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(BL小説)風のゆくえには~ お礼はキスで

2015年10月31日 07時19分13秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

高校2年生1月末のお話です。浩介視点で。

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 5時間目の英語は小テストからはじまった。
 小テスト、というわりには、結構長めの長文問題もあり、歯ごたえはある感じ。
 ……と思ったけれども、早々に終わってしまって、2回見直しした時点で、終了時間まで10分以上余ってしまった。

(慶、大丈夫かな……)

 斜め前方に目をやる。おれの席の3つ前の左隣、一番前の一番窓際の席に、おれの愛しい人が座っている。
 おれ達が親友という関係にプラスして、恋人にもなったのは一か月ほど前のこと。でも、みんなには内緒にしている。おれが慶を好きなことは隠していないけど、みんなは冗談だと思っているみたいだ。
 まあ、恋人っていっても、今までの親友関係とたいして変わらなくて、変わったことといえば、時々キスするようになったことくらいで……。

(慶……)

 絵のように美しい慶。冬の日射しに照らされた白皙。少し茶色がかったフワフワの髪。見とれてしまう。
 慶は左手で頬杖をつき、右手でシャーペンをプラプラと揺らしていたが、やがてそのプラプラが止まってしまった。

(……慶、寝てる……?)

 考えるために目をつむっているのか、眠っているのか判断しかねるところだ。
 ただ、昼休みも、しきりと眠い眠いと言っていた。昨日の晩、遅くまでテレビを見ていたとかで……

(あ)

 がくんっと頭が下がった慶。だけど頬杖をやめる気配も何か書きだす気配もない。
 ただでさえ、慶は英語の長文が苦手だ。解いているうちに寝てしまった可能性は高い。

(どうしよう……)

 残り8分……

「先生」
 テストの邪魔にならないよう小さく手をあげると、今年教師なりたての祥子先生が「どうしたの?」とやってきてくれた。

「トイレ行きたいんですけど……」
「提出してからならいいわよ」
「はい」

 先生にテストをおしつけ、立ち上がる。
 そのままゆっくり慶に近づくと……案の定、長文の3問目から答えが空欄になっている。でもここで声をかけたらまずいよな。どうしよう……

 頭を素早く巡らせた結果、通りすがりに左手を慶の机の上ですべらせた。

「あ、ごめん」
 なるべく自然な形で、慶の筆箱を下に落とす。ぽとっと落ちた筆箱を、しゃがんで拾って慶を見上げたが、

(じゅ、熟睡?! これでも起きないなんてっ)
 慶は頬杖をついたまま、まだ寝ている。キスしたくなるような無防備な寝顔の慶……。

(可愛すぎだ……)
 立ち上がって、筆箱を机の上に置き、そのままその手を慶のあごにかける。親指でそっと唇をなでると、

「………あれ?」
 慶がぼんやりと目をあけた。

「浩介? ……あれ?」
 ようやく起きたらしい。寝ぼけた慶も抜群にかわいい。ああ、このままキスしたい。

 と、思ったけれど、

「ちょっと、桜井君。トイレ行くんじゃなかったの?」

 祥子先生が眉を寄せて立っている。

「まさか、答え教えてあげたりしてないでしょうね」
「あ、いえいえ」

 手を離して、首を振る。

「渋谷君があまりにも可愛かったのでキスしようとしただけです」
「キ……っ」

 慶の顔が途端に真っ赤になり、まわりの数人がクスクス笑いだした。

「もう、バカなことしてないで、さっさとトイレ行きなさい」
「はーい」

 あきれ顔の祥子先生の横を通り抜け、教室の出口へ向かう。出るときに振り返ると、慶がムーッと鼻に皺をよせこちらを見ていた。その顔もかわいい。その鼻の頭にキスしたい。

(がんばって)
 声には出さずに言って手を振ると、慶も声をださず「ばーか」と返して、イーッとした。もう、ホントにもう、かわいすぎる。

 ドアを閉めふり仰ぐ。2年10組のプレート。あと2か月でこのクラスともお別れだ。
 おれは文系コース、慶は理系コースに進むので、3年では絶対にクラスがわかれてしまう。

 そっと窓からのぞくと、慶は今度は真面目に長文に取り掛かっていた。こんな姿を見れるのもあと少し……。
 今のうちに目に焼きつけておこう……と思ったら、

「桜井くん」
 さっさといきなさい。と祥子先生にシッシッと手で追いやられてしまった。残念。


 後日返された小テスト、結果は、おれはもちろん100点だったが(このくらいのテストで100点取れなかったらおれは生きていけない)、先生から「本当はふざけてた分、マイナスしたいくらいだからね!」と怒られた。
 一方の慶は、92点。なんとか長文を解くのも間にあったそうだ。

「起こしてくれてサンキューなー。あれあのまま寝てたらあと10点は低かった」
「どういたしまして」

 帰り道のいつもの川べり。土手に並んで座って話していたら、慶があの時イーッとしたのも忘れたようにニコニコといってくれた。イーッてした顔もニコニコした顔もどちらも可愛い。

「お礼にジュースおごるぞ」
「んーいいよー。ジュースよりもさ」

 慶の手をとり、顔をのぞきこむ。

「お礼にキスして?」
「…………」

 途端に真っ赤になる慶。慶はえーとかあーとか言って、しばらくうんうん唸っていたけれど、やがて観念したように、ぼそっと言った。

「目つむれ」
「うん」

 素直に目をつむる。するとキョロキョロとまわりを見渡しているような気配のあと、

「………っ」

 ちゅっと軽く唇が合わさった。ああ…柔らかくて気持ちいい……大好きな慶の唇。慶からのキス。嬉しい。

 目を開けると、慶がこれでもかというくらい真っ赤な顔をしてうつむいていた。

「慶……」
「あーッ、もう恥ずかしいっ」

 慶は立ち上がると「帰るぞっ」と言ってずんずん土手をのぼっていってしまった。

「慶ー待ってよーもう一回!」
「しねえよっばーかっ」
「なんでー!もう一回ー!!」
「ばかっあほっ」

 慶がプンプン怒りながら歩く後ろを追いかける。
 この姿も覚えておこう。いつまでも覚えておこう。

「慶」
「あ?」

 おれ達、こうしてずっと一緒にいられるのかな……

 その言葉は胸にしまって。

「大好きっ」
「な……っ」

 後ろから抱きつくと、慶が慌てて離れようとする。

「お前っこんな往来でーっ」
「誰もいない誰もいないっ」

 大好きな慶を抱きしめる。
 これからもずっと一緒にいられますように。クラスが変わっても一緒にいられますように。受験が本格化しても一緒にいられますように。
 たくさんの願いをこめて、ぎゅうぎゅうぎゅうっと抱きしめた。


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以上です。
高校生の二人。付き合いたての二人。
初々しい! かわいい! まだキスも軽いのしかしたことないのね。
この1ヶ月後が「R18・初体験にはまだ早い」になります。こうしてどんどん大人の階段のぼっていくのね~。

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