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BL小説・風のゆくえには~翼を広げて・三年目-2

2017年10月03日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  翼を広げて

2005年夏



【浩介視点】

 あかねと「別れた」ことになってから、7ヶ月が経った。けれども、こちらでは引き続き「遠距離恋愛中」ということにしている。なぜなら……

「浩介先生は結婚しないの? うちの娘なんてどう?」

 なんて話をされるからだ……

「先生には日本に恋人がいるからダメだよ」
「あかね先生、今年はこないの?」

 みんながそんなことを言ってくれるので、何とか『強引に娘に引き合わされる』とかそういう目には合っていない。

(慶は………どうなのかな)

 もう31だし、上司の娘をすすめられたり………

(したとしても、きっと慶は……)

 断ってくれてるに違いない。

(でも……)

 それでいいのかな。慶には慶の幸せが……なんて「きれいごと」を思ったりもする。

 こんなとき、慶に会いたくて、いてもたってもいられなくなる。

 この2年と数ヵ月、無我夢中だった。朝から午後までは子供達に勉強を教えて、その後は校舎の修繕、寄付金集め、家庭訪問……、夜は大人向けの授業。帰宅後は翌日の準備……

「恋人を迎えにいく自信はついた?」

 アマラに聞かれ、詰まってしまった。
 ずっと、この地で成し遂げたい、と思ってきたけれど………具体的には何をどうしたら「成し遂げた」ことになるんだろう……

(…………。今更、だな………)

 今更、だけれども……
 この2年数ヵ月、日々に流されてきてしまったけれど、ここで一度立ち止まって、考えてみようと思う……
 



【早坂さん視点】

 一年ほど前……
 ある患者さんの死をきっかけに、『元気いっぱいキラキラキャラ』から、『優しい包容力のある大人キャラ』に変身した渋谷先生……

 無理してるんじゃないかな、と、はじめのうちは心配でしょうがなかったけれど、それは杞憂に終わった。気がついたら『大人』な渋谷先生がスタンダードになっていて、いつでも冷静で頼りになるので、みんなの渋谷先生を見る目もすっかり変わってきている。

 だから、それはいいんだけど……

(あ、まただ……)

 思わず眉を寄せてしまう。
 春からこちらに異動になった、石原先生という35歳のおじさんが、渋谷先生を変な道に引きずりこもうとしているのだ……

「な?だから行こうって!可愛い女の子たくさんいるからー」
「でもおれ、明日、乳児検診の……」
「酒飲まなきゃいいじゃん。な?行こうよー」

 渋谷先生困ってる……

 こんな時、峰先生がいてくれたらきっと助けてくれるのに、峰先生は下のお子さんが生まれてから、速攻で家に帰るようになったので、石原先生がこんな風に強引に渋谷先生に声をかけていることを知らないのだ……

(今度言いつけてやろうかな……)

 接待で女の子のいる店に行くことはしょうがないと思うけど(でも、渋谷先生、以前はそれもかたくなに断ってたのになあ)、プライベートでは行って欲しくないと思ってしまう。

 でもそれはこちらの勝手な希望なのかな……。
 渋谷先生だって彼女と別れて(たぶん別れてる。聞いてないから知らないけど、たぶん)、さみしいかもしれないし。だからキャバクラにも……

(あーでも、やだ。やっぱりやだなー)

 断りきれなかった渋谷先生が石原先生に連れられていく後ろ姿を見送りながら、不安にかられてしまう。

(キャバクラはともかく……風俗とか連れて行かれてないよね……?)

 石原先生はキャバクラの後に風俗いくのがお決まりでーなんて話を、昨日製薬会社の人がしてた……

 風俗にいく渋谷先生の図……

「うわー!やだやだやだ!絶対やだーーー!!」
「わ! なに早坂さん叫んでるの!?」
「………あ」

 気が付いたら叫んでいて、みんなに大注目されてしまった……。

「なんでも……ないです……」

 もう、絶対! 明日、峰先生に言い付けて、注意してもらおう!!!




【ルナ視点】


 与えられた個室の中で、お菓子を食べながらゴロゴロしていたら、電話が鳴った。

「ルナさん、ご新規さん入ります」
「はーい」
「石原先生の紹介だから」
「あーはいはいはい。オッケーでーす」

 石原先生はこの店の常連さんで、週に2回は必ずくるんだけど、特定な子ではなく、色々な子を指名する。本人の中ではローテーションがあるそうだ。
 あたしには「外科医」って言ってるけど、他の子には「弁護士」だの「大学教授」だの言ってるらしい。色黒でガタイがよくて、いかにも遊び人風の、30半ばくらいのお金持ちだ。

「今度、後輩連れてくるからサービスしてやって」
と、先週言っていたから、今日くるのはその人のことだろう。

 なんでも、彼女と別れて一年以上ご無沙汰してるとかなんとか……。「すっごいイケメン」っていってたけど、本当にイケメンだったら、一年もご無沙汰になるわけないから、たいしたことないんだろう。期待はしない。

「あ、しまった」
 お菓子の食べカスがシーツの上に散乱している。慌ててコロコロで取って、包み紙もゴミ箱に放り込む。

 と、軽いノックの音が聞こえてきた。いきなり開けないでノックをするところに好感を覚える。石原先生が「そいつ風俗初体験だから」と言っていたけど、本当に初めてなのかもしれない。

「どーぞー」
 答えながらも、ベッドの下にまで落ちていた食べカスをコロコロで取って、コロコロを部屋の端っこに押しやって、

「初めましてー。ルナでー……」

 言いながら、開いたドアの方を振り返って……

「!!!」

 絶句。

 絶句、っていうんだ、こういうの。

 あまりもの衝撃で、言葉を失ってしまった。

(な………なんなの!!)

 すっっっっっっっっっっごい美形なんですけど!!

「あ……」
「あー……ええと……」

 その美形さんは困ったように頬をかくと、

「とりあえず、入っていいかな? おれがちゃんと中に入るか、そこで石原先生が見張ってるから」
「え」

 石原先生と隣の部屋のネネちゃんの笑い声が聞こえてくる。石原先生、わざと隣の部屋取ったとみた。

「ど、どうぞ」
「ありがとう」

 スルリと入ってきた超美形。背は低め……。でもこういう中性的な顔の人って、背が低いほうが似合う気がする。

 ぼーっと見とれているあたしをよそに、美形さんはキョロキョロとあたりを見回して……、それからスイッとあたしに視線を向けた。

(うわっ)

 ドキッと心臓が跳ね上がる。この人、本物の美形だ。こんな完璧な顔、テレビに出てる人以外で見たことない。すごい。

(って!)

 あたしこれからこの人とすんの? できんの? めっちゃラッキーじゃない?

 ………なんて、思ってる場合じゃない。

「え、ええと……」
 いかんいかん。初めてなんだから、ちゃんと料金の説明しないと。

「せ、説明するねー。うちは基本サービスがー……」
「説明しなくていいよ」
「え」

 手で制されて、言葉を飲みこむ。

「ええと……」

 それは、お金たっぷり持ってるから、どんなオプションつけても大丈夫とか……

(そういう意味じゃなさそう……)

 美形さんはまたキョロキョロと部屋を見渡すと、

「椅子は……ないのか」
「は?」

 椅子?

「ええと……」

 それは、椅子に座ってのフェラを希望とかそういう……

(意味じゃないだろうな……)

 確実に違う……

 美形さん、うーん、と頬をかいて……かなり躊躇してから、ベッドの隅にチョコンと腰かけた。

 そんな端っこに座られても……

「あの、もっとこっちに……」
「あ、いや」

 また手で制された。

「石原先生がどうしてもって言うから来ただけだから気にしないで」
「気にしないでって……」

 え、何もしないつもりってこと?
 それ、あたしに失礼じゃない? これ何もしなかったら、確実にネネちゃんに馬鹿にされる!

 こうなったら……

「じゃ、せっかくだから、お風呂とかどう? 気持ち良くしてあげる♥」

 スルリと着ていたバスローブを脱いで、下着姿になってやる。胸の大きさはネネちゃんに負けてない。少し屈んでブラからあふれだしてる胸を強調………………、してるんだから、見ろよ!コラ!

「あのっ!」
「え? ああ……」

 カバンの中をゴソゴソと探っていた美形さん、こちらにふいっと視線を向けてきた。

(う…………)

 見ろよ、と思ったものの、美形に真面目な顔でジッと見られるのは、相当………つ、つらい…………

「あの………」
「ああ……ごめんね」

 ふっと笑った美形さん。か、かわいい……

「上、着てくれる? さすがに目のやり場に困る」
「あ……うん」

 脱いだバスローブをとりあえず着る。って、通常と違いすぎて困る……何をどうすれば……

「あのー…しないの?」

 直球で聞くと、美形さんはまた、ふっと笑った。だからその笑顔、かわいすぎだって!

「なんで笑ってんの?」
「いや……」

 また頬をかいた美形さん。

「石原先生にね、『ルナちゃんと狭い部屋で二人きりにされて勃たない男なんていない』っていわれたんだけど……」
「え……」

 石原先生、そんなこと言ってくれたんだ……

 っていうか、この会話の流れ……美形さんは……

「おれ、男じゃないんだなあって思って」
「………………」

 思わず、美形さんの股間のあたりに注目してしまう……。うーん、確かに……。

 って、そんなことで諦めてる場合じゃない!

「じゃあじゃあ、色々試してみようよ!」
「え」
「初めてだと緊張して勃たない人いるよ! あたし、そういうの得……、え?」

 またまた、手で制された。

「申し訳ないんだけど」

 美形さん、さっきまでとはうって変わって真面目な顔になると、きっぱりはっきり………言いきった。

「おれ、あいつ以外とはそういうことしたくないから」


***


 美形さん、30分で帰ってしまった…… 

「なーんだかなー……、と」
 お菓子に手を出しかけて、先ほどの美形さんの声がよみがえってきて、我慢する。

「バランスの取れた食事、だってさ」
 ベッドに寝っころがって、もらったプリントを眺めてみる。

 炭水化物、ご飯、パン、タンパク質、お肉、お魚……

 キレイな色の円グラフ。絵と一緒に書いてあるから分かりやすい。仕事で使うって言ってたけど、何の仕事してるんだろう……調理師とか?

「器用そうな手、してたもんなー」

 プリントを差し出した時の美形さんの手を思い出して、ふーん、と思う。

 あの手は、『あいつ』のためにあるんだなあ……


 美形さんには、高校の時から付き合っている彼女がいるそうだ。
 石原先生からは「彼女と別れて一年以上ご無沙汰」って聞いてたのに、本人曰く「別れた覚えはない」そうだ。
 でも、最後に会ったのは一年前で、それから連絡取ってないっていうんだから、それは普通に考えて別れたということになるんだけど………

(でも、美形さんの心は『あいつ』のものなんだなあ……)

 彼女のことを話す時の、ちょっと照れたような嬉しそうな顔……。誰も入り込めないよ……


「彼女どんな人? 胸大きい?」
「いや………………」

 聞いてみたら、苦笑いされた。思い出し笑いっぽい。なんだかな……

「じゃ、痩せてる?」
「あー、うん。痩せてる」

 ふーん……

「痩せてる子が好きなの?」
「いや、そうわけじゃないんだけど……」
「もっと胸大きかったらいいのに、とか思わなかった?」
「思わないよ」

 美形さん、ぷっと吹き出した。何その幸せそうな顔……。やっぱり痩せてる子が好きってことじゃん。

「………あたしもさ、今、ダイエット中なんだ」
「そう……なんだ?」

 美形さんの視線がゴミ箱に移った。ああ、それなのに、お菓子食べてる、とか思ってるな?

「お菓子ダイエットだよ。知ってる?」
「?」

 首をかしげた美形さん。やっぱりかわいい。

「ちゃんとカロリー計算して、1800キロカロリー超さないように食べてるんだよ」
「毎食、カロリー調べてるってこと? それは大変……」
「別に大変じゃないよ。書いてあるもん」

 ほら、と次に食べる予定だったクッキーの箱を見せてあげる。

「これ足すだけだよ。あたし足し算はわりと得意なんだあ」
「…………え」

 美形さん、ぎょっとしたような顔をした。

「まさか、お菓子ダイエットって、お菓子しか食べないとかそういう……」
「うん。そうだよ?」
「………………」

 美形さん「絶句」という感じなので、説明を加えてあげる。

「友達がそれですぐに3キロも痩せたんだって。お菓子食べて痩せるなんてラッキーだよね~~」
「いや」

 またまたまた、手で制された。美形さん、真剣な顔してる。

「それは、筋肉量とかが減ってるだけで、脂肪が減ってるわけじゃないよ」
「???」

 筋肉量?

「それ続けたら、栄養失調で倒れるよ?」
「栄養失調?」

 なんで? ちゃんと1800キロカロリー食べてるのに?

 言うと、美形さんは「いやいやいや」と首を振って、

「人間には必要な栄養素っていうのがあって……」

 そういいながら、カバンから出してくれたのが、『五大栄養素』って題名のプリントだった。

「バランス良く食べることが大切なんだよ」
「ふーん……」
「例えば、ご飯を………」

 美形さんが、真面目な調子で話し出したので、あたしも思わず聞き入ってしまい……



***


 美形さんがきてから、ちょうど2週間後。石原先生がやってきた。

「おお?! 今日のルナちゃん、肌艶いいねえ」
「でしょー?」

 自分でも分かってる。美形さんに言われた通り、この2週間お菓子を止めて、バランスの取れた食事、を心掛けるようにしたら、体重は微妙に増えちゃったけど、肌の調子が良くなって、なぜかパサついていた髪もしっとりしてきたんだ。

「あの美形さんのおかげだよ。色々教えてもらったの」
「あー、なんか、栄養学の話をしたとか言ってたな。なんなんだろうな、あいつ」

 石原先生、笑いながらシュルリとネクタイを外した。男の人のネクタイ外す仕草って好き。ゾクゾクする。

「お礼いっておいてね? 痩せてはいないけど、キレイになった、でしょ?」
「おお。なったなった」

 ボタンを外すお手伝いをしてあげる。分厚い胸板。石原先生、性格は軽いからあんまりだけど、このガッチリした体型はかなり好み。

「あいつもルナちゃんに礼をいってくれって言ってたよ」
「お礼?」

 きょとん、としてしまう。何もしてないのに?

「うん。なんかなあ、自信がついた、らしい」
「へ?」

 自信???

「やっぱり自分には『あいつ』しかいないって、確信が持てたって」
「………」
「だから、自信を持って、待つことにするってさ」
「………」

 ………。

 あっそーですか……
 そんなのはじめから持ってたくせに……

「………バカみたい」
「だよなあ。一年も音信不通って、それ別れてるってーのにさー…」
「だよね……」

 なのに、待つって……


 2週間前の帰り際、「頑張って」と言ってくれた美形さん。

「ホントにしないでいいの?」

って聞いたら、ふわっと微笑んで、

「おれ、あいつ以外、ダメだから」

 そう、幸せそうに言った。……失礼しちゃう。

 でも、ちょっとだけ、羨ましくなった。


 そう言ったら、石原先生は「オレは全然羨ましくない!」と言い切った。

「世の中、こんなにたくさん可愛い子がいるのに、たった一人に絞るなんて、人生損してるよな~~」

 石原先生の手が優しく優しく包んでくる。

「その中でもルナちゃんはダントツ一番可愛いよ」
「……ありがと」

 それ、ネネちゃんにも言ってるって知ってるけど知らないふりしてあげる。今だけは、恋人気分でいいよ。

「あーこんな可愛い子にこんなことしてもらえるなんて、ホント幸せー」
「でしょ?」

 石原先生の嬉しそうな声が嬉しい。
 あたしはたくさんの男の人を幸せにしてあげてる。それでお金ももらえて、たくさん欲しいものも買えてる。だからあたしも幸せ。

「じゃ、今日もサービスしちゃおうかなあ」
「ルナちゃん最高。大好き」

 こうしてたくさんの人の「大好き」をもらえる。だから幸せ。

 でも、「唯一の大好き」をもらえる美形さんの彼女が、ちょっとだけ、羨ましい。

(早く帰ってきてあげれば?)

 見たこともない、想像上の痩せっぽっちの彼女に念を送ってみる。

(唯一の大好き、受け取ってあげなよ)

 それで、美形さんも幸せになればいい。




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お読みくださりありがとうございました!

二年ほど前に書いた「あいじょうのかたち」18-1で、慶が「風俗にいったことがある」と話していたのは↑のことなのでした。詳細書けて満足満足^^

ルナちゃんは買い物依存症気味の、普通の女の子です。一言で「風俗」といっても色々種類がありまして……というのは、本筋から離れすぎるので置いておいて、と^^;

前回の委員長に続き、ルナちゃんにも「帰ってこい!」オーラを送られている浩介さん。慶くんを迎えにくるまで、あと8ヶ月……

次回、金曜日は3年目その3です。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!
今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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