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BL小説・風のゆくえには~遭逢・初詣2(浩介視点)

2016年01月03日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 もう3日なので、少しは空いているのかと思いきや、鶴岡八幡宮は人、人、人……の波だった。
 でも、渋谷は全然混雑を気にする様子もなく、物珍しげにキョロキョロしたり、屋台のチョコバナナを見て「食べたい!」と言ったり、小さな子供みたいで可愛らしい。

「慶」
 あんまりキョロキョロしてるとはぐれちゃうよ、と言おうとした矢先、

「痛っ」
 いきなり押された。中学生くらいの団体が騒ぎながら人波をかき分けて進んでいて、あちこちでおれみたいに押されて文句を言っている人がいる。迷惑極まりない。…………と、

「慶?」

 しまった。本当にはぐれてしまった。渋谷の姿が見当たらない……。
 と、思ったけれど、屋台の方へ渋谷の白いマフラーが動いていくのを発見して、ほっとする。急いでそちらに向かっていったのだが、

「…………え」

 違う! 渋谷じゃない!

 白いマフラーが同じだけのまったくの別人だった。慌てて元いたあたりに戻ったけれど、もう人波が流れていて、渋谷がどこにいるのか………

「慶………」

 端によけて、途方に暮れて人波を見ていたら、急に思い出した。昔同じなようなことが………

「あれは……」
 鶴岡八幡宮には小学生の時にも来たことがある。あの時もこんな風に両親とはぐれてしまって……

(………まずい)
 すうっと指先が冷たくなってきた。
 その時の感情がよみがえってきて、息苦しくなってくる。

 あの時おれは、普通の小学生が感じるような「親と離れてしまったことへの不安」ではなく、ただひたすら恐怖を感じていた。

(怒られる……)
 叱責されることへの恐怖。親に見つけだされる前に、自分で親の元に戻らなければ……

(……戻る?)
 ふ、と思いつき、ストンと身に落ちてくる思い。

(このまま戻らないで、自由になれたら……)

 一瞬、目の前が明るくなる。
 ……でも、自分は知っている。自分はまだ親元から離れては生きていけない。だから……

(怒られる前に探さないと……)

 でもいない。人の波、波、波……

(……あ。まただ)
 ブラウン管の中に放り込まれた。目の前にスクリーンが現れ、人波が遠くなる…色褪せていく世界……

(………苦しい)
 空気が入ってきてくれない。苦しい。苦しい……

「………渋谷」
 ぎゅうっと胸に手をあてる。この1年半続けてきたおまじない。

「渋谷、渋谷……」
 あの光を思いだす。ゆっくりと呼吸をする。

(大丈夫。大丈夫……)

 おれには渋谷がいるから……

(でも、いない)

 すっとまた背中に冷たい物が走る。

(渋谷が……いない)

 いなくなってしまう。
 今みたいに、こうして、おれなんかの元からはいなくなってしまうだろう。あの光はおれなんかにはふさわしくないから、だから……

(でも、渋谷……)

 おれは一緒にいたいよ。渋谷……

(苦しい……)

 ブラウン管の中、空気が入ってこない。
 苦しい、苦しい……

 しゃがみこみそうになった、その時。

「浩介! 見つけた!」
「!」

 いきなり腕にしがみつかれて、つんのめりそうになる。
 と、同時に、

(明るい……)
 急に視界が明るくなる。空気が普通に入ってくる……

(………渋谷)

 左腕にぶら下がるようにくっついている渋谷が安心したように息をついている。

「あーびっくりした。いきなりいなくなるんだもんよー」
「…………」

 記憶よりもキラキラしている渋谷……この人はいつもそうだ。見るたびに感動を覚える。
 触れてくれている腕から温かいぬくもりが伝わってくる………

「あ、わりい」
「え」

 おれがじっと腕のあたりを見下ろしていたからか、渋谷があわてたように手を離した。

「野郎同士で腕組んだりしたら気持ち悪いよな」
「え」
「じゃ、行こうぜ」

 すっと人波に入っていく渋谷……
 また、スクリーンが現れる……

 行かないで。一緒にいて……

「慶………」

 行かないで。行かないで……

「慶!」
「あ?」

 思いのまま、とっさに渋谷の腕をつかむと、渋谷がキョトンと振り返った。

「どうした?」
「あの……」

 ぎゅっと腕を掴む手に力を入れる。

「腕、つかまってても、いい?」
「え」

 目を見開いた渋谷。

 あ、そうか。男同士で腕組んでたらって、今……

「あ、ごめん、ダメ、だよね…」
「いや、大丈夫! 全然大丈夫だぞ!」

 渋谷はビックリするくらい元気に言うと、渋谷の腕を掴んでいるおれの手を上からぎゅっと強く握ってくれた。温かい………。

「またはぐれたら大変だからな。ちゃんとつかまっとけ」
「……うん」

 お言葉に甘えて両手で掴む。渋谷のオーラが伝ってきて、ブラウン管が消えていく。空気が清涼なものに変わっていく……

 慶………慶。
 おれの親友………
 

「階段、急だなあ」
「うん」
「まだまだ並んでるな」
「うん」

 だけど、渋谷と一緒だから少しも嫌じゃない。
 境内まで続く人波にもまれながら、ようやくおさい銭の場所まで到着する。

 今年、神様にお願いすることは一つだけだ。

「神様……」

 どうかずっとずっと渋谷と『親友』でいられますように……



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お読みくださりありがとうございました!

高校一年生のお正月。初詣編でした。浩介視点、やっぱり暗い^^;

このあと、海にいきます。続きは明後日5日に更新予定です~。
よろしかったら次回もよろしくお願いいたします。

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コメント (4)
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