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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係11

2019年06月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【哲成視点】


 亨吾の手の温もりに、いい歳して泣きそうになってしまった……。それを誤魔化すために、

「緊張してきた! こんなステージに立つ経験なんてないからさ~」

と、明るく亨吾に話したところ、

「何言ってるんだよ。合唱大会でソロまでやったくせに」

と、言われた。何十年前の話をしてるんだ。……ああ、でも、

「そうか。今回も伴奏、お前だな」
「…………そうだな」

 ふっと笑った亨吾。懐かしい中学時代。あの時、亨吾はオレの母と同じ、キラキラした音で弾いてくれた。あの頃のオレ達、いつも一緒にいたよな……

「あの音……聴きたいな」

 思わず言葉に出して言うと、亨吾が「分かった」と、アッサリうなずいて、歌子さんのところに行ってしまった。

「え?」

 分かったって?

 自分で言っておきながら、あわててしまう。
 そんなムチャ振りやらなくていいぞ!と、訂正しようとしたのに、いつの間に本番の時間で、押し出されるようにステージに出されてしまって、訂正できず……

(いきなりそんなことして大丈夫なのか?)

 心配で始まるまでソワソワしてしまった。でも、そんな心配をよそに、約束通り、亨吾はリハーサルの時よりもずっと軽やかでキラキラした音で弾いてくれた。きっと、母が弾いたらこんな弾き方をするだろうなって音。その懐かしさと優しさに胸がいっぱいになる。

 昔からそうだ。亨吾はオレの欲しいものをくれる。オレが落ち込んだ時はいつも支えてくれる。そんな亨吾を手離したくなくて、オレは亨吾を縛り付けて、一緒にい続けて……

(…………キョウ)

 お前のピアノに合わせて叩くと、普通のタンバリンもキラキラした音になるんだな……。


***


 発表会終了後、集合写真撮影の様子を眺めている最中、妹の梨華がオレを肘で押しながら言ってきた。

「テックン、歌子先生の旦那さんと友達ってホント?」
「あー、まあ……」

 合奏終了後、楽屋前のベンチで亨吾と二人で話していたところを、出演者の保護者達に聞かれて、「学生時代からの友人」と答えたのだ。それがママ友繋がりで梨華にまでバレたらしい。

「どのくらい仲良しなの?」
「どのくらいって……」

 そう言われても……

「会うの久しぶり、とか?」
「いや、一昨日の夜も一緒に飲んだ」
「え」

 キョトンとした梨華をますますキョトンとさせたくて、つい本当のことを言ってしまう。

「この3年はオレがタイにいたから全然会ってなかったけど、それまでは、繁忙期以外はほぼ週一で飲んでたよ。時々二人で遊びにも行ってたし」
「超仲良しじゃん!」
「まあ……」

 そうだな。一般的に言って、超仲良し、だ。

「それなのに、奥さんが歌子先生って知らなかったの?」
「いや?」

 梨華の問いに首を振る。

「歌子さんのことは結婚する前から知ってるぞ?」
「でも、プリント見せた時気がつかなかったじゃん!」
「いや……名前からしてそうかなあとは思ったけど確信持てなかったから言わなかっただけだよ。で、先週リハーサルで会って知った」

 正直に言うと、梨華は可愛い顔をムーっとした。

「何言ってんの。うちのわりと近くに住んでて、名前も同じだったら絶対そうに決まってるじゃん」
「……家知らねーし」
「は?」

 梨華が眉間にシワを寄せて、意味わかんない、と言葉を継いだ。

「先生、あそこに家建てたの10年くらい前って言ってたよ? 下のリビングが教室で、二階に旦那さんと住んでるの。毎週会ってて、何で知らないの?」
「あー……」

 どこかに遊びに行くときは、たいてい亨吾が車で送迎してくれたし、飲みはいつも、亨吾がピアニストをしているバーで、帰りは別々だったので、聞かない限りは知りようもなかったのだ。

「変なの!」
「別に変じゃねえよ。男同士はそんなプライベートな話しねえんだよ」

 まあ……住んでる場所まで知らないのはちょっと特殊だろうけど。亨吾と歌子さんの結婚生活を知りたくなくて、故意に聞かなかったところはある。それにこちらも家族の話を全然していない。

『子供の話はしないであげてね?』

 亨吾が結婚して数ヶ月後に、バーで偶然会った亨吾のお母さんにコッソリ言われたのだ。

『亨吾達、子供が出来ないらしいの。亨吾も言われるの辛いみたいで……』

 だから、オレも梨華の話は避けるようにしていた。梨華の話をして、子供のことを思い出して辛くなられるのが嫌だから……というのもあるけれど、それよりも何よりも、

(やっぱり子作り頑張ろう、とか思われるのもな……)

 結婚しているんだから当たり前だけど……享吾が歌子さんと「そういうこと」をしている、と思うと、「わーーー!」と叫びだしたくなる。どうにか割り切ろうと思っても、こればかりは無理だ。だから、臭いものにはふたをしろ。このことは考えないことにした。考えさせないために、梨華の話もしないことにした。ただ、それだけだ。

 亨吾夫婦は時々、ご両親を旅行に連れていったりもしてるそうで、お母さんは「娘が出来たみたいで嬉しい」と幸せそうに言っていた。だからそれで満足してくれ、と思う。

 歌子さんの存在は、お母さんを幸せにしてくれてる。
 歌子さんは、オレ達が毎週のように会うことを許してくれている。

 これで完璧だ。これ以上の環境はない。

 オレ達はただの友達。親友。それ以上をのぞめば、世間の荒波にもまれることになる。家族に迷惑や心配をかけたくないし、自分自身も今の関係を崩してまで、これ以上のことをのぞみたいとは思わない。今の関係が崩れるのがこわい。

 だから……

『オレ達も、こんな未来を選べたら……』

 享吾の切実な声を思い出して、首を振る。これ以上の未来なんて、選べるわけがないんだ。


***

 発表会が終わって2週間の間は、すっかり3年前の状態に戻っていた。
 くだらないことでラインのやり取りをしたり、バーに享吾のピアノを聴きにいったり、週末に遊びにいったり……

 こうやって20年以上毎日楽しく過ごしてたよな?と思い出して、余計にテンション上がっていた。こうして過ごすためにオレ達はこの選択をしたんだ。これで合ってるんだ、と思ってた。

 それなのに……

 3月2回目の金曜日。バーに享吾は現れなかった。

「ちょっと体調崩してて……」

 代わりに来た歌子さんが言いにくそうにいっていたけれど、絶対に違う。いや、違うというか……精神的な体調を崩しているんだと思う。ただ単に、オレに会いたくなかったんだと思う。

 それもこれも全部……また、渋谷と桜井のせいだ。




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お読みくださりありがとうございました!
渋谷と桜井、別に何もしてないんですけど^^;濡れ衣だ。八つ当たりだ。
ただ、高校バスケ部の同窓会があっただけです(→ 「~一歩後を行く裏話とおまけ」の後半のおまけの話。安定ラブラブ慶と浩介♪)。

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