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BL小説・風のゆくえには~片恋5-1(慶視点)

2016年01月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

「好きな人が、できたんだ」

と、浩介が言った。

 覚悟はしてた。そんな日がくることは。
 浩介だって、健全な男子高校生だ。恋くらいするだろう。この一年、何も浮いた話がなかったのが珍しいくらいだ。

 覚悟はしてた。してた。してたはずなのに……

「とりあえず、中間テスト終わってからにしねえか?」

 相談がある、といわれ、テストを盾に思いっきり話を遮ってしまった。おれ、嫌な奴……。

 でも、浩介はあっさりと、

「そうだね。そうする」
と、うなずき、何事もなかったかのように、また基礎解析の問題を解きはじめた。

「………………」

 え、それでいいのか……?
 いや、いいならいんだけど………っていうか、このまま無かったことになってくれたら……


 なんて、甘い話にはならず。

 中間テストが終わった翌日の昼休み。
 弁当を食べながら、浩介がケロリといった。

「慶は好きな人いないの?」
「……………」

 お前が言うな。

 ……という本音は隠して、ぶっきらぼうに答える。

「………いねえよ」
「そっか……」

 微妙な沈黙が流れる……

 もぐもぐもぐもぐ………

 浩介の喉元を見ながら、卵焼きをしつこいほど咀嚼して、ゴックンと飲みこむ。

 覚悟を決めた。

「で? お前のその好きな人ってのは誰なんだ?」
「え?!」

 途端に真っ赤になる浩介。

 くそー……初めてみるそんな表情。おれがさせるわけでなく、他の奴のためにする表情……

 そんな内心の沸騰を抑え込んで、普通の顔をして聞く。

「女バスの先輩?」
「え?! なんで分かったの?!」
「…………」

 あー……そうですか。やっぱりあの女か……

「こないだの試合の時、話してたの見たから」
「え!? それだけで分かっちゃうの? うわーさすが渋谷ー」
「………」

 渋谷……って、なんで名字呼びに戻ってんだよっ。
 なんてことは言えず、他のことを聞く。

「なにが『さすが』なんだよ?」
「え、だって、聞いたよ。渋谷は中学時代モテモテでファンクラブまであって、女の子落としまくってたって」
「…………」

 誰がモテモテ? 何がファンクラブ? 落としまくって……??

「なんの話だそりゃ」
「え、違うの?」

 きょとんとしている浩介。
 ああ、もう、色んな意味でイライラしてきた。

「確かに女友達は多かったけど、落としまくった覚えはねえよ。荻野にでも聞いてみろ」
「あ、そうなんだ……ごめん。話信じちゃった」
「………」

 なんだそりゃ。
 イライラが最高位まであがっていて、言葉がトゲトゲしくなってしまう。

「で、相談ってのは何だ」
「あ……うん……」

 おれのイライラを察知したのか、浩介は若干ビヒリながら言葉を続けた。

「おれ………これからどうしたらいいのかな」
「……………………」

 知るか。んなこと。

 …………と、言いたい気持ちを押さえつける。

 浩介の真剣な目………。おれのこと信頼して相談してくれてるんだよな………。

 頭が冷えてきた。
 おれ達は『親友』。親友なんだ。親友の相談………ちゃんと乗ってやれよ、おれ。

「あー………、それはお前が『どうしたいか』によるんじゃねえの?」
「どうしたいか?」

 首をかしげた浩介に指をつきつける。

「その先輩と、付き合いたいのか?」
「え!? いや、それは無理………っ恐れおおいというかなんというか………」
「………………」

 ふーん…………
 ちょっと安心………、あ、いや、安心してる場合じゃなくて。

「じゃあ、とりあえず、友達からってやつだな」
「あ、うんうんうん。それで充分」
「……………」

 ふーん…………
 ちょっと笑いそうになってしまうのをどうにか押さえる。

「じゃ、積極的に話しかけるってことから始めたらどうだ?」
「話しかけるって………何の話したらいいの?」
「まあ、共通の話題……共通の知り合いの話とか。同じ部活なんだし、いくらでもいるだろ。例えば『田辺先輩って一年生の時どんな感じだったんですか?』とか」
「なーるーほーどー」

 浩介はパアッと明るい顔になり、無邪気に笑った。

「ありがとう!渋谷!やっぱり渋谷に相談して良かった!」
「………………」

 覚悟は、してた……。

 いつか浩介に彼女ができて、おれよりも彼女を優先させる日がくることを……。

 その時、おれは………おれは。

「………『親友』なんだから当然だろ」
「うん!ありがとう~!しぶ……、慶!」
「……………」

 浩介の笑顔………

 もう、何でもいい。
 渋谷でも慶でも何でもいい。
 どんな形であれ、お前のそばにいられれば、それでいい。
 そのためならおれは何でもする。



 今日は写真部活動3回目。ようやく浩介もこられた。

「とりあえず、カメラに慣れろ。細かいことは言わないから、何枚か撮っていいぞ」
「わ~やった~」

 部長の橘先輩の言葉に、浩介は嬉しそうにカメラをいじりながら、窓の外に向かってピントを合わせはじめた。

 小さい子供みたいでカワイイ………

「渋谷先輩」
「ん?」
 トントンと橘先輩の妹、真理子ちゃんに小さく腕を叩かれ振り返る。 

「先輩はどう思います? コンテストのこと……」
「あー、うーん……」

 橘先輩が「今年は文化祭にだけ参加して、コンテストには出さない」と言ったことに、真理子ちゃんは大反対している。

 正直、おれはコンテストなんてよくわからないし、文化祭だけで充分だと思うんだけど………

「せっかく去年も入選したのに、もったいないんです。これじゃ何のために写真部に入ったのか……」
「真理子」

 橘先輩のきつめの声。

「いい加減にしろ」
「だって!」
「そんなに出したきゃ俺抜きでやれ」
「お兄ちゃんが出さないと意味ないでしょ! どうして……っ」
「うるさい」
「……っ」

 真理子ちゃんは涙目で橘先輩をにらみつけると、部室から出ていってしまった。様子を見ていた南が慌てて追いかけていく。
 橘先輩もムッとした顔をして、暗室に入っていってしまった。

「……………」
「……………」

 残されたおれと浩介。思わず顔を見合わせてしまう。

「兄妹喧嘩……」
「にしては、なんか訳ありな感じだよな……」

 まあ、考えていてもわからない……。
 おれ達はとりあえず、各々でそれぞれに与えられた課題をこなしていたのだけれども………

 ふっと浩介に目をやると……

(浩介……、何か……見てる?)

 浩介がさっきまで構えていたカメラを下ろして、じっと外を見ている。
 見ている、というか、ぽや~……っと見とれている……

(まさか…………)

 そっと近づいて外を見て………

「!」

 わかっているのに、胸がナイフで抉られたようになる。
 浩介の視線の先………あの女だ。ショートカットのフワフワした感じの女……

「……………」

 浩介……っ

 そんな目で見るな。そんな愛しそうな視線を送るな。

 やめろ……やめてくれ……

 浩介…………浩介っ、こっち見ろっ 

 おれを…………っ

「浩介!」
「わっ」

 衝動にかられて、後ろから抱きついた。

「…………け、慶?」
「………………」

 ぎゅううううっと力をこめる。
 浩介の温もり、浩介の匂い、浩介の………

「慶? どうし……」
「…………手」
「え?」

 聞きかえされたのと同時に、後ろから浩介の手首を掴んで、外に向かって手を振りながら、叫んでやる。

「せーんぱーい!」
「え、ちょ、慶!」

 そのまま浩介の右手を操って振る。

「せんぱーい!」
「わわわっ慶!」

 慌てる浩介の脇腹をつつく。

「ほら、お前も呼べよ」
「え、え、えーと………美幸さーんっ」
「!」

 名前呼びかよ……っ。

「美幸さー………、あ」
「…………」

 ほっとしたように、にっこりとした浩介……。あの女……美幸さん、が、こちらに手を振りかえしてくれている。今から帰るところのようだ。
 彼女が校門から出て行くのを見送ってから、浩介が「もー」と言っておれを振り返った。

「びっくりしたよーあんな急に……」
「お前がぼけらーっと見てるからだろ。ちゃんとアピールしろよアピール」
「うう……キビシイ……」

 言いながらまたカメラを手にした浩介。でもその口元には幸せそうな笑みが浮かんでいる。

「…………」

 お前が幸せならそれでいい。

 ……なんて思えるようになるまで、どのくらいかかるんだろう。

 浩介がこの恋を成就させることができたら………おれもお前のこと、ただの親友とだけ思えるようになるのかな……。



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お読みくださりありがとうございました!

察しの良い方はお気づきかもしれませんが……
最後、浩介が幸せそうに微笑んでいるのは、もちろん美幸さんと手を振りあえて嬉しいってのもありますが、こうして慶と恋ばなできたりしたのが、本当の友達って感じがして嬉しいっていうのもあったんですね~。
慶はそんなこと知るわけなくて、どんどんドツボにはまっていく……

続きはまた明後日、よろしくお願いいたします!

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コメント (2)
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