったばかりよ」
「ってことは、僕が生まれたときは8歳か~」
ニコニコとミロクが香に笑いかけてくる。香も思わずつられ笑いしてしまう人懐っこい笑顔。
「10歳・・・・・・」
話を聞いて、ポツリとクリスがつぶやく。
「ってことは・・・・・・交わるって話・・・・・・なしだよな?」
「いや、僕も、早熟な10歳なら有り得ない話ではない、と思っていたが・・・・・・」
「ないな・・・・・・これはないな・・・・・・」
ぎゅううっと拳を握りしめ、小さくガッツポーズを作るクリス。
「よしっよしよしっ」
「クリス、うるさい」
白龍に冷たく言われたが、笑いが止まらない。
「これはないっ。だいたい10歳に手出したら、何とか条例に引っかかるって」
「だからうるさい」
小さく小突かれたのと同時に、扉が開いた。
風間忍が桔梗を従え入ってきたのだ。
「忍兄さま!」
笑顔全開でミロクが忍に手を振る。
「前に話したでしょう? 夢に出てくる女の人。本当にいたよ!」
「ああ・・・・・・」
穏やかに微笑みながら、忍がベッド脇までやってきた。
「それでね、香さんも僕の夢みたんだって」
「そうなんですか?」
「え、はい・・・・・・」
美青年にまっすぐ視線を向けられ、ドギマギしてしまう香。
「僕は月の夢だったけど、香さんは違うんだって」
「違う?違うとは?」
「違うっていうか・・・・・・月に似ている、人工的な・・・大きな丸い・・・」
「・・・・・・なるほど」
忍は肯くと、優しく微笑んだ。
「まだ時間もあることですし、少し皆さんでお話をしませんか?」
「話?」
「ええ。予言の本当の意味について・・・・・・」
月に照らされる忍の姿は幻想的で、彼こそが月の王子なのではないかと思わせるものであった。
***
真田と桔梗により、一人一人に飲み物が配られる。
小さなテーブルが持ってこられ、そこに市松模様の一口サイズのクッキーが並べられると、こんな状況にもかかわらず、香が「かわいい!」と思わずつぶやき、桔梗に勧められるまま一つ口にいれ「おいしい!」と目を輝かせ口に手をあてる。
そして、こんな状況にもかかわらず、クリスがそんな香をみて(かわいいな~)とデレデレになり、それに気がついた白龍があきれた視線をクリスに送っている。
クリスにしてみれば、香には「決められた男」がいるからと、今まで必死に自分の想いを封印しようとしてきたが、相手が10歳の少年であり、どうも話が違ってきたと分かって、気持ちのたかが外れてしまったのだろう。香を見る瞳の色が今までにも増して恋愛感情あふれるものになっている。
「予言については諸説ありますが・・・・・・」
忍の涼しげな声がドーム状の部屋に響く。
「私はデュール側、テーミス側、両方に複数の予言者がいたという説を支持しています」
「同感です」
白龍が静かに同意する。
「若干、予言に整合性のないところがあるのは、後々にその複数の予言をつなぎ合わせた結果なのではないかと・・・・・・」
「あの・・・・・・」
遠慮がちに香が手を挙げる。
「前々から聞こうと思いながら聞けてなかったんだけど・・・・・・そもそもその、テーミスとかデュールとかって・・・・・・何?」
「星の名前だよ!」
ミロクが香の横で得意げに言う。
「元々僕たちがいた星のことだよ」
「・・・・・・・・・星?」
訝しげに香が聞き返すと、ミロクはうんうんと肯き、
「三千年くらい前に、デュール星とテーミス星で大きな戦争があって、星がもう住めない状態になっちゃったから、みんなで地球に引っ越してきたんだって」
「そんな・・・・・・」
そんな作り話みたいなこと・・・・・・と言いかけて、香は口をつぐんだ。みな神妙な顔をしている。「ホントなの?」と言いたげな視線をクリスに送ると、クリスはゆっくりと肯いた。
「本当だよ。そのテーミス王家の末裔が今のホワイト家、デュール王家の末裔が織田家だ」
「・・・・・・・・・え」
ってことは、みんな宇宙人? というか、私も宇宙人?!
えええええっと頬に手をあてる。
「何しろ3千年という長い月日が流れていますので、地球人との混血もすすんでしまい、血が入っていながらもその存在を知らない者も多いですが、王家や王家に近い者は地球人との血を極力混ぜないよう婚姻を結んできています」
淡々と忍が説明をする。
「我々に共通しているのは、地球人とは違う特殊能力。この3千年の間に生まれた特殊能力の持ち主・・・それは超能力者だけではなく、指導者であったり研究者であったり音楽家であったり様々ですが・・・その者たちの中には、デュール家かテーミス家の血筋を引いている者が数多く存在します」
「はあ・・・・・・」
突飛すぎて、頭がついていかない。説明しているのが忍でなく、クリスあたりであったら「またそんな冗談いって!」と、どついていたところであろう。
「この3千年の間に語り継がれているのが『月の姫』の予言です」
忍が振り返ると、すっと真田が古びた書物のようなものをテーブルの脇に並べた。
「現物はほとんど残っておらず、これもレプリカなのですが・・・・・・」
香が破れそうなページを恐る恐るめくってみたが、アルファベットに似たような文字が並んでいるだけで、何が書いてあるのかちっともわからない。
「ものによって書いてあることが少しずつ違ったり、解釈によって捉え方が変わったりで、なかなか本当のところが分からないのですが、共通していることはあります」
忍が香とミロクに肯きかける。
「月の姫の18歳の誕生日に月の姫の封印が解ける。その10日後に、月の姫と月の王子により、新世界の扉が開かれる」
「新世界の扉・・・・・・」
って、何? と言いたいところをぐっとこらえる香。あまりにも自分ばかりが、何?何?というのに気が引けたのだ。
その表情を読みとってか、忍はふっと微笑んだ。
「私は『月』にヒントがあると思っています」
「月?」
「そもそも、なぜ、「月の姫」「月の王子」というのか? 意味なく「月」と言っているわけではないでしょう」
「確かに・・・・・・」
「先ほど香さんは、月に似ている人工的な大きな丸いものを見たとおっしゃいましたね?」
「え、ええ・・・・・・夢で、ですけど・・・」
「宇宙船、とは思いませんでしたか?」
「宇宙船?!」
その場にいた全員が忍の発言に驚いて声をあげた。
「宇宙船って・・・・・・」
「いや、その説は数十年前に一度発表されたが、結局立ち消えたはず・・・・・・」
白龍が言うと、忍は感心したように、
「あなたは良く勉強なさっていますね。そうです。一度発表されたその説は、私の母方の祖父が唱えたものです」
「ああ・・・そういえば、日本の研究者でしたね・・・・・・」
香が恐る恐るまた手を挙げる。
「あの・・・・・・、じゃ、今晩、私とミロク君で、UFO呼んじゃう、みたいな話なんでしょうか?」
「何らかの交信が行われるのではないか、と思っています」
「はあ・・・・・・」
何か壮大なドッキリに仕掛けられている気分になってきた香である。
「新世界・・・というのは、新たな星のことか、もしくは、デュール星とテーミス星が3千年の時を経て浄化され、また住居が可能になったのではないかと」
「なるほど・・・・・・」
みんな真面目な顔をして肯いている。一人ついていっていないのは自分だけだ、と香は頭を抱えたくなった。
「最近主流になっていた説は、生物兵器説ですが・・・・・・」
「『月の姫を手に入れたものが世界を手に入れる』という一節からきているんですよね。月の姫の能力を武力として使おうということでしょう。我が兄、菅原司もその説を支持しているようです」
「・・・・・・・・・」
ぞっとしたように香が自分の両腕を抱く。その香を心配そうに見つめるクリスとイズミ。
「そういえば・・・・・・先ほど菅原司がくる、と言っていましたよね?」
「私が月の姫たちをかくまったのではないか、と。お疑いなら全部の部屋を好きにお調べください、と言ったら出て行きましたが」
「え! 私、一階のあのお部屋に、ドレスとアクセサリー置いてきちゃった!」
香が驚いて叫ぶと、桔梗が「大丈夫です」と軽く手を挙げた。
「それでしたらこちらに持ってきてありますので。もしお気に召したようでしたらお持ち帰りなさったらいかがででしょう?」
「あ・・・・・・あはは」
力なく笑う香。そんなドレスいつ着るというのだ。
というか、私、無事に家に帰れるのだろうか・・・・・・?
「ずいぶん手回しがいいんだな」
今日、桔梗と会って以来のもやもやをクリスが口にする。
「まるで香が司につかまることも、オレ達があんたを頼ることも分かっていたみたいだ」
「そうですね・・・・・・」
忍がふとミロクの方に目をやった。ミロクは眠くなってきたのか、うつらうつらしている。
「ミロクが月の王子であろうことは少し前から分かっていましたから、二人が出会うことになるという確信はありました。そうなるための道筋をいくつか想定していましたので・・・・・・」
「想定してんじゃなくて、道筋をそっちで立ててたんじゃね?」
「いえ、そんな・・・・・・」
忍が悠然と微笑む。
けっタヌキが・・・と内心毒づくクリス。手の上で転がされているようで気に入らない。
「結果的にこうして無事姫と王子が会えたんだからいいじゃないか」
白龍が割って入る。クリスはふと思いつき、
「そういや、お前もお前らしくなかったんだよな。会ったばかりの桔梗さんの言葉を信じて・・・・・・」
「そ、それは・・・・・・」
白龍が痛いところをつかれてグッとつまる。そこへ、桔梗が紅茶のお代わりを注ぎながらニッコリと言う。
「会ったばかり、ではないですよ。以前2度ほどお会いしてお話ししたことがあります」
「聞いてねーーーー!」
ガックリとクリスが頭を下げる。
「なんだよー。そういうことかよー」
「あ、ああ・・・・・・黙ってて・・・」
「なーんだかなー」
やっぱり転がされてるんだ、オレ達・・・・・・とクリスが盛大にため息をついたのと同時に、
「ミロク君?」
こてんっとミロクの頭が香の膝に落ちてきた。寝てしまったようだ。
「まだ日が変わるまで時間がありますね。どうぞおくつろぎください」
忍は言うと、真田に命じミロクをベッドに移動させた。
各々「おくつろぎ」はじめる。
忍と白龍は、予言の考察を続け、香、クリス、イズミの三人はクッキーをつまみながら、お互いが離れていた時間の報告をしあい、アーサーは部屋の隅で腕組みをしながら眠ってしまっていた。
そんな妙に穏やかな時間が過ぎ・・・・・・、気がついたら12時を回っていた。
予言の日がやってきたのだ。
------------------------------
とりあえず、ここで切りますか。
さて。
実は、私が高校生の時に細かく決めた設定はもうすぐ終わってしまいます。
シュレッターかけちゃったからうろ覚えだったんだけど、大まかこんな感じでした。
で、その続きからは、ホントに雑把にしか決められてなくて・・・。
だから、その雑把なところを要約して終わりにしようかとも思っていたんだけど、
やっぱり、これで終わるのさみしいのでもうちょっとだけちゃんと書こうかなーと思います。
もう少しお付き合いくださいませ。
次回更新は9月26日(金)夜9時になります。
よろしくお願いいたします。
真田がそっとベッドの横に行き、かしずいた。
「こちらの方々は・・・・・・」
「ねえ、真田! 僕、前に言ったでしょう? 最近毎日夢に出てくる女の人がいるって。ビックリした。本当にいたんだね。もしかして探して連れてきてくれたの?」
少年は興奮気味に言うと、元気よくベッドから飛び降り、香たちの元に走り寄った。
色白の綺麗な顔立ちの少年。忍に少し似ている。
「皆さん、こんばんは!」
「こ・・・こんばんは」
それぞれが微妙に返事をする。ミロクはニコニコと香を見上げると、
「僕、織田ミロクっていいます。お姉さんは?」
「あ・・・・・・斉藤、香、です」
「香さん、香さんね! 香さんも僕の夢みたの?」
「う、うん・・・・・・。今日の昼間に・・・」
「お昼寝してたの? そっかそっかー。ねえ、ちょっと来て!」
とまどう香にはおかまいなしに、ミロクは香の手を引っ張るとベッドまで連れて行き、
「ここ座って! ここからが一番よく月が見えるんだよ!」
「・・・・・・・・・」
香が困ったようにクリスを見ると、クリスもクリスで眉を寄せている。同じように眉を寄せて香はミロクの横に腰を下ろした。
「月・・・・・・」
「夢の中とまったく同じ!わあ嬉しいなあ。本当になった!」
うふふ、とミロクが笑う。香は、ん?と首をかしげ、
「まったく同じ? 私はちょっと違ったよ? 私が見たのは月じゃなかった」
「え、そうなの?」
「んー、でも君とこうして並ぶ感じは同じかな・・・・・・」
二人並んで座っていると姉弟のようだ。
「お前・・・・・・もしかして知ってたのか?」
クリスはつと白龍の横に移動して、こっそりと言う。白龍が妙に落ち着いているのが気になったのだ。イズミも心配そうに香を見ながら白龍のそばにきた。アーサーは壁沿いの椅子に腰かけて香とミロクの様子を興味深そうに眺めている。
白龍は軽く肯くと、
「桔梗さんから聞いたときは半信半疑だったんだが・・・・・・本当だったんだな」
「聞いたって・・・いつ?」
「今日、桔梗さんに会ってすぐ」
「はーーーなるほど」
ようやく合点がいった。妙に迷いがなかった白龍。その迷いのなさは、織田ミロクの存在だったのだ。
「教えてくれればよかったのに・・・・・・」
「すまない。確証が得られるまでは話せなかった。でももうこれは決定だな」
「あのガキが・・・・・・」
「月の王子」
4人4様の視線の先では、香とミロクがすっかり打ち解けて話しこんでいる。
「え、明日、誕生日なの?」
「そうなんだ~だから今日は特別12時過ぎまで起きてていいって、忍兄さまが」
足をプラプラさせながら嬉しそうにミロクが言う。
「いくつになるの?」
「10歳。僕ね、12時過ぎてすぐ生まれたんだって。だからホントのホントに、明日になったらすぐに10歳!」
10歳にしては幼いな、と内心では思いつつ、香はニッコリと言う。
「おめでとう」
「ありがと~。香さんはいくつ?」
「この前18歳になったばかりよ」
「ってことは、僕が生まれたときは8歳か~」
ニコニコとミロクが香に笑いかけてくる。香も思わずつられ笑いしてしまう人懐っこい笑顔。
「10歳・・・・・・」
話を聞いて、ポツリとクリスがつぶやく。
「ってことは・・・・・・交わるって話・・・・・・なしだよな?」
「いや、僕も、早熟な10歳なら有り得ない話ではない、と思っていたが・・・・・・」
「ないな・・・・・・これはないな・・・・・・」
ぎゅううっと拳を握りしめ、小さくガッツポーズを作るクリス。
「よしっよしよしっ」
「クリス、うるさい」
白龍に冷たく言われたが、笑いが止まらない。
「これはないっ。だいたい10歳に手出したら、何とか条例に引っかかるって」
「だからうるさい」
小さく小突かれたのと同時に、扉が開いた。
風間忍が桔梗を従え入ってきたのだ。
「忍兄さま!」
笑顔全開でミロクが忍に手を振る。
「前に話したでしょう? 夢に出てくる女の人。本当にいたよ!」
「ああ・・・・・・」
穏やかに微笑みながら、忍がベッド脇までやってきた。
「それでね、香さんも僕の夢みたんだって」
「そうなんですか?」
「え、はい・・・・・・」
美青年にまっすぐ視線を向けられ、ドギマギしてしまう香。
「僕は月の夢だったけど、香さんは違うんだって」
「違う?違うとは?」
「違うっていうか・・・・・・月に似ている、人工的な・・・大きな丸い・・・」
「・・・・・・なるほど」
忍は肯くと、優しく微笑んだ。
「まだ時間もあることですし、少し皆さんでお話をしませんか?」
「話?」
「ええ。予言の本当の意味について・・・・・・」
月に照らされる忍の姿は幻想的で、彼こそが月の王子なのではないかと思わせるものであった。
***
真田と桔梗により、一人一人に飲み物が配られる。
小さなテーブルが持ってこられ、そこに市松模様の一口サイズのクッキーが並べられると、こんな状況にもかかわらず、香が「かわいい!」と思わずつぶやき、桔梗に勧められるまま一つ口にいれ「おいしい!」と目を輝かせ口に手をあてる。
そして、こんな状況にもかかわらず、クリスがそんな香をみて(かわいいな~)とデレデレになり、それに気がついた白龍があきれた視線をクリスに送っている。
クリスにしてみれば、香には「決められた男」がいるからと、今まで必死に自分の想いを封印しようとしてきたが、相手が10歳の少年であり、どうも話が違ってきたと分かって、気持ちのたかが外れてしまったのだろう。香を見る瞳の色が今までにも増して恋愛感情あふれるものになっている。
「予言については諸説ありますが・・・・・・」
忍の涼しげな声がドーム状の部屋に響く。
「私はデュール側、テーミス側、両方に複数の予言者がいたという説を支持しています」
「同感です」
白龍が静かに同意する。
「若干、予言に整合性のないところがあるのは、後々にその複数の予言をつなぎ合わせた結果なのではないかと・・・・・・」
「あの・・・・・・」
遠慮がちに香が手を挙げる。
「前々から聞こうと思いながら聞けてなかったんだけど・・・・・・そもそもその、テーミスとかデュールとかって・・・・・・何?」
「星の名前だよ!」
ミロクが香の横で得意げに言う。
「元々僕たちがいた星のことだよ」
「・・・・・・・・・星?」
訝しげに香が聞き返すと、ミロクはうんうんと肯き、
「三千年くらい前に、デュール星とテーミス星で大きな戦争があって、星がもう住めない状態になっちゃったから、みんなで地球に引っ越してきたんだって」
「そんな・・・・・・」
そんな作り話みたいなこと・・・・・・と言いかけて、香は口をつぐんだ。みな神妙な顔をしている。「ホントなの?」と言いたげな視線をクリスに送ると、クリスはゆっくりと肯いた。
「本当だよ。そのテーミス王家の末裔が今のホワイト家、デュール王家の末裔が織田家だ」
「・・・・・・・・・え」
ってことは、みんな宇宙人? というか、私も宇宙人?!
えええええっと頬に手をあてる。
「何しろ3千年という長い月日が流れていますので、地球人との混血もすすんでしまい、血が入っていながらもその存在を知らない者も多いですが、王家や王家に近い者は地球人との血を極力混ぜないよう婚姻を結んできています」
淡々と忍が説明をする。
「我々に共通しているのは、地球人とは違う特殊能力。この3千年の間に生まれた特殊能力の持ち主・・・それは超能力者だけではなく、指導者であったり研究者であったり音楽家であったり様々ですが・・・その者たちの中には、デュール家かテーミス家の血筋を引いている者が数多く存在します」
「はあ・・・・・・」
突飛すぎて、頭がついていかない。説明しているのが忍でなく、クリスあたりであったら「またそんな冗談いって!」と、どついていたところであろう。
「この3千年の間に語り継がれているのが『月の姫』の予言です」
忍が振り返ると、すっと真田が古びた書物のようなものをテーブルの脇に並べた。
「現物はほとんど残っておらず、これもレプリカなのですが・・・・・・」
香が破れそうなページを恐る恐るめくってみたが、アルファベットに似たような文字が並んでいるだけで、何が書いてあるのかちっともわからない。
「ものによって書いてあることが少しずつ違ったり、解釈によって捉え方が変わったりで、なかなか本当のところが分からないのですが、共通していることはあります」
忍が香とミロクに肯きかける。
「月の姫の18歳の誕生日に月の姫の封印が解ける。その10日後に、月の姫と月の王子により、新世界の扉が開かれる」
「新世界の扉・・・・・・」
って、何? と言いたいところをぐっとこらえる香。あまりにも自分ばかりが、何?何?というのに気が引けたのだ。
その表情を読みとってか、忍はふっと微笑んだ。
「私は『月』にヒントがあると思っています」
「月?」
「そもそも、なぜ、「月の姫」「月の王子」というのか? 意味なく「月」と言っているわけではないでしょう」
「確かに・・・・・・」
「先ほど香さんは、月に似ている人工的な大きな丸いものを見たとおっしゃいましたね?」
「え、ええ・・・・・・夢で、ですけど・・・」
「宇宙船、とは思いませんでしたか?」
「宇宙船?!」
その場にいた全員が忍の発言に驚いて声をあげた。
「宇宙船って・・・・・・」
「いや、その説は数十年前に一度発表されたが、結局立ち消えたはず・・・・・・」
白龍が言うと、忍は感心したように、
「あなたは良く勉強なさっていますね。そうです。一度発表されたその説は、私の母方の祖父が唱えたものです」
「ああ・・・そういえば、日本の研究者でしたね・・・・・・」
香が恐る恐るまた手を挙げる。
「あの・・・・・・、じゃ、今晩、私とミロク君で、UFO呼んじゃう、みたいな話なんでしょうか?」
「何らかの交信が行われるのではないか、と思っています」
「はあ・・・・・・」
何か壮大なドッキリに仕掛けられている気分になってきた香である。
「新世界・・・というのは、新たな星のことか、もしくは、デュール星とテーミス星が3千年の時を経て浄化され、また住居が可能になったのではないかと」
「なるほど・・・・・・」
みんな真面目な顔をして肯いている。一人ついていっていないのは自分だけだ、と香は頭を抱えたくなった。
「最近主流になっていた説は、生物兵器説ですが・・・・・・」
「『月の姫を手に入れたものが世界を手に入れる』という一節からきているんですよね。月の姫の能力を武力として使おうということでしょう。我が兄、菅原司もその説を支持しているようです」
「・・・・・・・・・」
ぞっとしたように香が自分の両腕を抱く。その香を心配そうに見つめるクリスとイズミ。
「そういえば・・・・・・先ほど菅原司がくる、と言っていましたよね?」
「私が月の姫たちをかくまったのではないか、と。お疑いなら全部の部屋を好きにお調べください、と言ったら出て行きましたが」
「え! 私、一階のあのお部屋に、ドレスとアクセサリー置いてきちゃった!」
香が驚いて叫ぶと、桔梗が「大丈夫です」と軽く手を挙げた。
「それでしたらこちらに持ってきてありますので。もしお気に召したようでしたらお持ち帰りなさったらいかがででしょう?」
「あ・・・・・・あはは」
力なく笑う香。そんなドレスいつ着るというのだ。
というか、私、無事に家に帰れるのだろうか・・・・・・?
「ずいぶん手回しがいいんだな」
今日、桔梗と会って以来のもやもやをクリスが口にする。
「まるで香が司につかまることも、オレ達があんたを頼ることも分かっていたみたいだ」
「そうですね・・・・・・」
忍がふとミロクの方に目をやった。ミロクは眠くなってきたのか、うつらうつらしている。
「ミロクが月の王子であろうことは少し前から分かっていましたから、二人が出会うことになるという確信はありました。そうなるための道筋をいくつか想定していましたので・・・・・・」
「想定してんじゃなくて、道筋をそっちで立ててたんじゃね?」
「いえ、そんな・・・・・・」
忍が悠然と微笑む。
けっタヌキが・・・と内心毒づくクリス。手の上で転がされているようで気に入らない。
「結果的にこうして無事姫と王子が会えたんだからいいじゃないか」
白龍が割って入る。クリスはふと思いつき、
「そういや、お前もお前らしくなかったんだよな。会ったばかりの桔梗さんの言葉を信じて・・・・・・」
「そ、それは・・・・・・」
白龍が痛いところをつかれてグッとつまる。そこへ、桔梗が紅茶のお代わりを注ぎながらニッコリと言う。
「会ったばかり、ではないですよ。以前2度ほどお会いしてお話ししたことがあります」
「聞いてねーーーー!」
ガックリとクリスが頭を下げる。
「なんだよー。そういうことかよー」
「あ、ああ・・・・・・黙ってて・・・」
「なーんだかなー」
やっぱり転がされてるんだ、オレ達・・・・・・とクリスが盛大にため息をついたのと同時に、
「ミロク君?」
こてんっとミロクの頭が香の膝に落ちてきた。寝てしまったようだ。
「まだ日が変わるまで時間がありますね。どうぞおくつろぎください」
忍は言うと、真田に命じミロクをベッドに移動させた。
各々「おくつろぎ」はじめる。
忍と白龍は、予言の考察を続け、香、クリス、イズミの三人はクッキーをつまみながら、お互いが離れていた時間の報告をしあい、アーサーは部屋の隅で腕組みをしながら眠ってしまっていた。
そんな妙に穏やかな時間が過ぎ・・・・・・、気がついたら12時を回っていた。
予言の日がやってきたのだ。
------------------------------
とりあえず、ここで切りますか。
さて。
実は、私が高校生の時に細かく決めた設定はもうすぐ終わってしまいます。
シュレッターかけちゃったからうろ覚えだったんだけど、大まかこんな感じでした。
で、その続きからは、ホントに雑把にしか決められてなくて・・・。
だから、その雑把なところを要約して終わりにしようかとも思っていたんだけど、
やっぱり、これで終わるのさみしいのでもうちょっとだけちゃんと書こうかなーと思います。
もう少しお付き合いくださいませ。
次回更新は9月26日(金)夜9時になります。
よろしくお願いいたします。