浩介と一緒に鶴岡八幡宮で初詣をしたあと、ボチボチ歩いて由比ガ浜まで出た。
冬の海……日も照っていない曇り空なので余計に寒いけれど、心は真夏並みに暑い!
鶴岡八幡宮はものすごい人だった。途中、中学生の団体のせいで、おれ達は一度はぐれてしまったのだけど、
(今となってはあの中学生たちに感謝感謝だな)
なぜなら、無事に会えたあとで、浩介が泣きそうな顔をしておれの腕を掴んできたんだ。その必死な様子が……
(かわいすぎだろっ!)
人目がなかったらぎゅーぎゅー抱きしめていたところだ。我慢したおれエライ。
でも、どさくさに紛れて手を握ってしまった。
(浩介の手、冷たかったな……)
温めてやりたかったけど、いくらなんでもマズイかなと思ってすぐに離した。
でも、浩介はお賽銭の場所につく寸前までずっとおれの腕を掴んでいた。小さい子みたいでホントかわいかった……
あーあ。普通に手を繋いだり腕を組んだりして歩いているカップルが羨ましい。ああいう風にお前と歩けたらどんなに嬉しいだろうな……。
「お前さ……」
「ん?」
波打ち際、横を歩く浩介が振り返る。
(くそー……)
いちいちドキドキするのをどうにかしたい……。
内心のドキドキを押さえて、何とか普通の顔で聞いてみる。
「お前、さっき何お願いしたんだ?」
浩介は真剣な様子で手を合わせていた。何か願い事があったんだろう。
おれは一つだけ一生懸命お願いしてきた。それは、
『二年生では浩介と同じクラスになれますように』
12クラスもあるけれど、芸術科目の選択が一緒なので、同じクラスになれる可能性はないわけではない。同じクラスになれればいつでも一緒にいられる。そうなったらどんなに毎日楽しいだろう……
浩介は、何を願ったんだろう。バスケのことかな。勉強のことかな……。
同じことを願っててくれてたら嬉しいのにな……。
「あー……」
浩介は言いにくそうに、あーとかうーとか言った挙句、
「慶は? 何お願いしたの?」
質問返ししてきた。なんだ。言いたくないってことか……。
がっかりした気持ちのまま、ザクザクザク、とわざと足を埋めるように力強く砂浜を踏みしめる。
「………おれは」
立ち止まると、浩介も立ち止りこちらを振り返った。
波の音がやけに大きく聞こえる。
「おれは……」
きょとんとしている浩介を見上げ、やけくそ気味に言ってやる。
「お前と同じクラスになれますようにってお願いした」
「え……」
浩介が驚いたように目を瞠った。
(だよな………)
……凹む。当たり前だけど、やっぱり浩介の願いは違うんだな。
ああ、いいよ、別に。もっと他にあるよな。そうだよな。
当たり前のことなんだけど、浩介と自分の温度差を再認識して、落ち込んでくる。
そりゃそうだ。おれ達はただの友達で親友でそれ以上でもそれ以下でもなくて……
くそー……と、落ち込んでいたところへ、
「そっかあ……」
「?」
感心したようにため息をつかれた。振り仰ぐと、
「すごいな。慶って、現実的だね」
「え?」
現実的?何の話だ?
「やっぱりおれとは全然違うなあ。慶は」
「……何が」
意味が分からない。
浩介は感心したように肯き続けている。だから意味が分からない。
「お前、何言って……」
「おれね」
ふっと浩介が笑った。ドキッとするくらい優しい笑顔……
「おれ……」
「……っ」
手が伸びてきて、風で乱れたおれの髪を直してくれる。
うわ……っ それ反則……っ
内心パニックになりながら、浩介の言葉の続きを待つと、
「おれね」
浩介は優しく微笑みながら、ささやくように言った。
「『慶とずっと親友でいられますように』ってお願いしたの」
「え……」
え?
波の音が一瞬で消えた。
「ずっと……親友で?」
「うん……」
照れたようにうつむく浩介。
「でも、なんかすごく漠然としすぎてる感じだね。それに比べて慶はしっかり先を見据えてる感じ」
「そんなことは……」
ずっと親友で……
「浩介……」
ずっと親友で……
「慶?」
「………あ」
涙が出そうになって、あわてて目をそらす。
ずっと親友で。
そんなこと願ってくれてたなんて……
浩介の中におれの存在がちゃんといてくれたなんて……
「お前、バカだなあっ」
「えええっ。痛い痛いっ」
泣きそうなのを誤魔化すために、浩介の腕をバンバンたたいてやる。
「なんでバカなのー!?」
怒った浩介に、さらに「バーカ」と言ってから、言い放つ。
「だって、そんなの!」
波の音が再び聞こえてくる。
バカだ。お前。だって、そんな願いは……
「そんなの、神様にお願いしなくたって!」
波の音に負けじと叫んでやる。
「おれ達ずっと親友に決まってんじゃねえかよっ」
「え……」
今度は浩介が呆ける番だった。
「………ずっと親友?」
「あったり前だろっ」
我慢できなくて、冷たいその手を両手でぎゅーっと包み込む。ぎゅーっぎゅーっと握りしめる。おれはいつでもお前のことあたためてやりたいっ。
「おれ達はずっとずっとずーっと親友だっ」
「………慶」
泣きそうな顔をして笑った浩介。
抱きしめたい………けど、さすがに我慢っ。
「……あっちまで行ってみようぜ?」
手を離して、気持ちを落ち着かせてから再び歩きだした、けど、
突然、浩介が「あーっ」と叫んだ。なんだなんだ!?
「ど、どうした!?」
「ちょっと、鶴岡八幡宮戻ってもいい!?」
「へ?」
浩介、なぜか頭を抱えている。
「何、忘れもの?」
「うん。忘れものというか……」
あー……と長く伸ばしてから、浩介はボソッと言った。
「おれ、さっきお賽銭、500円もいれちゃった……」
「ご、500円!?」
ま、まじか!?
「うわ、太っ腹ー……」
「ちょっともう一回行って、願いごとの変更お願いしたいっ」
「変更?」
聞くと、浩介はこくこくと激しくうなずき、
「おれも『慶と同じクラスになれますように』ってお願いに変更する!」
「……………」
浩介……。
浩介、浩介。大好きな大好きな浩介。
「よし!行くか!」
「うん。ありがとー」
ザクザクザクと来た道を戻る。
「お前、担任、誰がいい?」
「んー、中森は嫌だなあ」
「いえてる。あ、おれ、水戸ちゃんがいい。若いし可愛いし」
「でも水戸先生、怒るとヒステリックで支離滅裂だよ」
「げ、まじか」
たわいないのない会話。それがとてつもなく幸せ。
「おれ達、さくらい、と、しぶや、だから、出席番号前後になれるかもな」
「あ、そうだね! んー……佐藤とか真田とかいなければ、前後になれる!」
「佐藤………いそうだな」
「日本の名字トップ2だもんね」
「今、佐藤と鈴木、どっちが多いんだ?」
浩介と一緒だと話がつきない。かといって、沈黙も苦にならない。
こんな奴がいるなんて。こんなに一緒にいて嬉しくて安らげて、愛しくて大切で大好きで………。
「もし、一緒のクラスになれなくてもさ……」
「うん」
振り返った浩介を見上げる。
「いっぱい一緒に遊んだり勉強したりしような?」
「うん!」
浩介もニコニコと笑ってくれる。
「でも、500円も出したんだから叶えてほしいなあ」
「おれ、100円だったから合わせて600円だな」
「おれもう100円出しとく!」
「じゃ、おれも。そしたら二人で800円か。………キリ悪いな。じゃあおれ、あと200円出して合わせて千円にしよう」
お賽銭に400円。大盤振る舞いだ。浩介なんて600円だぞ。
「これで同じクラスになれなかったら……」
「もう二度と来ねえぞ!!」
「ホントだよ!!」
二人で顔を見合わせ笑いだす。
ああ……お前と一緒にいると笑ってばかりだ。楽しくてしょうがない。
どうかどうか同じクラスになれますように!
***
それから約3ヶ月後……
合わせて千円の甲斐あって、おれ達は同じクラスになれた。出席番号も見事に前後。席も日直が一巡するまでは前後ろ!
「お礼参りに行こうぜ」
「行こう行こう」
お礼参りにかこつけて、またデートみたいな鎌倉観光をしたり、おれの誕生日には遊園地に行ったり、幸せで順調すぎる高校二年生の生活がはじまった。
………と、思えたのはゴールデンウィークが終わって数日までだった。
それからおれは、片想いの苦しみを嫌というほど味わうことになる。
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お読みくださりありがとうございました!
高校一年生のお正月。初詣編。
まだ恋心自覚して2か月、好き好きモード全開の慶視点。
かーらーのー、次の『片恋編』予告でした。
実は同じクラスになれたのは、慶の知らない裏事情があったりするんですが、まあ、そんな話も近々出てきます。
また明後日、よろしくお願いいたします!
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