高校2年生1月末のお話です。浩介視点で。
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5時間目の英語は小テストからはじまった。
小テスト、というわりには、結構長めの長文問題もあり、歯ごたえはある感じ。
……と思ったけれども、早々に終わってしまって、2回見直しした時点で、終了時間まで10分以上余ってしまった。
(慶、大丈夫かな……)
斜め前方に目をやる。おれの席の3つ前の左隣、一番前の一番窓際の席に、おれの愛しい人が座っている。
おれ達が親友という関係にプラスして、恋人にもなったのは一か月ほど前のこと。でも、みんなには内緒にしている。おれが慶を好きなことは隠していないけど、みんなは冗談だと思っているみたいだ。
まあ、恋人っていっても、今までの親友関係とたいして変わらなくて、変わったことといえば、時々キスするようになったことくらいで……。
(慶……)
絵のように美しい慶。冬の日射しに照らされた白皙。少し茶色がかったフワフワの髪。見とれてしまう。
慶は左手で頬杖をつき、右手でシャーペンをプラプラと揺らしていたが、やがてそのプラプラが止まってしまった。
(……慶、寝てる……?)
考えるために目をつむっているのか、眠っているのか判断しかねるところだ。
ただ、昼休みも、しきりと眠い眠いと言っていた。昨日の晩、遅くまでテレビを見ていたとかで……
(あ)
がくんっと頭が下がった慶。だけど頬杖をやめる気配も何か書きだす気配もない。
ただでさえ、慶は英語の長文が苦手だ。解いているうちに寝てしまった可能性は高い。
(どうしよう……)
残り8分……
「先生」
テストの邪魔にならないよう小さく手をあげると、今年教師なりたての祥子先生が「どうしたの?」とやってきてくれた。
「トイレ行きたいんですけど……」
「提出してからならいいわよ」
「はい」
先生にテストをおしつけ、立ち上がる。
そのままゆっくり慶に近づくと……案の定、長文の3問目から答えが空欄になっている。でもここで声をかけたらまずいよな。どうしよう……
頭を素早く巡らせた結果、通りすがりに左手を慶の机の上ですべらせた。
「あ、ごめん」
なるべく自然な形で、慶の筆箱を下に落とす。ぽとっと落ちた筆箱を、しゃがんで拾って慶を見上げたが、
(じゅ、熟睡?! これでも起きないなんてっ)
慶は頬杖をついたまま、まだ寝ている。キスしたくなるような無防備な寝顔の慶……。
(可愛すぎだ……)
立ち上がって、筆箱を机の上に置き、そのままその手を慶のあごにかける。親指でそっと唇をなでると、
「………あれ?」
慶がぼんやりと目をあけた。
「浩介? ……あれ?」
ようやく起きたらしい。寝ぼけた慶も抜群にかわいい。ああ、このままキスしたい。
と、思ったけれど、
「ちょっと、桜井君。トイレ行くんじゃなかったの?」
祥子先生が眉を寄せて立っている。
「まさか、答え教えてあげたりしてないでしょうね」
「あ、いえいえ」
手を離して、首を振る。
「渋谷君があまりにも可愛かったのでキスしようとしただけです」
「キ……っ」
慶の顔が途端に真っ赤になり、まわりの数人がクスクス笑いだした。
「もう、バカなことしてないで、さっさとトイレ行きなさい」
「はーい」
あきれ顔の祥子先生の横を通り抜け、教室の出口へ向かう。出るときに振り返ると、慶がムーッと鼻に皺をよせこちらを見ていた。その顔もかわいい。その鼻の頭にキスしたい。
(がんばって)
声には出さずに言って手を振ると、慶も声をださず「ばーか」と返して、イーッとした。もう、ホントにもう、かわいすぎる。
ドアを閉めふり仰ぐ。2年10組のプレート。あと2か月でこのクラスともお別れだ。
おれは文系コース、慶は理系コースに進むので、3年では絶対にクラスがわかれてしまう。
そっと窓からのぞくと、慶は今度は真面目に長文に取り掛かっていた。こんな姿を見れるのもあと少し……。
今のうちに目に焼きつけておこう……と思ったら、
「桜井くん」
さっさといきなさい。と祥子先生にシッシッと手で追いやられてしまった。残念。
後日返された小テスト、結果は、おれはもちろん100点だったが(このくらいのテストで100点取れなかったらおれは生きていけない)、先生から「本当はふざけてた分、マイナスしたいくらいだからね!」と怒られた。
一方の慶は、92点。なんとか長文を解くのも間にあったそうだ。
「起こしてくれてサンキューなー。あれあのまま寝てたらあと10点は低かった」
「どういたしまして」
帰り道のいつもの川べり。土手に並んで座って話していたら、慶があの時イーッとしたのも忘れたようにニコニコといってくれた。イーッてした顔もニコニコした顔もどちらも可愛い。
「お礼にジュースおごるぞ」
「んーいいよー。ジュースよりもさ」
慶の手をとり、顔をのぞきこむ。
「お礼にキスして?」
「…………」
途端に真っ赤になる慶。慶はえーとかあーとか言って、しばらくうんうん唸っていたけれど、やがて観念したように、ぼそっと言った。
「目つむれ」
「うん」
素直に目をつむる。するとキョロキョロとまわりを見渡しているような気配のあと、
「………っ」
ちゅっと軽く唇が合わさった。ああ…柔らかくて気持ちいい……大好きな慶の唇。慶からのキス。嬉しい。
目を開けると、慶がこれでもかというくらい真っ赤な顔をしてうつむいていた。
「慶……」
「あーッ、もう恥ずかしいっ」
慶は立ち上がると「帰るぞっ」と言ってずんずん土手をのぼっていってしまった。
「慶ー待ってよーもう一回!」
「しねえよっばーかっ」
「なんでー!もう一回ー!!」
「ばかっあほっ」
慶がプンプン怒りながら歩く後ろを追いかける。
この姿も覚えておこう。いつまでも覚えておこう。
「慶」
「あ?」
おれ達、こうしてずっと一緒にいられるのかな……
その言葉は胸にしまって。
「大好きっ」
「な……っ」
後ろから抱きつくと、慶が慌てて離れようとする。
「お前っこんな往来でーっ」
「誰もいない誰もいないっ」
大好きな慶を抱きしめる。
これからもずっと一緒にいられますように。クラスが変わっても一緒にいられますように。受験が本格化しても一緒にいられますように。
たくさんの願いをこめて、ぎゅうぎゅうぎゅうっと抱きしめた。
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以上です。
高校生の二人。付き合いたての二人。
初々しい! かわいい! まだキスも軽いのしかしたことないのね。
この1ヶ月後が「R18・初体験にはまだ早い」になります。こうしてどんどん大人の階段のぼっていくのね~。
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