浩介の様子が変だ。
確実に変だと思ったのは、12月。何か隠し事をされている、という気がした時だ。それから数日後、親から探偵を使って監視されている、という話も聞いたけれど……。でも、もっと前から変だった気もする。
「慶………」
でも、こうして優しく名前を呼んでくれて、ぎゅっと抱きしめてくれるところは、前と少しも変わりがない。だから、ついつい、「変だと思うのは気のせいか」と思って、問題を先送りにしてしまっていた。でも、いい加減、騙されない。騙されないぞ。
別にイベント事にこだわるつもりはないけれど、来週のバレンタインをこんなモヤモヤした気持ちのまま迎えたくない。
「なあ、お前さ……、やっぱなんか変だよな?」
「そう?」
愛おしそうに目を細めて、おれの頭を撫でてくれて、額や頬や耳にキスをくれる。愛されている、と思えて気持ちがフワフワしてくる。
……じゃなくて。
また誤魔化されるところだった。
「隠し事、してるだろ?」
「どうして?」
「どうしてって、なんか……んんっ」
キスを深いものにしながら、セーターの裾をまくりあげてきて、「はい、万歳して」と耳元で甘やかすように言って脱がしてくれて……
「やっぱり、ベッド行こっか?」
首筋に長めに唇を当ててくれてから、おれをソファから引っ張り起こして、それから、電気を……
あ。
そうだ。電気。
思いついて、バシバシバシっと浩介腕を叩いて、電気を消すのを止めてやる。
「そうだよ!それもだよ!」
「え、何……」
「電気!」
「………え」
明らかに、浩介の顔が固まった。やっぱり!
「お前、ここのところずっと、必ず電気消してるよな? なんでだよ?」
「なんでって……」
浩介の困ったような、怯えたような顔……
「…………………………まさか」
嫌な想像が頭の中をよぎる。
まさか、まさか、まさか………
「お前……ホントに、浮気……してる?」
『オレたちゃ忙しすぎるからな。浮気されても文句はいえねえ』
そう言った峰先生の真面目な顔が思い出される。
文句はいえねえって……
言わないでそのままにするなんて……おれにはできないっ!
「え?」
呆気に取られたような顔をした浩介に、衝動的に掴みかかる。
「おれに見せられないような痕が付いてるから、電気消してんのか?」
「なに……それ」
そんなことあるわけないでしょ、とゴニョゴニョといいつつも、視線をそらした浩介。
「なに、目、そらしてんだよ?」
掴んだ胸倉をさらに強く引っ張る。
目を合わせない、ということは、何か隠し事をしているということ。これも峰先生が言っていた。
何を隠してる? 何隠してんだよ……?
切迫した空気の中……
「慶……」
浩介がふううっと大きく息をついた。大きな大きなため息……
「浩……」
「違うから」
コン、とおでこをくっつけられる。じっと至近距離で覗き込んでくる瞳……
「違うって何が」
「おれが慶以外の人と何かするなんてありえないってこと、慶が一番よく知ってるでしょ?」
「……………」
そういう言い方は……ズルイ。
「じゃあ、どうして……」
「………」
浩介はまた大きくため息をつくと……、観念したようにセーターを自分で脱いだ。そして、Yシャツのボタンを自分で外しながら、ポツリ、という。
「慶……修学旅行のこと覚えてる?」
「え……?」
修学旅行? 高2の3月。行き先は広島、山口……
「松陰先生?」
「…………ああ、そうだね」
ふっと寂しそうに笑った浩介。本当に、寂しそうに……
「班行動も楽しかったね」
「? ああ」
なんだろう? 何に繋がるんだ?……
浩介は淡々と話を続ける。
「あの時、お風呂で話したこと、覚えてる? ……覚えてないか。あの……アザの話、なんだけど……」
「…………」
背中のアザの話だ。子供の頃、母親に叩かれ続けたために出来たというアザ……。でも、本人が言うほどのアザなんてどこにも存在していなくて……。あの時の浩介の泣きそうな顔を思い出すと辛くなってくる。
「…………。覚えてるけど、それがなんだよ」
「うん。あのね……」
浩介は脱いだYシャツをソファに置いてこちらを向き直った。
「ほとんど消えたって思ってたのに、最近また濃くなってきてるんだよ」
「え………」
少しの迷いのあと、下着のシャツに手をかけた浩介……。
「ぶつけたりした覚えはないから、きっと、心因性のものだと思うんだ」
「心因性?」
「うん。前に本で読んだことあって……。ストレスとかから自分でアザとか作り出しちゃうって……、あ、慶は本職だからそういうの詳しいよね」
「いや、詳しくは……」
正直、専門外だから概要的なことしか分からない。でも……
「なんだよ。それ見られたくなくて電気消してたってことか?」
「うん……気持ち悪いとか思われたら嫌だなって……」
浩介は小さく言ってうつむいた。
「そんなこと思うわけないだろ」
ああ……おれ、そんなに信用ないのか……
落ち込みそうになるのをこらえて、浩介を促す。
「とりあえず、見せてみろ」
「でも」
「いいから。大丈夫だから」
「………………」
浩介は意を決したように下着のシャツを脱ぎ……そして、こちらに背を向けた。
その、広い背中を見て………
「……………!!」
息を飲みそうになったのを、なんとか誤魔化す。
だって……だって、浩介………
その背中にそっと触れ、おでこをコツンとくっつける。
だって……浩介……
ぎゅうっと後ろから抱きしめる。
だって、浩介……。
やっぱり、お前の背中にアザなんて………どこにもないぞ?
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長くなるので切ることにしました。読みが甘いのはいつものことでm(__)m
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